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第一章
二.男爵の過去その一
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男爵は「最初に伝えた通り、君には貴族としてやっていくために学んでもらう。教師には一週間後に来てもらう予定だが、それまではゆっくりしていてくれ」と夕食後にルピナスに伝えた。
母の葬儀を終え屋敷に着き少し会話をしたあと。
侍女を伴い部屋へと案内してくれた父は、「侍女に着替えを手伝ってもらった後は夕食まで休むように」とルピナスに言った。
母の死やこれからの不安で頭がいっぱいだったルピナスの体は、限界を迎えていたようだ。
ルピナスは眠るつもりはなかったが、侍女が夕食を知らせに来た声で自分が眠っていたことに気が付いた。
平民として育った娘は、貴族の食事の作法など知らないと思っていた。
だがその考えはルピナスを迎えた最初の夕食の席で改めた。
(所作が綺麗すぎる...平民として育ったのではなかったのか?)
男爵は共に食事をとりながら、ルピナスを観察していた。
まさか、といった様子でルピナスに声をかけた。
「ルピナス、君の食事の作法は...その所作は誰から教わったんだい?」
「お母さんから...いえ、母から教わりました。もしかして、何かおかしいですか?」
「いや、何もおかしい所などないよ。むしろ綺麗だから安心してくれ」
「それならよかったです」
ルピナスはほっとして息を吐いた。
男爵は何かを考えているようだったが、お互いに食事を再開した。
食事を終え、書斎に戻った男爵はソファに沈み込んだ。
(レイア、君は諦めてはいなかったのだな...)
レイアとは、亡くなったルピナスの母の名だ。
彼女とは学園の同期生で、彼女は淑女科、私は経営科だった。
隣同士の棟の経営科と淑女科の生徒は、合同授業もあるためよく顔を合わせた。
透けるような金色の髪に、ヘーゼルの瞳を持った彼女は、妖精のようだと入学当初から話題になっていた。
私も、ひと目見た時から彼女に惹かれていた。
彼女は平民だったが学園中の注目を集めていた。
同じ女性ましてや貴族の生まれの女性は特に面白くなかったのだろう。
虐められている様子はなかったが、彼女に近づく女性はおらず彼女には友人がいなかったようだ。
特待生という肩書き、かつ彼女の持つ清廉な雰囲気に物怖じしたのか、幸いにも話しかける男子は少なかった。
それでも全く居なかったわけではない。
彼女と仲良くなりたかった私は、積極的に彼女に声をかけ、図書室で勉強しようと誘った。
共に勉強することが当たり前になっていき、休日はデートに誘うようになった。
そうして第一学年の終わり頃、戸惑いながらも彼女は私の告白を受け入れてくれた。
長期休みが終わり第二学年になると、彼女の美しさにはさらに磨きがかかったように見えた。
それは周りも同じだったようで、彼女へ声をかける男子が目に見えて増えた。
私はそんな男子を牽制しながら彼女と過ごした。
そうしているうちに彼女と私が恋仲だと広まった。
そうしてまた彼女に声をかけたり、ちょっかいをかけたりする者は減っていった。
春の中期休みには、彼女が自分の家には帰らず寮で過ごすと言ったため、彼女と居たかった私は領地に帰らなかった。
第二学年が終わり長期休みに入る時、「一緒に私の領地に帰らないか」と彼女を誘ったが、断られた。
私自身も両親へ彼女のことを伝えていなかったため、仕方がない、と彼女を両親に紹介することを諦めた。
一人領地に帰った私に、両親は縁談を勧めてきた。
知り合いの知り合い、という男爵家の娘との縁談らしく、私が平民の女性と交際しているという噂を聞き両親が急いで整えたのだろう。
私は「彼女とは真剣にお付き合いしている。平民だが特待生として充分な教養を身に付けているし、男爵家の妻として申し分ない女性だ。卒業したら彼女との結婚を認めてほしい」と伝えた。
しかし両親は相手の女性と会ってから決めろと言ってきた。
しかしそれをするとレイアへの裏切りのような気がして、私は拒否した。
せめて男爵家の娘がどういう人か知ってから決めろと言い募る様子に、レイアとの関係を否定されたような気がした私は、長期休みの終わりまで両親と顔を合わせても必要最低限の会話しかしなかった。
早くレイアに会いたかった。
最終学年となった私たちは、日々授業を受けながら王宮や商会での研修に入る準備に入った。
この学園は王宮や王都にある商会と連携し、生徒を王宮内や商会の様々な分野で携わらせるカリキュラムがある。
貴族も平民も例外はなく、必ず通る道だった。
卒業後にすぐに爵位を継ぐなどの特殊な場合は別だったが。
そして生徒たちがどのように学び働いているかなどを、王宮や商会は学校側に報告書を提出する義務があった。
王宮や商会の人間にとっては通常の業務とは別に研修生を受け入れ、指導しなければならない負担がかかるが、将来的に優秀な人材を確保できるチャンスでもあった。
週の三日を研修生、残りの二日を学生として過ごす日々の中。
レイアを気に入った王女が、話し相手として仕えるよう言われたという噂が流れた。
普通なら高位貴族が選ばれるその職は、研修生であり平民のレイアが選ばれていいものではなかった。
結局はただの噂だったのだか、彼女を妬んだ者が仕向けたものだったのかもしれない。
下位貴族が中心となって、彼女の悪口を囁くようになっていった。
そんなことがあったにもかかわらず彼女は気丈に振る舞い、私たちは卒業を迎えた。
高位貴族にも引けを取らないほどの教養を身に付けていた彼女だったが、王宮の仕事には就かず地元の町での就職を選んだ。
私は親の跡を継ぐために領地に戻った。
美しく賢く、自立心があり人に頼ろうとしなかった彼女が寂しそうにしている様子に私の愛は深くなっていった。
母の葬儀を終え屋敷に着き少し会話をしたあと。
侍女を伴い部屋へと案内してくれた父は、「侍女に着替えを手伝ってもらった後は夕食まで休むように」とルピナスに言った。
母の死やこれからの不安で頭がいっぱいだったルピナスの体は、限界を迎えていたようだ。
ルピナスは眠るつもりはなかったが、侍女が夕食を知らせに来た声で自分が眠っていたことに気が付いた。
平民として育った娘は、貴族の食事の作法など知らないと思っていた。
だがその考えはルピナスを迎えた最初の夕食の席で改めた。
(所作が綺麗すぎる...平民として育ったのではなかったのか?)
男爵は共に食事をとりながら、ルピナスを観察していた。
まさか、といった様子でルピナスに声をかけた。
「ルピナス、君の食事の作法は...その所作は誰から教わったんだい?」
「お母さんから...いえ、母から教わりました。もしかして、何かおかしいですか?」
「いや、何もおかしい所などないよ。むしろ綺麗だから安心してくれ」
「それならよかったです」
ルピナスはほっとして息を吐いた。
男爵は何かを考えているようだったが、お互いに食事を再開した。
食事を終え、書斎に戻った男爵はソファに沈み込んだ。
(レイア、君は諦めてはいなかったのだな...)
レイアとは、亡くなったルピナスの母の名だ。
彼女とは学園の同期生で、彼女は淑女科、私は経営科だった。
隣同士の棟の経営科と淑女科の生徒は、合同授業もあるためよく顔を合わせた。
透けるような金色の髪に、ヘーゼルの瞳を持った彼女は、妖精のようだと入学当初から話題になっていた。
私も、ひと目見た時から彼女に惹かれていた。
彼女は平民だったが学園中の注目を集めていた。
同じ女性ましてや貴族の生まれの女性は特に面白くなかったのだろう。
虐められている様子はなかったが、彼女に近づく女性はおらず彼女には友人がいなかったようだ。
特待生という肩書き、かつ彼女の持つ清廉な雰囲気に物怖じしたのか、幸いにも話しかける男子は少なかった。
それでも全く居なかったわけではない。
彼女と仲良くなりたかった私は、積極的に彼女に声をかけ、図書室で勉強しようと誘った。
共に勉強することが当たり前になっていき、休日はデートに誘うようになった。
そうして第一学年の終わり頃、戸惑いながらも彼女は私の告白を受け入れてくれた。
長期休みが終わり第二学年になると、彼女の美しさにはさらに磨きがかかったように見えた。
それは周りも同じだったようで、彼女へ声をかける男子が目に見えて増えた。
私はそんな男子を牽制しながら彼女と過ごした。
そうしているうちに彼女と私が恋仲だと広まった。
そうしてまた彼女に声をかけたり、ちょっかいをかけたりする者は減っていった。
春の中期休みには、彼女が自分の家には帰らず寮で過ごすと言ったため、彼女と居たかった私は領地に帰らなかった。
第二学年が終わり長期休みに入る時、「一緒に私の領地に帰らないか」と彼女を誘ったが、断られた。
私自身も両親へ彼女のことを伝えていなかったため、仕方がない、と彼女を両親に紹介することを諦めた。
一人領地に帰った私に、両親は縁談を勧めてきた。
知り合いの知り合い、という男爵家の娘との縁談らしく、私が平民の女性と交際しているという噂を聞き両親が急いで整えたのだろう。
私は「彼女とは真剣にお付き合いしている。平民だが特待生として充分な教養を身に付けているし、男爵家の妻として申し分ない女性だ。卒業したら彼女との結婚を認めてほしい」と伝えた。
しかし両親は相手の女性と会ってから決めろと言ってきた。
しかしそれをするとレイアへの裏切りのような気がして、私は拒否した。
せめて男爵家の娘がどういう人か知ってから決めろと言い募る様子に、レイアとの関係を否定されたような気がした私は、長期休みの終わりまで両親と顔を合わせても必要最低限の会話しかしなかった。
早くレイアに会いたかった。
最終学年となった私たちは、日々授業を受けながら王宮や商会での研修に入る準備に入った。
この学園は王宮や王都にある商会と連携し、生徒を王宮内や商会の様々な分野で携わらせるカリキュラムがある。
貴族も平民も例外はなく、必ず通る道だった。
卒業後にすぐに爵位を継ぐなどの特殊な場合は別だったが。
そして生徒たちがどのように学び働いているかなどを、王宮や商会は学校側に報告書を提出する義務があった。
王宮や商会の人間にとっては通常の業務とは別に研修生を受け入れ、指導しなければならない負担がかかるが、将来的に優秀な人材を確保できるチャンスでもあった。
週の三日を研修生、残りの二日を学生として過ごす日々の中。
レイアを気に入った王女が、話し相手として仕えるよう言われたという噂が流れた。
普通なら高位貴族が選ばれるその職は、研修生であり平民のレイアが選ばれていいものではなかった。
結局はただの噂だったのだか、彼女を妬んだ者が仕向けたものだったのかもしれない。
下位貴族が中心となって、彼女の悪口を囁くようになっていった。
そんなことがあったにもかかわらず彼女は気丈に振る舞い、私たちは卒業を迎えた。
高位貴族にも引けを取らないほどの教養を身に付けていた彼女だったが、王宮の仕事には就かず地元の町での就職を選んだ。
私は親の跡を継ぐために領地に戻った。
美しく賢く、自立心があり人に頼ろうとしなかった彼女が寂しそうにしている様子に私の愛は深くなっていった。
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