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第一章
六.司祭が見たもの
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目を瞑ってしまうほどの光が、徐々に収まっていく。
その光景に誰も言葉を発することができず、聖堂は静寂に包まれている。
しかしその静寂をヒューゴが破った。
「これは!青い光ということはやはり水魔法だな!しかし彼女は風魔法も使えるのだな」
「それにしてもこんなに強い光は見たことない!わかってはいたがルピナス嬢の魔力はとてもつなく強力なものに違いないっ!」
ヒューゴは叫びながらも紙に何か書き留めている。
シモンも助祭の青年も、驚きで声を出せずにいた。
本来ならば、自分に魔力がなければ、このように水晶が光るところを見ることはない。
自分の子供や孫が祝福を受ける時には立ち会うが、魔力は受け継がれるものらしく、魔力を持たない者から魔力を持つ者が生まれるのは、ごく稀なことである。
そのためシモンはこのように水晶が光るとは知らなかったが、ヒューゴの様子から「これは普通ではない」と知る。
「私も今までに三回ほど光るところを見ましたが、このように強い光を見たことはないです!」
助祭の青年も驚きの声を上げた。
司祭だけは落ち着いていて、何か思考しつつも、ルピナスに優しく声をかける。
「ルピナス殿、心の中でかまいません。そのままでアシュリナ様にお礼を申し上げなさい」
司祭はルピナスにそう促した。
ルピナスは頷くと目を瞑り、心の中で声をかける。
(アシュリナさま、私に力をお与えくださり、ありがとうございます)
「..ルピ.........は.........が..え....き.....」
(...えっ?)
ルピナスは周りをきょろきょろと見たが、そばには司祭しかいない。
「どうかしましたか、ルピナス殿」
「...いいえ、何でもありません」
司祭が何か言ったのかと思ったが、どうやら彼ではないようだ。
(気のせい...?)
「本日のことは神殿に報告いたします。そして神殿を通して王家へと伝わります。ルピナス殿の今後については国より指示がありますが、おそらく王立学園の魔法科で学ぶことになるでしょう」
「魔法科...そうですか。それでは入学まであと二年しかありませんね」
シモンは苦笑した。
「祝福された者はすでに王家から遣わされた魔法使いたちから教わっています。しかし話を聞くにルピナス殿はすでに魔法を使えるようですね」
「私も今日初めて、この子に魔法を使うところを見せてもらいました」
「それならば焦ることはないでしょう。最初は自分の中にある魔力を感じることから始めるのですが、それがなかなか難しい。それができて、ようやく魔法を使えるのですから」
「そうなのですね。私には魔力がないので、どういう感覚なのか想像できません」
「これだけ強い魔力をお持ちなら、両親どちらかが魔力を持っていてもおかしくはないのですが...母親は平民だったため祝福を受けていないでしょう。もしかしたら魔力を持っていたのかもしれません」
「では扉までお連れなさい」
話を終えた司祭がそう言うと、助祭の青年は三人を伴って歩き出す。
三人の後ろから着いていくルピナスに、司祭は歩きながら小さく声をかけた。
「ルピナス殿、あの眩い光の中で私には貴女の中にある別の光が見えました。魔力以外に、貴女の中にある何かを感じませんか?」
「そうなのですか?私には感じられません司祭様」
「...今後、もし何かお困りのことがあればここにいらっしゃい。相談にのりましょう」
「ありがとうございます、司祭様」
「神はいつも、どんな時も貴女を見守っていますよ」
急な訪問であるにも関わらず、受け入れてくれたことへの礼を言い、別れの挨拶をする。
「ではエイデン司祭、本日は感謝する。また何かあれば来るかもしれないが、その時はまた頼む」
「ええ、お待ちしております。お帰りはお気をつけて」
シモンもルピナスも、ヒューゴに続いて礼をした。
三人は馬車置き場まで歩き出す。
司祭はその背中が見えなくなっても、その場にしばらく留まっていた。
水晶はその昔、この国の守護神であるアシュリナから授かったと言い伝えられている。
天界にいる神が、地上の人間の声を聞くために授けたという。
司祭が祈りを捧げ、声を届ける。
水晶は神に声を届け、神からお告げを授かるための媒介だ。
しかし現在神の声が聞けるといわれる者は、大公領にある神殿の司教だけである。
(ルピナス殿、貴女の中にあるのはきっと、聖なる光。ただその光は表に出せないほどに弱っている)
確かなことではないため、このことは神殿には報告せず、エイデンは自分の胸に秘めることにした。
祝福は魔力のある無しを調べるためのものだけではない。
聖なる力を持つ者を見つけるためのものでもあるのだ。
水晶が光れば、神から魔力や聖なる力を授かっていることの証だ。
聖なる力は癒しに特化している力で、その力を持つ者は神殿に身を置き、この国の安寧と繁栄を祈る。
その生涯を国の為に尽くすことになるのだ。
聖なる力を持つ者は、祝福を受けた時に白銀の光を放つと言われている。
ルピナスは青色だったので、水魔法を得意としているのかもしれない。
魔力を持たないほとんどの者は知らないだろうが、本来、魔力を持つ者は様々な魔法を使えるのだ。
水晶はただ、その者が得意とする魔法属性を示しているだけである。
しかし水晶が示した通り、その属性しか使えない者が多いことも確かだ。
エイデンは、すでに魔法を使え、聖なる力を秘めているであろうルピナスが、困難な道を進むことになるであろうと予感した。
(この国をお守りくださるアシュリナ様、どうか彼女にとっての最善の道をお示しください。どうか彼女をお導きください)
エイデンは神に祈りを捧げた。
その光景に誰も言葉を発することができず、聖堂は静寂に包まれている。
しかしその静寂をヒューゴが破った。
「これは!青い光ということはやはり水魔法だな!しかし彼女は風魔法も使えるのだな」
「それにしてもこんなに強い光は見たことない!わかってはいたがルピナス嬢の魔力はとてもつなく強力なものに違いないっ!」
ヒューゴは叫びながらも紙に何か書き留めている。
シモンも助祭の青年も、驚きで声を出せずにいた。
本来ならば、自分に魔力がなければ、このように水晶が光るところを見ることはない。
自分の子供や孫が祝福を受ける時には立ち会うが、魔力は受け継がれるものらしく、魔力を持たない者から魔力を持つ者が生まれるのは、ごく稀なことである。
そのためシモンはこのように水晶が光るとは知らなかったが、ヒューゴの様子から「これは普通ではない」と知る。
「私も今までに三回ほど光るところを見ましたが、このように強い光を見たことはないです!」
助祭の青年も驚きの声を上げた。
司祭だけは落ち着いていて、何か思考しつつも、ルピナスに優しく声をかける。
「ルピナス殿、心の中でかまいません。そのままでアシュリナ様にお礼を申し上げなさい」
司祭はルピナスにそう促した。
ルピナスは頷くと目を瞑り、心の中で声をかける。
(アシュリナさま、私に力をお与えくださり、ありがとうございます)
「..ルピ.........は.........が..え....き.....」
(...えっ?)
ルピナスは周りをきょろきょろと見たが、そばには司祭しかいない。
「どうかしましたか、ルピナス殿」
「...いいえ、何でもありません」
司祭が何か言ったのかと思ったが、どうやら彼ではないようだ。
(気のせい...?)
「本日のことは神殿に報告いたします。そして神殿を通して王家へと伝わります。ルピナス殿の今後については国より指示がありますが、おそらく王立学園の魔法科で学ぶことになるでしょう」
「魔法科...そうですか。それでは入学まであと二年しかありませんね」
シモンは苦笑した。
「祝福された者はすでに王家から遣わされた魔法使いたちから教わっています。しかし話を聞くにルピナス殿はすでに魔法を使えるようですね」
「私も今日初めて、この子に魔法を使うところを見せてもらいました」
「それならば焦ることはないでしょう。最初は自分の中にある魔力を感じることから始めるのですが、それがなかなか難しい。それができて、ようやく魔法を使えるのですから」
「そうなのですね。私には魔力がないので、どういう感覚なのか想像できません」
「これだけ強い魔力をお持ちなら、両親どちらかが魔力を持っていてもおかしくはないのですが...母親は平民だったため祝福を受けていないでしょう。もしかしたら魔力を持っていたのかもしれません」
「では扉までお連れなさい」
話を終えた司祭がそう言うと、助祭の青年は三人を伴って歩き出す。
三人の後ろから着いていくルピナスに、司祭は歩きながら小さく声をかけた。
「ルピナス殿、あの眩い光の中で私には貴女の中にある別の光が見えました。魔力以外に、貴女の中にある何かを感じませんか?」
「そうなのですか?私には感じられません司祭様」
「...今後、もし何かお困りのことがあればここにいらっしゃい。相談にのりましょう」
「ありがとうございます、司祭様」
「神はいつも、どんな時も貴女を見守っていますよ」
急な訪問であるにも関わらず、受け入れてくれたことへの礼を言い、別れの挨拶をする。
「ではエイデン司祭、本日は感謝する。また何かあれば来るかもしれないが、その時はまた頼む」
「ええ、お待ちしております。お帰りはお気をつけて」
シモンもルピナスも、ヒューゴに続いて礼をした。
三人は馬車置き場まで歩き出す。
司祭はその背中が見えなくなっても、その場にしばらく留まっていた。
水晶はその昔、この国の守護神であるアシュリナから授かったと言い伝えられている。
天界にいる神が、地上の人間の声を聞くために授けたという。
司祭が祈りを捧げ、声を届ける。
水晶は神に声を届け、神からお告げを授かるための媒介だ。
しかし現在神の声が聞けるといわれる者は、大公領にある神殿の司教だけである。
(ルピナス殿、貴女の中にあるのはきっと、聖なる光。ただその光は表に出せないほどに弱っている)
確かなことではないため、このことは神殿には報告せず、エイデンは自分の胸に秘めることにした。
祝福は魔力のある無しを調べるためのものだけではない。
聖なる力を持つ者を見つけるためのものでもあるのだ。
水晶が光れば、神から魔力や聖なる力を授かっていることの証だ。
聖なる力は癒しに特化している力で、その力を持つ者は神殿に身を置き、この国の安寧と繁栄を祈る。
その生涯を国の為に尽くすことになるのだ。
聖なる力を持つ者は、祝福を受けた時に白銀の光を放つと言われている。
ルピナスは青色だったので、水魔法を得意としているのかもしれない。
魔力を持たないほとんどの者は知らないだろうが、本来、魔力を持つ者は様々な魔法を使えるのだ。
水晶はただ、その者が得意とする魔法属性を示しているだけである。
しかし水晶が示した通り、その属性しか使えない者が多いことも確かだ。
エイデンは、すでに魔法を使え、聖なる力を秘めているであろうルピナスが、困難な道を進むことになるであろうと予感した。
(この国をお守りくださるアシュリナ様、どうか彼女にとっての最善の道をお示しください。どうか彼女をお導きください)
エイデンは神に祈りを捧げた。
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