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第一章
第13話 錯綜する思惑
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正午の鐘と共に始まった昼休憩が終わって少し経った頃。ユリウスはアルフレッドの執務室に乗り込んだ。
椅子に腰掛けたアルフレッドは、書類から顔を上げると怪訝そうに眉をひそめた。
「なぜ私の執務室に顔を出さない?」
ユリウスがそう尋ねると、再び書類に視線を落としたアルフレッドは、
「殿下との約束はなかったと記憶していますが」
何を言ってるんだこいつは、みたいな調子で答えた。
執務机の正面に配置されたソファに腰掛け、ユリウスは悪戯っぽく瞳を細める。
「可愛い義妹が来ていただろう? 用件を探りに来るかと思っていたんだが、どうして来なかったんだ?」
「マリィの様子なら見てきましたし、詳細なら帰ってからゆっくり聞けます。仕事が山積みなのでわざわざ殿下の執務室まで行く余裕はありませんよ」
遠回しに仕事の邪魔をするなと言われている気がしたが、ユリウスは気のせいだと思い込むことにした。
「アルの義妹とは思えないくらい素直で可愛らしい子だったよ。だいぶキツイ物言いをしてしまったからな。落ち込んでいたんじゃないか?」
マリアヴェルには申し訳ないことをしてしまったが、この件に関してはあのくらいがちょうどいい。嫌味な王族からの気の重たい頼まれごと、くらいの認識でいて欲しいのだ。
「可哀想なくらいしょげていましたよ。一体何を言ったんです?」
「マリアヴェル嬢に縁談を申し込んだ」
あくまで会話の切り口でしかないが、嘘は言っていない。実のところ、この言葉でアルフレッドを揶揄うためだけにマリアヴェルへの用件を伏せていたのだ。
アルフレッドの驚く様をワクワクしながら待っていると。
「……あぁ。エレナーデ嬢の件をマリィに任せたんですか」
あっさりと看破され、ユリウスは面白くない。期待外れの反応に柳眉をひそめる。
「私はお前のそういうところが昔から面白くない。もっとこう、ええ!? とか、何か反応があるだろう? 驚かないどころか大して間も置かずに私の思考を読んでくれるな」
聡明といえば聞こえはいいけれど。アルフレッドのすべてを見透かすような察しのよさは心を読まれているみたいで、子供の頃は苦手意識を持ったりもしていた。
「殿下が僕を嫌っているのは今に始まったことじゃありませんし、わかるものはわかるのだから仕方がないでしょう」
「嫌いとは言っていない。面白くないだけだ」
そうですか、とアルフレッドはどうでもよさそうに言う。実際、彼にとってはユリウスに好かれていようと嫌われていようと、どうでもいいのだろう。
有能であれば好感など関係なく王太子に重宝されると、アルフレッドは認識しているのだ。事実、現在のユリウスはそういうタイプだった。
「マリアヴェル嬢と話をして、昔を思い出したよ。当時の私は確かにアルが嫌いだったし、エレナーデに出会えなければ認識を改めることもできず、今でも癇癪を起こしていただろうな」
アルフレッドは元々、ユリウスの付き人だった。本物の王族以上に王子様然とした美貌に加えて、何事もそつなくこなす聡明さから大人たちのお気に入りだったアルフレッドと比較され、ユリウスはいつも陰で貶される側だった。幼い頃のユリウスは、凄まじい劣等感からアルフレッドが大嫌いだったのだ。
懐かしさに瞳を細めるユリウスに対して、アルフレッドは顔を曇らせた。
「エレナーデ嬢の件は、もっと早く僕が気づくべきでした」
「いや、あれは私の失態だ。いくらお前でも後宮にまでは目を配れまい。苦肉の策でエレナーデをマリアヴェル嬢に託してみたが、上手く行くと思うか?」
「条件的にマリィが一番適しているという点は、僕も同感です」
書類の文字を追っていた目が、初めてユリウスを正面から捉えた。
「心配いりませんよ。僕の義妹は機転が利くだけでなく優しい子ですから。殿下の意図にもそのうち気づくでしょう」
アルフレッドが太鼓判を押すのなら、一安心だ。胸を撫で下ろしたのも束の間。
「まぁ、正直なところマリィが殿下の期待に応えた場合、外堀が埋まるので僕としては期待通りに行かなくても構わないのですが。最終的には殿下が落ち込むだけの話ですから」
ユリウスへの情を持たない側近はすぐに不穏なことを言うので、困りものだった。
椅子に腰掛けたアルフレッドは、書類から顔を上げると怪訝そうに眉をひそめた。
「なぜ私の執務室に顔を出さない?」
ユリウスがそう尋ねると、再び書類に視線を落としたアルフレッドは、
「殿下との約束はなかったと記憶していますが」
何を言ってるんだこいつは、みたいな調子で答えた。
執務机の正面に配置されたソファに腰掛け、ユリウスは悪戯っぽく瞳を細める。
「可愛い義妹が来ていただろう? 用件を探りに来るかと思っていたんだが、どうして来なかったんだ?」
「マリィの様子なら見てきましたし、詳細なら帰ってからゆっくり聞けます。仕事が山積みなのでわざわざ殿下の執務室まで行く余裕はありませんよ」
遠回しに仕事の邪魔をするなと言われている気がしたが、ユリウスは気のせいだと思い込むことにした。
「アルの義妹とは思えないくらい素直で可愛らしい子だったよ。だいぶキツイ物言いをしてしまったからな。落ち込んでいたんじゃないか?」
マリアヴェルには申し訳ないことをしてしまったが、この件に関してはあのくらいがちょうどいい。嫌味な王族からの気の重たい頼まれごと、くらいの認識でいて欲しいのだ。
「可哀想なくらいしょげていましたよ。一体何を言ったんです?」
「マリアヴェル嬢に縁談を申し込んだ」
あくまで会話の切り口でしかないが、嘘は言っていない。実のところ、この言葉でアルフレッドを揶揄うためだけにマリアヴェルへの用件を伏せていたのだ。
アルフレッドの驚く様をワクワクしながら待っていると。
「……あぁ。エレナーデ嬢の件をマリィに任せたんですか」
あっさりと看破され、ユリウスは面白くない。期待外れの反応に柳眉をひそめる。
「私はお前のそういうところが昔から面白くない。もっとこう、ええ!? とか、何か反応があるだろう? 驚かないどころか大して間も置かずに私の思考を読んでくれるな」
聡明といえば聞こえはいいけれど。アルフレッドのすべてを見透かすような察しのよさは心を読まれているみたいで、子供の頃は苦手意識を持ったりもしていた。
「殿下が僕を嫌っているのは今に始まったことじゃありませんし、わかるものはわかるのだから仕方がないでしょう」
「嫌いとは言っていない。面白くないだけだ」
そうですか、とアルフレッドはどうでもよさそうに言う。実際、彼にとってはユリウスに好かれていようと嫌われていようと、どうでもいいのだろう。
有能であれば好感など関係なく王太子に重宝されると、アルフレッドは認識しているのだ。事実、現在のユリウスはそういうタイプだった。
「マリアヴェル嬢と話をして、昔を思い出したよ。当時の私は確かにアルが嫌いだったし、エレナーデに出会えなければ認識を改めることもできず、今でも癇癪を起こしていただろうな」
アルフレッドは元々、ユリウスの付き人だった。本物の王族以上に王子様然とした美貌に加えて、何事もそつなくこなす聡明さから大人たちのお気に入りだったアルフレッドと比較され、ユリウスはいつも陰で貶される側だった。幼い頃のユリウスは、凄まじい劣等感からアルフレッドが大嫌いだったのだ。
懐かしさに瞳を細めるユリウスに対して、アルフレッドは顔を曇らせた。
「エレナーデ嬢の件は、もっと早く僕が気づくべきでした」
「いや、あれは私の失態だ。いくらお前でも後宮にまでは目を配れまい。苦肉の策でエレナーデをマリアヴェル嬢に託してみたが、上手く行くと思うか?」
「条件的にマリィが一番適しているという点は、僕も同感です」
書類の文字を追っていた目が、初めてユリウスを正面から捉えた。
「心配いりませんよ。僕の義妹は機転が利くだけでなく優しい子ですから。殿下の意図にもそのうち気づくでしょう」
アルフレッドが太鼓判を押すのなら、一安心だ。胸を撫で下ろしたのも束の間。
「まぁ、正直なところマリィが殿下の期待に応えた場合、外堀が埋まるので僕としては期待通りに行かなくても構わないのですが。最終的には殿下が落ち込むだけの話ですから」
ユリウスへの情を持たない側近はすぐに不穏なことを言うので、困りものだった。
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