幼馴染ばかりを優先する婚約者には、愛想が尽きましたので

雪菜

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第3話 和やかな時間

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 伯爵邸で開催されたガーデンパーティは、想像通りの肩が凝るものだった。

 アルヴィンと共にオスカーの不在を伯爵に懇切丁寧に詫び、多方面に挨拶をして回り、楽しくもなんともない、気疲れだけするパーティを二人は張り付けた笑顔で乗り切った。
 
「よければこの後、我が家に寄って行かれませんか?」

 会場を辞し、馬車に乗り込むと、対面に腰掛けたアルヴィンがふんわりと微笑んだ。

「ミレイユ様の大好きな、我が家特製のパンプキンパイを用意させてあるんです。今からなら、ちょうど焼き立てのパイが食べられると思いますよ」
「まあ……っ」

 とってもとっても魅力的なお誘いに、ミレイユはぱっと瞳を輝かせる。

「ぜひお邪魔させてください」
「よかった。父母もミレイユ様に会いたがっていたので、喜びます」

 オスカーの代役でアルヴィンとお出掛けした後、侯爵邸にお邪魔するのは、これもお約束だった。

 月に一度の頻度で訪れている侯爵邸は勝手知ったるもので、ミレイユはいつものように屋敷の敷居を跨ぎ、応接間でアルヴィンと侯爵夫人の三人でお茶を楽しんだ。
 
 本音を言うと、ミレイユは実家にいる時間があまり好きじゃない。領主の仕事しか頭にない父と母の仲は冷え切っていて、ミレイユが幼い頃、両親の口論は日常茶飯事だった。
 罵り合いを聞きたくなくて、ミレイユは実家の書庫にこもって読書に没頭していた。
 
 その甲斐あってか、ミレイユは貴族の子息令嬢が集う学院でもトップクラスの成績を維持している。

「まったく、オスカーと来たら。幾度も注意しているというのに……」

 話題は自然とオスカーに派生し、侯爵夫人は悩ましげに吐息をこぼす。

「兄様は昔からホプキンス男爵令嬢に夢中でしたから。周りの声など耳に入らないのでしょう」

 アルヴィンは刺々しく言う。

「あと一年足らずで学院を卒業するのに、将来のことをどう考えているのか……。あの子ったら、未だに領地経営について無知で、人脈だって決して広いと言えないのに」

 どうもこうも、何も考えていないのでは。ミレイユはそう思ったが口には出さず、困った方ですね、と微笑するに留めた。

「そうだ、ミレイユ様」

 ふと思い出したようにアルヴィンが立ち上がり、一度応接間を出て行ってから戻ってきた彼の手には、一冊の書物が収まっていた。

「こちらを」

 ずしりと重みのある本の題名に目を落として。

「まあ……っ」

 異国の文字で綴られた題名に、ミレイユはキラキラと瞳を輝かせた。

「これは、まさか、『白百合姫』の原書ですか……っ?」

 半年ほど前から王国で大流行している歌劇の題材となった小説『白百合姫』。元は隣国の小説で、ミレイユは先月アルヴィンとこの歌劇を観覧した際、ぜひ原作の原本を読んでみたいとこぼしていた。

 国内では出回っていない希少な本だったので、叶わない願いだと思っていたのに。

「どうやって手に入れたのですか?」
「これでもバークライトは歴史ある名家ですから。古くからの伝手を利用したら、さほど苦労することなく手に入りました」

 アルヴィンはさらっと言うけれど。相応の労力を要してくれたことは想像に難くなかった。

「不肖の兄のせいでミレイユ様には多大な苦労をかけてしまっていますし、そのお詫びということで。受け取ってもらえますか?」

 ミレイユは本を胸に抱いて、こくこくと頷いた。
 
「ありがとうございます。とっても嬉しいです。大切に読みます」
「よろこんでいただけて、僕も嬉しいです」

 アルヴィンもニコニコと微笑んでくれる。

 そこに、

「ミレイユ嬢」

 新たに加わった声の主は、この屋敷の当主バークライト侯爵のものだった。
 
「歓談中にすまないね。我が領の穀物の収穫量に関してなんだが……少し、君の意見を聞かせてはくれないかね?」
「あなたったら。お茶の時間に仕事の話なんて……」
「私は構いませんわ」

 侯爵からの頼みごとに、ミレイユは快く立ち上がる。

「助かるよ」

 侯爵は好々爺然とした笑みを浮かべて、ミレイユを手招きした。

「父様。僕も交ぜてください」

 勉強熱心なアルヴィンもそう言ってついて来る。

 侯爵邸はミレイユにとって非常に居心地の良い場所。なので、問題はオスカーだけなのである。
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