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∞48【“バランス”の鍛え方】

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「……“バランス”、ねえ」

 アゾロは丘の上の大きな樹の下で座禅を組むような姿勢を取りながら、手の中の『阿修羅の木刀』を眺めている。

 スキル《弾幕だんまく》を交えた戦闘行動の研鑽の結果、アゾロが得た結論は
『一朝一夕で自分の流儀スタイルを見つけ出すのはムリ』
 ということだった。

 焦って闇雲に『経験値稼ぎ』をしてみたところで、自分自身の経験値を有効に活用できなければ意味はない。
 この“経験値”という概念も、アゾロが夢のおっさんから得た現代知識だ。


 今の時点では、アゾロ自身の体の動きの方が能力発動の速度よりも、若干速い。
 だから、攻撃に《弾幕》の効果を付与する為には、攻撃速度スピードを若干落とさないと《弾幕》の効果が“間に合わない”。

「……それだと意味ないのよね、実戦では」

 アゾロの《弾幕》の有効射程距離は、現状『自分の身体+持っている武器の先端くらい』まで。それが、《弾幕》の強すぎる破壊の力をアゾロが加減できるギリギリの距離。
 しかも、能力を全身に展開する場合は、制御コントロールが難しくなる為、さらに射程距離が短くなる。

 《弾幕》の射程距離が短いことを補うには、能力発動の速度スピードを上げるのが、強くなる為の近道……

 アゾロは本能的に、そう感じている。

 しかも、能力を“暴発”させたら意味がないので、『素早さ』に加えて『正確さ』も必要となる……

「『素早くて正確なスキル発動』。……“慣れ”かしら、やっぱり。でも“ただの惰性になってもいけない”、か」

 誰からも教わらずに、いきなり正解に行き着くアゾロ。この辺りのアゾロの柔軟性は、毎日の反復練習を真摯に行っている成果と言っていい。


「『素早さ』と『正確さ』のバランスを崩さないスムーズな状態移行……」

 そう口に出した途端、アゾロの脳内に《無限チュートリアル》上で何度も確認した手合わせの時の『父の動き』が思い浮かんだ。

 父は攻撃・防御・躱し・移動と、複雑な動きを同時に行いつつも、一度も自分自身の身体操作のバランスを崩さなかった。
 もしかしたら、父に訊ねれば今のアゾロに足りないものが分かるかもしれない。

 アゾロには《無限チュートリアル》という、絶対的な自己客観視能力がありはするものの、やはり『自分よりも格上の誰かに聞く』以上の客観視はない。

「……ホントは“自分ひとり”で強くなりたいんだけどなぁ」

 このアゾロの葛藤は、おそらく歴史始まって以来、きっと何億人もの若者の心を悩ませたことだろう。

 しかし、アゾロはそんなに悩まなかった。

『壁にぶつかったら、知ってそうな人に聞く』
 “どうせやるなら確実な方”というのは、アゾロの信条の一つなのだ。

「……ま、聞いてムダにはならないでしょ!実際、父強いし!」



…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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