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冬═冬の影踏み《俊夫の場合》
しおりを挟む今日も外は雪だ。ああ、いやだ。いやだ。そう内心、俊夫はため息をつく。俊夫には、この季節の。もう数十年も前の忘れられない光景がある。
あれはまだ、前の妻・律子と一緒の頃。
仕事に追われるなか、家庭には子供が2人。どちらも女の子で可愛らしかったが。幼すぎた。
それとも、疲れた自分に余裕がなかったのか。
子供に夢中になる妻も、幼い子供達も、いつしか、愛しいと思えなくなっていた。
破綻は早かった。
自分が行きつけの飲み屋の若い女に手をつけ、関係を持った。
関係は暫く続いた。
そして、妻の律子にばれ。
妻は俊夫を責め。
俊夫は荒れた。
そんな日々の中だった。
幼いなかでも何かかんじたのだろう。冬の、大雪の降った次の日だった。
前日の天気が嘘のように、良く晴れた日に。
子供達からの遊びの誘い。
無下には断われなかった。
「パパ、遊ぼ、遊ぼー。」
「由紀。有紀。どれ遊ぶかぁ。」
そこで、俊夫にとって意外なことがおきる。ここのところ、だんまりを決めていた妻の律子が声をかけてきたのだ。
「なぁに?お遊び?ママもまぜて。」
「いいよ、ママー。」
「ね、いいよね、パパ。」
「もちろん!ママも一緒に遊ぼう!」
無邪気な顔で笑う子供達の手前、俊夫はそう答え、はしゃいでみせるしかなかった。
「それで、何しようね?」
俊夫が尋ねたときだった。
「影踏みがいいよねー。」
どこか高揚した声で律子が笑う。
「うん、影踏みー。」
幼い由紀が、きゃっきゃっと笑い。
「影踏みがいい。」
由紀よりは幾らか年上の有紀がはっきりという。
そして妻の律子が、合図、とばかりに。
「悪い鬼のパパの影踏みだよー!」
あとは、俊夫の影を力一杯、3人で踏んで踏んでー。大声を張り上げて笑っていた。
思い出したくもない、だが忘れられない記憶。
あれから時間が過ぎて。自分の愚かさも、どれだけ律子を、子供達を傷つけていたかもわかる。
けれど、あの時自分が感じたあの怖さはー。
一体何をどう言えば、誰かに理解してもらえたというのだろう。
そんなとき。俊夫に一通の手紙が届く。
差出人は、随分前においてきた、娘の有紀だった。
そこには、ただ
『会いに行きます』とだけ─。
何故だろう。俊夫は、あの時よりも激しい恐怖を感じずにはいられなかった。
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