愛の奴隷にしてください。【R18】

仲村來夢

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「これもタダじゃないんだよ?お前それわかってる?」

「…はい…」

「入ってから何個グラス割ってんだよほんとに。グラス割れる度に経費かかってるんだよ」

「すみません…」

「はぁ。」

バーで働き始めてから三ヶ月近く経つあたしはいつまで経ってもなかなか仕事に慣れず、グラスを割ってしまったりミスが多くて先輩の透吾さんに怒られてばかりいた。

「まぁまぁ透吾くん。有紗ちゃんもわざとやったんじゃないんだから」

透吾さんに怒られて落ち込むあたしを見兼ねて、店長が間に入った。

「店長この子に甘すぎません?グラス買いに行くのいっつも俺なんすけど」

「まぁ、最初は皆そういうミスするよ…俺も買いに行くから」

「最初ってもう三ヶ月近くいますけどね」

透吾さんがあたしのせいで怒り、店長がそれを宥めているのを見ると更に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「…本当にすみません…」

もう一度謝ってはみたものの、我ながら消え入りそうな声だった。言い合いになっている二人の耳には当然届いていない。

「まぁそんなに怒らないであげてよ。こんな可愛い子が入ってきてくれて店も華やかになったし、何より頑張ってくれてるしさ」

「俺は仕事出来る子が入ってきてくれた方が嬉しいですけどね」

「もー、透吾くん!」

透吾さんを諌めた後、俯いているあたしを見て店長が優しく声を掛けてくれた。

「有紗ちゃん、今日はもう上がってくれていいからね。店ももう締めてるし」

「…はい。本当にすみませんでした。お先に失礼します」

透吾さんが大きくため息をつく。悪いのはあたしだし、怒られるのは仕方ないけど怖い。

タイムカードを切った時に、透吾さんと目が合った。明らかに睨まれてる…。あたしはとっさに目を逸らし、腰に巻いていたサロンを慌てて外しカバンの中に突っ込んだ。

「いつも迷惑かけてすみません。失礼します」

「有紗ちゃんお疲れ様。気を付けて」

「…」

透吾さんは何も言ってくれなかった。

***

あたしは今大学四年生。就職も決まり、友達と卒業旅行で海外に行きたくて、時給の良さに惹かれて始めたバーのアルバイト。接客は好きだし、お酒の知識もついてきて楽しいんだけど…なんせミスが多い。焦るとグラス割っちゃうし。

店長はすごく優しくていい人だし、ミスしても怒らず、むしろ励ましてくれる。そのおかげで店長と二人で出勤の日は心の余裕が出来るみたいで、ミスも少なくて済む。

けど透吾さんと二人の時は常に監視されてる様で萎縮してしまって、気を付けなきゃって思うほどミスしてしまって怒られて、萎縮してまたミスして…の繰り返し。

店長にも、透吾さんにも迷惑かけたくないのに…。ちゃんと仕事が出来る様になりたいし、出来ないからって投げ出して辞めたくない。

学生という肩書きが無くなり社会人になったらそんなことは出来ないし、今からそんないい加減なことはしたくない。

出来ないくせに働いてるのも厚かましいなって思う時もあるけど、店長は有紗ちゃんがいなくなったら寂しいよとか、お客さん減っちゃうよー、って冗談めかして言ってくれるし、少しでも役に立てているなら仕事は続けたい。透吾さんに強く言われて泣きそうになる日も自分が悪いんだから仕方ない、頑張らなきゃ…と涙を堪えた。

「有紗ちゃんゴメンね。透吾くん口悪いけど仕事出来るし悪い奴じゃないから許してやって」

店長によく言われる言葉。そう、透吾さんは仕事が出来る。場の空気を読むのが上手くて話の引き出しも多いから、透吾さんと話しているお客さんは皆楽しそうだ。

若い女の人から年配の男性まで色んな人に気に入られているし、特に女の人は透吾さん目当てで来る人も多い。積極的な人にはデートしてよ、なんてよく言われてる。

…あたしも実は透吾さんに憧れている。あれだけ怒られて嫌われているくせにそんな気持ちを持っているなんて、自分でも何考えてるんだろう?と思ってしまうけど…

透吾さんは、お客さんがいる前ではあたしのフォローもしてくれるし、優しくてすごく頼りになる。

あたしは時々、お客さんに「よく頑張ってるね」「まだ若いのに真面目に働いてるね」とか声をかけてもらう時がある。

お客さん、透吾さん、あたしで話している時にそう言われると透吾さんが「そうなんです、有紗ちゃんすごい頑張ってくれてるんですよ。いい子なんです」なんて言ってくれた日には心の中でめちゃくちゃテンションが上がっている。

…嫌われてるくせに。

ピリピリした空気を出せば店の雰囲気が悪くなるから優しくしてくれているだけだってわかっているけど、普段は言われることのない透吾さんの言葉が嘘だとわかっていてもつい嬉しくなってしまう。

背が高くてカッコよくて、身長の低いあたしの代わりに高い場所にしまってある備品を取ってくれたりする時もときめいてしまう。透吾さんには「ほんとチビだな」って鼻で笑われるけど。

いつか本当に褒めてもらえるように、頑張らなきゃ…!

そんな風に思っていた矢先のある日、あたしはこれまでに無いくらいのミスをしてしまう。
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