わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

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因果応報 【いんが-おうほう】

仏教用語。前世や過去の善悪の行為が因となり、その報いとして現在に善悪の結果がもたらされるという意味。善い行いをすれば善い結果が得られ、悪い行いは悪い結果をもたらす。
類義語:自業自得、自縄自縛、など。

***

「ふぁぁ…」

あくびをしながら周りを見ると、皆寝ていた。

マジか…。

あたしは東京でモデルをしている。モデルと言うよりは読者モデル寄りの。

10代の時はそれなりに仕事もあった。けれど入れ替わりの激しい業界だし、若くて可愛い子がどんどん出てきて25歳を超えた最近は仕事が減ってきた。

さっさと地元に帰って別の仕事をすればいいんだろうけど今更地元に戻れなくて、だらだらと仕事を続けている。けどモデルだけでは食べて行けないから最近はモデル仲間や色んなツテで俳優さんやエライ人の飲み会に賑やかしで参加して、最後にタクシー代と称したギャラを貰う様な、コンパニオン的なことが主な仕事になってしまっている。今日もそうだった。

どうやって帰ろ…。

まだタクシー代を貰っていない。ていうか皆寝てるし誰からも貰えない。お金くれそうな人とか目星付けてたのに気付いたらいないし!ここから家までいくらかかんのよ…

高級旅館を貸し切りにして、そこの宴会場で飲み会が行われた。社員旅行じゃないんだから、何でそんな場所?とは思ったけどエライ人の中の誰かがいつもと趣向を変えたかったらしい。

かなり大人数の飲み会だったし、エライ人だけじゃなくて俳優、モデル、芸人…そんな人も沢山いたみたいだ。途中から来る人帰る人、入れ替わりが激しかったし全員は見てないけど…

皆相当飲まされて、あたし含め今残っている全員が潰されその場で寝ていた。

そしてエライ人って聞いてるだけで、何をしていてどんな人なのか知らない。誰がエライ人だったのかもよくわからない。わからないままこの宴会は終わりを告げようとしている。

まぁそんな感じだったので、皆が畳に突っ伏して雑魚寝しちゃうのも仕方ない。

マネージャーや運転手に迎えに来てもらう人もいれば、次の日がオフで部屋を取っていた人も多く部屋は満室らしい。

あたしが潰れる前、「部屋おいでよ。泊めてあげる」と言われついて行く女の子を何人か見た。皆仕事増えたらいいね!

ていうか、いつもと趣向を変えたいとかじゃなくて完全にこれ目的だよね。これしか考えてないよね。…まぁ来る方も来る方か。あたし含め。

そういうあたしは40代後半?50代?くらいの人に部屋へ誘われたけど、明日早いので帰らないとダメなんですぅ~って、仕事の予定も無いけど断った。お金は持っていそうだったけどオッサンと一晩とか絶っ対に無理。ブサイクも無理。

あたしは本当にタクシー代とかお小遣い目当てで来てるだけなんだよね。

オッサンと寝てまで仕事は取りたくない、っていうプライドが邪魔して今までチャンスを沢山逃してるんだろうけど…でもやっぱり嫌!

そんなことよりどうやって帰ろう。困ったな…

「あ!」

知り合い見つけた。

「将くん!まさくーん」

そろそろと近付いて、寝ている将くんの耳元で、周りに聞こえない小さい声で名前を呼んだ。

「ん…?」

将くんが目をこすって寝ぼけ眼であたしを見た。

「将くん久しぶり」

「…あれ、もしかして菜々?」

「ひどいなぁ、気付かなかったの?」

そういうあたしも今の今まで将くんに気付いてなかったんだけどね。

水嶋将人くん。元々は売れないモデルだったみたいだけど、ドラマに出てブレイクして、今はすっかり売れっ子の俳優さん。

「あれ社長帰ってるじゃん…潰すだけ潰しやがってあのオッサン…」

将くんはだんだん目が覚めてきた様で、あたしの顔をちゃんと認識する様になった。

「菜々帰るの?明日仕事?」

「無いよ。暇だもん。でも帰りたいよ~」

「そっか。…一緒に帰る?」

待ってました。その言葉が欲しかったんだよね。これで帰れる!

「いいのー?ありがとう」

語尾にハートマークが付くくらい、あたしはわざとらしく喜んだ。

「うーん…」

どこかで唸り声が聞こえる。少しずつ、人が起きてくる気配がする。

「…誰が起きてくるかわかんないから、先出て待ってて。すぐ行くから」

「うんっ」

ー「暑っ…」

外に出ると蒸し暑く、一瞬で体がべたついた様な気がした。早く将くん出てこないかなぁ。

4時。日が昇る時間が早い夏でもこの時間はまだまだ暗い。そっちの方が将くんも顔がささないからちょうどいいか。

…って、もう30分近く待ってると思うんだけど。すぐじゃないじゃん。

「お待たせ」

将くんは出てきた瞬間目の前のタクシーに2人で乗り込んだ。出てくるのが遅かったのは、タクシーを呼んでたからか。

「頭いてー。まだまだ寝てる奴いたけど皆次の日仕事とか大丈夫なのかな」

「部屋取ってる人もいたみたいだよ」

「まーそうだろな。はー、全然酒抜けないわ…夕方から仕事なのに…」

将くんが再びうとうとし始めたのでときどき話しかけて完全に寝ちゃわないようにした。確か家は近いはずだけど、はっきりわからないし。

そうこうしているうちにタクシーは将くんの住んでいるマンションに到着した。

「じゃここで。おつりいいです。どうも」

将くんがお金を払う。

「ん。菜々も出て」

先に降りた将くんが手招きをする。

「えー家まで帰してくれないのー?」

「大して距離変わんないでしょ?はい降りてー」

将くんがあたしの手を引っ張ってタクシーから下ろした。

「ちょっとー」

「…ここから歩いて帰れって言ってるわけじゃないよ」

将くんがこそっとあたしに耳打ちをした。

あ、そっか。そういうことね…

あたしを気にかけている運転手さんに将くんが手を振った。

「あ、ここで大丈夫なんでほんとに。どうも」

将くんの言葉を聞いてドアが閉まり、タクシーは走り去って行った。

「早く入って、いつ撮られるかわかんないんだから」

「はぁーい」

将くんがカードキーを通して、オートロックのエントランスが開く。とぼとぼと将くんの後を付いていく。

「菜々早くって」

「はいはいごめんなさい」

将くんがさっさとエレベーターに乗り込んで、中からドアを押さえて待っている。あたしが小走りでエレベーターに乗り込むと、将くんがすぐさま閉ボタンを押すとドアが閉まり、エレベーターが登っていった。
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