わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

文字の大きさ
10 / 45

10

しおりを挟む
その時から日があまり開かないうちに2回目の食事をした時は仕事の話をした。

「剛くん、忙しいんじゃないの?あたしなんかとご飯食べてていいの?」

「うーん…忙しい時は忙しいけど息抜きもいるやん。頑張る時頑張って、こういう風に自分の時間作るん好きやねん」

…仕事ができる人の言葉って感じ。あたしなんか息抜きばっかりだよ…

「すごいなぁ剛くん…忙しくてもプライベートちゃんと充実させてて」

「まぁこうなるまで色々頑張ったしなー。菜々ちゃんはどうなん?」

「うーん…普通かなぁ。仕事も普通。あたしもなんか頑張らないと」

そういえばこの頃だったかも、蓮くんと遊ぶ様になったの。けど別にうきうきしてるわけでも無かったし、特に充実しているとも思っていなかった。

「なんかってアバウトやな」

剛くんが笑った。

「んー…剛くんみたいに頑張ったらなんかいいことあるかもやし」

「まぁ因果応報って言うからなー」

「え?それって悪い意味じゃないん?」

「悪い意味で使われること多いけど、自分のしたことにはそれ相応の結果が返ってくるってことやから悪い意味ばっかりじゃないねんで」

「ふーん…そうなんや。色んなこと知ってるんやな」

まぁ、そんな感じでご飯を食べながら色々話してその日もバイバイした。

…あれ?今日も何もなかった。

それが普通なはずなのに、全く手を出してこようとしない剛くんにやきもきした。

また悪い癖だ。自分が誘われないなんてどういうことって思ってる。

だっておかしい。いくら10年近く前だからって自分を誘って来た女と2人きりで会ってるのに何もしようとしないって。

2人きりで会って何もしてこない男なんてあたしの出会った中にはいないよ。

付き合ってって言ってきたり、ホテル行こうとしたりとか何かしらしてくるよ。いや剛くんに誘われても断ろうって思ってるけど。

どういうつもりであたしを食事に誘ってるの?何回あたしのプライドを傷付けたら気が済むの?

本当に、ただの地元の後輩って思ってるだけなのか。

それならそうと言ってよ。いや、菜々ちゃんは後輩だから何もしないよ、とか言われるのもおかしいか…

けど、3回目に会った時にいきなり状況が変わってしまった。

***

「あのさー剛くん」

「ん?」

食事をした帰りに、今日は車で来てるからって剛くんがあたしを家まで送ってくれることになり、一緒にご飯屋さんの近くの地下駐車場に向かっていた時に思い切って聞いてみた。

「剛くんさ…あたしのこと嫌いじゃなかったん?」

「え、何で?」

「…だって、昔」

「あぁ、高校の時?」

「興味ないって言ってシャットアウトしたやん」

「あー…あれな」

「何?」

あたしの先を歩く剛くんの方に小走りでついていって、追い越して剛くんの目を見た。

「どーしたん、いきなり怖い顔して…まぁまぁ入りーや、寒いやん」

暦の上では春だけど、まだまだ寒い。地下だと空気が余計にひんやりと感じた。

剛くんに促され車に乗ったあたしは、黙り込んでいた。

まさか昔のこと全然覚えてないのかな?とか思うと腹が立ってきて。あの頃、邪な気持ちで誘ったけど興味ないとか言われてこっちは傷付いたんだからいい加減、何を考えているのかちゃんと聞きたかった。

「剛くんはあの時のこと覚えてるん?」

「うん。ちゃんと覚えてるよ」

「何で今こうやってご飯行ったりするん?あの時の話も一切出さへんし」

「んー…話出したところで何て言ったらいいんかわからんしなぁ。何が聞きたいん?」

「興味ないって、バッサリ切り捨てといて何で今こんなに普通なんかよくわからん」

「だってこんだけ年月経ってるんやから普通じゃない方がおかしいやろ」

「…そうやけど」

「うーん、あの時付き合ってた同じクラスの彼女の束縛が凄くてさー。怖くて何も出来んかってん。他の女と目合わせんなとか言われてたし」

「ふーん…」

「彼女がどこで目光らせてるかわからんし、仲良く話そうもんなら俺どころか菜々ちゃんもなんかされそうやし冷たく突き放すしかなかってん」

「ほんまに?」

「ほんまやって。今更嘘ついてどうすんの」

「…その彼女のこと好きやった?」

剛くんがあたしをちらっと見て笑った。

「そんなん聞いてどーすんの?」

「だって、いくら束縛されててもそこまで好きじゃなかったら言うこと聞けへんやん。男って浮気するやん」

「皆が皆浮気せんやろ」

「だからよっぽど好きやったんかなって思って」

「…そりゃ、めっちゃ好きやったで。何言わせんの」

「そっか。じゃああたしに興味なくても仕方ないよな…」

「まあその彼女浮気して俺フラれたけどな!」

剛くんが笑っている。まぁ今となっては笑い話?になるのかな。嫌なことを思い出させちゃったのは間違いないと思うけど…

「はぁ?まじで?ありえへん」

「びっくりするよなー。束縛するヤツほど浮気するからな、自分がするから相手もするって思ってるんやろ」

「…なんかごめん」

「いやいいけど。おっけー?すっきりした?」

「した…」

ただ単に、大好きな彼女がいて裏切りたくないから冷たくされただけなんだ。当たり前だよね。あたしの感覚が狂ってるんだ…

「今は菜々ちゃんにめっちゃ興味あるよ」

剛くんがあたしにキスをした。…なんか、急に流れが変わってきたんだけど。

「そうなん…?」

「…帰したくないって言ったら怒る?」

「…怒らへん」

10年間忘れられなかったとかそんなんじゃない。

けど剛くんと再会したことであの時のことをやっと聞けて気が抜けてしまったあたしは、絶対断ってやる!なんて思っていたことをすっかり忘れて剛くんの誘いに乗ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...