3 / 46
3. やり直す
「こんにちは、カーミラ」
「…はい」
次の日、何故か私の前にケイン・エースがいる。
今まで二日連続で家を訪ねてきたことなんてなかったのに、なぜこのタイミングで、、?
顔はにこやかで怒っているようには見えないが実は内心怒りまくっていて今から私はとんでもない叱責を受けるとか…?
私が騎士をしていた時でさえ彼が怒ったところをほとんど見たことがない。この危機的状況に心臓がバクバクする。
「今から街に行くつもりだけど何か持っていきたいものはある?」
「……え、……特にないです、けど」
「よかった」
あれよあれよと話は進められいつの間にか馬車に乗り込んでいた。馬車の中にはケイン様と、私、私の侍女の三人でその間で会話は一切なかった。
気まずい。でもこの空気の中で話をふる勇気はないし、侍女の立場から話はじめるなんてもっと無理だろう。つまり、ケイン様が話しかけない限りこの沈黙は続くのだ。
と、思っていたのだが
ぐうううう~
まさかの私の腹の音が沈黙を破った。
全く空気を読まない腹の音にイラっとしつつも、恥ずかしさから顔が熱くなるのが分かる。
「っふ、、街についたら何か食べよう」
笑ったのを私は聞き逃さなかったですよ…
恥ずかしさのあまり早く街に着かないかと祈ることしかできなかった。
********
「はい、これ」
「ありがとうございます…」
約束通り?彼は街に着くや否や串カツのようなものを買ってくれた。
侍女のユラは彼の側近と思われる人と遠くで待っている。
ああ~美味しい。
過去に戻っていてからはお上品な食事しかしていなかったため、久しぶりに食べる庶民の味が染みわたった。
「…意外。こういうのにもっと抵抗あると思った」
「…いえ、…おなかがすいていたので」
嘘ではない。
が、普通の令嬢なら街の食べ物というだけでも抵抗があるだろうし、ましてや串カツのようにかじりつく食べ物なんてもってのほかだろう。
「素直でいいね」
「…、」
なんだか慣れない。私の記憶の中のケイン様は私が騎士になってからのものばかりだからこんなにもまっすぐ私を見てくれているのが不思議な感じでそわそわしてしまう。
すると言いにくそうに「あのさ、」と話を切り出される。
「カーミラは俺との婚約を解消したい?」
顔をみるときゅるきゅるとしていてなぜか罪悪感を感じる。
しかし…
一度戦地で命を落とした私はこんなことには屈しない。
これはお互いのため。
お互いのために一緒になるべきではない。家同士の問題もあるかもしれないけれど、そんなのはあとからなんとでもなるだろう。現に一度目の人生では婚約破棄されたし。
「はい、婚約はなかったことにしたいです」
ケインは少し考えた後「どうして?」と聞いてきた。
その一言に、胸の奥がひくりと痛んだ。
理由なんて、山ほどある。
でも本当の理由は、彼には言えない。
――あなたは私を愛さない。
――そして私は、その事実を知っている。
そんなこと、言えるわけがない。
「……私は、きっと良い奥さんになれません」
口から出たのは、ずるい言葉だった。
「社交も得意じゃないし、ダンスも楽器もできない。今は頑張ろうとしてますけど……それでも、ケイン様の隣に立つ姿が想像できないんです」
嘘ではない。
でも真実でもない。
ケインは立ち止まり、噴水の水音だけが二人の間に残った。
「それだけ?」
「……それだけ、です」
本当は、
あなたの『強い人が好き』という言葉に、人生を狂わされた。
あなたを振り向かせたくて剣を握り、女であることを捨てて、それでも愛されなかった。
そんな未来を知っているから、私は逃げている。
「俺はさ」
ケインは空を見上げて、少し困ったように笑った。
「カーミラがそんなふうに自分を下げて言うの、好きじゃない」
……え?
「強い人が好きって言ったの、覚えてる?」
「……はい」
「別に、剣を振れる人が好きって意味じゃない」
胸が、どくんと跳ねた。
「自分の意思で立って、自分で選んで進める人のことを、強いって言ったんだ」
私は言葉を失った。
――違う。
――そんな意味じゃなかった。
一度目の人生で、彼は決してそんな説明をしてくれなかった。
「昨日さ、婚約をやめたいって言われて、正直驚いた」
ケインは私を見る。
逃げ場のない、まっすぐな視線。
「でも……少し、ほっとした」
「……え?」
「俺たちは、ちゃんと話してなかっただろ」
その言葉に、息が詰まる。
確かにそうだ。
私はいつも彼の言葉を勝手に解釈して、勝手に努力して、勝手に傷ついていた。
「婚約を続けるかどうかは、今すぐ決めなくていい」
「……」
「ただ、逃げる理由が『自分はふさわしくない』なら、それは却下」
少し強い口調なのに、不思議と怖くなかった。
「カーミラ。俺は、君が何者になるかを見たい」
胸の奥で、何かが崩れる音がした。
一度目の人生では、
彼は決して私を“見よう”とはしなかった。
「……それでも」
私は串カツの棒をぎゅっと握る。
「私は、愛されない結婚はしたくないんです」
はっきり言った。
過去の自分への、決別の言葉でもあった。
ケインは一瞬目を見開き、そして――
「それは、俺も同じだ」
と、静かに言った。
心臓が、うるさい。
「だから、こうしない?」
「……?」
「婚約は“保留”。でも、友達として、一からやり直す」
友達。
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
恋に人生を捧げて、破滅した前世。
今度は、同じ過ちは繰り返さない。
「……それなら」
私は小さく息を吸って、
「それなら、いいです」
そう答えた。
ケインは安心したように笑った。
その笑顔を見て、胸がちくりと痛む。
でも同時に、どこか軽くなった気もした。
――私はもう、盲目的に恋をしない。
――愛されることを、選ぶ。
馬車へ戻る道すがら、私はそっと空を見上げた。
この人生は、まだ始まったばかりだ。
「…はい」
次の日、何故か私の前にケイン・エースがいる。
今まで二日連続で家を訪ねてきたことなんてなかったのに、なぜこのタイミングで、、?
顔はにこやかで怒っているようには見えないが実は内心怒りまくっていて今から私はとんでもない叱責を受けるとか…?
私が騎士をしていた時でさえ彼が怒ったところをほとんど見たことがない。この危機的状況に心臓がバクバクする。
「今から街に行くつもりだけど何か持っていきたいものはある?」
「……え、……特にないです、けど」
「よかった」
あれよあれよと話は進められいつの間にか馬車に乗り込んでいた。馬車の中にはケイン様と、私、私の侍女の三人でその間で会話は一切なかった。
気まずい。でもこの空気の中で話をふる勇気はないし、侍女の立場から話はじめるなんてもっと無理だろう。つまり、ケイン様が話しかけない限りこの沈黙は続くのだ。
と、思っていたのだが
ぐうううう~
まさかの私の腹の音が沈黙を破った。
全く空気を読まない腹の音にイラっとしつつも、恥ずかしさから顔が熱くなるのが分かる。
「っふ、、街についたら何か食べよう」
笑ったのを私は聞き逃さなかったですよ…
恥ずかしさのあまり早く街に着かないかと祈ることしかできなかった。
********
「はい、これ」
「ありがとうございます…」
約束通り?彼は街に着くや否や串カツのようなものを買ってくれた。
侍女のユラは彼の側近と思われる人と遠くで待っている。
ああ~美味しい。
過去に戻っていてからはお上品な食事しかしていなかったため、久しぶりに食べる庶民の味が染みわたった。
「…意外。こういうのにもっと抵抗あると思った」
「…いえ、…おなかがすいていたので」
嘘ではない。
が、普通の令嬢なら街の食べ物というだけでも抵抗があるだろうし、ましてや串カツのようにかじりつく食べ物なんてもってのほかだろう。
「素直でいいね」
「…、」
なんだか慣れない。私の記憶の中のケイン様は私が騎士になってからのものばかりだからこんなにもまっすぐ私を見てくれているのが不思議な感じでそわそわしてしまう。
すると言いにくそうに「あのさ、」と話を切り出される。
「カーミラは俺との婚約を解消したい?」
顔をみるときゅるきゅるとしていてなぜか罪悪感を感じる。
しかし…
一度戦地で命を落とした私はこんなことには屈しない。
これはお互いのため。
お互いのために一緒になるべきではない。家同士の問題もあるかもしれないけれど、そんなのはあとからなんとでもなるだろう。現に一度目の人生では婚約破棄されたし。
「はい、婚約はなかったことにしたいです」
ケインは少し考えた後「どうして?」と聞いてきた。
その一言に、胸の奥がひくりと痛んだ。
理由なんて、山ほどある。
でも本当の理由は、彼には言えない。
――あなたは私を愛さない。
――そして私は、その事実を知っている。
そんなこと、言えるわけがない。
「……私は、きっと良い奥さんになれません」
口から出たのは、ずるい言葉だった。
「社交も得意じゃないし、ダンスも楽器もできない。今は頑張ろうとしてますけど……それでも、ケイン様の隣に立つ姿が想像できないんです」
嘘ではない。
でも真実でもない。
ケインは立ち止まり、噴水の水音だけが二人の間に残った。
「それだけ?」
「……それだけ、です」
本当は、
あなたの『強い人が好き』という言葉に、人生を狂わされた。
あなたを振り向かせたくて剣を握り、女であることを捨てて、それでも愛されなかった。
そんな未来を知っているから、私は逃げている。
「俺はさ」
ケインは空を見上げて、少し困ったように笑った。
「カーミラがそんなふうに自分を下げて言うの、好きじゃない」
……え?
「強い人が好きって言ったの、覚えてる?」
「……はい」
「別に、剣を振れる人が好きって意味じゃない」
胸が、どくんと跳ねた。
「自分の意思で立って、自分で選んで進める人のことを、強いって言ったんだ」
私は言葉を失った。
――違う。
――そんな意味じゃなかった。
一度目の人生で、彼は決してそんな説明をしてくれなかった。
「昨日さ、婚約をやめたいって言われて、正直驚いた」
ケインは私を見る。
逃げ場のない、まっすぐな視線。
「でも……少し、ほっとした」
「……え?」
「俺たちは、ちゃんと話してなかっただろ」
その言葉に、息が詰まる。
確かにそうだ。
私はいつも彼の言葉を勝手に解釈して、勝手に努力して、勝手に傷ついていた。
「婚約を続けるかどうかは、今すぐ決めなくていい」
「……」
「ただ、逃げる理由が『自分はふさわしくない』なら、それは却下」
少し強い口調なのに、不思議と怖くなかった。
「カーミラ。俺は、君が何者になるかを見たい」
胸の奥で、何かが崩れる音がした。
一度目の人生では、
彼は決して私を“見よう”とはしなかった。
「……それでも」
私は串カツの棒をぎゅっと握る。
「私は、愛されない結婚はしたくないんです」
はっきり言った。
過去の自分への、決別の言葉でもあった。
ケインは一瞬目を見開き、そして――
「それは、俺も同じだ」
と、静かに言った。
心臓が、うるさい。
「だから、こうしない?」
「……?」
「婚約は“保留”。でも、友達として、一からやり直す」
友達。
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
恋に人生を捧げて、破滅した前世。
今度は、同じ過ちは繰り返さない。
「……それなら」
私は小さく息を吸って、
「それなら、いいです」
そう答えた。
ケインは安心したように笑った。
その笑顔を見て、胸がちくりと痛む。
でも同時に、どこか軽くなった気もした。
――私はもう、盲目的に恋をしない。
――愛されることを、選ぶ。
馬車へ戻る道すがら、私はそっと空を見上げた。
この人生は、まだ始まったばかりだ。
あなたにおすすめの小説
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
【完結】王位に拘る元婚約者様へ
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。
青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。
虐げられ、食事もろくに与えられない。
それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。
ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。
名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。
しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった──
婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語──
※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
オネエな幼馴染と男嫌いな私
麻竹
恋愛
男嫌いな侯爵家の御令嬢にはオネエの幼馴染がいました。しかし実は侯爵令嬢が男嫌いになったのは、この幼馴染のせいでした。物心つく頃から一緒にいた幼馴染は事ある毎に侯爵令嬢に嫌がらせをしてきます。その悪戯も洒落にならないような悪戯ばかりで毎日命がけ。そのせいで男嫌いになってしまった侯爵令嬢。「あいつのせいで男が苦手になったのに、なんであいつはオカマになってるのよ!!」と大人になって、あっさりオカマになってしまった幼馴染に憤慨する侯爵令嬢。そんな侯爵令嬢に今日も幼馴染はちょっかいをかけに来るのでした。