夫のために戦場で死んだ私の願い事

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3. やり直す

「こんにちは、カーミラ」
「…はい」


次の日、何故か私の前にケイン・エースがいる。

今まで二日連続で家を訪ねてきたことなんてなかったのに、なぜこのタイミングで、、?


顔はにこやかで怒っているようには見えないが実は内心怒りまくっていて今から私はとんでもない叱責を受けるとか…?


私が騎士をしていた時でさえ彼が怒ったところをほとんど見たことがない。この危機的状況に心臓がバクバクする。


「今から街に行くつもりだけど何か持っていきたいものはある?」
「……え、……特にないです、けど」
「よかった」


あれよあれよと話は進められいつの間にか馬車に乗り込んでいた。馬車の中にはケイン様と、私、私の侍女の三人でその間で会話は一切なかった。


気まずい。でもこの空気の中で話をふる勇気はないし、侍女の立場から話はじめるなんてもっと無理だろう。つまり、ケイン様が話しかけない限りこの沈黙は続くのだ。


と、思っていたのだが


ぐうううう~



まさかの私の腹の音が沈黙を破った。

全く空気を読まない腹の音にイラっとしつつも、恥ずかしさから顔が熱くなるのが分かる。



「っふ、、街についたら何か食べよう」



笑ったのを私は聞き逃さなかったですよ…

恥ずかしさのあまり早く街に着かないかと祈ることしかできなかった。



********



「はい、これ」
「ありがとうございます…」



約束通り?彼は街に着くや否や串カツのようなものを買ってくれた。

侍女のユラは彼の側近と思われる人と遠くで待っている。


ああ~美味しい。

過去に戻っていてからはお上品な食事しかしていなかったため、久しぶりに食べる庶民の味が染みわたった。


「…意外。こういうのにもっと抵抗あると思った」
「…いえ、…おなかがすいていたので」



嘘ではない。
が、普通の令嬢なら街の食べ物というだけでも抵抗があるだろうし、ましてや串カツのようにかじりつく食べ物なんてもってのほかだろう。


「素直でいいね」
「…、」


なんだか慣れない。私の記憶の中のケイン様は私が騎士になってからのものばかりだからこんなにもまっすぐ私を見てくれているのが不思議な感じでそわそわしてしまう。

すると言いにくそうに「あのさ、」と話を切り出される。


「カーミラは俺との婚約を解消したい?」


顔をみるときゅるきゅるとしていてなぜか罪悪感を感じる。

しかし…

一度戦地で命を落とした私はこんなことには屈しない。

これはお互いのため。
お互いのために一緒になるべきではない。家同士の問題もあるかもしれないけれど、そんなのはあとからなんとでもなるだろう。現に一度目の人生では婚約破棄されたし。


「はい、婚約はなかったことにしたいです」


ケインは少し考えた後「どうして?」と聞いてきた。


その一言に、胸の奥がひくりと痛んだ。
理由なんて、山ほどある。
でも本当の理由は、彼には言えない。

――あなたは私を愛さない。
――そして私は、その事実を知っている。

そんなこと、言えるわけがない。

「……私は、きっと良い奥さんになれません」

口から出たのは、ずるい言葉だった。

「社交も得意じゃないし、ダンスも楽器もできない。今は頑張ろうとしてますけど……それでも、ケイン様の隣に立つ姿が想像できないんです」

嘘ではない。
でも真実でもない。

ケインは立ち止まり、噴水の水音だけが二人の間に残った。

「それだけ?」

「……それだけ、です」

本当は、
あなたの『強い人が好き』という言葉に、人生を狂わされた。
あなたを振り向かせたくて剣を握り、女であることを捨てて、それでも愛されなかった。

そんな未来を知っているから、私は逃げている。

「俺はさ」

ケインは空を見上げて、少し困ったように笑った。

「カーミラがそんなふうに自分を下げて言うの、好きじゃない」

……え?

「強い人が好きって言ったの、覚えてる?」
「……はい」
「別に、剣を振れる人が好きって意味じゃない」

胸が、どくんと跳ねた。

「自分の意思で立って、自分で選んで進める人のことを、強いって言ったんだ」

私は言葉を失った。

――違う。
――そんな意味じゃなかった。

一度目の人生で、彼は決してそんな説明をしてくれなかった。

「昨日さ、婚約をやめたいって言われて、正直驚いた」

ケインは私を見る。
逃げ場のない、まっすぐな視線。

「でも……少し、ほっとした」
「……え?」
「俺たちは、ちゃんと話してなかっただろ」

その言葉に、息が詰まる。

確かにそうだ。

私はいつも彼の言葉を勝手に解釈して、勝手に努力して、勝手に傷ついていた。

「婚約を続けるかどうかは、今すぐ決めなくていい」
「……」
「ただ、逃げる理由が『自分はふさわしくない』なら、それは却下」


少し強い口調なのに、不思議と怖くなかった。

「カーミラ。俺は、君が何者になるかを見たい」

胸の奥で、何かが崩れる音がした。

一度目の人生では、
彼は決して私を“見よう”とはしなかった。

「……それでも」

私は串カツの棒をぎゅっと握る。

「私は、愛されない結婚はしたくないんです」

はっきり言った。

過去の自分への、決別の言葉でもあった。

ケインは一瞬目を見開き、そして――

「それは、俺も同じだ」

と、静かに言った。

心臓が、うるさい。

「だから、こうしない?」

「……?」

「婚約は“保留”。でも、友達として、一からやり直す」

友達。

その言葉に、少しだけ救われた気がした。

恋に人生を捧げて、破滅した前世。
今度は、同じ過ちは繰り返さない。

「……それなら」

私は小さく息を吸って、

「それなら、いいです」

そう答えた。

ケインは安心したように笑った。

その笑顔を見て、胸がちくりと痛む。
でも同時に、どこか軽くなった気もした。

――私はもう、盲目的に恋をしない。
――愛されることを、選ぶ。

馬車へ戻る道すがら、私はそっと空を見上げた。

この人生は、まだ始まったばかりだ。

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