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4. 友達
「じゃあ、今日はこの辺で戻ろうか」
馬車に乗り込む前、ケインがそう言った。
……不思議だ。
つい昨日まで、彼と並んで歩くときは、
一歩後ろをついていくのが当たり前だったのに。
今は、同じ歩幅で歩いている。
「今日はありがとう」
馬車の前で、彼がそう言った。
「え?」
思わず、間の抜けた声が出てしまった。
「街に付き合ってくれて、話もしてくれて」
そんなふうに感謝されるようなことは、何もしていない。
私はただ、逃げなかっただけだ。
「……こちらこそ」
そう答えると、彼は少し照れたように目を逸らした。
「友達、だろ?」
その一言に、胸がくすぐったくなる。
友達。
前世では、
上司で、騎士団長候補で、遠い存在で。
決して“友達”にはなれなかった人。
「……はい、友達です」
そう言うと、ケインは満足そうに頷いた。
「じゃあ、次はカーミラのやりたいことに付き合う番だね」
「……やりたいこと?」
「ダンスとか、音楽とか。街歩きでもいい」
彼は当たり前のように言う。
――私のやりたいこと。
前世では、一度も聞かれなかった言葉だ。
「……考えておきます」
「うん。急がなくていい」
その“急がなくていい”という言葉が、
胸にやさしく落ちた。
********
屋敷に戻ったあと、部屋で一人になって、私はベッドに腰を下ろした。
心臓の音は、もう落ち着いている。
(……大丈夫)
好きでいなくてもいい。
期待しなくてもいい。
ただ、話して、笑って、同じ時間を過ごす。
それだけでいい関係も、きっとある。
「友達、か……」
小さく呟いて、天井を見上げる。
もし前世で、
ケインとこんな距離で話せていたら、
私は剣ではなく、別の道を選べていたのだろうか。
……いや。
もう、過去はいい。
この人生では、
誰かの言葉を勝手に重く受け取らない。
誰かの期待に、自分を押し込めない。
「私は、私の人生を生きる」
それが、今世での私の“強さ”なのだと思う。
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