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16. 颯真の過去(2)
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落ち着いたジャズが流れる隠れ家のような和食店。かつて同じ夢を追い、今はそれぞれの道で頂点に近い場所にいる二人が、差し向かいで酒を酌み交わしていた。
「……で? 結局、奏多と同居してるってのは本当なのか」
海里が猪口を置き、探るような視線を向けた。その問いに、颯真の手がわずかに止まる。
「……ああ。あんなボロボロの部屋に一人にしておけなかった。奏多は、放っておいたら消えてしまいそうだったから」
「過保護なのは昔からだが、一つ屋根の下となると話は別だろ。お前、自分の立場ってものを分かってるのか?」
「分かってる。でも、奏多には俺が必要なんだよ」
言い切った颯真の言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。そんな彼を、海里は冷徹なまでの冷静さで見つめ、不意に声を低くした。
「颯真。もし……お前がまだ『あのこと』を気にしてるんだとしたら、もういい加減にしろ」
その瞬間、颯真の顔から血の気が引いた。喉の奥が引き攣れる。
「……何を、言って」
「とぼけるな。あの事故のことだ」
海里の声が重く響く。
五周年のリハーサル。照明器具が落下し、奏多の未来を奪ったあの日。世間には『整備不良による不慮の事故』として処理されたが、リーダーだった海里と、当時その周辺にいた颯真だけは、あまりに惨い真実を知っていた。
犯人は、颯真に異常な執着を抱いていた一人の女性スタッフだった。
颯真が奏多ばかりを可愛がり、特別視することへの歪んだ嫉妬。彼女の標的は、颯真の最も大切な存在である奏多だった。緩められたネジは、整備不良ではなく、明確な悪意によって操作されたもの。
「奏多をあんな目に遭わせた元凶は、自分にある。……お前はそう思って、自分を呪い続けてるんだろ」
「……っ、やめろ」
颯真の声が震える。
あの日、血を流して倒れる奏多を見たとき、犯人の女が狂ったように笑いながら「これで、あの子はいなくなるわね」と囁いた声が、今も耳から離れない。
奏多には、一生教えられない真実。自分が愛した、自分のそばにいたせいで、奏多の翼は折られたのだ。
「お前の奏多への執着は、見ていて痛々しいんだよ、颯真。それは本当に、アイツを愛しているからなのか? それとも、ただの……救われない罪悪感なんじゃないのか」
罪悪感。
その言葉が、颯真の胸に深く突き刺さった。
「恋愛感情と、償いの区別がついてないんじゃないか。お前が奏多を囲い込んでいるのは、奏多のためじゃない。……お前自身が楽になりたいだけだろ」
「違う……そんなんじゃない……!」
反論しようとしたが、言葉が続かなかった。
夜な夜な奏多の寝顔を見ては、「ごめん」と心の中で繰り返す日々。
栄養のあるものを食べさせ、リハビリを支え、リオのような新しい光から遠ざけようとする自分の行動。
その根底にあるのは、純粋な愛なのか。それとも、血に塗れた過去を隠し通し、自分を許すための儀式なのか。
「奏多がまた笑えるようになったら、お前はどうするつもりだ。一生、その罪を隠したまま、奏多の隣に居座るつもりか?」
海里の問いは、逃げ場のない刃となって颯真を追い詰める。
颯真は震える手でグラスを煽ったが、酒の味など全くしなかった。
ただ、脳裏に浮かぶのは、今朝「いってらっしゃい」と微笑んでくれた奏多の、何も知らない、透き通った瞳だけだった。
店を出た後の夜風は、酷く冷たかった。
海里の「罪悪感じゃないのか」という言葉が、呪いのように頭の中で何度もリフレインする。
(違う……俺は、奏多のことが、ただ……)
ふらつく足取りで帰路を急ぐ。高級マンションのエントランスを抜け、エレベーターを降り、自分の家の扉を開ける。その短い時間さえ、今の颯真には永遠のように長く感じられた。
ガチャリ、と鍵を開けると、リビングの柔らかな明かりが漏れてきた。
「おかえり、颯真。……あれ、結構飲んだの?」
ソファで本を読んでいた奏多が、顔を上げてふわりと微笑む。その無防備な笑顔を見た瞬間、颯真の心の中で張り詰めていた何かが、音を立てて千切れた。
「奏多……っ」
「わっ、ちょっと、颯真!?」
靴も脱ぎ捨て、縋り付くように奏多を抱きしめる。ソファに押し倒すような形になり、奏多の細い肩に顔を埋めた。
「どうしたの? 海里と喧嘩でもした? ……ねえ、苦しいよ」
奏多の戸惑う声が聞こえる。いつもなら「ごめん、奏多成分が足りなくて!」なんておどけて見せるはずなのに、今の颯真にそんな余裕は一ミリもなかった。
「……奏多、奏多……。ごめんね。本当に、ごめん」
「え……? 何に謝ってるの?」
「俺が、……俺がもっとちゃんとしてれば。もっと早く、……っ。奏多を、こんな、……っ」
言葉が震えて、うまく繋がらない。
奏多の肌に触れるたび、あの日の事故で負った傷跡が、自分のせいで刻まれたものだと思い知らされる。海里の言う通りかもしれない。
この腕に込めた力は、奏多を愛している証明なのか、それとも、壊してしまった宝物を必死に繋ぎ止めようとする、醜い執着なのか。
「颯真……泣いてるの?」
奏多の細い指が、颯真の濡れた頬をそっと撫でる。その優しさが、今は何よりも痛い。
自分をこんな体にした原因が、颯真を想う人間の嫉妬だったなんて、この清らかな魂に一生知らせたくない。
「……ねえ、颯真。僕は今、幸せだよ。颯真が迎えに来てくれて、また歌えてる。だから、そんなに悲しい声で謝らないで」
「……っ、かなた……。俺のこと、嫌いにならないで。……どこにも、行かないで。……ねえ、約束して……」
情けないほど震える声で、奏多の胸元に顔を擦り寄せる。大型犬が傷ついて、飼い主に縋り付くような、無様で必死な姿。
「……はいはい、行かないよ。約束するから。ほら、少し離れて? 重いよ、颯真」
奏多は困ったように笑いながらも、颯真の背中を優しくトントンと叩く。
海里さん、俺はもう戻れないよ。
愛か罪かなんて、もうどうでもいいんだ。
『愛してるよ』
声にならない言葉を心の中で唱える。
この言葉が自分の本心なのかどうかも分からない。
ただ今は、奏多の優しい温もりに身を任せて瞼を閉じた。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、リビングを白く照らしていた。
昨夜、泣きじゃくって奏多に縋り付いた颯真は、一夜明けてすっかり「献身的な大型犬」の状態に戻っていた。
いや、昨夜の気まずさを打ち消そうとするかのように、その甘やかした。
「奏多、おはよう。 ほら、今日の朝食は奏多が好きなフレンチトースト。砂糖は控えめにして、栄養価の高い蜂蜜をたっぷりかけておいたよ。あ、熱いから俺が切ってあげる。はい、あーん」
「……颯真、自分で食べられるってば。それに、ちょっと距離が近すぎない?」
ダイニングテーブルで、颯真は奏多のすぐ隣に椅子を寄せ、ぴったりと肩を並べて座っている。フォークを口元まで運んでくる颯真に奏多は気恥ずかしさのあまり顔を赤らめた。
「いいの。奏多は昨日、俺のことを慰めてくれたでしょ? そのお返しだから。はい、あーんして?」
「はぁ……昨日のは颯真が飲みすぎただけでしょ……」
奏多が根負けして小さく口を開けた、その時。
ドンドンドン! と、玄関のドアを叩く、遠慮のない音が部屋に響き渡った。
「奏多さーん! おはよーございまーす! 迎えに来ちゃいました!」
インターホンが鳴るより早く、合鍵を使って別仕事で外泊していたリオがリビングへ飛び込んできた。
「げっ、リオくん……。朝からうるさいよ……」
「わっ、何ですかその光景! 颯真さん、奏多さんに何食べさせてるんですか。食べさせてもらってる奏多さんも可愛すぎますけど、それは僕の役目です!」
リオは一瞬で現場の空気を察し、颯真と奏多の間に割って入った。金髪の髪を振り乱し、颯真の手からフォークを奪い取ろうとする。
「ちょっとリオくん、今は俺と奏多の大切な時間なんだから邪魔しないで」
「大切な時間なら夜にたっぷり過ごしたでしょ! 朝は僕の時間です。奏多さん、見てください。これ、奏多さんのために特注で作ってもらった低反発のクッションです。脚の負担が減るようにって」
「あ、ありがとう。でも……」
「ほら、僕が支えるから座り直してください。颯真さんは向こうでコーヒーでも淹れててくださいよ」
リオは奏多の腰に手を回し、甲斐甲斐しく世話を焼き始める。颯真は眉間に皺を寄せ、剥き出しの嫉妬を隠そうともせずにリオを睨みつけた。
「リオくん。奏多の脚のことは俺が一番分かってる。君のそのクッション、柔らかすぎて逆に腰を痛めるんじゃないかな?」
「はぁ? 何言ってるんですか、最新の人間工学に基づいたやつですよ。颯真さんのその『過保護すぎる甘やかし』の方が、奏多さんを甘えん坊にしすぎてダメにするんですよ!」
「甘えん坊でいいんだよ、奏多は。俺がそうしたいんだから」
「僕がもっとカッコよく、逞しくプロデュースするんです!」
二人の火花が散る中、中心にいる奏多は、口元に残った蜂蜜を指で拭いながら、また深い溜息をついた。
(……昨夜の颯真のあの悲しそうな顔はどこに行ったんだろう)
目の前で「どっちが奏多をより良くケアできるか」という不毛な争いを続ける二人を見つめながら、奏多は呆れ半分、嬉しさ半分といった複雑な気持ちで、運ばれてきたフレンチトーストを自分で口に運んだ。
颯真の瞳の奥に、昨夜の「罪」の色がまだ微かに残っていることを、奏多は気づかないふりをして。
「二人とも、喧嘩するなら朝ごはんは抜きだよ」
奏多のその一言で、二人の大型犬たちは、一瞬でシュンとして奏多の顔色を伺い始めた。
そんな朝の騒がしさが、今の奏多にとっては、どんな静寂よりも心地よい救いとなっていた。
「……で? 結局、奏多と同居してるってのは本当なのか」
海里が猪口を置き、探るような視線を向けた。その問いに、颯真の手がわずかに止まる。
「……ああ。あんなボロボロの部屋に一人にしておけなかった。奏多は、放っておいたら消えてしまいそうだったから」
「過保護なのは昔からだが、一つ屋根の下となると話は別だろ。お前、自分の立場ってものを分かってるのか?」
「分かってる。でも、奏多には俺が必要なんだよ」
言い切った颯真の言葉は、どこか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。そんな彼を、海里は冷徹なまでの冷静さで見つめ、不意に声を低くした。
「颯真。もし……お前がまだ『あのこと』を気にしてるんだとしたら、もういい加減にしろ」
その瞬間、颯真の顔から血の気が引いた。喉の奥が引き攣れる。
「……何を、言って」
「とぼけるな。あの事故のことだ」
海里の声が重く響く。
五周年のリハーサル。照明器具が落下し、奏多の未来を奪ったあの日。世間には『整備不良による不慮の事故』として処理されたが、リーダーだった海里と、当時その周辺にいた颯真だけは、あまりに惨い真実を知っていた。
犯人は、颯真に異常な執着を抱いていた一人の女性スタッフだった。
颯真が奏多ばかりを可愛がり、特別視することへの歪んだ嫉妬。彼女の標的は、颯真の最も大切な存在である奏多だった。緩められたネジは、整備不良ではなく、明確な悪意によって操作されたもの。
「奏多をあんな目に遭わせた元凶は、自分にある。……お前はそう思って、自分を呪い続けてるんだろ」
「……っ、やめろ」
颯真の声が震える。
あの日、血を流して倒れる奏多を見たとき、犯人の女が狂ったように笑いながら「これで、あの子はいなくなるわね」と囁いた声が、今も耳から離れない。
奏多には、一生教えられない真実。自分が愛した、自分のそばにいたせいで、奏多の翼は折られたのだ。
「お前の奏多への執着は、見ていて痛々しいんだよ、颯真。それは本当に、アイツを愛しているからなのか? それとも、ただの……救われない罪悪感なんじゃないのか」
罪悪感。
その言葉が、颯真の胸に深く突き刺さった。
「恋愛感情と、償いの区別がついてないんじゃないか。お前が奏多を囲い込んでいるのは、奏多のためじゃない。……お前自身が楽になりたいだけだろ」
「違う……そんなんじゃない……!」
反論しようとしたが、言葉が続かなかった。
夜な夜な奏多の寝顔を見ては、「ごめん」と心の中で繰り返す日々。
栄養のあるものを食べさせ、リハビリを支え、リオのような新しい光から遠ざけようとする自分の行動。
その根底にあるのは、純粋な愛なのか。それとも、血に塗れた過去を隠し通し、自分を許すための儀式なのか。
「奏多がまた笑えるようになったら、お前はどうするつもりだ。一生、その罪を隠したまま、奏多の隣に居座るつもりか?」
海里の問いは、逃げ場のない刃となって颯真を追い詰める。
颯真は震える手でグラスを煽ったが、酒の味など全くしなかった。
ただ、脳裏に浮かぶのは、今朝「いってらっしゃい」と微笑んでくれた奏多の、何も知らない、透き通った瞳だけだった。
店を出た後の夜風は、酷く冷たかった。
海里の「罪悪感じゃないのか」という言葉が、呪いのように頭の中で何度もリフレインする。
(違う……俺は、奏多のことが、ただ……)
ふらつく足取りで帰路を急ぐ。高級マンションのエントランスを抜け、エレベーターを降り、自分の家の扉を開ける。その短い時間さえ、今の颯真には永遠のように長く感じられた。
ガチャリ、と鍵を開けると、リビングの柔らかな明かりが漏れてきた。
「おかえり、颯真。……あれ、結構飲んだの?」
ソファで本を読んでいた奏多が、顔を上げてふわりと微笑む。その無防備な笑顔を見た瞬間、颯真の心の中で張り詰めていた何かが、音を立てて千切れた。
「奏多……っ」
「わっ、ちょっと、颯真!?」
靴も脱ぎ捨て、縋り付くように奏多を抱きしめる。ソファに押し倒すような形になり、奏多の細い肩に顔を埋めた。
「どうしたの? 海里と喧嘩でもした? ……ねえ、苦しいよ」
奏多の戸惑う声が聞こえる。いつもなら「ごめん、奏多成分が足りなくて!」なんておどけて見せるはずなのに、今の颯真にそんな余裕は一ミリもなかった。
「……奏多、奏多……。ごめんね。本当に、ごめん」
「え……? 何に謝ってるの?」
「俺が、……俺がもっとちゃんとしてれば。もっと早く、……っ。奏多を、こんな、……っ」
言葉が震えて、うまく繋がらない。
奏多の肌に触れるたび、あの日の事故で負った傷跡が、自分のせいで刻まれたものだと思い知らされる。海里の言う通りかもしれない。
この腕に込めた力は、奏多を愛している証明なのか、それとも、壊してしまった宝物を必死に繋ぎ止めようとする、醜い執着なのか。
「颯真……泣いてるの?」
奏多の細い指が、颯真の濡れた頬をそっと撫でる。その優しさが、今は何よりも痛い。
自分をこんな体にした原因が、颯真を想う人間の嫉妬だったなんて、この清らかな魂に一生知らせたくない。
「……ねえ、颯真。僕は今、幸せだよ。颯真が迎えに来てくれて、また歌えてる。だから、そんなに悲しい声で謝らないで」
「……っ、かなた……。俺のこと、嫌いにならないで。……どこにも、行かないで。……ねえ、約束して……」
情けないほど震える声で、奏多の胸元に顔を擦り寄せる。大型犬が傷ついて、飼い主に縋り付くような、無様で必死な姿。
「……はいはい、行かないよ。約束するから。ほら、少し離れて? 重いよ、颯真」
奏多は困ったように笑いながらも、颯真の背中を優しくトントンと叩く。
海里さん、俺はもう戻れないよ。
愛か罪かなんて、もうどうでもいいんだ。
『愛してるよ』
声にならない言葉を心の中で唱える。
この言葉が自分の本心なのかどうかも分からない。
ただ今は、奏多の優しい温もりに身を任せて瞼を閉じた。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、リビングを白く照らしていた。
昨夜、泣きじゃくって奏多に縋り付いた颯真は、一夜明けてすっかり「献身的な大型犬」の状態に戻っていた。
いや、昨夜の気まずさを打ち消そうとするかのように、その甘やかした。
「奏多、おはよう。 ほら、今日の朝食は奏多が好きなフレンチトースト。砂糖は控えめにして、栄養価の高い蜂蜜をたっぷりかけておいたよ。あ、熱いから俺が切ってあげる。はい、あーん」
「……颯真、自分で食べられるってば。それに、ちょっと距離が近すぎない?」
ダイニングテーブルで、颯真は奏多のすぐ隣に椅子を寄せ、ぴったりと肩を並べて座っている。フォークを口元まで運んでくる颯真に奏多は気恥ずかしさのあまり顔を赤らめた。
「いいの。奏多は昨日、俺のことを慰めてくれたでしょ? そのお返しだから。はい、あーんして?」
「はぁ……昨日のは颯真が飲みすぎただけでしょ……」
奏多が根負けして小さく口を開けた、その時。
ドンドンドン! と、玄関のドアを叩く、遠慮のない音が部屋に響き渡った。
「奏多さーん! おはよーございまーす! 迎えに来ちゃいました!」
インターホンが鳴るより早く、合鍵を使って別仕事で外泊していたリオがリビングへ飛び込んできた。
「げっ、リオくん……。朝からうるさいよ……」
「わっ、何ですかその光景! 颯真さん、奏多さんに何食べさせてるんですか。食べさせてもらってる奏多さんも可愛すぎますけど、それは僕の役目です!」
リオは一瞬で現場の空気を察し、颯真と奏多の間に割って入った。金髪の髪を振り乱し、颯真の手からフォークを奪い取ろうとする。
「ちょっとリオくん、今は俺と奏多の大切な時間なんだから邪魔しないで」
「大切な時間なら夜にたっぷり過ごしたでしょ! 朝は僕の時間です。奏多さん、見てください。これ、奏多さんのために特注で作ってもらった低反発のクッションです。脚の負担が減るようにって」
「あ、ありがとう。でも……」
「ほら、僕が支えるから座り直してください。颯真さんは向こうでコーヒーでも淹れててくださいよ」
リオは奏多の腰に手を回し、甲斐甲斐しく世話を焼き始める。颯真は眉間に皺を寄せ、剥き出しの嫉妬を隠そうともせずにリオを睨みつけた。
「リオくん。奏多の脚のことは俺が一番分かってる。君のそのクッション、柔らかすぎて逆に腰を痛めるんじゃないかな?」
「はぁ? 何言ってるんですか、最新の人間工学に基づいたやつですよ。颯真さんのその『過保護すぎる甘やかし』の方が、奏多さんを甘えん坊にしすぎてダメにするんですよ!」
「甘えん坊でいいんだよ、奏多は。俺がそうしたいんだから」
「僕がもっとカッコよく、逞しくプロデュースするんです!」
二人の火花が散る中、中心にいる奏多は、口元に残った蜂蜜を指で拭いながら、また深い溜息をついた。
(……昨夜の颯真のあの悲しそうな顔はどこに行ったんだろう)
目の前で「どっちが奏多をより良くケアできるか」という不毛な争いを続ける二人を見つめながら、奏多は呆れ半分、嬉しさ半分といった複雑な気持ちで、運ばれてきたフレンチトーストを自分で口に運んだ。
颯真の瞳の奥に、昨夜の「罪」の色がまだ微かに残っていることを、奏多は気づかないふりをして。
「二人とも、喧嘩するなら朝ごはんは抜きだよ」
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