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19. 2人がいいのに
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その夜、帰宅した3人はリビングでくつろいでいた。
元々アイドルだったとはいえ、最近までは作曲家、プロデューサーとしてしか活動していなかった奏多と颯真は流石に大きな仕事の後はひどく消耗する。リビングのソファに座り込んだ奏多は限界のようで、颯真が淹れたホットミルクを半分ほど飲んだところで、こっくりと船を漕ぎ始めた。
「……奏多、寝室まで行ける?」
「ん……ぅん、だいじょうぶ……」
おぼつかない足取りの奏多を、颯真が慣れた手つきで支えて寝室へと連れていく。残されたリオは、その光景を複雑な表情で見送った。
数分後、リビングに戻ってきた颯真は、ふぅと短く息を吐いてキッチンへと向かった。
「……ねえ、颯真さん」
リオが低い声で呼びかける。その視線には、先ほどまでの快活さはなく、年相応の鋭さが宿っていた。
「どうしたの」
「……なんで、まだ三人なんですか?」
「何が?」
「しらばくれないでくださいよ。颯真さん、自分の気持ちに整理がついたんでしょ? だったら、もう身を引いて、僕と奏多さんの二人きりにしてくれたっていいじゃないですか。……この家、颯真さんの家ですよね。僕たちが新しく二人で住める場所を探すのを、手伝ってくれたっていいはずじゃないですか」
リオの言葉は、独占欲に満ちていた。ようやくライバルが身を引いたと思ったのに、相変わらず「家族」という鉄壁のガードで奏多の隣に居座り続ける颯真が、彼にはもどかしくて仕方なかったのだ。
颯真は、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのキャップをゆっくりと開け、一口飲んでからリオを振り返った。その顔には、先ほどまでの「清々しいお兄さん」とは一味違う、食えない男の笑みが浮かんでいた。
「……リオくん、君は何か勘違いしてるんじゃないかな」
「勘違い?」
「君と奏多は、まだ付き合ってもいない。そうでしょ?」
図星を突かれたリオが、言葉に詰まる。
「奏多が君を特別に思っているのは確かだけど、彼はまだ君の気持ちを受け止める準備ができているわけじゃない。そんな不安定な状態の奏多を、君みたいな『盛りのついた子犬』と二人きりにさせるわけにはいかないんだよ」
「なっ……! 盛りのついたって……!」
「自覚がないならもっと質が悪いね」
颯真はキッチンカウンターに肘をつき、楽しげに目を細めた。
「俺にはね、見張る義務があるんだ。君が奏多に対して、勢い余って変なことをしないか。奏多が嫌がるような強引な真似をしないか。……今の奏多は、まだガラス細工みたいに繊細なんだよ。それを壊すような奴がいないかチェックするのは、兄である俺の役目だ」
「……結局、独占したいだけじゃないですか」
「心外だなぁ。これは『保護者』としての正当な防衛だよ。君が奏多にふさわしい男だって、俺が100%確信できるまでは、この共同生活は解消しない。……文句があるなら、早く奏多をその気にさせて、俺に『もう安心ですね』って言わせてみせなよ」
颯真はそう言って、リオの肩をポンと叩くと、軽やかな足取りで自分の部屋へと向かった。
「あ、それからリオくん。……奏多の寝室の扉、しっかり閉めておいたから。夜這いなんて考えないようにね。おやすみ」
「……っ、しませんよ、そんなこと!」
夜のリビングに、リオの悔しそうな叫びが虚しく響く。
身を引いたはずの颯真は、皮肉なことに、以前よりもさらに「厄介で手強い壁」となってリオの前に立ちはだかっていた。
(……全然、隙がないじゃないですか、あの人)
リオはソファに深く沈み込み、暗い天井を見上げた。
奏多への恋路は、罪悪感に塗れていた頃の颯真を相手にするよりも、今の「最強の過保護お兄さん」を納得させる方が、遥かに険しそうだった。
元々アイドルだったとはいえ、最近までは作曲家、プロデューサーとしてしか活動していなかった奏多と颯真は流石に大きな仕事の後はひどく消耗する。リビングのソファに座り込んだ奏多は限界のようで、颯真が淹れたホットミルクを半分ほど飲んだところで、こっくりと船を漕ぎ始めた。
「……奏多、寝室まで行ける?」
「ん……ぅん、だいじょうぶ……」
おぼつかない足取りの奏多を、颯真が慣れた手つきで支えて寝室へと連れていく。残されたリオは、その光景を複雑な表情で見送った。
数分後、リビングに戻ってきた颯真は、ふぅと短く息を吐いてキッチンへと向かった。
「……ねえ、颯真さん」
リオが低い声で呼びかける。その視線には、先ほどまでの快活さはなく、年相応の鋭さが宿っていた。
「どうしたの」
「……なんで、まだ三人なんですか?」
「何が?」
「しらばくれないでくださいよ。颯真さん、自分の気持ちに整理がついたんでしょ? だったら、もう身を引いて、僕と奏多さんの二人きりにしてくれたっていいじゃないですか。……この家、颯真さんの家ですよね。僕たちが新しく二人で住める場所を探すのを、手伝ってくれたっていいはずじゃないですか」
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颯真は、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのキャップをゆっくりと開け、一口飲んでからリオを振り返った。その顔には、先ほどまでの「清々しいお兄さん」とは一味違う、食えない男の笑みが浮かんでいた。
「……リオくん、君は何か勘違いしてるんじゃないかな」
「勘違い?」
「君と奏多は、まだ付き合ってもいない。そうでしょ?」
図星を突かれたリオが、言葉に詰まる。
「奏多が君を特別に思っているのは確かだけど、彼はまだ君の気持ちを受け止める準備ができているわけじゃない。そんな不安定な状態の奏多を、君みたいな『盛りのついた子犬』と二人きりにさせるわけにはいかないんだよ」
「なっ……! 盛りのついたって……!」
「自覚がないならもっと質が悪いね」
颯真はキッチンカウンターに肘をつき、楽しげに目を細めた。
「俺にはね、見張る義務があるんだ。君が奏多に対して、勢い余って変なことをしないか。奏多が嫌がるような強引な真似をしないか。……今の奏多は、まだガラス細工みたいに繊細なんだよ。それを壊すような奴がいないかチェックするのは、兄である俺の役目だ」
「……結局、独占したいだけじゃないですか」
「心外だなぁ。これは『保護者』としての正当な防衛だよ。君が奏多にふさわしい男だって、俺が100%確信できるまでは、この共同生活は解消しない。……文句があるなら、早く奏多をその気にさせて、俺に『もう安心ですね』って言わせてみせなよ」
颯真はそう言って、リオの肩をポンと叩くと、軽やかな足取りで自分の部屋へと向かった。
「あ、それからリオくん。……奏多の寝室の扉、しっかり閉めておいたから。夜這いなんて考えないようにね。おやすみ」
「……っ、しませんよ、そんなこと!」
夜のリビングに、リオの悔しそうな叫びが虚しく響く。
身を引いたはずの颯真は、皮肉なことに、以前よりもさらに「厄介で手強い壁」となってリオの前に立ちはだかっていた。
(……全然、隙がないじゃないですか、あの人)
リオはソファに深く沈み込み、暗い天井を見上げた。
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