33 / 71
33. 雑誌
しおりを挟む新生活の喧騒が少し落ち着いた頃、リオはある目的のために、人目を避けて街の大きな書店へと足を運んでいた。
(今日が発売日だったはず…)
目当ては、先日発売されたばかりのファッション誌だ。そこには、奏多が表紙と巻頭グラビアで大々的に特集されている。
サラストヘアに、緩めたネクタイ。少し伏せられた睫毛が影を落とすその表情は、同棲している自分ですら息を呑むほどの色香を放っていた。
「……全部、ください」
「………は?、え、全部ですか…?」
「はい。この店にある限り『全部』です」
リオはレジで静かに、棚にあった在庫をすべて指差した。
(これは、世の中に出回る前に僕が保護すべき資料だ……)
冷静な顔で会計を済ませ、重い紙袋を提げて帰路につくその背中は、どこか使命感に満ちていた。
※※※※※※※※※
数日後、音楽番組の楽屋裏でのことだ。
リオのグループのメンバーたちが、肩を落として溜息をついていた。
「……マジかよ。どこ行っても売り切れなんだけど、あの雑誌」
「奏多さんの表紙、伝説級だもんな。欲しかったなぁ……」
奏多の人気に加えて、在庫が確認でき次第リオが買い占めていたため、リオと同じ地区に住むメンバーたちは買うことができなかったのだ。
落ち込むメンバー達。
そこへ通りかかった番組スタッフが、一枚の雑誌を差し出した。
「あ、それなら一冊余ってますよ。資料用に置いてあったんですけど、もう使い終わったので」
メンバーたちは「神!!」と叫んで飛びついた。しかし、その雑誌をよく見ると、表紙の端に小さな文字で**『歌詞案:サビのメロディ注意』**と奏多の自筆で書き込みがされていた。
「これ、奏多さんの実物じゃん!!」
「書き込み入り!? プレミアどころの騒ぎじゃねえぞ!」
現場は一気に争奪戦の様相を呈した。
「……悪いけど、それは僕がもらう。関係者として、本人の私物は管理しなきゃいけないからね」
リオがスッと割り込み、静かな威圧感と共に雑誌を確保した。メンバーたちは「リオ、お前もう持ってるだろ!」「ずるいぞ!」と食い下がったが、リオはすん…、とそれをかわし、勝利を収めた。
そこへ、ちょうどリハーサルを終えた奏多が通りかかった。
「……あれ? みんな、どうしたの? そんなに落ち込んで」
奏多が不思議そうに首を傾げると、負けたメンバーたちが泣きついた。
「奏多さん! 雑誌が欲しかったのに、リオが独り占めするんです!」
「サイン入り(書き込み)なんて、家宝にしたかったのに……!」
事情を聞いた奏多は、少し困ったように「あはは、そんなに欲しがってくれるなんて……」と微笑んだ。
そして、「じゃあ、これでいいかな?」と一人のメンバーのスマホを指差した。
「……ちょっと借りてもいい?」
奏多は驚くメンバーの横に並ぶと、自らその肩を抱き寄せた。そして、頬が触れ合うほどの距離まで顔を寄せ、自撮りのシャッターを切る。
「はい。これ、後でみんなで共有して。……あ、リオくんも撮る?」
「…………」
その場にいた全員が、奏多の天然ゆえの無防備なファンサービスに、心臓を撃ち抜かれた。
雑誌一冊で争っていたのが馬鹿らしくなるほどのファンサ。
勝利したはずのリオは、メンバーのスマホの中に収まった奏多の近すぎる笑顔を見て、手にした雑誌をぎゅっと握りしめた。
「……奏多さん。あとで家で、僕とも……百枚くらい撮ってくださいね」
「えっ、百枚も? 指が疲れちゃうよ……」
落ち着いた顔を保ちつつも、内心では「他の人と写真を撮ってほしくない」と独占欲を再燃させるリオ。
そんな二人の温度差を、メンバーたちは羨ましそうに、そして少し呆れたように眺めているのだった。
12
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる