元アイドルは現役アイドルに愛される

文字の大きさ
33 / 73

33.  雑誌



新生活の喧騒が少し落ち着いた頃、リオはある目的のために、人目を避けて街の大きな書店へと足を運んでいた。


(今日が発売日だったはず…)


​目当ては、先日発売されたばかりのファッション誌だ。そこには、奏多が表紙と巻頭グラビアで大々的に特集されている。

サラストヘアに、緩めたネクタイ。少し伏せられた睫毛が影を落とすその表情は、同棲している自分ですら息を呑むほどの色香を放っていた。


​「……全部、ください」
「………は?、え、全部ですか…?」
「はい。この店にある限り『全部』です」


​リオはレジで静かに、棚にあった在庫をすべて指差した。


(これは、世の中に出回る前に僕が保護すべき資料だ……)


冷静な顔で会計を済ませ、重い紙袋を提げて帰路につくその背中は、どこか使命感に満ちていた。


※※※※※※※※※



​数日後、音楽番組の楽屋裏でのことだ。
リオのグループのメンバーたちが、肩を落として溜息をついていた。


​「……マジかよ。どこ行っても売り切れなんだけど、あの雑誌」

「奏多さんの表紙、伝説級だもんな。欲しかったなぁ……」


奏多の人気に加えて、在庫が確認でき次第リオが買い占めていたため、リオと同じ地区に住むメンバーたちは買うことができなかったのだ。

落ち込むメンバー達。
​そこへ通りかかった番組スタッフが、一枚の雑誌を差し出した。


「あ、それなら一冊余ってますよ。資料用に置いてあったんですけど、もう使い終わったので」


​メンバーたちは「神!!」と叫んで飛びついた。しかし、その雑誌をよく見ると、表紙の端に小さな文字で**『歌詞案:サビのメロディ注意』**と奏多の自筆で書き込みがされていた。


​「これ、奏多さんの実物じゃん!!」
「書き込み入り!? プレミアどころの騒ぎじゃねえぞ!」


​現場は一気に争奪戦の様相を呈した。


「……悪いけど、それは僕がもらう。関係者として、本人の私物は管理しなきゃいけないからね」


リオがスッと割り込み、静かな威圧感と共に雑誌を確保した。メンバーたちは「リオ、お前もう持ってるだろ!」「ずるいぞ!」と食い下がったが、リオはすん…、とそれをかわし、勝利を収めた。

​そこへ、ちょうどリハーサルを終えた奏多が通りかかった。


​「……あれ? みんな、どうしたの? そんなに落ち込んで」


​奏多が不思議そうに首を傾げると、負けたメンバーたちが泣きついた。


「奏多さん! 雑誌が欲しかったのに、リオが独り占めするんです!」
「サイン入り(書き込み)なんて、家宝にしたかったのに……!」


​事情を聞いた奏多は、少し困ったように「あはは、そんなに欲しがってくれるなんて……」と微笑んだ。

そして、「じゃあ、これでいいかな?」と一人のメンバーのスマホを指差した。


​「……ちょっと借りてもいい?」


​奏多は驚くメンバーの横に並ぶと、自らその肩を抱き寄せた。そして、頬が触れ合うほどの距離まで顔を寄せ、自撮りのシャッターを切る。


​「はい。これ、後でみんなで共有して。……あ、リオくんも撮る?」
​「…………」


​その場にいた全員が、奏多の天然ゆえの無防備なファンサービスに、心臓を撃ち抜かれた。
雑誌一冊で争っていたのが馬鹿らしくなるほどのファンサ。

​勝利したはずのリオは、メンバーのスマホの中に収まった奏多の近すぎる笑顔を見て、手にした雑誌をぎゅっと握りしめた。
 

​「……奏多さん。あとで家で、僕とも……百枚くらい撮ってくださいね」

​「えっ、百枚も? 指が疲れちゃうよ……」


​落ち着いた顔を保ちつつも、内心では「他の人と写真を撮ってほしくない」と独占欲を再燃させるリオ。

そんな二人の温度差を、メンバーたちは羨ましそうに、そして少し呆れたように眺めているのだった。

あなたにおすすめの小説

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

不器用に惹かれる

タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。 といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。 それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。 怖い。それでも友達が欲しい……。 どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。 文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。 一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。 それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。 にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。 そうして夜宮を知れば知るほどーー

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

契約書はよく読めとあれほど!

RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。 最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。 彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。 この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。 理想の自分と、理想の幸せを探す物語。 23話+続編2話+番外編2話