元アイドルは現役アイドルに愛される

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33.  雑誌

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新生活の喧騒が少し落ち着いた頃、リオはある目的のために、人目を避けて街の大きな書店へと足を運んでいた。


(今日が発売日だったはず…)


​目当ては、先日発売されたばかりのファッション誌だ。そこには、奏多が表紙と巻頭グラビアで大々的に特集されている。

サラストヘアに、緩めたネクタイ。少し伏せられた睫毛が影を落とすその表情は、同棲している自分ですら息を呑むほどの色香を放っていた。


​「……全部、ください」
「………は?、え、全部ですか…?」
「はい。この店にある限り『全部』です」


​リオはレジで静かに、棚にあった在庫をすべて指差した。


(これは、世の中に出回る前に僕が保護すべき資料だ……)


冷静な顔で会計を済ませ、重い紙袋を提げて帰路につくその背中は、どこか使命感に満ちていた。


※※※※※※※※※



​数日後、音楽番組の楽屋裏でのことだ。
リオのグループのメンバーたちが、肩を落として溜息をついていた。


​「……マジかよ。どこ行っても売り切れなんだけど、あの雑誌」

「奏多さんの表紙、伝説級だもんな。欲しかったなぁ……」


奏多の人気に加えて、在庫が確認でき次第リオが買い占めていたため、リオと同じ地区に住むメンバーたちは買うことができなかったのだ。

落ち込むメンバー達。
​そこへ通りかかった番組スタッフが、一枚の雑誌を差し出した。


「あ、それなら一冊余ってますよ。資料用に置いてあったんですけど、もう使い終わったので」


​メンバーたちは「神!!」と叫んで飛びついた。しかし、その雑誌をよく見ると、表紙の端に小さな文字で**『歌詞案:サビのメロディ注意』**と奏多の自筆で書き込みがされていた。


​「これ、奏多さんの実物じゃん!!」
「書き込み入り!? プレミアどころの騒ぎじゃねえぞ!」


​現場は一気に争奪戦の様相を呈した。


「……悪いけど、それは僕がもらう。関係者として、本人の私物は管理しなきゃいけないからね」


リオがスッと割り込み、静かな威圧感と共に雑誌を確保した。メンバーたちは「リオ、お前もう持ってるだろ!」「ずるいぞ!」と食い下がったが、リオはすん…、とそれをかわし、勝利を収めた。

​そこへ、ちょうどリハーサルを終えた奏多が通りかかった。


​「……あれ? みんな、どうしたの? そんなに落ち込んで」


​奏多が不思議そうに首を傾げると、負けたメンバーたちが泣きついた。


「奏多さん! 雑誌が欲しかったのに、リオが独り占めするんです!」
「サイン入り(書き込み)なんて、家宝にしたかったのに……!」


​事情を聞いた奏多は、少し困ったように「あはは、そんなに欲しがってくれるなんて……」と微笑んだ。

そして、「じゃあ、これでいいかな?」と一人のメンバーのスマホを指差した。


​「……ちょっと借りてもいい?」


​奏多は驚くメンバーの横に並ぶと、自らその肩を抱き寄せた。そして、頬が触れ合うほどの距離まで顔を寄せ、自撮りのシャッターを切る。


​「はい。これ、後でみんなで共有して。……あ、リオくんも撮る?」
​「…………」


​その場にいた全員が、奏多の天然ゆえの無防備なファンサービスに、心臓を撃ち抜かれた。
雑誌一冊で争っていたのが馬鹿らしくなるほどのファンサ。

​勝利したはずのリオは、メンバーのスマホの中に収まった奏多の近すぎる笑顔を見て、手にした雑誌をぎゅっと握りしめた。
 

​「……奏多さん。あとで家で、僕とも……百枚くらい撮ってくださいね」

​「えっ、百枚も? 指が疲れちゃうよ……」


​落ち着いた顔を保ちつつも、内心では「他の人と写真を撮ってほしくない」と独占欲を再燃させるリオ。

そんな二人の温度差を、メンバーたちは羨ましそうに、そして少し呆れたように眺めているのだった。

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