双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見

文字の大きさ
3 / 7

3

しおりを挟む

『助けて! エリシア!』

 わたしがカルバナンド皇太子の婚約者に選ばれ、ひと月が過ぎたころ。
 ディアナがひどく取り乱した様子でわたしの部屋に飛び込んできました。

「耳が聞こえなくなった?」

 なんでもディアナは呪術に手を出したものの失敗し、代償として聴覚を失ったというのです。
 わたしは筆談で訊ねました。

『呪術なんて、どうしてそんなおそろしい真似を?』
『呪術の本を手に入れて、これならわたしでもできそうだと思ったのよ!』

 呪術とは、東の大陸から伝わったもの。
 その目的は『人を呪う』ことに限られ、また必ず代償を伴うことから、この大陸では使用が禁じられています。

『いったい誰を呪うつもりだったの?』

 するとディアナはじっと数秒わたしを見つめてから、そっと目を逸らしました。

『それは、あなたにだって言えないわ』

 ディアナは『そんなことより』と首を横に振りました。
 
『耳が聞こえなくなったなんてひとに知られたら、わたしはもう終わりよ!』
『大丈夫よ、きっとお父さまたちが守ってくださるわ。それに、たとえ耳が聞こえなくてもディアナの魅力はなくならないもの』
『無責任なことを言わないで! わたしは出来損ないのあなたとは違うのよ!』

 ディアナはそう書き殴ってから、はっとしたように紙を握り潰しました。

『……ごめんなさい』
『いいのよ』

 わたしは首を横にふりました。
 ディアナは気が動転しているのです。きっと本心ではないはず。

『なにか、ディアナを治す方法があればよいのだけれど……』

 その時、ディアナの瞳がかすかに光を帯びました。

『実は、呪術師を見つけて治す方法を聞き出したの。でも、それには身代わりが必要なんですって』
『身代わり?』
『そう、わたしと近しい者ほど成功率が高いらしいわ。双子なら確実ね』
『つまり、わたしが身代わりになれば、ディアナの聴覚は戻るということ?』
『お願いよ、エリシア! 両耳でなくていいの! せめて片方だけでも聞こえたら、会話も出来るし、ダンスだって踊れるもの!』

 泣き崩れるディアナを前に、わたしは息を呑みました。  
 たとえ片耳といえど、聞こえなくなるのは怖いし……不安です。
 カルバナンド皇太子との婚約の話だって、どうなることか。

 ――皇太子殿下とは、まだほんの少しお話ししただけだけど……。

 わたしより二つ年上だという彼は、とても優しい方でした。
 緊張のあまり、本で読んだ知識を一方的に語るばかりのわたしの話を、殿下は最後まで笑顔で聞いてくださった。
 舞踏会で踊ったときも、よろけそうになるわたしをさりげなくリードしてくださった。
 そのときの笑顔に、わたしは心惹かれていたのです。

 ――だけど。

 ディアナはローゼリンテ王国が誇る第一王女として、誰からも愛されてきました。
 その立場を失うのは耐え難いことでしょう。

 ――片方だけなら……。

 全く聞こえなくなるわけではないのです。
 わたしとって、ディアナはたったひとりの双子の片割れ……。
 今日まで、ずっと誇りに思い、憧れてきた存在でもあります。

 ――それに、わたしが皇太子の婚約者に選ばれたとき、誰より先に祝福してくれたのもディアナだった。

 ディアナが誰を呪おうとしたのかはわかりませんし、呪術に手をだしたことは許されることではありません。
 それでも……もし、これで婚約破棄されるとしても、わたしはディアナを救いたいと思ったのです。

『分かったわ、わたしの片方の耳をあなたにあげる』
『ああっ! ありがとう、エリシア! 私、この恩は一生忘れないわ』

 わたしたちはその足で、ディアナが連れてきた呪術師のもとへ向かいました。
 そこで行われたのは、ディアナの聴覚を戻す呪術――。
 代償として奪われたのは、わたしの両耳の聴覚だったのです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない

降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。 しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。 粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。 危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。 すれ違う2人の想いは?

どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います

下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する

下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。 ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。 小説家になろう様でも投稿しています。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

それでも好きだった。

下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。 主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。 小説家になろう様でも投稿しています。

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者が妹にフラついていたので相談してみた

crown
恋愛
本人に。

処理中です...