52 / 85
第五章 イシュクワ・ウルタール 19歳
首魁のアーティスト
しおりを挟む
【海斗……海斗っ!】
【過去の書き換えが起こったぞ、ヤツは間違いなくそこにいる】
【絶対に逃がすな、おまえの手で必ず仕留めろ!】
――遠くから不思議な声が聞こえたため、イシュクワは馬車の中で目を覚ます。
「どうしたイシュクワ?」
「……い、いえ。なんでもありません」
国家中央議場から帰り道、イシュクワはどうやら眠ってしまい、目を覚ました後も時間の感覚が掴めないでいた。
「すっかり遅くなってしまったようだ。屋敷に着いたらすぐに夕食を用意させよう」
ジェノコアにそう言われても、イシュクワは空腹をまったく感じない。
目の前に座っている男が何か不気味な生き物のように見え、その考えが纏わり付いて離れそうにないため、空腹など感じる余裕はとうに失せていた。
……そしてウルタール家の屋敷に着くと、イシュクワは足早に寝室へと向かい、すぐに動きやすい服装に着替えた。
(もうすぐ戦争が起きてしまう……逃げる準備をしておかないと)
この国が戦火に包まれても、恐らくジェノコアの傍にいれば安全だと思われるが、イシュクワにその選択肢はなかった。
場合によっては父親を捨て、またウルタール家さえも捨てなければならない。
そんな想いがイシュクワの中で芽生え始め、いつしか行動に起こさなければならないと決意した。
「イシュクワ様、夕食のご用意ができました」
執事のロイルの声が聞こえたため、イシュクワはビクリと体が反応するも冷静に言葉を返す。
「分かりました、今行きます」
イシュクワは深呼吸してドアを開けると、廊下で待っていたロイルに案内され食堂へと向かった。
見るとすでにジェノコアが着席しており、その向かいにある椅子へイシュクワも腰掛けた。
互いに沈黙する重苦しい雰囲気の中、次々と食事がテーブルの上に運ばれ、ジェノコアは満足そうに肉料理を食べ始める。
「何をしている、冷めるだろう? 美味しいから食べなさい」
料理を勧められたので、イシュクワはナイフとフォークを持って食べようとするが、手がカタカタと震えて上手く口に運べない。
その様子を見たジェノコアは、口をナプキンで拭うと突然立ち上がり、イシュクワの隣へ歩み寄った。
「何故、震えている?」
「大丈夫です……お気になさらないでください」
「この数日、色々なことがあってさぞ驚いただろう。おまえが戸惑うのも無理はない。いずれ学ぶ必要があることを、少し急いで教えたまでだ」
「……人の道に外れたようなことを学べと? 私にはお父様が、喜々としてこの国を滅ぼすようにしか思えません!」
イシュクワの言葉には怒気が込められる。
「そうだな、やがてこの国は劫火に焼かれて滅ぶ。だが戦争を通して人の子は悟るのだよ。ある者は戦地に向かう夫に涙し、妻としてより愛情が深まるだろう。ある者は英雄として称賛され、その誇りを胸に戦場で華々しく散るだろう。またある者は仲間たちとの絆に感謝し、生き残った者は後世にその活躍を伝えるだろう。そのすべての感情が、我々の糧となるのだ」
「言っている意味が……良く分かりません」
「今は理解せずとも良いが、これだけは覚えておけ。我々は人の子の運命を演出する神でありアーティストなのだ。それさえ自覚すれば、後は私をおまえの体に埋め込むだけ……」
――そう言うとジェノコアは、床にも届くような長い舌を口から出した。
見ると舌には無数の眼球が突き出ており、その視線がイシュクワに集まっている。
「キャアアアアアァァァ―――!」
凄まじい叫び声を上げたイシュクワは、そのまま気を失ってしまう。
そして次の瞬間、ジェノコアの左腕に一筋の光が走り、切られた左腕が宙を舞ってテーブルに置かれていた皿の上へ落ちた。
「イシュクワを離せ、この変態親父」
ジェノコアが背後の気配を感じ取って視線を移すと、そこにはこちらを睨んで立っているマリーの姿があった。
その右手には日本刀『兼佐陀・紫電』が握られている。
【過去の書き換えが起こったぞ、ヤツは間違いなくそこにいる】
【絶対に逃がすな、おまえの手で必ず仕留めろ!】
――遠くから不思議な声が聞こえたため、イシュクワは馬車の中で目を覚ます。
「どうしたイシュクワ?」
「……い、いえ。なんでもありません」
国家中央議場から帰り道、イシュクワはどうやら眠ってしまい、目を覚ました後も時間の感覚が掴めないでいた。
「すっかり遅くなってしまったようだ。屋敷に着いたらすぐに夕食を用意させよう」
ジェノコアにそう言われても、イシュクワは空腹をまったく感じない。
目の前に座っている男が何か不気味な生き物のように見え、その考えが纏わり付いて離れそうにないため、空腹など感じる余裕はとうに失せていた。
……そしてウルタール家の屋敷に着くと、イシュクワは足早に寝室へと向かい、すぐに動きやすい服装に着替えた。
(もうすぐ戦争が起きてしまう……逃げる準備をしておかないと)
この国が戦火に包まれても、恐らくジェノコアの傍にいれば安全だと思われるが、イシュクワにその選択肢はなかった。
場合によっては父親を捨て、またウルタール家さえも捨てなければならない。
そんな想いがイシュクワの中で芽生え始め、いつしか行動に起こさなければならないと決意した。
「イシュクワ様、夕食のご用意ができました」
執事のロイルの声が聞こえたため、イシュクワはビクリと体が反応するも冷静に言葉を返す。
「分かりました、今行きます」
イシュクワは深呼吸してドアを開けると、廊下で待っていたロイルに案内され食堂へと向かった。
見るとすでにジェノコアが着席しており、その向かいにある椅子へイシュクワも腰掛けた。
互いに沈黙する重苦しい雰囲気の中、次々と食事がテーブルの上に運ばれ、ジェノコアは満足そうに肉料理を食べ始める。
「何をしている、冷めるだろう? 美味しいから食べなさい」
料理を勧められたので、イシュクワはナイフとフォークを持って食べようとするが、手がカタカタと震えて上手く口に運べない。
その様子を見たジェノコアは、口をナプキンで拭うと突然立ち上がり、イシュクワの隣へ歩み寄った。
「何故、震えている?」
「大丈夫です……お気になさらないでください」
「この数日、色々なことがあってさぞ驚いただろう。おまえが戸惑うのも無理はない。いずれ学ぶ必要があることを、少し急いで教えたまでだ」
「……人の道に外れたようなことを学べと? 私にはお父様が、喜々としてこの国を滅ぼすようにしか思えません!」
イシュクワの言葉には怒気が込められる。
「そうだな、やがてこの国は劫火に焼かれて滅ぶ。だが戦争を通して人の子は悟るのだよ。ある者は戦地に向かう夫に涙し、妻としてより愛情が深まるだろう。ある者は英雄として称賛され、その誇りを胸に戦場で華々しく散るだろう。またある者は仲間たちとの絆に感謝し、生き残った者は後世にその活躍を伝えるだろう。そのすべての感情が、我々の糧となるのだ」
「言っている意味が……良く分かりません」
「今は理解せずとも良いが、これだけは覚えておけ。我々は人の子の運命を演出する神でありアーティストなのだ。それさえ自覚すれば、後は私をおまえの体に埋め込むだけ……」
――そう言うとジェノコアは、床にも届くような長い舌を口から出した。
見ると舌には無数の眼球が突き出ており、その視線がイシュクワに集まっている。
「キャアアアアアァァァ―――!」
凄まじい叫び声を上げたイシュクワは、そのまま気を失ってしまう。
そして次の瞬間、ジェノコアの左腕に一筋の光が走り、切られた左腕が宙を舞ってテーブルに置かれていた皿の上へ落ちた。
「イシュクワを離せ、この変態親父」
ジェノコアが背後の気配を感じ取って視線を移すと、そこにはこちらを睨んで立っているマリーの姿があった。
その右手には日本刀『兼佐陀・紫電』が握られている。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる