39 / 69
職業 《 勇者 》
39話 オレちゃん先輩の戦闘テク
しおりを挟む
「でもでも、魔法ってのはこんな単純な使い方だけじゃないんだよね~。考え方次第で色々工夫できるからメーシャちゃんたちもまた自分で試してみてね。じゃ、応用編開始」
中級や上級魔法ならロックタートルの防御を貫いてダメージを与えられるかっもしれないが、普通の初級魔法はそうもいかない。むしろ魔力だけ消費してどんどん状況が悪くなってしまうだろう。
だが、ワルターはこれだけで倒し切れる自信があった。
「まず弱点は雷だから、それで戦闘不能まで追い込みたいじゃん? 幸い、トドメまで行かなくて良いから比較的火力は低くて大丈夫。最後には結界で無力化して捕獲マキナでフィニッシュだからさ。じゃあ、どうするか……これがオレちゃんのやり方さっ」
ワルターはまず初級地魔法魔法で粉状の砂を生成して放出する。もちろん、これでロックタートルはダメージを受けない。しかも、目の膜があるので目くらましにすらならないが必要な手順だ。
次に、すかさず初級水魔法を使いロックタートルを水浸しになるまで濡らし続ける。
「ロックタートルは水で回復しますが、どういうことでしょう?」
ヒデヨシが疑問に思っている間にも戦況は動いていく。
「ブヌ……」
砂は水を含み、ロックタートルは水分の多い泥にまみれた状態になった。
「まだまだいくぜい!」
ワルターは瞬時に近付いて連続で足の同じ部分を切りつけ、その間に生成した地魔法のトゲを傷がふさがる前に打ち込む。
「そろそろフィニッシュに入るから、ちゃ~んと見てくれよ!」
ワルターはバックステップをしながら炎魔法と風魔法を使ってトゲの周りに小さな爆発を起こす。そして──
「──"初級雷魔法"!」
爆発でできた真空の道を通り、雷は鋭くまっすぐ石のハリに直撃した。
「グブォオオアア!?」
最初の雷魔法と威力は変わらないはずだった。だが、今回のダメージは天と地の差で、ロックタートルは一撃でダウンしてしまった。
『──考えたな。不純物を含んだ水は電気を通しやすい。しかもロックタートルは水を吸収するから、その水が電気の通り道になるわけだな。それで真空は電気を通しやすい。炎だけなら周囲の空気を吸うだけになるから、そこで風魔法と組み合わせて爆発を起こし一気に空気を消費して真空の空間を作り出した。補助魔法を介さない敵の弱体化と魔法強化を受けた雷魔法は、最初の時に比べて段違いに効きやすくなっていたわけだな。
ちなみに、このテクニック自体は魔法効果ではないから、補助魔法があればさらに威力アップできるぜ』
「……おお! デウスさん解説ありがとうございます! ちょっと見てるだけじゃ分からないところがあったので助かります! 先生みたいですね! デウス先生!」
ヒデヨシは目を輝かせながら、デウス先生の言葉をメモ帳に書きなぐる。
『ほ、褒めすぎだ! 照れちまうじゃないかよ!』
「そうですか? こんなのまだ序の口ですよ! なんならもっと褒めます!」
ヒデヨシとデウスが楽しそうにしてる間に、ワルターは次の行動に移っていた。
「グフゥ……」
ダウンしたロックタートルはいまだ感電してうまく動けないでいたが、少しずつ体勢を立て直しつつあった。
「──よっ」
ワルターがアイテムボックスから杭のような機械……携帯型捕縛結界を投げる。すると、杭がロックタートルに触れた瞬間半透明の膜のような結界を放出し、網状になってあっという間に包み込んでしまう。
こうなると万全じゃないロックタートルではもう微動だにできない。
「じゃ、お疲れちゃん」
ワルターは落ち着いた様子で完全に無力化したロックタートルに近寄ると、魔法陣の描かれた球体の魔石がはめられた小さな箱……携帯型捕獲マキナを取り出してかざす。
──シュォォォ……。
すると、捕獲マキナは瞬く間にロックタートルを吸い込んでしまった。
「はい、捕獲完了。んで、この結界捕獲用だからはある程度弱めていないと脱出されるのと、捕獲マキナは結界で捕縛してるモンスターに対してのみ強力な捕獲効果を引き出すから、ふたりとも気をつけてくれよ?」
ワルターは話しながらポケットから手のひらサイズの宝箱のような形の箱を取り出す。これが納品ボックスだ。
「「はーい」」
メーシャとヒデヨシは元気よく手をあげて返事をした。
「おっ良い返事じゃん? それでこの納品ボックスなんだけど、小さいから大きいものが入るか心配になんない? でも、入れようとすると魔法で圧縮されて吸い込んでくれるんだよね。試したことはないから分からないけど、理論上はサイクロプスくらいまで送れるってよ。ま、送られたものはシタデルの人が対処することになるから、本当に危険な時以外はそんなぶっ飛んだことは控えてくれな」
ワルターが苦笑いしながらメーシャとヒデヨシに言う。
もしかしたらサイクロプスでないにしても、誰かがモンスターを送ってワルターも大変な思いをしたのだろうか?
「はい、気をつけます!」
「わ、分かったし……」
メーシャは気になったものの、暴れそうになる好奇心を良心が押さえつけた。
「──よし、これでクエスト完了っと。それで、ふたりとも質問はあったりする?」
「う~ん……僕はまだ情報をまだ整理できていないというか、飲み込めてないので思いつかないですね……」
「一応なんだけど、もし有効的な魔法がないパーティとか近接職ばっかりだったら、やっぱロックタートルは避けた方がイイの?」
「……それって、甲羅を粉砕できたり、回復が間に合わないくらい高速で処理できる攻撃力じゃない場合ってこと? まあ、基本的には避けた方が良い系ではあるかな。でも、ロックタートルの甲羅には接続部みたいな筋があって、そこは比較的弱いのと……前足が出てる甲羅の隙間、そこの奥には核になる魔石があるから槍とか長い刃の剣とかで突き刺せば倒せないこともないかな~。何にしても、熟練してないと難しいけどね!
……でも完全無欠の弱点がないモンスターはそうそう居ないし、最後まで諦めないのが1番大切だぜ!」
「おけ……! ありがとだし」
メーシャはちょっと強いモンスターを攻略したい欲望が心の中で渦巻いてしまう。
「弱いモンスターでも数が多い場合もあるでしょうし、ゴリ押しだけじゃなくできる限りエネルギーを温存した戦いを心がけたいですね」
「おぉ~、ヒデヨシちゃんはもう立派な冒険者じゃん! そうそう、いつどんな時に戦況が変わるか分からないから、できるだけ次があるのを想定して動くんが大切、ってね。……お、きたきた」
ワルターはパルトネルに納品確認完了のメッセージを受け取ると、メーシャたちに向き直り。
「これでクエストは終わったから、ここからはまっすぐ帰ってもよし、寄り道してもよしだけどどうする? オレちゃんは帰るつもりだけど、一緒にパッと帰る?」
ワルターは何やら不思議な紋様の描かれた金属のリングを取り出しながら言った。
「どうしよっかな……」
メーシャは周囲を見渡しながら少し考えたが、特に今何かしたい事もなかったので帰ることにした。
「あーしもパッと帰ることにする」
「メモを整理したいですし、僕としても助かります」
「じゃあ、転移しちゃうぜ」
ワルターがリングを天に掲げると転移ゲートが出現し、メーシャたちは一瞬にしてアレッサンドリーテのシタデルに帰還したのだった。
中級や上級魔法ならロックタートルの防御を貫いてダメージを与えられるかっもしれないが、普通の初級魔法はそうもいかない。むしろ魔力だけ消費してどんどん状況が悪くなってしまうだろう。
だが、ワルターはこれだけで倒し切れる自信があった。
「まず弱点は雷だから、それで戦闘不能まで追い込みたいじゃん? 幸い、トドメまで行かなくて良いから比較的火力は低くて大丈夫。最後には結界で無力化して捕獲マキナでフィニッシュだからさ。じゃあ、どうするか……これがオレちゃんのやり方さっ」
ワルターはまず初級地魔法魔法で粉状の砂を生成して放出する。もちろん、これでロックタートルはダメージを受けない。しかも、目の膜があるので目くらましにすらならないが必要な手順だ。
次に、すかさず初級水魔法を使いロックタートルを水浸しになるまで濡らし続ける。
「ロックタートルは水で回復しますが、どういうことでしょう?」
ヒデヨシが疑問に思っている間にも戦況は動いていく。
「ブヌ……」
砂は水を含み、ロックタートルは水分の多い泥にまみれた状態になった。
「まだまだいくぜい!」
ワルターは瞬時に近付いて連続で足の同じ部分を切りつけ、その間に生成した地魔法のトゲを傷がふさがる前に打ち込む。
「そろそろフィニッシュに入るから、ちゃ~んと見てくれよ!」
ワルターはバックステップをしながら炎魔法と風魔法を使ってトゲの周りに小さな爆発を起こす。そして──
「──"初級雷魔法"!」
爆発でできた真空の道を通り、雷は鋭くまっすぐ石のハリに直撃した。
「グブォオオアア!?」
最初の雷魔法と威力は変わらないはずだった。だが、今回のダメージは天と地の差で、ロックタートルは一撃でダウンしてしまった。
『──考えたな。不純物を含んだ水は電気を通しやすい。しかもロックタートルは水を吸収するから、その水が電気の通り道になるわけだな。それで真空は電気を通しやすい。炎だけなら周囲の空気を吸うだけになるから、そこで風魔法と組み合わせて爆発を起こし一気に空気を消費して真空の空間を作り出した。補助魔法を介さない敵の弱体化と魔法強化を受けた雷魔法は、最初の時に比べて段違いに効きやすくなっていたわけだな。
ちなみに、このテクニック自体は魔法効果ではないから、補助魔法があればさらに威力アップできるぜ』
「……おお! デウスさん解説ありがとうございます! ちょっと見てるだけじゃ分からないところがあったので助かります! 先生みたいですね! デウス先生!」
ヒデヨシは目を輝かせながら、デウス先生の言葉をメモ帳に書きなぐる。
『ほ、褒めすぎだ! 照れちまうじゃないかよ!』
「そうですか? こんなのまだ序の口ですよ! なんならもっと褒めます!」
ヒデヨシとデウスが楽しそうにしてる間に、ワルターは次の行動に移っていた。
「グフゥ……」
ダウンしたロックタートルはいまだ感電してうまく動けないでいたが、少しずつ体勢を立て直しつつあった。
「──よっ」
ワルターがアイテムボックスから杭のような機械……携帯型捕縛結界を投げる。すると、杭がロックタートルに触れた瞬間半透明の膜のような結界を放出し、網状になってあっという間に包み込んでしまう。
こうなると万全じゃないロックタートルではもう微動だにできない。
「じゃ、お疲れちゃん」
ワルターは落ち着いた様子で完全に無力化したロックタートルに近寄ると、魔法陣の描かれた球体の魔石がはめられた小さな箱……携帯型捕獲マキナを取り出してかざす。
──シュォォォ……。
すると、捕獲マキナは瞬く間にロックタートルを吸い込んでしまった。
「はい、捕獲完了。んで、この結界捕獲用だからはある程度弱めていないと脱出されるのと、捕獲マキナは結界で捕縛してるモンスターに対してのみ強力な捕獲効果を引き出すから、ふたりとも気をつけてくれよ?」
ワルターは話しながらポケットから手のひらサイズの宝箱のような形の箱を取り出す。これが納品ボックスだ。
「「はーい」」
メーシャとヒデヨシは元気よく手をあげて返事をした。
「おっ良い返事じゃん? それでこの納品ボックスなんだけど、小さいから大きいものが入るか心配になんない? でも、入れようとすると魔法で圧縮されて吸い込んでくれるんだよね。試したことはないから分からないけど、理論上はサイクロプスくらいまで送れるってよ。ま、送られたものはシタデルの人が対処することになるから、本当に危険な時以外はそんなぶっ飛んだことは控えてくれな」
ワルターが苦笑いしながらメーシャとヒデヨシに言う。
もしかしたらサイクロプスでないにしても、誰かがモンスターを送ってワルターも大変な思いをしたのだろうか?
「はい、気をつけます!」
「わ、分かったし……」
メーシャは気になったものの、暴れそうになる好奇心を良心が押さえつけた。
「──よし、これでクエスト完了っと。それで、ふたりとも質問はあったりする?」
「う~ん……僕はまだ情報をまだ整理できていないというか、飲み込めてないので思いつかないですね……」
「一応なんだけど、もし有効的な魔法がないパーティとか近接職ばっかりだったら、やっぱロックタートルは避けた方がイイの?」
「……それって、甲羅を粉砕できたり、回復が間に合わないくらい高速で処理できる攻撃力じゃない場合ってこと? まあ、基本的には避けた方が良い系ではあるかな。でも、ロックタートルの甲羅には接続部みたいな筋があって、そこは比較的弱いのと……前足が出てる甲羅の隙間、そこの奥には核になる魔石があるから槍とか長い刃の剣とかで突き刺せば倒せないこともないかな~。何にしても、熟練してないと難しいけどね!
……でも完全無欠の弱点がないモンスターはそうそう居ないし、最後まで諦めないのが1番大切だぜ!」
「おけ……! ありがとだし」
メーシャはちょっと強いモンスターを攻略したい欲望が心の中で渦巻いてしまう。
「弱いモンスターでも数が多い場合もあるでしょうし、ゴリ押しだけじゃなくできる限りエネルギーを温存した戦いを心がけたいですね」
「おぉ~、ヒデヨシちゃんはもう立派な冒険者じゃん! そうそう、いつどんな時に戦況が変わるか分からないから、できるだけ次があるのを想定して動くんが大切、ってね。……お、きたきた」
ワルターはパルトネルに納品確認完了のメッセージを受け取ると、メーシャたちに向き直り。
「これでクエストは終わったから、ここからはまっすぐ帰ってもよし、寄り道してもよしだけどどうする? オレちゃんは帰るつもりだけど、一緒にパッと帰る?」
ワルターは何やら不思議な紋様の描かれた金属のリングを取り出しながら言った。
「どうしよっかな……」
メーシャは周囲を見渡しながら少し考えたが、特に今何かしたい事もなかったので帰ることにした。
「あーしもパッと帰ることにする」
「メモを整理したいですし、僕としても助かります」
「じゃあ、転移しちゃうぜ」
ワルターがリングを天に掲げると転移ゲートが出現し、メーシャたちは一瞬にしてアレッサンドリーテのシタデルに帰還したのだった。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる