虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し

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職業 《 勇者 》

39話 オレちゃん先輩の戦闘テク

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「でもでも、魔法ってのはこんな単純な使い方だけじゃないんだよね~。考え方次第で色々工夫できるからメーシャちゃんたちもまた自分で試してみてね。じゃ、応用編開始」

 中級や上級魔法ならロックタートルの防御を貫いてダメージを与えられるかっもしれないが、普通の初級魔法はそうもいかない。むしろ魔力だけ消費してどんどん状況が悪くなってしまうだろう。
 だが、ワルターはこれだけで倒し切れる自信があった。

「まず弱点は雷だから、それで戦闘不能まで追い込みたいじゃん? 幸い、トドメまで行かなくて良いから比較的火力は低くて大丈夫。最後には結界で無力化して捕獲マキナでフィニッシュだからさ。じゃあ、どうするか……これがオレちゃんのやり方さっ」

 ワルターはまず初級地魔法魔法で粉状の砂を生成して放出する。もちろん、これでロックタートルはダメージを受けない。しかも、目の膜があるので目くらましにすらならないが必要な手順だ。
 次に、すかさず初級水魔法を使いロックタートルを水浸しになるまで濡らし続ける。

「ロックタートルは水で回復しますが、どういうことでしょう?」

 ヒデヨシが疑問に思っている間にも戦況は動いていく。

「ブヌ……」

 砂は水を含み、ロックタートルは水分の多い泥にまみれた状態になった。

「まだまだいくぜい!」

 ワルターは瞬時に近付いて連続で足の同じ部分を切りつけ、その間に生成した地魔法のトゲを傷がふさがる前に打ち込む。

「そろそろフィニッシュに入るから、ちゃ~んと見てくれよ!」

 ワルターはバックステップをしながら炎魔法と風魔法を使ってトゲの周りに小さな爆発を起こす。そして──

「──"初級雷魔法ゴロ"!」

 爆発でできた真空の道を通り、雷は鋭くまっすぐ石のハリに直撃した。

「グブォオオアア!?」

 最初の雷魔法と威力は変わらないはずだった。だが、今回のダメージは天と地の差で、ロックタートルは一撃でダウンしてしまった。

『──考えたな。不純物を含んだ水は電気を通しやすい。しかもロックタートルは水を吸収するから、その水が電気の通り道になるわけだな。それで真空は電気を通しやすい。炎だけなら周囲の空気を吸うだけになるから、そこで風魔法と組み合わせて爆発を起こし一気に空気を消費して真空の空間を作り出した。補助魔法を介さない敵の弱体化と魔法強化を受けた雷魔法は、最初の時に比べて段違いに効きやすくなっていたわけだな。
 ちなみに、このテクニック自体は魔法効果ではないから、補助魔法があればさらに威力アップできるぜ』

「……おお! デウスさん解説ありがとうございます! ちょっと見てるだけじゃ分からないところがあったので助かります! 先生みたいですね! デウス先生!」

 ヒデヨシは目を輝かせながら、デウス先生の言葉をメモ帳に書きなぐる。

『ほ、褒めすぎだ! 照れちまうじゃないかよ!』

「そうですか? こんなのまだ序の口ですよ! なんならもっと褒めます!」

 ヒデヨシとデウスが楽しそうにしてる間に、ワルターは次の行動に移っていた。

「グフゥ……」

 ダウンしたロックタートルはいまだ感電してうまく動けないでいたが、少しずつ体勢を立て直しつつあった。

「──よっ」

 ワルターがアイテムボックスから杭のような機械……携帯型捕縛結界を投げる。すると、杭がロックタートルに触れた瞬間半透明の膜のような結界を放出し、網状になってあっという間に包み込んでしまう。
 こうなると万全じゃないロックタートルではもう微動だにできない。

「じゃ、お疲れちゃん」

 ワルターは落ち着いた様子で完全に無力化したロックタートルに近寄ると、魔法陣の描かれた球体の魔石がはめられた小さな箱……携帯型捕獲マキナを取り出してかざす。

 ──シュォォォ……。

 すると、捕獲マキナは瞬く間にロックタートルを吸い込んでしまった。

「はい、捕獲完了。んで、この結界捕獲用だからはある程度弱めていないと脱出されるのと、捕獲マキナは結界で捕縛してるモンスターに対してのみ強力な捕獲効果を引き出すから、ふたりとも気をつけてくれよ?」

 ワルターは話しながらポケットから手のひらサイズの宝箱のような形の箱を取り出す。これが納品ボックスだ。

「「はーい」」

 メーシャとヒデヨシは元気よく手をあげて返事をした。

「おっ良い返事じゃん? それでこの納品ボックスなんだけど、小さいから大きいものが入るか心配になんない? でも、入れようとすると魔法で圧縮されて吸い込んでくれるんだよね。試したことはないから分からないけど、理論上はサイクロプスくらいまで送れるってよ。ま、送られたものはシタデルの人が対処することになるから、本当に危険な時以外はそんなぶっ飛んだことは控えてくれな」

 ワルターが苦笑いしながらメーシャとヒデヨシに言う。
 もしかしたらサイクロプスでないにしても、誰かがモンスターを送ってワルターも大変な思いをしたのだろうか?

「はい、気をつけます!」

「わ、分かったし……」

 メーシャは気になったものの、暴れそうになる好奇心を良心が押さえつけた。

「──よし、これでクエスト完了っと。それで、ふたりとも質問はあったりする?」

「う~ん……僕はまだ情報をまだ整理できていないというか、飲み込めてないので思いつかないですね……」

「一応なんだけど、もし有効的な魔法がないパーティとか近接職ばっかりだったら、やっぱロックタートルは避けた方がイイの?」

「……それって、甲羅を粉砕できたり、回復が間に合わないくらい高速で処理できる攻撃力じゃない場合ってこと? まあ、基本的には避けた方が良い系ではあるかな。でも、ロックタートルの甲羅には接続部みたいな筋があって、そこは比較的弱いのと……前足が出てる甲羅の隙間、そこの奥には核になる魔石があるから槍とか長い刃の剣とかで突き刺せば倒せないこともないかな~。何にしても、熟練してないと難しいけどね!
 ……でも完全無欠の弱点がないモンスターはそうそう居ないし、最後まで諦めないのが1番大切だぜ!」

「おけ……! ありがとだし」

 メーシャはちょっと強いモンスターを攻略したい欲望が心の中で渦巻いてしまう。

「弱いモンスターでも数が多い場合もあるでしょうし、ゴリ押しだけじゃなくできる限りエネルギーを温存した戦いを心がけたいですね」

「おぉ~、ヒデヨシちゃんはもう立派な冒険者じゃん! そうそう、いつどんな時に戦況が変わるか分からないから、できるだけがあるのを想定して動くんが大切、ってね。……お、きたきた」

 ワルターはパルトネルに納品確認完了のメッセージを受け取ると、メーシャたちに向き直り。

「これでクエストは終わったから、ここからはまっすぐ帰ってもよし、寄り道してもよしだけどどうする? オレちゃんは帰るつもりだけど、一緒にパッと帰る?」

 ワルターは何やら不思議な紋様の描かれた金属のリングを取り出しながら言った。

「どうしよっかな……」

 メーシャは周囲を見渡しながら少し考えたが、特に今何かしたい事もなかったので帰ることにした。

「あーしもパッと帰ることにする」

「メモを整理したいですし、僕としても助かります」

「じゃあ、転移しちゃうぜ」

 ワルターがリングを天に掲げると転移ゲートが出現し、メーシャたちは一瞬にしてアレッサンドリーテのシタデルに帰還したのだった。

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