虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し

文字の大きさ
38 / 69
職業 《 勇者 》

38話 ロックタートルの捕獲

しおりを挟む
「今日見せるのはロックタートルの捕獲というクエストを通して、携帯型捕獲魔法機械マキナと携帯型捕縛結界、納品ボックス、アイテムボックスの使い方。あと、初級魔法でも使い方次第で格上にもダメージを与えられるって事を教えちゃうよ! もし強いモンスターの巣窟に迷い込んだ時でも、最後まで諦めずに頭をフル回転させれば生き延びられるかもって知恵。っぱ、こーいうのが初心者にとって大事っしょ?」

 オレちゃん先輩はやる事リストが書かれた紙のメモに目を通しながらメーシャとヒデヨシに言った。

「アイテムボックス?」

 メーシャがワルターの言ったアイテムボックスという単語が気になってしまったようだ。
 それもそのはず。メーシャが知っているのはデウスが創造してくれた、容量がほぼ無限のアイテムボックスという名の専用異空間。流石に全く同じではないにしても、似たような仕様なのかそれとも全く別物なのか興味が出てもおかしくないだろう。

「名前くらいは聞いたことあるっしょ? ……これ、見てみ?」

 ワルターがポケットについていたクリップ型の機械を取り外してメーシャに渡す。

「ボックスってカンジには見えないけど、なんか特殊な魔法陣とか描かれてるの?」

「言ってみりゃ、拡張機の応用版ってイメージだね! 普通の拡張機はバッグみたいなのに取り付けて入る容量を倍に増やすんだけど、これはその応用。ポケットでも帽子でも穴というか空間がある所に身につけてスイッチを押せば、元のサイズにかかわらず一定の容量を確保できるってワケ。今は最低限のアイテムしか入ってないし、試しにちょっとアイテムボックスを使ってみても良いよん」

「お、ありがとだし~」

 メーシャはスカートのポケットのふちにクリップではさむようにマキナを取り付けた。すると……。

「すごっ! ヒデヨシも見てみ?」

「どんな感じですか? ……ああ、ゲーム画面で見たことがある光景です!」

 ポケットの中を覗くと四角い枠にアイテムの画像、アイテムの種類、アイテムの名前とある程度の効果などが見ることができた。

「え~っと、携帯捕獲マキナ、飲料型回復薬、納品ボックス、捕縛結界、スマホ型魔法機械パルトネルが入ってるのか。……でも、これって見ないとダメなら戦闘中に使いにくくない?」

 メーシャが首を傾げる。
 確かに、今は敵もいない安全な位置だからこそ、ポケットをゆったり覗くことができるが、戦闘中だとそんな余裕はないのでアイテムボックス内のアイテムを正確に取り出すのは至難の技だ。

「……って、思うじゃん! ところが違うんだな~これが!」

 冒険者初心者の疑問のあるあるなのだろうか、ワルターはうんうんと頷きながら楽しそうに笑う。

「なにかギミックでもあるんですか?」

「そう! まずあらかじめ登録しておいたアイテムは、手を入れるだけで即座に取り出すことができる。それに、複数登録してた場合でも直感的に取り出せるようになってる。しかも! 登録してなくても、手に魔力を帯びさせてればアイテムボックスの映像を視界にリンクさせて見ることができるから、直接覗けなくても選択して取り出すことができる優れもの!
 昔はめちゃくちゃ使いにくかったみたいなんだけど、デイビッド師匠が若い頃に冒険者本部に今の形を提案して作ってもらったってさ! 師匠って戦い方はダイナミックなのに頭まで回るんすげーわ」

 ワルターはデイビッドのことを尊敬しているのだろう。楽しそうに、だが尊敬と対抗心が入り混じる表情で語ってくれた。

「ほうほう。僕のは拡張機ですが、アイテムボックスの支給がされるの楽しみになってきました」

 ちなみに、初心者の星1冒険者はは容量拡張機が支給され、星2に昇格して本格的にクエスト受注が始まる際、シタデルに申請すればアイテムボックスが支給される仕組みになっている。

「めちゃくちゃ良いから、頑張ってなヒデヨシちゃん! ……おっと、お話も楽しいけどそろそろロックタートルの所に行かないと日が暮れちゃうね! いこっか!」

 そして、一行は本格的にクエストを開始することになった。


 ●     ●     ●


「いるね」

 メーシャたちは岩陰に隠れて1体だけで鉱石を食べているロックタートルを見ていた。

 ロックタートルは基本的に群れを作らないため、十分な実力があれば事故も少なく倒しやすいモンスターだ。仮に実力が無くても、動き自体は遅いため逃げること自体は難しくない。

「昨日実戦したみたいだし、今回はオレちゃんのお手本だけしっかり見ててね。もし忘れても、調べたり誰かに訊いたら教えてくれるし、なんならオレちゃんがまた教えちゃうから心配しなくて良いぜ!」

 ワルターはふたりにウインクしながら親指を立ててサムズアップ。

「うん、しっかり見てるし!」

「ありがとうございますオレちゃん先輩! お言葉に甘えさせてもらいますね」

 メーシャとヒデヨシも親指を立てて返事を返した。

「……さ、パーティーの始まりだぜい!」

 ワルターは岩陰から姿を現すと、髪をかき上げて腰の片手剣を抜く。

「グムム……」

 ロックタートルはワルターに気が付いて警戒体制に入るものの、それだけに留まり自ら攻撃を仕掛ける様子はない。

 魔力を多く含んだ鉱石でおおわれた甲羅は物理攻撃はもちろん、魔法攻撃にも強く、その他の部位も硬質化している上に魔力での修復能力があるので、生半可な攻撃では永遠に倒せない。
 しかも、普段の食事も魔力を帯びたものだからか噛みつきも半分魔法攻撃のようになっており、魔法防御を上げていないと防御をしても貫通してダメージを受けるという、相手にするとなかなかやっかいなモンスターだ。

「じゃあ、まず手始めにロックタートルに単純な攻撃を仕掛けて見るから、どんな様子か見てて」

 ワルターはメーシャたちにそう言うとサッと駆け出し、一気に距離を詰めてロックタートルを連続で切り付ける。

「……あ、全然効いてない」

 剣を振る角度や勢いは良いものの甲羅は傷ひとつつかず。足や頭は薄皮を少し切れたものの、2秒と待たずに回復されてしまった。

「次は魔法いくよ。 ──"初級炎魔法アチ"! ──"初級水魔法チョロ"! ──"初級風魔法ヒュル"! ──"初級雷魔法ゴロ" ! ──初級地魔法ツブ!」

 ワルターはヒョイっとバックステップで10mほど離れると、炎の弾、水の渦、風の刃、雷のレーザー、石のつぶてを順に出してロックタートルに当てていった。

「……比較的雷魔法のダメージが大きいみたいですが、これで倒すのは難しそうですね」

 ヒデヨシがメモをしながらつぶやく。

 ロックタートルは確かに雷魔法を受けた時に一瞬だけ少し苦しそうな顔をしたものの、見たところ傷ひとつつかず姿も一切変わっていない。炎は暑さに強いからか無傷に終わり、風は単純に威力不足でかき消え、石は弾かれ、水に至っては回復してしまう始末だった。

「──ま、こんなカンジじゃん? んな攻撃をしてても、一生倒せずにオレちゃんのせっかくのカッコよさもミイラ系モンスターになって損なわれちゃうわな! ははっ」

 ロックタートルはワルターのことを敵認定したのかようやく正面を向いた。

「でもでも、魔法ってのはこんな単純な使い方だけじゃないんだよね~。考え方次第で色々工夫できるからメーシャちゃんたちもまた自分で試してみてね。じゃ、応用編開始」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...