虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し

文字の大きさ
68 / 69
職業 《 勇者 》

69話 戦闘開始

しおりを挟む
「「「──うおおおおお!!!」」」

 ひとつの南拠点と本拠点をつなぐ荒地の獣道にて、オークとメーシャ隊との戦いが開始していた。
 オークたちはラードロの策によりそのすべてが上位種に進化していて、大半がオークの1次上位種の"ハイオーク"に、15体ほどがオークキングに、10体がラードロウイルスによって超強化した"ブラックオーク"に、そして隊長役割をしているのはその上位種であり背丈も4m以上ある"ブラックハイオーク"だった。

 もし正面からぶつかっていれば少なくない被害が出ていたかもしれない。が、巨大な岩槍をサンディーが死角から放つことで、背後からの奇襲はみごと大成功。

 隊列が崩れたところをメーシャが注意を引き付け、その間に隊を広げて取り囲み、オークがなんとか体勢を立て直した時にはメーシャ隊の倍以上あったオーク隊はいまや30体程度にまで減っていた。
 ハイオークの多数とオークキングを数体、ブラックオークを1体の成果である。

「伝えた通り、3人小隊でオークを1体ずつ各個撃破倒していって! 他の隊とお互いに背中を守りつつね!」

 メーシャはオークキングをただの蹴りで爆散、魔石化させながら離れた隊員に指示を飛ばす。

「「おう!」」

 メーシャの号令で隊員が気を引き締める。
 つい先日会ったばかりの者たちだったが、メーシャの元に意思が集い士気が高まり、一時的に熟練した兵士のように息が合っていた。

「キュイッキィ!」

 サンディはまず、メーシャから離れた位置にいる隊に近付くブラックオークを引き付ける。隊員に攻撃が及ばない十分な広さの所に行って本格的に攻撃に移る手筈だ。

「兵が展開したようなので、予定通り僕はサポートにまわります!」

 兵士が完全にオーク隊を取り囲んだのを確認し、ヒデヨシはメーシャの元から去っていった。
 ヒデヨシはその機動力を活かしながら隊員の状況を見て、順次救援や加勢して戦線を維持する役割だ。

「いってらっしゃい! 気を付けてね」

 現状で隊列に特別危ういところはない。少し押されてもヒデヨシがすかさず参戦して協力し押し返してくれるし、ブラックオークはサンディーの大暴れで釘付け。
 ただ、ボスのブラックハイオークはオークたちの中心に居座り、仲間が倒されても不気味なくらい静かに反応しない。

「……警戒した方がよさそ。でも、今すぐには動かなさそうだし少しでも減らしとくか」

 いつ動くか分からない相手に釘付けになって隊員を放ったらかしなんて、隊長の役割を捨てたも同然。
 動いたら対処できるよう余力だけ残し、戦いに入った時に邪魔が入らないよう場を整えておくべきだ。



 ●     ●     ●


「くっ!? 3人いても農家じゃオークキングはキツイか……!」

「ハイオークならなんとかなったんだけどよ!」

「おい! 集中しろ!」

 農家のサミュエルとマーティン、戦士のリアンがオークキングに押されていた。隣り合う小隊に助けを乞おうとしたが、戦況こそ悪くないものの手を貸せるほどの余裕は無かった。
 しかも、あいにくヒデヨシは他の隊員をブラックオークからちょうど助けているところだったので、倒せないまでもしばらくは時間を稼ぐ必要がありそうだ。

「ウゴォオオ!!」

 オークキングが大刀を思いきり振り回して攻撃する。

「ぐぉ!?」

 ラードロの実験により今では上位が存在するものの、これでも突然変異の希少個体であるオークロードを除けば最上位だったオークキング。
 その攻撃は苛烈で、とは言え戦士だったリアンをそのハンマーでのガードもろとも吹き飛ばしてしまう。

「リアン!」

 サミュエルが思わず飛び出し、受け止めようと後ろに回ったことで下敷きになってしまう。

「す、すまねえ!」

 リアンはなんとか無事だったようだ。

「いや、気にするな……でも、回復薬分けてくれ」

 ダメージこそ受けてしまったがサミュエルもなんとか無事だ。しかし、こうなると危険なのはマーティンだ。

「は、早く戻ってきてくれ! 俺ひとりじゃ……!」

 オークキングの前にひとり残されたマーティンは恐怖のあまり震え上がってしまう。

「ま、待ってろ! ってて……すぐ行く!」

 リアンが痺れる手を振りながらも急いでマーティンの元へ走る。

「ガルォオ……!!」

 だが、オークキングの大刀は既にマーティンの目の前まで迫ってきていた。

「ひ、ひぇええええ!?」

 身体が動かないマーティンはただ叫ぶことしかできない。絶体絶命かと思われたその時──


「──はい、お待たせ~!」

「い、いろは様!?」

 目を開けるとそこには、オークキングの大刀を2つの指で受け止めているメーシャがそこにいた。

「はいっ。回復薬渡しとくね、ある程度数も減ってきたから3人は他の小隊を助けつつそれを配っていって」

 メーシャはオークキングをあっという間もなく蹴り倒し、液体回復薬を山ほどマーティンに渡してさっさと別のところに向かって行った。

「なんだあの強さ…………実力派と聞いたけどケタ違いだな」

 マーティンが驚いた顔のままつぶやく。

「……俺たちは言われた通り回復薬を配りに行くか」

 肩をすくめながらそう言ったのはリアン。

「でもまあ、それでも役に立てるなら俺たちは全力でやりとげるまでだ。そうだろ?」

 そう言うサミュエルにふたりも続いて行ったのだった。

「だな」

「おう」


 ●     ●     ●

 ここは魔法使いふたりと剣士の女性3人の小隊。こちらもオークキングと戦っていたが、戦況はこちらが有利であった。

「──初級光魔法シャラ!」

「ウガ!?」

 ひとりの魔法使いが光魔法でオークキングに小さなダメージを与えつつまぶしい光で目くらましをする。

「──中級地魔法チョイツブ!」

 そこに、もうひとりの魔法使いがすかさず地魔法を発動。足元を隆起りゅうきさせてオークキングを転倒させた。
 地魔法と転倒ダメージでそれなりにダメージを与えることができた。

「よし、私のターン! ──付与魔法エンチャント初級風魔法ヒュル!」

 剣士の女性がロングソードに風の刃をまとわせ、無防備になったオークキングに思い切り振り下ろした。

「せーいっ!!」

「グフォアア──!?」

 みごとオークキングを倒すことができた。だが、一難去ってまた一難というべきか、間髪入れずに新たな敵が目の前に現れてしまった。

「グォオオ……!」

 黒い身体に怪しく赤く光る目、オークキング以上に発達した筋肉と前傾姿勢なのに2mはある巨体、前にせり出したまがまがしい真っ赤な牙……ブラックオークである。

「ヒィ……!」

 ラードロのまがまがしさには及ばないものの、ブラックオークの放つドス黒いオーラを目の当たりにして剣士が恐怖に呑み込まれそうになる。だが、なんとか持ちこたえて後ろのふたりに声をかけた。

「ふ、ふたりとも……! まずは、同じ作戦……で!」

「………………ひぅ」

「あぁ………………」

 だが、魔法使い2人は恐怖に支配されていた。
 ふたりは小さくうめき、ガタガタと止まらない震え、力なく涙を流すことしかできない。

「うそ……?」

 支えである仲間が、心のよりどころである仲間が、捕食者に睨まれた小動物のように震えている様を見て、ギリギリで保っていた剣士の心を恐怖で染め上げていく。
 ラードロやその眷属けんぞくたちの放つオーラは、フィオールや地球に住む地上の者たちに対して相手が上位者だと、捕食者だと、敵わない相手だと知らしめ、本能的な恐怖を魂に刻み込むのだ。

 だが、絶対ではない。

「──光刃爪こうじんそう!」

「グォフ……!?」

 突如として現れた光の刃がブラックオークの牙を斬り落とす。

「ああ…………」

 助かった。剣士は声にならない声を漏らして安堵する。
 ヒデヨシが来てくれた。

「……ブラックオークは任せてください」

 ヒデヨシが爪からオーラの刃を出し直す。
 ブラックオークの牙を切り落としたのもこの刃だ。

「ひ……でよし……様」

 剣士が力を振り絞ってうなずき、ヒデヨシに後のことを託した。

「はい」

 ヒデヨシは微笑みとともにうなずき返すと、小隊の3人を背に守りブラックオークに向き直る。

「……この後にも多分拠点を落としたり、どこかの隊に加勢したり、ラードロと会ったりで体力を使うでしょうからね。ブラックオークあなたが活躍する間も無くケリをつけさせてもらいますよ……!」

 ヒデヨシは言うが早いか、地面を蹴って距離を詰める。
 そのすさまじい速度は剣士の目には追えず、まるで瞬間移動であった。

「…………っ!!」

 それはブラックオークも同じで、ヒデヨシを見失い、再びその目で捕捉した頃にはもう目の前まで接近していた。

「チェックメイト…………!」

 ヒデヨシのオーラの刃に太陽のように黄色い炎が付与される。刹那。

「──破邪陽光刃はじゃようこうじん……斬!!」

 オーラの刃がブラックオークを切り裂き、そのまばゆい陽光で邪悪なるオーラを浄化し尽くした。

「…………3体目ともなればブラックオークも慣れたもんです」

 ヒデヨシが肩をすくめた。

 ブラックオークは驚異的な回復力で、小さなダメージを与えてもたちまち回復してしまう。それに、弱い者から集中的に攻撃しようとするせいで、初めて相対した時はヒデヨシも少々苦戦を強いられたのだが、『実は体力自体はさほど高くない』と気付いてしまえば強い相手では無かった(ヒデヨシ基準)。
 
 とは言え、一般の隊員たちはブラックオークを前にすると恐怖で動けなくなるため、もし前に出てきたらヒデヨシ、サンディー、メーシャの誰かがが動くしかない。

「ありがとうございます……ヒデヨシ様」

 我に返った剣士が、止まった涙をぬぐいながらお礼を口にする。

「いえ。それより、無事で何よりですよ」

『──キュイキュキュッキュー!』

 ヒデヨシたちが話していると、離れた位置で戦っていたサンディーが楽しそうな声で高らかに鳴いていた。
 よく見ると、サンディーはいつの間にかブラックオークを最後の2体まで追い詰めている。この2体も時間の問題だろう。

「ふっ……サンディーは大はしゃぎですね。もうそろそろこの場もクライマックスに入りそうですし、お嬢様やサンディーの邪魔にならないよう離れていましょうか」

「……あ、はい! ……ジュディ、キキ行くよ!」

 剣士は少しよろめきながらも立ち上がり、仲間の魔法使いふたりにも声をかけてこの場を離れていった。



「あとはブラックハイオークですが」

 ここまで同胞がやられているのにもかかわらず、助けるどころか微動だにせず、しかも不気味に笑っているブラックハイオークに一抹いちまつの不安を感じるヒデヨシであった。

「悪い予感がしますね…………」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...