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第一章 電脳の少女
第03話 電脳の少女、再び
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いつもは。読書しながらのんびり過ごす昼下り。
しかし、今日の俺は少し落ち着かなかった。
手元の文庫本に目をやりつつも、自然に秋菜の姿を目で追ってしまう。小説の内容等、全然頭に入ってこない。気が付けば主人公の刑事が、いつの間にか犯人を追い詰めてしまっている始末だ。全く経緯を覚えてない。
秋菜は相変わらず、あたふたしながら業務をこなしている。気が付けば俺は、そんな秋菜を暫くボーっと眺めていた。
落ち着いた濃い茶髪にセミロングの美少女……細身の華奢な身体にシックなメイド服が良く似合っている。全く主張が無い胸元も実に俺好みだ。俺は俗に言う、おっ〇い星人とは真逆を行く紳士だからな。
俺がそんな馬鹿な事を考えていると、カウンター越しに亜里紗さんから声を掛けられた。
「あらあら……珍しいですね。ご主人様がお食事に手を付けないなんて。それとも何か、気になる事でもありましたか?」
俺は慌てて、秋菜を見つめていた視線をカウンターの中に向けた。亜里紗さんが全てを見透かした様に、悪戯っぽく笑っている。ああ……これはバレてる。俺の態度はかなり分かりやすかったみたいだ。
「いや、食べますよ? ちょっと考え事してただけです」
俺は分かっていても敢えてバレバレの嘘で誤魔化した。秋菜が気になって仕方ないなんて、恥ずかし過ぎてとても言えない。
俺は既に冷め切ったオムライスを慌てて口に運んだ。冷めていても、そこそこ美味い。この店はコーヒー同様、フードメニューにも拘っているからだ。こういう店にありがちな冷凍食品等は一切無い。俺と同じ様に、一部の常連客が気に入ってるのはこういう所だ。
この店は純粋に、メイドとしての業務をこなす事に重点を置いているらしい。無駄に『美味しくなる魔法』とか、ステージでメイドが歌う様なサービス等は無い。ただ純粋に美味しい飲み物と食事を、落ち着いた空間で提供する事に重きを置いているそうだ。
だからこの店は余計な宣伝はしない。常連さんに支えられた、知る人ぞ知る様な隠れ家的な存在なのがこの店の魅力だった。まあ、メイド喫茶なんで一応『オムライスにお絵かき』くらいは、頼めばやってくれるみたいだが。
勿論、亜里紗さん目当ての客がかなりいる事は言うまでも無い。
俺は好きな読書に集中出来る、そんな雰囲気が好きでここに通っていたのだが、ここにきて『女の子目当て』の客だと思われたくなかった。何だかとても恥ずかしい……。
「そうでしたか……それは失礼しました」
まるで悪びれた様子もなく、薄い笑顔を浮かべたまま亜里紗さんは答えた。
「いえ……」
「それはそうと……ご主人様。新しいメイドは如何ですか?」
俺は思わず、口に含んでいたオムライスを吐き出しそうになった。亜里紗さんの方を見てみると、クスクスと口元に手を当てて笑っている。確信犯だ、と俺は思った。完全にからかわれている。
「いや、まあ……頑張っているんじゃないですか」
出来るだけ平静を装って俺は答えた。
どんなにバレバレでも認める訳にはいかない。俺のメンタルは豆腐なんだ。もし公然と振られでもしたら、二度とこの店には来れなくなる。
「ありがとうございます。とても良い子なんで……可愛がってあげて下さいね?」
相変わらず、悪戯っぽく笑いながら言う亜里紗さんを見て、俺は気付いた。
この人……意外とドSだ。
厄介な人に弱みを握られた様な気がする。
そんな嫌な予感を抱えていると、店内にドアベルの音が鳴り響いた。
「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」
狭い店内で亜里紗さんと秋菜の声が、新しい客を出迎える。
「あれ? 新人さん? 可愛いですねー!」
秋菜を弄る聞き覚えのある声に、何となく不快感を覚えながら俺は入り口の方に目を向けた。
──オカキンだ。
こいつもこの店の常連客の一人だ。
本名は岡田だか岡村だったか……多分、俺と同年代くらいだと思う。癖の強い黒髪をちょんまげにした、やたら自信家で小太りの喧しい男だ。
確か、自称『カリスマユアチューバー』。
俺の知る限りでは、ヘカキンとか言う人気のユアチューバーを丸パクリしたような動画を、配信しまくっているらしい。
しかし世の中の需要というのは分からない物で、亜里紗さんから聞いた話では、その清々しいまでのパクリっぷりが逆にウケているらしい。オカキンは本当に一部では、そこそこ人気があるそうだ。それがこの男の増長っぷりを、一層、加速させていると俺は思っている。
「よお、萌くん! 相変わらず元気ないねえ!」
軽く萌くんの肩をバンバンと叩き、失礼な事を平気で言いながら、オカキンは彼の右隣に座った。
左側に来なくて良かった……。
俺は萌くんを気の毒に思いながらも安堵した。オカキンは空気を読まないというか、デリカシーが無い。遠慮なく絡んでくるオカキンは、正直、俺や萌くんの様な落ち着いて過ごしたいタイプの人間には迷惑な奴だった。
分かりやすい亜里紗さん目当てのオカキンは、彼女の気を引こうと早速、話題のネタを披露し始めた。
「ねえねえ、亜里紗さん! さっき配信されたこの動画見た?」
そう言って注文もせずに、カウンター越しにタブレットを手渡そうとするオカキン。
「もうネットは大騒ぎだよ! 何たってあのフリードが、今度はSNSまで纏めて乗っ取ったんだからね!」
フリード?
あのK市爆撃予告の?
俺は珍しくオカキンの話に興味が湧いた。
亜里沙さんも少し気になる様で、普段なら軽く受け流す所を今日はすんなり受け入れている。横で様子を見ていた萌くんも、自分のスマホで確認し始めていた。
「あ……」
何かに気付いた萌くんが思わず声を漏らした。それを見たオカキンが、ここぞとばかりに騒ぎ立てる。
「な!? 凄いだろ? ユアチューブだけじゃ無くて、ニヤ生もツリッターもフェイスブックスも……みんなトップ画面にこれが出て来るんだ!」
何……!?
そんな事出来るのか?
それがどんなに異常な事かくらい、ネットをしない俺でも分かる。とても技術的に可能な事だと思えない。
オカキンの言葉を聞いて、店内がにわかにざわつき始めた。みんなスマホやタブレットを取り出して、オカキンの言葉の真偽を確かめ始める。
「あ、本当だ……」
「そっちも? ツリッターもよ」
テーブル席のカップルが、お互いにスマホを見せ合っている。
「あの……良かったら一緒に見ますか?」
気にはなりながらも、スマホの無い俺がキョロキョロしてると、秋菜がスマホを俺に見せながら声をかけてくれた。なんてええ子なんや……。
「あ、すいません……じゃあ」
思わず少し照れてしまった俺は、無愛想に淡々と答えながら秋菜のスマホを覗き込んだ。自分のコミュ力の無さがもどかしい。
秋菜のスマホにはユアチューブのトップ画面が写し出されていた。投稿されている動画が全てフリードの笑顔になっている。
秋菜はその中の一つをタップして動画の再生を始めた。あの時と同じ様に画面の中のフリードが動き出す。そして……
「みなさーん! こんにちはー! フリードちゃんですよぉー!」
あの不吉な二次元の美少女が、再び画面の中で笑顔を見せた。
しかし、今日の俺は少し落ち着かなかった。
手元の文庫本に目をやりつつも、自然に秋菜の姿を目で追ってしまう。小説の内容等、全然頭に入ってこない。気が付けば主人公の刑事が、いつの間にか犯人を追い詰めてしまっている始末だ。全く経緯を覚えてない。
秋菜は相変わらず、あたふたしながら業務をこなしている。気が付けば俺は、そんな秋菜を暫くボーっと眺めていた。
落ち着いた濃い茶髪にセミロングの美少女……細身の華奢な身体にシックなメイド服が良く似合っている。全く主張が無い胸元も実に俺好みだ。俺は俗に言う、おっ〇い星人とは真逆を行く紳士だからな。
俺がそんな馬鹿な事を考えていると、カウンター越しに亜里紗さんから声を掛けられた。
「あらあら……珍しいですね。ご主人様がお食事に手を付けないなんて。それとも何か、気になる事でもありましたか?」
俺は慌てて、秋菜を見つめていた視線をカウンターの中に向けた。亜里紗さんが全てを見透かした様に、悪戯っぽく笑っている。ああ……これはバレてる。俺の態度はかなり分かりやすかったみたいだ。
「いや、食べますよ? ちょっと考え事してただけです」
俺は分かっていても敢えてバレバレの嘘で誤魔化した。秋菜が気になって仕方ないなんて、恥ずかし過ぎてとても言えない。
俺は既に冷め切ったオムライスを慌てて口に運んだ。冷めていても、そこそこ美味い。この店はコーヒー同様、フードメニューにも拘っているからだ。こういう店にありがちな冷凍食品等は一切無い。俺と同じ様に、一部の常連客が気に入ってるのはこういう所だ。
この店は純粋に、メイドとしての業務をこなす事に重点を置いているらしい。無駄に『美味しくなる魔法』とか、ステージでメイドが歌う様なサービス等は無い。ただ純粋に美味しい飲み物と食事を、落ち着いた空間で提供する事に重きを置いているそうだ。
だからこの店は余計な宣伝はしない。常連さんに支えられた、知る人ぞ知る様な隠れ家的な存在なのがこの店の魅力だった。まあ、メイド喫茶なんで一応『オムライスにお絵かき』くらいは、頼めばやってくれるみたいだが。
勿論、亜里紗さん目当ての客がかなりいる事は言うまでも無い。
俺は好きな読書に集中出来る、そんな雰囲気が好きでここに通っていたのだが、ここにきて『女の子目当て』の客だと思われたくなかった。何だかとても恥ずかしい……。
「そうでしたか……それは失礼しました」
まるで悪びれた様子もなく、薄い笑顔を浮かべたまま亜里紗さんは答えた。
「いえ……」
「それはそうと……ご主人様。新しいメイドは如何ですか?」
俺は思わず、口に含んでいたオムライスを吐き出しそうになった。亜里紗さんの方を見てみると、クスクスと口元に手を当てて笑っている。確信犯だ、と俺は思った。完全にからかわれている。
「いや、まあ……頑張っているんじゃないですか」
出来るだけ平静を装って俺は答えた。
どんなにバレバレでも認める訳にはいかない。俺のメンタルは豆腐なんだ。もし公然と振られでもしたら、二度とこの店には来れなくなる。
「ありがとうございます。とても良い子なんで……可愛がってあげて下さいね?」
相変わらず、悪戯っぽく笑いながら言う亜里紗さんを見て、俺は気付いた。
この人……意外とドSだ。
厄介な人に弱みを握られた様な気がする。
そんな嫌な予感を抱えていると、店内にドアベルの音が鳴り響いた。
「「お帰りなさいませ、ご主人様!」」
狭い店内で亜里紗さんと秋菜の声が、新しい客を出迎える。
「あれ? 新人さん? 可愛いですねー!」
秋菜を弄る聞き覚えのある声に、何となく不快感を覚えながら俺は入り口の方に目を向けた。
──オカキンだ。
こいつもこの店の常連客の一人だ。
本名は岡田だか岡村だったか……多分、俺と同年代くらいだと思う。癖の強い黒髪をちょんまげにした、やたら自信家で小太りの喧しい男だ。
確か、自称『カリスマユアチューバー』。
俺の知る限りでは、ヘカキンとか言う人気のユアチューバーを丸パクリしたような動画を、配信しまくっているらしい。
しかし世の中の需要というのは分からない物で、亜里紗さんから聞いた話では、その清々しいまでのパクリっぷりが逆にウケているらしい。オカキンは本当に一部では、そこそこ人気があるそうだ。それがこの男の増長っぷりを、一層、加速させていると俺は思っている。
「よお、萌くん! 相変わらず元気ないねえ!」
軽く萌くんの肩をバンバンと叩き、失礼な事を平気で言いながら、オカキンは彼の右隣に座った。
左側に来なくて良かった……。
俺は萌くんを気の毒に思いながらも安堵した。オカキンは空気を読まないというか、デリカシーが無い。遠慮なく絡んでくるオカキンは、正直、俺や萌くんの様な落ち着いて過ごしたいタイプの人間には迷惑な奴だった。
分かりやすい亜里紗さん目当てのオカキンは、彼女の気を引こうと早速、話題のネタを披露し始めた。
「ねえねえ、亜里紗さん! さっき配信されたこの動画見た?」
そう言って注文もせずに、カウンター越しにタブレットを手渡そうとするオカキン。
「もうネットは大騒ぎだよ! 何たってあのフリードが、今度はSNSまで纏めて乗っ取ったんだからね!」
フリード?
あのK市爆撃予告の?
俺は珍しくオカキンの話に興味が湧いた。
亜里沙さんも少し気になる様で、普段なら軽く受け流す所を今日はすんなり受け入れている。横で様子を見ていた萌くんも、自分のスマホで確認し始めていた。
「あ……」
何かに気付いた萌くんが思わず声を漏らした。それを見たオカキンが、ここぞとばかりに騒ぎ立てる。
「な!? 凄いだろ? ユアチューブだけじゃ無くて、ニヤ生もツリッターもフェイスブックスも……みんなトップ画面にこれが出て来るんだ!」
何……!?
そんな事出来るのか?
それがどんなに異常な事かくらい、ネットをしない俺でも分かる。とても技術的に可能な事だと思えない。
オカキンの言葉を聞いて、店内がにわかにざわつき始めた。みんなスマホやタブレットを取り出して、オカキンの言葉の真偽を確かめ始める。
「あ、本当だ……」
「そっちも? ツリッターもよ」
テーブル席のカップルが、お互いにスマホを見せ合っている。
「あの……良かったら一緒に見ますか?」
気にはなりながらも、スマホの無い俺がキョロキョロしてると、秋菜がスマホを俺に見せながら声をかけてくれた。なんてええ子なんや……。
「あ、すいません……じゃあ」
思わず少し照れてしまった俺は、無愛想に淡々と答えながら秋菜のスマホを覗き込んだ。自分のコミュ力の無さがもどかしい。
秋菜のスマホにはユアチューブのトップ画面が写し出されていた。投稿されている動画が全てフリードの笑顔になっている。
秋菜はその中の一つをタップして動画の再生を始めた。あの時と同じ様に画面の中のフリードが動き出す。そして……
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