電脳の妖精〜突然撃ち込まれたミサイルと、二次元美少女からの犯行声明

真木悔人

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妖精の隠れ家

第14話 二回目のアンケート

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「──また現れやがった……フリードだ」


 リーさんの言葉に一瞬、店内が緊張に包まれた。そして、ハッと思い出した様に、皆が携帯スマホいじりだす。すると、一番手前にいたオカキンが気を使って、俺の前に携帯スマホの画面を向けて来た。どうやら、一緒に見ようとしてくれているらしい。俺は軽く礼を言って、そのままオカキンの方に一つ、席を詰めた。

「ありがとう……」

携帯スマホを持ってないんだから、しょうがないだろ」

 態度こそ、少し面倒臭そうにしているが、案外悪い奴じゃないのかも知れない。それとも、仲間だと思ってくれたのだろうか……俺の過去むかしの話を聞いて。そんな事を考えていたら、オカキンが声をかけて来た。

「おい、始まるぞ……」

 動画の再生ボタンを押して、オカキンが携帯スマホを珈琲カップに立て掛ける。俺にも見やすい様に、配慮してくれている様だ。遠慮なく覗き込んだ携帯スマホの画面には、『通信中』という、ユアチューブが再生を待たせる言葉メッセージが浮かんでいる。やがて、動画のストリーミング再生が準備を完了し、あの碧髪の二次元美少女……フリードが姿を現した。

「皆さーん! 元気ですかあーーっ!」

 相変わらず、薄い青と白の妖精みたいなドレスに、今日は赤いタオルまで首にかけている。今のセリフと言い、あおる様な仕草と言い……どう考えても、あのプロレスラーの物まねだ。全く、ふざけている。しかし、そんなフリードの態度に憤る俺とは違い、オカキンは隣で悶え始めた。

「うおぉ……萌えぇ……」

 バカか、オカキンこいつは……。仮にもテロリストかも知れない相手に、一体何を考えているんだ。しかも、今時『萌え』って……言葉にする奴を初めて見た。全く、緊張感が無いにも程がある。確かに一部、フリードを可愛いとか何とか言って、持てはやしている連中オタクがいる事は知っている。おそらくオカキンも、その手の連中やつらと同じなんだろう。

 だが、中にはそんな能天気な連中とは違い、フリードを狂信的にあがめる奴等までいるらしい。世界を改変する為に現れた、救世主だとか何とか言っているそうだ。そして、恐ろしい事に、その考えに同調する者が、結構な数いるらしい……殆どが現状に不満を持つ、刹那的な考えの人間みたいだけど。

 そんな、フリードを崇める連中と、それを支持する傍観者を気取った者達……こいつ等が手を組んで、それなりの数になっているそうだ。全く、呆れた話だ……世の中の注目を集めると、必ずこの手のやからが湧いてくる。まるで、世間を騒がせた凶悪犯にまで、必ず擁護派やファンが現れる様に。
 
 まあ大半は、自分が他人ひとと違う感性である事を、主張したいだけの薄っぺらい、なんだが。俺はこの手の連中の事を、そういう奴等だと思っている。

 俺はそんな事を考えながら、ふと、画面から目を逸らした。カウンターの中から冷たい視線を向けて来る、亜里沙さんと秋菜の姿が見える。その顔は明らかに、隣で悶えるオカキンに引いていた。俺は少し気まずくなり、慌てて目線を携帯スマホに戻す。すると、画面の中のフリードが、相変わらず可愛らしい女の子の声……に聞こえる、機械ボカロの声で話し始めた。

「こないだの国会議事堂の爆破、皆んな喜んで貰えたかなー? 皆んなが、アンケートで『逝ってよし』って言ったから、ちゃんと結果その通りにしたんだからねー? ちゃんと望みを叶えたんだから、もっと、僕を褒めて欲しいなー」

 そう言って、拗ねた様な仕草を見せるフリード。

「知ってるんだよお? なんかまだ、僕の事をテロリストだとか言ってる人もいるんでしょ? 僕はショックだよ……僕はただ、皆んなのお願いを叶えてあげただけなのに……」

 今度は悲しそうに、落ち込んでいる仕草を見せるフリード。だが、どこまでもその態度はわざとらしい。いちいち大げさな動きや表情が、尚更、俺にそう感じさせているのかも知れないけど。

 今のところフリードの正体は、F国の工作員ではないかと言うのが大方の予想だ。なにしろ、今からミサイルを撃ち込むなんていう、とんでもない犯行声明を出しているからな……それも、K市という場所ターゲットまで言い当てて。何かしら関係しているであろうという見解で、あの動画の信憑性はかなり高い。

 だがしかし、それでもまだF国とは関係ない、騒ぎに便乗しただけのテロリストだという説も、未だに根強く残っている。犯行声明を出すなんていう馬鹿げた行動が、一国のやる事だとは思えないという理由からだ。他にも「国内に潜む過激派の仕業」だとか、「只の愉快犯の仕業」だとか、とにかくフリードの正体に関しては、相変わらず世論が割れている。

 そんな俺達を嘲笑うかの様に、フリードはまたしても馬鹿げた事を言い出した。

「確かにミサイルは撃ち込んだけど、F国と僕は関係ないからね? あれは試練だから仕方無いんだよ。それに僕は、テロリストじゃない。僕のやる事は全部、君達の為にしている事なんだから」

 ミサイルを打ち込んだ事は認めておいて、F国と自分は関係ない? 一体、何を言っているんだフリードこいつは……全く意味が分からない。大体、試練って何なんだ。俺達の為って、どういう意味だよ……。

 すると、今まで笑顔だったフリードの表情かおから、急に感情が抜け落ちた。突然、スッと無表情になり、抑揚のない声で話し始める。こいつが時折見せる、冷酷な表情あのかおだ。

「だから今回は、僕が中立だっていう事を証明するよ。勿論、未来を選ぶのは君達だけどね……。一応、言っておくけど、。せっかく無回答をカウントしない代わりに、アンケートを三択にしてあげたんだから」

 ──ゾクリ。

 真顔になったフリードは、可愛らしい見た目とのギャップもあって、酷く冷たくて恐ろしく見える。まるで感情の無い、機械の人形……いや、もともと二次元のキャラクターなんだから、寧ろこっちが普通なのか。俺はそんなフリードの、本性を見た様な気がして寒気がした。

 しかし、今回は無回答票をカウントしないのか……。まあ、誰も投票しないなんて事は無いだろうから、アンケート自体は成立しそうだけど。一体こいつ、今度は何を企んでいる……?

 俺がそんな思考にふけっていると、フリードは再び、パッとその表情を笑顔に変えた。

「それでは、今からアンケートを始めまーす!」 

 画面上部天井から、安っぽいくす玉が降りて来る。フリードは相変わらず、人をバカにした様な軽いノリで、そのくす玉を割って見せた。キラキラと金銀の紙吹雪が舞い、中から垂れ幕が落ちて来る。

『第二回フリードちゃんアンケート! チキチキ私はどっちの味方でもないよ選手権~!』

 なんだ、これ……。

 パフパフと自らの手で効果音クラクションを鳴らし、まるで自主製作の番組の様な、チープな映像を見せられる。すると、フリードが子供番組のお姉さんの様に、人差し指を立てて注意を始めた。

「もし無回答が多くても、結果は変えられませんからね! 後悔したく無かったら、皆さんちゃんと投票しましょうっ! それではまた、結果発表で会いましょー!」

 さよーならーと両手を振るフリードは、まるで「また来週」とでも言い出しそうだ。そして、そんなフリードがそのまま、光の粒子となって消えて行く。すると、ゆっくりと画面が暗転を始め、前回と同じ様なアンケート画面が浮かび上がった。薄い青の背景に、デフォルメされたフリードの透かし。そして、その中に不気味な白い文字が、徐々に画面の中央で浮かび上がった。

 二回目のアンケート……俺はその内容を見て、戦慄を覚えた。




『どちらかを殺します。どっちがいいですか?

 A:日本の総理大臣。

 B:F国の大統領。

 C:いやいや、どっちもダメでしょ!』

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