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妖精の隠れ家
第15話 不可解な結果発表
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フリードの二回目のアンケート。
その動画が配信されてから、半日余りが過ぎた。店内にいるので外の様子は分からないが、午後七時を回った今は、おそらく日も落ちて暗くなり始めた頃だろう。
『どちらかを殺します。どっちがいいですか?
A︰日本の総理大臣。
B:F国の大統領。
C:いやいや、どっちもダメでしょ!』
画面に映し出されるフリードのアンケート。前回は無かった『殺す』という文字が妙に恐ろしく、そして生々しい。俺はこのアンケートに何か、どす黒い物を感じていた。
店内には亜里沙さんと萌くんのタブレットからインターネット放送が、そして、秋菜や希ちゃん、それにオカキンの携帯からは其々、別々の番組が流れている。地上波の情報番組やラジオ放送だ。リーさんはPCで何やら、調べ物をしている。おそらく、ネット上の情報でも集めているのだろう。
「──こんなの『C』に決まってるじゃないですか!」
「皆さん、悪戯に惑わされてはいけません! 我々はこんなアンケート等に付き合わず、もっと毅然とした態度で──」
「もし『B』になれば、戦争は回避出来るかも知れません……ですが、フリードはF国の工作員です。『B』なんて実行出来る筈が……いや、もしかしたら最初から、これが目的だったのかも──」
「安心して下さい! 仮にこれが『A』にする為の陰謀だったとしても、そう簡単に、我が国の総理大臣を暗殺する事なんて不可能──」
「誠くん! (かな~し~みの~)」
世間はまたしても、再び現れたフリードに大騒ぎだ。流石に今回は、悪戯だと決めつけている放送局は少ない。それでも大半は、無視するべきだという主張か、『C』のどちらかに偏っているみたいだけど……。
流石に、『A』を主張する人間はいない様だ。まあ、そんな奴を、テレビ局が出演させるとは思えないが……はじめから『A』にするのが目的で、フリードはまともにアンケートをする気が無い、という意見ならあるみたいだけど。少数だが、『B』の可能性を語るコメンテーターならいる様だ。そして、この期に及んでも某鬱アニメを流す猛者……安定のテレ京。オカキン……お前、何見てんだよ……。何が「ナイスボート」だ……意味がわからん。
「相変わらず、世論はバラバラね……」
亜里沙さんが呟いた。
「まあ、流石に皆んなが、同じ意見になるのは難しいですよね……まあ、二択じゃないだけマシですよ。こんなの、選べる訳が無い。前みたいに無回答が影響しないなら、多分、殆どの人が『C』に入れた結果になるでしょう。流石に、『A』や『B』が多数派にはならないと、信じたいです」
無回答が票数の少ない意見に流れる……そんな前回のルールなら、おそらく『A』か『B』になる可能性が高い。そう考えれば、確かにフリードが言う様に、今回は多少の温情がある様にも見える。だが、俺は依然として、嫌な予感を拭えなかった。何かが引っ掛かる……何かが。
そんな俺の思考に割り込む様に、流れていた番組の一つで司会者が叫んだ。
「たった今、例の動画が更新されたみたいです!」
その言葉を皮切りに、他の番組でも同じ情報が流される。俺達は、其々が示し合わせる訳でも無く、その放送を垂れ流したまま、自然にリーさんの周りに集まった。リーさんが当然の様に、ユアチューブからフリードの動画をPCで再生する。浮かび上がったのは前回と同じ、青い画面の中に透かされたデフォルメのフリード。そして……。
『結果発表!
発表まで残り 02:53 』
これも前回と同じ、集計の終わりが近づく事を告げるカウンター。奇しくもまた、終了までの時間は三分弱。俺達が無言で見つめる中、カウンターの数字が刻々とその値を減らし続ける。店内が緊張で静寂に包まれ、やけに長く感じる時間が経過した。
00:03……
00:02……
00:01……
カウンターが00:00に近付く。そして……
「結果発表ぉーっ!」
相変わらず能天気に笑うフリードと、背後に見えるデジタルカウンター。俺はその数字と……そして、その横に書かれている文字を見て驚愕した。まさか、こんなやり方で来るなんて。
『集計結果
・日本の総理大臣は殺しちゃダメ。:7,841,318人
・F国の大統領は殺しちゃダメ。 :29,921,560人 』
「ちょ、ちょっとこれ、どういう事?」
戸惑いを隠そうともせず、希ちゃんが叫んだ。他のメンバーも誰一人、何が起こっているのかが理解出来ず、呆然としている。俺はそんな中、間の前で起こっている不可解な出来事について、必死に思考をフル回転させた。
確かに今回は、大幅にその数が減っている。おそらく、無回答票がそれだけ多かったという事だろう。だが、いつの間にか、回答結果が二択に変わって示されている。確か、当初のアンケートは三択だった筈だ。そして、その意味がアンケートの開始時とは真逆になっている、『A』と『B』の内容。確か……
【アンケート開始時】
A:日本の総理大臣を殺す
B:F国の大統領を殺す
C:『どっちもダメ』。
……だった筈だ。それが、いつの間にか『A』も『B』も無くなって……
【結果発表後】
『A:日本の総理大臣を殺す』が→『・日本の総理大臣は殺しちゃダメ。』
『B:F国の大統領を殺す』が→『・F国の大統領は殺しちゃダメ。』
になっている。そして、勝手に無くなった、『C』の『どっちもダメ』……。
どう考えても、やっぱり内容が逆転している。
「どういう事だ……」
俺が、必死にその意味を考えていると、画面の中をフリードが近づいて来た。ネットの中から俺達を、まるで観察でもする様に覗き込んで来る。そして、あの時折見せる、無表情のままで口を開いた。
「僕は言ったよね……『必ずちゃんと決断してね』って──」
「──!!」
ゾクリと背中を冷たい物が走る。そして、同時に俺は、フリードのその言葉を聞いて、落雷に撃たれた様な衝撃を受けた。突然、脳内で閃き……そして、繋がる。それが何なのかすら分からず、ぼんやりと俺の思考にかかっていた、靄の様な物がパッと晴れた。
「そうか……そういう事か……」
「……何か分かったの?」
無意識に呟いた俺の顔を覗き込んで、亜里沙さんが問い掛けて来る。俺は、突然の閃きを基に、もう一度自分の考えを整理した。そして、自分なりに導きだした、その答えに辿り着く……。不思議と、間違ってはいないという確信があった。
アンケート結果に記された、突然、変えられたその内容……。これは『A』と『B』、其々の結果を入れ替えただけだったんだ。つまり、今回の結果は……
日本の総理大臣は殺しちゃダメ。→これは、F国の大統領なら殺していい→つまり、『B』の『F国の大統領を殺す』に投票した人数。そして……
F国の大統領は殺しちゃダメ。→これは、日本の総理大臣なら殺していい→つまり、『A』の『日本の総理大臣を殺す』に投票した人数。
こうして、解釈を勝手に逆転させて、計上された物なんだ。結果を表記する順番が上と下、『A』と『B』が逆さまになっていたから判り難いけど。そして、今回のアンケートで一番不可解な……最も悪意に満ちた部分。それが、消えた『C』の『どっちもダメ』という項目……。今回のアンケート、おそらくフリードの目的は、ここに関係がある。
『C』の『どっちもダメ』……。これを、フリードは勝手に『どっちに計上してもいいダメ』として計上したんだ。
聞いた事がある……これは、マスコミが世論を誘導したい時によく使う、子供騙しの手口だ。単なる言葉遊びや、揚げ足取りに過ぎない気もする……だが、確かに嘘は言ってない。そして、正確な真実でもない……そんな、小手先の手口。
一体、今更どうしてフリードは、こんなくだらない事を仕掛けて来たのか……。一部の人間なら、すぐに気が付いてしまう様なカラクリだ。だが、そもそもフリードの目的が、違う所にあったのだとしたら……。
「夏樹君……?」
漠然とした推測が、ほぼ確信に変わっていた俺に、亜里沙さんが返答を促して来た。他の面々も、俺の発言を待つ様に、黙ってこちらを見つめている。俺は、彼等を見渡しながら、静かに口を開いた。
「おそらくですが、今回のアンケート……フリードの目的は、その結果を知る事じゃない。いや、ある意味これも、アンケートの結果と言えるのか……」
「どういう事?」
言い淀む俺を見て、亜里沙さんが急かして来る。俺は、軽く息を吐いてから、ゆっくりと説明を始めた。
「──順を追って説明します……今回のアンケートのカラクリも。そして、おそらくフリードの本当の目的も……」
その動画が配信されてから、半日余りが過ぎた。店内にいるので外の様子は分からないが、午後七時を回った今は、おそらく日も落ちて暗くなり始めた頃だろう。
『どちらかを殺します。どっちがいいですか?
A︰日本の総理大臣。
B:F国の大統領。
C:いやいや、どっちもダメでしょ!』
画面に映し出されるフリードのアンケート。前回は無かった『殺す』という文字が妙に恐ろしく、そして生々しい。俺はこのアンケートに何か、どす黒い物を感じていた。
店内には亜里沙さんと萌くんのタブレットからインターネット放送が、そして、秋菜や希ちゃん、それにオカキンの携帯からは其々、別々の番組が流れている。地上波の情報番組やラジオ放送だ。リーさんはPCで何やら、調べ物をしている。おそらく、ネット上の情報でも集めているのだろう。
「──こんなの『C』に決まってるじゃないですか!」
「皆さん、悪戯に惑わされてはいけません! 我々はこんなアンケート等に付き合わず、もっと毅然とした態度で──」
「もし『B』になれば、戦争は回避出来るかも知れません……ですが、フリードはF国の工作員です。『B』なんて実行出来る筈が……いや、もしかしたら最初から、これが目的だったのかも──」
「安心して下さい! 仮にこれが『A』にする為の陰謀だったとしても、そう簡単に、我が国の総理大臣を暗殺する事なんて不可能──」
「誠くん! (かな~し~みの~)」
世間はまたしても、再び現れたフリードに大騒ぎだ。流石に今回は、悪戯だと決めつけている放送局は少ない。それでも大半は、無視するべきだという主張か、『C』のどちらかに偏っているみたいだけど……。
流石に、『A』を主張する人間はいない様だ。まあ、そんな奴を、テレビ局が出演させるとは思えないが……はじめから『A』にするのが目的で、フリードはまともにアンケートをする気が無い、という意見ならあるみたいだけど。少数だが、『B』の可能性を語るコメンテーターならいる様だ。そして、この期に及んでも某鬱アニメを流す猛者……安定のテレ京。オカキン……お前、何見てんだよ……。何が「ナイスボート」だ……意味がわからん。
「相変わらず、世論はバラバラね……」
亜里沙さんが呟いた。
「まあ、流石に皆んなが、同じ意見になるのは難しいですよね……まあ、二択じゃないだけマシですよ。こんなの、選べる訳が無い。前みたいに無回答が影響しないなら、多分、殆どの人が『C』に入れた結果になるでしょう。流石に、『A』や『B』が多数派にはならないと、信じたいです」
無回答が票数の少ない意見に流れる……そんな前回のルールなら、おそらく『A』か『B』になる可能性が高い。そう考えれば、確かにフリードが言う様に、今回は多少の温情がある様にも見える。だが、俺は依然として、嫌な予感を拭えなかった。何かが引っ掛かる……何かが。
そんな俺の思考に割り込む様に、流れていた番組の一つで司会者が叫んだ。
「たった今、例の動画が更新されたみたいです!」
その言葉を皮切りに、他の番組でも同じ情報が流される。俺達は、其々が示し合わせる訳でも無く、その放送を垂れ流したまま、自然にリーさんの周りに集まった。リーさんが当然の様に、ユアチューブからフリードの動画をPCで再生する。浮かび上がったのは前回と同じ、青い画面の中に透かされたデフォルメのフリード。そして……。
『結果発表!
発表まで残り 02:53 』
これも前回と同じ、集計の終わりが近づく事を告げるカウンター。奇しくもまた、終了までの時間は三分弱。俺達が無言で見つめる中、カウンターの数字が刻々とその値を減らし続ける。店内が緊張で静寂に包まれ、やけに長く感じる時間が経過した。
00:03……
00:02……
00:01……
カウンターが00:00に近付く。そして……
「結果発表ぉーっ!」
相変わらず能天気に笑うフリードと、背後に見えるデジタルカウンター。俺はその数字と……そして、その横に書かれている文字を見て驚愕した。まさか、こんなやり方で来るなんて。
『集計結果
・日本の総理大臣は殺しちゃダメ。:7,841,318人
・F国の大統領は殺しちゃダメ。 :29,921,560人 』
「ちょ、ちょっとこれ、どういう事?」
戸惑いを隠そうともせず、希ちゃんが叫んだ。他のメンバーも誰一人、何が起こっているのかが理解出来ず、呆然としている。俺はそんな中、間の前で起こっている不可解な出来事について、必死に思考をフル回転させた。
確かに今回は、大幅にその数が減っている。おそらく、無回答票がそれだけ多かったという事だろう。だが、いつの間にか、回答結果が二択に変わって示されている。確か、当初のアンケートは三択だった筈だ。そして、その意味がアンケートの開始時とは真逆になっている、『A』と『B』の内容。確か……
【アンケート開始時】
A:日本の総理大臣を殺す
B:F国の大統領を殺す
C:『どっちもダメ』。
……だった筈だ。それが、いつの間にか『A』も『B』も無くなって……
【結果発表後】
『A:日本の総理大臣を殺す』が→『・日本の総理大臣は殺しちゃダメ。』
『B:F国の大統領を殺す』が→『・F国の大統領は殺しちゃダメ。』
になっている。そして、勝手に無くなった、『C』の『どっちもダメ』……。
どう考えても、やっぱり内容が逆転している。
「どういう事だ……」
俺が、必死にその意味を考えていると、画面の中をフリードが近づいて来た。ネットの中から俺達を、まるで観察でもする様に覗き込んで来る。そして、あの時折見せる、無表情のままで口を開いた。
「僕は言ったよね……『必ずちゃんと決断してね』って──」
「──!!」
ゾクリと背中を冷たい物が走る。そして、同時に俺は、フリードのその言葉を聞いて、落雷に撃たれた様な衝撃を受けた。突然、脳内で閃き……そして、繋がる。それが何なのかすら分からず、ぼんやりと俺の思考にかかっていた、靄の様な物がパッと晴れた。
「そうか……そういう事か……」
「……何か分かったの?」
無意識に呟いた俺の顔を覗き込んで、亜里沙さんが問い掛けて来る。俺は、突然の閃きを基に、もう一度自分の考えを整理した。そして、自分なりに導きだした、その答えに辿り着く……。不思議と、間違ってはいないという確信があった。
アンケート結果に記された、突然、変えられたその内容……。これは『A』と『B』、其々の結果を入れ替えただけだったんだ。つまり、今回の結果は……
日本の総理大臣は殺しちゃダメ。→これは、F国の大統領なら殺していい→つまり、『B』の『F国の大統領を殺す』に投票した人数。そして……
F国の大統領は殺しちゃダメ。→これは、日本の総理大臣なら殺していい→つまり、『A』の『日本の総理大臣を殺す』に投票した人数。
こうして、解釈を勝手に逆転させて、計上された物なんだ。結果を表記する順番が上と下、『A』と『B』が逆さまになっていたから判り難いけど。そして、今回のアンケートで一番不可解な……最も悪意に満ちた部分。それが、消えた『C』の『どっちもダメ』という項目……。今回のアンケート、おそらくフリードの目的は、ここに関係がある。
『C』の『どっちもダメ』……。これを、フリードは勝手に『どっちに計上してもいいダメ』として計上したんだ。
聞いた事がある……これは、マスコミが世論を誘導したい時によく使う、子供騙しの手口だ。単なる言葉遊びや、揚げ足取りに過ぎない気もする……だが、確かに嘘は言ってない。そして、正確な真実でもない……そんな、小手先の手口。
一体、今更どうしてフリードは、こんなくだらない事を仕掛けて来たのか……。一部の人間なら、すぐに気が付いてしまう様なカラクリだ。だが、そもそもフリードの目的が、違う所にあったのだとしたら……。
「夏樹君……?」
漠然とした推測が、ほぼ確信に変わっていた俺に、亜里沙さんが返答を促して来た。他の面々も、俺の発言を待つ様に、黙ってこちらを見つめている。俺は、彼等を見渡しながら、静かに口を開いた。
「おそらくですが、今回のアンケート……フリードの目的は、その結果を知る事じゃない。いや、ある意味これも、アンケートの結果と言えるのか……」
「どういう事?」
言い淀む俺を見て、亜里沙さんが急かして来る。俺は、軽く息を吐いてから、ゆっくりと説明を始めた。
「──順を追って説明します……今回のアンケートのカラクリも。そして、おそらくフリードの本当の目的も……」
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