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妖精の隠れ家
第16話 本当の目的
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「──順を追って説明します。今回のアンケートのカラクリも……そして、おそらくフリードの目的も……」
俺は、亜里沙さんに向けて答えた。アンケート結果を受けて困惑していた、他のメンバー達も俺に注目する。そんな中、俺は静かに、自分の考えについて説明を始めた。
「今回のアンケート……これには、ちょっとしたカラクリがあります。これは、テレビなんかでよく、マスコミが使う印象操作……要するに、世論を誘導する為の手口です。今回フリードは、それと同じ事をやったんです」
「マスコミの印象操作……?」
「世論の誘導……?」
希ちゃんと萌くんが、口々に俺の言葉を復唱する。いまいちピンと来ないらしい。
「もう少し、分かりやすく説明しましょう。例えば、あるアンケートの回答が……
・賛成。30%
・反対。30%
・どちらでもない。40%
だったとしましょう。この場合、このアンケートの結果は……
・賛成。30%
・賛成では無い。70%
と、いかにも反対票が多くいる様に、見せかける事が出来るんです」
「……あっ!」
「確かに……」
俺の説明を受けて、希ちゃんと萌くんが声を漏らす。どうやら、何となく俺の言いたい事が伝わってくれた様だ。俺は更に、説明を続けた。
「この『どちらでもない』という回答は、『賛成では無い』でも『反対では無い』でも……どちらにでも言い換える事が出来る、都合の良い言葉なんですよ……解釈の仕方によっては、ですけどね。そして、『反対』という言葉も同じ様に、『賛成では無い』という、同じ意味の言葉に置き換えれます。こうすれば、この二つを一緒にする事が出来るんです。その結果……確かに、嘘はいってません。だけど、正確に真実も伝えてない……そんなアンケート結果を示す事が出来るんです。自分達にとって都合の良い結果に、世論の印象を導く。これが、マスコミがよく使う手口……印象操作です」
他にも、似た様な手口は沢山ある。わざと、政権を批判する団体の講演会の出入り口で、内閣の支持率をアンケートに取ったり。そして、その結果には、どこでアンケート調査したかは記さないんだ。こんなの、結果が偏るのは当たり前だ。俺が知るだけでも、そういった世論の誘導は、至る所で頻繁に行われている。
よく、情報番組なんかでマスコミが提示する、アンケート調査の結果を示した円グラフや棒グラフ……よく見ると、中心点やグラフの比率がおかしい、なんて言うのはよくある話。企業が商品のアピールなんかによく使う、『満足度アンケート』なんかにしてもそうだ。
蓋を開ければ、リピーターに絞って調査してたり、酷い所だと、その内容も『おおむね満足』と『不満』の二択しか無かったりするらしい。人間は『おおむね』とか『大体』の様な、曖昧な回答……つまり、断定を避ける回答に、マルをつける傾向があるそうだ。これは、そういう心理を巧みに利用した物だろう。
俺は、そういった世の中に溢れる欺瞞や、嘘の情報について、そのカラクリを自分が知る限り説明した。
「ほええ……」
「こんなの、騙されるに決まってるじゃん……」
オカキンが間抜けな声を上げて驚き、希ちゃんは少し悔しそうにぼやいた。
とにかく大多数の人間は、数字というデータを見せられると、いかにも信憑性がある様に勘違いさせられる。俺は偶々、何を見ても疑ってしまう、厄介な性格をしていたから、気付く事が出来たのかも知れない。そして、一度このカラクリに気付いてからは、他の同じ様な例には、直ぐに気が付く様になった。
「ですが、今回のアンケートで不可解なのは、こんな子供騙しをフリードが使ってきたと言う事です。今、説明した通り、このカラクリは当初のアンケート内容……つまり、今回ですと最初の三択。これを隠して結果を示さないと、意味が無いんです。これでは、あまりにもバレバレ……俺じゃなくても、直ぐにカラクリは見抜かれてしまいます」
「まあ、確かに……」
「結果の内容が、当初のアンケートと変わってるもんね……誰でも『あれ?』って思うわよね」
オカキンと希ちゃんが同調する。そう。このカラクリは、『どうやってアンケートを取ったか』が、バレてしまっては意味が無い。さっき例に出した話でいうと、言葉を違う言い方に置き換えた事や、『どちらでもない』を『反対』に含んだ事がバレバレになるからだ。
つまり、今回のフリードのアンケート……当初の内容を晒している時点で、本気でこの手口を使って、世論を誘導しようとしてたとは、とてもじゃないが思えない。だとすれば考えられるのは、フリードは初めから世論を騙そうとはしていない……そう考える方が自然だろう。
「そうなんです。つまり、フリードの目的は世論の誘導じゃない……もっと、別の何かという事になります。そこで出て来るのが、フリードが散々強調する、『必ずちゃんと決断してね』というあの言葉……俺は、これこそがフリードの、本当の目的だったんじゃないかと思うんです」
「本当の……目的……?」
俺の説明を受けて、亜里沙さんが真剣な眼差しで問い掛けて来た。
「はい。少なくとも俺は、そう思います。何故、こんな事をするのか……理由は分かりませんが。フリードは俺達に決断を迫った。日本の総理大臣を殺すのか、F国の大統領を殺すのか……つまり、『A』か『B』か。初めからフリードの計画に、『C』なんていう選択肢は無かったんですよ。いや、もしかしたら、その『C』こそが、フリードの知りたかった数なのかも知れない……」
「え……どういう事……?」
そう話しながら俺は、また思考の波に飲み込まれそうになった。突然、飛躍し始めた話に着いて行けず、亜里沙さんが不思議そうに尋ねて来る。俺は、自分の推測を整理する様に、その考えを口にした。
「つまり、フリードの目的はアンケートの内容じゃなくて、俺達が決断出来るのか出来ないのか……或いは、決断できない人間がどれくらい要るのか。フリードは初めから言っていた……『僕は中立だ』、『未来を選ぶのは君達だ』と。つまり、本当にフリードは、アンケートの結果なんてどっちでも良かったんです……『A』でも『B』でも。知りたいのはそこじゃない。俺達が決断を下せるのか、下せないのか……俺は、このアンケートの本当の目的は、そこにある様な気がしてならないんです。根拠はありません……ただ、俺はさっきのフリードの言葉を聞いて、そう思ったんです」
上手くは言えない……だが、何故かこの閃きには、確信に近い物があった。
何故、フリードがそんな事を知りたがるのかは分からない。だけど、フリードが俺達を……人類を試している。観察されている。そんな、突拍子もない発想が頭から離れない。まるで、人外の者でも相手にしているかの様な、嫌な予感……。そんな、俺の根拠のない予感を、まるで裏付けるかの様にフリードが動いた。
相変わらず、画面の中から俺達を、値踏みでもする様に覗き込んで来る。そして、無表情のままフリードは、俺の心臓を鷲掴みにする様な言葉を口にした。
「ふーん……何人かは気付いたみたいだね。このアンケートの、本当の目的……」
ドキンと心臓の音が跳ね上がり、同時に、全身を例え様のない悪寒が襲う。フリードはまるで、そこにいる様に! 目の前の俺に語りかける様に、その言葉を発した。そして、その口元を三日月の様に歪ませる。
──こっちが見えている?
思わず、そんな錯覚を覚える。すると、フリードは突然、パッと笑顔に戻った。そして、再びあの軽い調子で話し始める。
「まあ、いいや! それじゃあ早速、今回の試練と行きましょー! 皆んな、頑張ってねー!」
そう言って例の如く、光の粒子になって消えていくフリード。余りにも自由奔放過ぎる、そのテンションに俺達は振り回され、唖然としていた。そして、暫く店内が沈黙に包まれる……。
矢部主相が殺されたという情報が世間を騒がせたのは、それから数分後の事だった。
再び大パニックに陥る、マスコミと主相官邸。まだ、情報が錯綜して、正確な状況は掴みきれていないらしい。その混乱した様子が、テレビやネットを通して、俺達にも伝わって来る。
だが、俺にはそれより、気になっている事が他にあった。俺は見逃さなかった。フリードが答えた、あの瞬間……リーさんの額に汗が光っていた事を。普段から寡黙で、無表情だから判りにくいが……明らかにあの時、リーさんは動揺していた。
──リーさんは何か知っている……いや、それとも何かに気が付いたのか。しかしこの日、俺の漠然としたその問いに、リーさんが答えてくれる事は無かった。
俺は、亜里沙さんに向けて答えた。アンケート結果を受けて困惑していた、他のメンバー達も俺に注目する。そんな中、俺は静かに、自分の考えについて説明を始めた。
「今回のアンケート……これには、ちょっとしたカラクリがあります。これは、テレビなんかでよく、マスコミが使う印象操作……要するに、世論を誘導する為の手口です。今回フリードは、それと同じ事をやったんです」
「マスコミの印象操作……?」
「世論の誘導……?」
希ちゃんと萌くんが、口々に俺の言葉を復唱する。いまいちピンと来ないらしい。
「もう少し、分かりやすく説明しましょう。例えば、あるアンケートの回答が……
・賛成。30%
・反対。30%
・どちらでもない。40%
だったとしましょう。この場合、このアンケートの結果は……
・賛成。30%
・賛成では無い。70%
と、いかにも反対票が多くいる様に、見せかける事が出来るんです」
「……あっ!」
「確かに……」
俺の説明を受けて、希ちゃんと萌くんが声を漏らす。どうやら、何となく俺の言いたい事が伝わってくれた様だ。俺は更に、説明を続けた。
「この『どちらでもない』という回答は、『賛成では無い』でも『反対では無い』でも……どちらにでも言い換える事が出来る、都合の良い言葉なんですよ……解釈の仕方によっては、ですけどね。そして、『反対』という言葉も同じ様に、『賛成では無い』という、同じ意味の言葉に置き換えれます。こうすれば、この二つを一緒にする事が出来るんです。その結果……確かに、嘘はいってません。だけど、正確に真実も伝えてない……そんなアンケート結果を示す事が出来るんです。自分達にとって都合の良い結果に、世論の印象を導く。これが、マスコミがよく使う手口……印象操作です」
他にも、似た様な手口は沢山ある。わざと、政権を批判する団体の講演会の出入り口で、内閣の支持率をアンケートに取ったり。そして、その結果には、どこでアンケート調査したかは記さないんだ。こんなの、結果が偏るのは当たり前だ。俺が知るだけでも、そういった世論の誘導は、至る所で頻繁に行われている。
よく、情報番組なんかでマスコミが提示する、アンケート調査の結果を示した円グラフや棒グラフ……よく見ると、中心点やグラフの比率がおかしい、なんて言うのはよくある話。企業が商品のアピールなんかによく使う、『満足度アンケート』なんかにしてもそうだ。
蓋を開ければ、リピーターに絞って調査してたり、酷い所だと、その内容も『おおむね満足』と『不満』の二択しか無かったりするらしい。人間は『おおむね』とか『大体』の様な、曖昧な回答……つまり、断定を避ける回答に、マルをつける傾向があるそうだ。これは、そういう心理を巧みに利用した物だろう。
俺は、そういった世の中に溢れる欺瞞や、嘘の情報について、そのカラクリを自分が知る限り説明した。
「ほええ……」
「こんなの、騙されるに決まってるじゃん……」
オカキンが間抜けな声を上げて驚き、希ちゃんは少し悔しそうにぼやいた。
とにかく大多数の人間は、数字というデータを見せられると、いかにも信憑性がある様に勘違いさせられる。俺は偶々、何を見ても疑ってしまう、厄介な性格をしていたから、気付く事が出来たのかも知れない。そして、一度このカラクリに気付いてからは、他の同じ様な例には、直ぐに気が付く様になった。
「ですが、今回のアンケートで不可解なのは、こんな子供騙しをフリードが使ってきたと言う事です。今、説明した通り、このカラクリは当初のアンケート内容……つまり、今回ですと最初の三択。これを隠して結果を示さないと、意味が無いんです。これでは、あまりにもバレバレ……俺じゃなくても、直ぐにカラクリは見抜かれてしまいます」
「まあ、確かに……」
「結果の内容が、当初のアンケートと変わってるもんね……誰でも『あれ?』って思うわよね」
オカキンと希ちゃんが同調する。そう。このカラクリは、『どうやってアンケートを取ったか』が、バレてしまっては意味が無い。さっき例に出した話でいうと、言葉を違う言い方に置き換えた事や、『どちらでもない』を『反対』に含んだ事がバレバレになるからだ。
つまり、今回のフリードのアンケート……当初の内容を晒している時点で、本気でこの手口を使って、世論を誘導しようとしてたとは、とてもじゃないが思えない。だとすれば考えられるのは、フリードは初めから世論を騙そうとはしていない……そう考える方が自然だろう。
「そうなんです。つまり、フリードの目的は世論の誘導じゃない……もっと、別の何かという事になります。そこで出て来るのが、フリードが散々強調する、『必ずちゃんと決断してね』というあの言葉……俺は、これこそがフリードの、本当の目的だったんじゃないかと思うんです」
「本当の……目的……?」
俺の説明を受けて、亜里沙さんが真剣な眼差しで問い掛けて来た。
「はい。少なくとも俺は、そう思います。何故、こんな事をするのか……理由は分かりませんが。フリードは俺達に決断を迫った。日本の総理大臣を殺すのか、F国の大統領を殺すのか……つまり、『A』か『B』か。初めからフリードの計画に、『C』なんていう選択肢は無かったんですよ。いや、もしかしたら、その『C』こそが、フリードの知りたかった数なのかも知れない……」
「え……どういう事……?」
そう話しながら俺は、また思考の波に飲み込まれそうになった。突然、飛躍し始めた話に着いて行けず、亜里沙さんが不思議そうに尋ねて来る。俺は、自分の推測を整理する様に、その考えを口にした。
「つまり、フリードの目的はアンケートの内容じゃなくて、俺達が決断出来るのか出来ないのか……或いは、決断できない人間がどれくらい要るのか。フリードは初めから言っていた……『僕は中立だ』、『未来を選ぶのは君達だ』と。つまり、本当にフリードは、アンケートの結果なんてどっちでも良かったんです……『A』でも『B』でも。知りたいのはそこじゃない。俺達が決断を下せるのか、下せないのか……俺は、このアンケートの本当の目的は、そこにある様な気がしてならないんです。根拠はありません……ただ、俺はさっきのフリードの言葉を聞いて、そう思ったんです」
上手くは言えない……だが、何故かこの閃きには、確信に近い物があった。
何故、フリードがそんな事を知りたがるのかは分からない。だけど、フリードが俺達を……人類を試している。観察されている。そんな、突拍子もない発想が頭から離れない。まるで、人外の者でも相手にしているかの様な、嫌な予感……。そんな、俺の根拠のない予感を、まるで裏付けるかの様にフリードが動いた。
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「ふーん……何人かは気付いたみたいだね。このアンケートの、本当の目的……」
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──こっちが見えている?
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だが、俺にはそれより、気になっている事が他にあった。俺は見逃さなかった。フリードが答えた、あの瞬間……リーさんの額に汗が光っていた事を。普段から寡黙で、無表情だから判りにくいが……明らかにあの時、リーさんは動揺していた。
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