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第二章 人間の国

第28話 ギルドの依頼

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《グワオオオオオオオンッ》


「──ふぅ。ようやく、二体目か……」

 タストの町から北へ四半日。あの、岩壁の巨熊ロック・グリズリーが生息する山間部。俺とアスカは、この辺りで最も危険と言われる地で魔物狩りをしていた。勿論、ギルドの依頼を達成する為だ。

「……お疲れ様」

 言葉少なく、アスカが俺をねぎらう。手渡されたタオルで汗を拭い、俺はアスカに告げた。

「これで、銀貨40枚か……。全く、ボロい商売だよな……冒険者って言うのは」

 岩壁の巨熊ロック・グリズリーが一体で、銀貨20枚。これだけで暫くは食っていける。名もなき村から続く貧困生活が、嘘の様な稼ぎっぷりだ。

「クロスは例外。普通は、こんなに簡単に岩壁の巨熊ロック・グリズリーを倒せない」

 Bランク最高レベルの魔物、岩壁の巨熊ロック・グリズリー。その岩の様な肌と硬い体毛は、生半可な剣や魔法は弾き返してしまうらしい。唯一の急所は、今しがた俺が切り裂いた喉元のみ。確かに、まともにやり合えば強敵なのかも知れない。

偶々たまたま、相性が良かっただけさ。でも、これで今日倒した岩壁の巨熊ロック・グリズリーは二体。少し時間はかかったけど、中々の稼ぎじゃないか」

 この地に着いたのが、今日の昼前。そして、今はもう日が暮れかけている。依然来た時より、確実に倒す時間は短縮出来ているのだが、如何いかんせん岩壁の巨熊ロック・グリズリーと出会わない。着いて早々、一体目に遭遇しなければ無駄足になる所だった。前に来た時は、ここ迄探し出すのに苦労はしなかった筈なのだが。

「おかしい。明らかに岩壁の巨熊ロック・グリズリーの数が少ない。何か、生態系に変化があったのかも知れない……」

 能天気に浮かれている俺を他所に、アスカは何やら考えて込んでいる。

 生態系?

 つまり、岩壁の巨熊ロック・グリズリーの天敵が現れたから、数が減っていると言う事か? しかし、岩壁の巨熊ロック・グリズリーはこの一帯のぬしの筈。天敵なんか、この土地には居ない筈なのだが。

 すると、微かに遠くで何かが聞こえた様な気がした。

 悲鳴?

 それも、おそらく女だ。こんな所で一体、何故……。不思議に思い、首を傾げたその時だった。

「──キャアアアアッ!!」

 今度は、ハッキリと聞こえた。間違い無い。女性の悲鳴だ。急ぎ、俺は声のした方向へ反射的に駆け出した。地肌が剥き出しの岩場から森へ入り、鬱蒼と生い茂る樹々の間を走り抜ける。声の聞こえた方角の記憶を辿り、刺さる小枝は気にも止めない。ただ、ひたすら声の主の無事を祈り、走った。そして、ようやくその姿が視界に入る。

 視界に飛び込んで来たのは、とんでもなく大きな蛇の魔物。そして、大樹を背にそれと対峙する、金髪の美女だった。

 どうやら、間に合った……。

 そう言いかけた矢先、遅れて駆け付けたアスカが声を漏らした。


「──ディ、深き森ディーペスの大蛇トスネイク!! ど、どうしてこんな場所ところに……!」
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