憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

第一章 転生編

第02話 女神

『──その個体は、まもなくお亡くなりになりますので』


　──え？　

　何だって？　

　この子が死ぬ？

（それは、その……この子は、もうすぐ死ぬって事？）

『はい。そういう運命の様ですね』

　ファラシエルは、当然の事の様に平然と答えた。

（それって決まってんの？）

『決定事項です』

（…………）

　つまり、あれか？　どうせこの子はもうすぐ死ぬんだから、今の内から取り憑いておいて、死んだら体を頂きます……みたいな感じなのか？　なんか、考え方がドライだな……発想が少し、悪魔染みてる様な気がする。こいつ、本当に女神なのか？　何だか、物凄くイメージ悪いんだけど……

（つまり……この子の死体を使えって事か？　何だか、あまり気分の良い話じゃないな。幾ら五体満足とは言え、イメージが悪いと言うか……気乗りしない。だって、死体だろ？　ゾンビみたいだ……）

『ご心配には及びませんわ。魂の定着後、体の方も貴方様に合わせて再生を始めますので。正真正銘、貴方様の新しい体になりますよ？　それに、女性の体のままですと、貴方様も何かと不自由でございましょう？』

　そう説明するファラシエルの声は、クスクスと少し笑っている様な気がした。それにしても……

　──女の体で転生か。それは、それで……。

　いかんいかん。つい、邪よこしまな煩悩に流されるところだった。自分の体に興奮するとか、それこそ新種の変態じゃないか……

（ま、まぁそうだな。それなら問題ない）

『…………』

　なんだか、ジト目の女神が想像出来た。姿形は適当だけど。

（因みにだが……死んだ後、この子の魂はどうなるんだ？）

　慌てて、話題を変える。

『死後も、貴方様が新しい人生を全うするまでは、その方の魂はこの世界……そして、その体から離れる事が出来ません。あくまで、今、魂が同化しているその体との繋がりが切れた時に、初めて輪廻の輪へと帰る事が出来ます』

　何事も無かったかの様に、説明を再開するファラシエル。どうやら、さっきの件は上手く誤魔化せたみたいだ。

（つまり……どうなるんだ？）

　俺は、もう少し詳しい説明を求めた。魂とか輪廻とか……いまいち良く分からない。

『貴方様の魂の片隅をお借りして、その体に留まりますの。つまり、今の状況と逆ですね。但し、死後、その魂が自我に目覚める事はございません』

（なるほど。大体、事情はわかった……様な気がする）

　要するに、死んでも魂は俺の中に存在するけど、今の俺の様に自我は無い、という事か。

『貴方様は、こう言っては何ですが……前世では非常にお辛い経験をなされたみたいですので。こちらの世界では、少々、前世の常識とは違った部分もあるかと思いますが、寧ろ貴方様の場合は、こちらの世界の方が上手くやれると思いますわ』

　何だか、同情されているみたいで気分悪いな……。それにしても、俺向きっていうのはどう言う意味だろう。ぼ・っ・ち・に優しい世界って事か？

（別に、俺だけが特別、辛い経験をしたとは思って無いんだけど……あんた、いつもこんなお節介をやいてんの？　俺みたいな奴を、いちいち転生させたりなんかして……）

　もし、本当にこいつが本物の女神なんだとしたら、自分で言うのも何だけど、俺はわざわざ気にかけて貰う程の人間じゃない。どちらかと言えば、碌な人間じゃないと思っている。

『いいえ。いつも、こんな事をしている訳ではありませんわ。今回は、偶々たまたま……本当に偶々ですの。こちらにも事情がありまして……普段は、個々の人格に対して干渉するなんて事は、まずあり得ません。まして、その人生に介入を試みるなんて……私わたくし達にとって、人間の人生とは、あくまで何百億、何千億分の内の一つでしかありませんので。そう言う意味では、貴方様は本当に運が良かったと言えるのかも知れませんね』

　そりゃそうだ。確かに、こんな事を毎回やっていたら、世の中、転生者だらけになってしまう。

（運が良かった……か。確かに、そうかも知れないな。そう言えばさっき、気になる事を言っていたな……こっちの世界では常識が何とかって。どういう意味だ？）

『こちらの世界は、所謂、貴方様のいた世界の並行世界パラレルワールドみたいな物ですの……簡単に言いますと。まあ、厳密には、全く違うんですけどね。貴方様の生きた世界とは、生命の進化も、歴史や文化も……そして、環境も。何もかもが全く違う運命を歩んできた、『似て非なる世界』。中には、貴方様のいた世界と似たような運命を辿った部分も、多少はあるみたいですけど』

　似て非なる世界……どういう事だ？　似たような運命を辿った部分と言う意味も、さっぱり良く分からんが。それより、転生といえば……

（もしかして、よくある剣と魔法のファンタジー……みたいな世界なのか？）

『ふふふ……そう言うのもありますね、こちらの世界では。他にも、貴方様の世界で言う亜人とか、魔物なんかも居ますよ』

（──マジか！？）

　俺は、思わず反応した。まさか、本当にそんな世界があるなんて。俺の反応を予測してたのか、ファラシエルが悪戯っぽく笑っている様な気がした。

『ええ。ご自分の目で、お確かめ下さるのもお楽しみの一つかと……他に何か、お聞きになっておきたい事はありますか？』

　ファラシエルは、淡々と話を進めて行く。

（そうだな……正直、一度にいろいろ聞き過ぎて、いまいち実感が沸かん。転生とか再生とか……とんでもない話ばかりだしな。とりあえず、あんたの言う様に、まずは適当に自分の目で確かめてみる）

　いきなりのラノベみたいな展開に、俺の理解がついて行かない。転生？　異世界？　自分の目で見てみる迄は、とてもじゃ無いけど信じられない。

『そうですか……魔法とか魔物とか、もう少し色々とお聞きになられると思っていたのですが。貴方は、私が思うよりも肝が据わっていらっしゃる方の様ですね』

（どっちにしろ、自分の目で見てみるまでは信用出来ないからな）

　そりゃあ、聞きたい事は山程ある。だが、正直、とても理解出来そうに無い。ファラシエルは肝が据わっているとか言ってるが……寧ろ俺は、どちらかと言うと、自分の見た物しか信じられない小心者だ。

『わかりました。では再生の時まで、もう暫くお待ち下さいませ。ちょっとしたプレゼントもご用意しておりますので』

（プレゼント？）


《うふふ……貴方様が、前世から無意識の内に望んでいた力プレゼントです。私にも、その詳細は分かり兼ねますが──》

　力って……これはもしかしてチートって奴か！？　いよいよラノベ展開か！？　だけど、授ける張本人も分かっていない力って……一体、どういう事だろう。

（力、ねえ……それはちょっと気になるけど、分からない物を気にしても仕方ないか……）

『この世界ではきっと役に立つと思いますわ。それでは私わたくしはこの辺で……』

　そう言って暫くすると、女神ファラシエルの気配が消えたのが何となく分かった。それにしても……

　──転生。

　──亜人や魔物。

　──剣と魔法がある異世界。

　なんだか現実味のない言葉ワードが並んでるな。だけど、これは紛れもない現実らしい。

　まあ、あのクソみたいな人生に比べたら、どんな世界だろうがマシだろう。亜人や魔物もいるみたいだし。俺は人間なんかより、そっちの方がよっぽど興味深い。勝手なイメージだが、亜人の方が信用出来そうな気がする。人間よりも柵しがらみとかも少なそうで……何となくだけど。
　
　今度はもう少しマシな人生になるんだろうか……

　それにしても……とりあえず、何をしたらいいんだろう？

　俺は、ようやく今の状況が見えてきて、これからの事を考える余裕が少し出て来た。あーだこーだとくだらない事を考えていたら、そう言えばさっきから何か聞こえている事に気付く。

「──〇△×□っ！　誰なんですかっ！？」

　

　そうだ……俺は今、この子に取り憑いているんだった……