憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

真木悔人

文字の大きさ
5 / 61
第一章 転生編

第04話 似た者同士

しおりを挟む
「──私は……ゆ、雪といいます」


 雪……か。綺麗な名前だな。しかし……。どうやら、俺達は似た者同士だったみたいだ。
 
 同士。

 彼女が何故、その様な境遇なのかは分からない。だが、妙に親近感が沸いて来るんだから不思議だ。

 しかし、前世から通して、初めてとも言える様な友人候補が、まさか女の子だとは……転生早々、幸先がいい。しかも、魂で繋がった関係とか。まるで、アニメや漫画みたいだ。
 
 文字通り、リアルに魂が繋がっているんだから、嘘も裏切りも心配無い。これ以上無いってくらい、信用は出来そうだ。友人なんて要らないと思っていたが、もしかしたら彼女となら、俺でも良い関係が築けるのかも知れない。

 しかし、女の子か……某掲示板によると、異性間の友情は成立するとかしないとか。もしかしたら、友人から更に発展して……なんて事もあるかも知れない。いよいよ俺も、独り身を卒業する時が……まずは、健全なお付き合いから……いやいや、いきなり恋人とかじゃなくて、やはりここはじっくりと友情を深めてから……フフッ、妄想が止まらない。

 ──ん? 待てよ?

 俺の意識が一瞬、雷に打たれた様な衝撃に襲われた。大事な事を忘れていた。妄想に耽っている場合じゃ無い。気付いた……気付いてしまった……。

 ──彼女は、もうすぐ死ぬ運命じゃないか。

 一瞬、頭の中がまっ白になった。よくよく考えてみたら俺、友人になっても彼女にはちゃんと会えないじゃないか。ましてや、恋人なんて無理ゲーだ。なのだから。

 ──あっ! やばい!

 俺の不安が、彼女に伝わっている様な気がする。慌てて別の事を考えて、気持ちを落ち着かせようとしていた、その時。

「私とお話しするのは……嫌ですか?」

 何て事を言うんだ!

 そんな事はない! 

 そうじゃないんだ!

 どうやら、俺が流した不安な感情は、彼女に対する不満だと勘違いされた様だ。とりあえずは誤魔化せたみたいで助かった。彼女には、自分がもうすぐ死ぬ運命だなんて悟られたく無い。漠然とした感情は感じ取れても、思考までは意識しなければ伝わらない様で、今のは悟られずに済んだみたいだ。

(すまん。少し、考え事をしてたんだ。転生して来たばかりで、この世界の事をまだ全然知らないからな。漠然とした不安が伝わったんだろう。不安にさせたみたいで悪かった)

 何とか誤魔化そうと出任せを言う。

「いいえ……良かった。初めてのお、お友達に嫌われたのかと思いました」

 彼女も、少し不安だったみたいだ。変に戸惑わせてしまった……

(お互い、まだ何も知らないのに、嫌いも何も無いだろう。それに、今だって俺が嫌いではないって事が、感情の波を通して伝わっているんだろ?)

「ふふふ……はい。わかります。少し恥ずかしいですけど……とても嬉しいです」

 やっぱり感情が伝わるのって、こういう時は便利だな。お互い、嘘をついて無い事が分かるから安心できる。

(なら良かった。で、ひとつ提案があるんだが)

 俺は気になっている事を話してみる事にした。

「何ですか?」

(俺は、君の事やこの世界の事をもっと知りたい。その為には、いろいろと話をしたいんだけど……試しに、声に出さずに話してみてくれないか?)

「あっ! 確かに……これじゃ、端から見れば怪しい独り言ですね……」

 そう言う事だ。このままだと、彼女はただの不審者になってしまう。彼女──雪は、そう言ってクスクスと笑い始めた。

『伝わってますか?』

 雪のが、鮮明に俺へと伝わって来る。

(ああ……ばっちりだ。これで、安心して話しかけられる)

『そうですね』

 そう言って、雪は足を止めると木陰にそっと腰をおろし、樹にもたれかかる様にして座った。そして、空を見上げて大きく息を吐き出す。腰を据えて、話す準備が出来た様だ。

(そもそも、こんな森に女の子が一人で何してたんだ?)

 何気ない会話。実際、俺の常識では余り考えられないシチュエーションだし。

『食べ物……木の実でも、雑草でも。食べる物がないか探してたんです』

 意外な答えが返って来る。

(……食うに困るような生活なのか?)

 まさか。

『はは……毎日、腹ペコです』

 何となくだが、雪の表情は感覚で把握出来る。雪は、苦笑いを浮かべながら、自嘲気味にそう答えた。

 しかし、驚いた……そんなところまで前世の俺と被るのか。何だかもう、他人事とは思えなくなってきた。この子に腹いっぱい食べさせてやりたい。だけど俺、何もしてやる事が出来ないんだよな……体が無いし。せっかく転生して来たというのに、何だかもどかしい。

(俺には……何もしてやる事が出来ない。俺は他人の事なんてどうでもいい人間だけど……今は、凄く悔しい)

『ありがとう。その気持ち……伝わってるから分かります』

 今度は、はっきりと笑っているのが分かった。

『それより、いっぱいお話しませんか? 真人さんの事、聞かせて下さい。私の事も知って欲しいし、この世界の事も知りたいでしょ?』

 悪戯っぽく笑っているのが、何となくわかる。雪はそう言うと、更に言葉を付け加えた。

『それに、お話ししていると、お腹ペコペコなのも忘れられるくらい楽しいんです』

 何だか、もの凄い無力感を感じる。だけど、本当に話をするくらいで空腹が紛れるのなら、いくらでも付き合おう。どうせ、何もしてやれないんだし。その方が、俺も少しは気が紛れる。

 この世界については正直、色々と聞きたい事があるんだが……その前に、まずは今の状態をもっと正確に把握しておきたい。俺が共有出来る感覚を、しっかりと確めておいた方が良さそうだ。いまいち、まだよく分かってないし。確認したい事は、それこそ山程ある。

 お互いの感情ってどこまで伝わるのか?

 雪が見ている物が俺にも見えているみたいだけど……音とか匂いとかも俺に伝わるのか?

 痛みとか空腹とか、そういう体の感覚は?

 とりあえず、ひとつひとつ、確認していくしかなさそうだ。


 ──俺達はお互いに話し合いながら、ひとつひとつ確認作業を繰り返した。


 確かに、最初はこの歪な関係に戸惑った。だが、確認作業が終わる頃には、いつの間にか俺達は、当たり前の様に打ち解けていた。気が付けば、俺も雪も、たわいもない話を夢中で話し続けていたのだ。

 本当は俺も、心を許せる話し相手に飢えていたのかもしれない。そして、どうやら雪も、今までずっとひとりで暮らして来た様だった。特に親しい人間はいないらしい。つまり、俺と同じだ。

 俺達は、まだ出会って間も無いにも関わらず、いつの間にか、強く惹かれ合う様になっていた。こんな事は初めてだ。人間を信用できない俺が、雪とは何故か、安心して話す事が出来る。裏切られる心配が無いからだろうか。それとも、普通の関係では無いからか? やはり、魂が繋がっているのが大きいのかも知れない。お互いに、心の奥底で繋がっている様な、全てを分かり合えている様な……そんな、不思議な感覚だった。

 そして、俺達は、ようやくお互いの感覚のについて共有状況の確認を終える。

 ・お互いの感情は、でなんとなく伝わる。感情の揺れが大きい程、伝わる波も大きくなる。

 ・相手に話しかけるつもりで呼びかけないと、思考までは相手に伝わらない。

 ・視覚は、雪の視界の範囲しか俺には見えない。

 ・聴覚は、雪の聞こえているものしか俺には聞こえない。

 ・触覚、嗅覚、味覚は俺には伝わらない。

 みたいな感じだ。

 因みに、雪の表情くらいなら何となく分かる。そして、嘘をつくと不安や罪悪感で感情が乱れ、相手に伝わってしまう様だ。気をつけよう……。
 


 雪の体に干渉……所謂いわゆる、乗っ取りみたいな事もしてみたが、それはダメだった。決して、よこしまな理由では無い事だけは分かって貰いたい……。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

処理中です...