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第一章 転生編
第07話 心を抉る言葉
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俺が雪の中で同居し始めて、一ヶ月程が経っていた。
この頃の俺達は既に、お互い、無くてはならない様な存在にまでなっていた。
不思議な気分だった……。
俺は、あれだけ前世では誰も信じる事が出来なかったのに、雪の事はすんなりと受け入れている。相変わらず、雪を通して出会う他の人間には、何の感情もわかないのだが……やはり、俺は魂が繋がっている特殊な状況にいるからこそ、こうして雪を信頼出来るのかも知れない。
雪さえいればそれでいい。
そう思えた自分に驚いていた。未だに、他の人間の事はどうでもいいのだが。
いずれ、雪は本当に死んでしまうのだろうか……
俺は、自分が転生する為とはいえ、雪ともう会えなくなる事の方が怖いとさえ感じる始めていた。しかし、いくら考えても答えが出せなかった俺は、自然に、その事を考えない様にしていた。
──そして今、俺達は町の外郭の川沿いにある、落人の集落にいる。
雪は、自分と同じ様にこの町の人間から虐げられている、その集落の中でも特に身分の低い子供達へホルモンを振る舞っていた。
子供達は最初の頃、見たことも無い食べ物に戸惑いを見せた。しかし、雪が目の前でひとつ食べて見せると、空腹には耐えられなかったのか、皆、恐る恐る手を伸ばし始めたのだ。
今では、子供達が雪を見かけると、自然に集まって来る様にまでなっている。数日に一度、こうして雪が子供達に、ホルモンを振る舞い続けて来た結果だろう。
この日も雪が集落を訪れると、待ちきれなかった様に子供達が集まって来た。雪を囲む子供達の瞳の奥には、僅かにだが光が宿り始めている。
(嬉しそうだな、雪)
『はい。ここでこうして子供達に、食べ物を振る舞ってあげられるのが凄く嬉しいんです。これも、真人さんのおかげです』
確かにここ最近、雪は凄く楽しそうだ。ここでこうして、子供達と触れ合うのが嬉しいのだろう。
今まで、ずっと一人だったんだもんな……
──その時、俺はふと気付いた。
ここには集落があり、子供達もこんなにいるのに、どうして雪は離れて一人で暮らしているんだ?
ここの住人は貧しいながらも、助け合って生きている。雪にとっても、一人で暮らすよりはマシな筈だ。なのに、どうして雪はその輪に入らないんだろう?
そういえば……
大人も数人は混じっている物の、集まって来るのは大体が子供だ。ここの大人たちと上手くいっていないのか? 過去に何か、問題でもあったのだろうか。
一度気になり始めると、今まで意識もしていなかった物に気が付く様になる。さっきから雪を遠巻きに見ている人間……ここの大人達だ。
能面の様な、無表情。氷の様に冷たくて、蔑む様な目で此方の様子を伺っている。何故あんな目で雪を見るのだろう?
そんな事を考えていると、視界の端に子供達の輪の外でおどおどと、様子を伺っている茶髪の少年が見えた。今まで、見た事が無い子だ。おそらく、人の輪に入って行くのが苦手なんだろう。俺も苦手だったから気持ちは分かる。
「こっちにおいで。一緒に食べましょう」
雪が、手招きをしながらその少年に、優しく語り掛けている。少年はキョロキョロと何かに脅える様に、周りの様子を伺いながら、遠慮がちに近ずいて来た。雪の顔を見上げているその少年は酷く脅え、とても悲しそうな暗い瞳をしていた。
「どうしたの? いっぱいあるから、遠慮しなくてもいいんだよ?」
雪は膝を折り少年に目線を合わせると、優しく頭を撫でながら語りかけた。
「お姉ちゃん……ありがとう」
よほど空腹だったのか、少年は美味しそうにホルモンを頬張っている。
「お姉ちゃん、おかわり!」
「お姉ちゃん、次はいつ来るの?」
「ありがとう。お姉ちゃん!」
子供達が周りを取り囲み、雪の争奪戦を始め出した。雪の両腕にしがみつき、自分に構ってくれと、おねだりする様に引っ張り合う子供達。雪は困った様に子供達を宥めているが、その表情は明らかに嬉しそうだった……。
『──私が子供の頃は、こうして満足に食べる事も、皆で笑って食事する事も出来なかったので……この子達には、そんな思いをして欲しくないんです』
雪は少し落ち着いたのか、川の辺に腰かけると、子供達を優しい目で眺めながら俺に語り出した。
『この集落の人達は……戦で負傷してしまった人達や、罪人の親族の方達なんです。だから、ここの人達には……ましてや、子供達には何の罪も無いんです……』
(ここの子供達を、自分の子供時代と重ねているのか?)
だけど、だったら何で、雪は昔から一人なんだろう。
ここの住人が罪の無い人達なんだとすれば、雪もここで暮らせば良かったんじゃ……ここの環境も恵まれてるとは言えないけど、今みたいに、一人で生活するよりは遥かにマシな筈だ。それとも、この集落では暮らせない理由でもあるのだろうか?
『そうなのかも知れません。ただ……子供達の瞳は純粋なんです』
──瞳……。
そうか!
だから、雪は子供達と居る時、こんなに嬉しそうな表情をするんだ。確かに、ここの大人達や町の人間の、雪に対する視線や態度は異常だ。だから雪は、自分を純粋な瞳で見てくれる子供達が好きなんだ。
今も此方を伺っている、大人達の冷たい視線……理由はわからないが、おそらく雪は子供の頃から、ずっとこんな目で見られて来たのだろう。雪が集落にも入らず一人で暮らすのは、もしかしたら、この目に何か原因があるのかも知れない。
(この町には、子供達だけでも受け入れてくれる様な、そんな孤児院とか教会みたいな所は無かったのか?)
そういう施設があるのなら、雪は今までこんな生活をしなくても済んだはずだ。
『私は……そういう施設には入れないんです。ここの子供達も。罪人の親族は、孤児院では受け入れて貰えないんです』
という事は、雪は罪人の親族って事なのか? いや、それじゃあこの集落に入らない理由にはならない。
町でも暮らせない、孤児院にも受け入れて貰えない、集落にも入らない。それに、あの目……
──何か、軽々しく聞いてはいけない様な気がする。どうやら、雪はとても重い物を背負っている様だ。
だけど、俺には事情なんてどうでもいい。どんな理由があっても、雪にこんな生活をさせたくないし、雪を理不尽に虐げている奴らにも腹が立つ。元々俺は、雪以外の人間は信用していないし、興味もない。
その時、ふいに意識の外から何かが聞こえて来た。
何だ?
雪が、声のする方に視線をやると、先程の茶髪の少年と母親らしき三十代位の女が、俺の視界にも飛び込んできた。
「──こんなものっ! さっさと捨てなさいっ! 汚らわしいっ!」
女は、少年からホルモンを取り上げて投げ捨てている。
「ああっ! せっかくお姉ちゃんが持って来てくれたのに……」
少年は食べ物を取り上げられた悔しさと、雪に対する申し訳なさで、顔を真っ赤にして涙ぐんでいる。母親らしきその女は、少年の腕を掴み、強引に引きずって行こうとしていた。
「あ……あの……」
雪がおずおずと少年、そしておそらく母親であろう女との間に割って入った。
「何よっ!!」
うわぁ……
近くで見ると、強烈なババアだ。下品な顔付きで、神経質そうな目と細い眉が吊り上がっている。この母親の目を盗んで来たから、あんなにおどおどしてたのか。
「な……何か問題ありましたでしょうか?」
「問題も何も、人の息子に変な物、勝手に食べさせるんじゃないわよっ!」
ヒステリックに怒鳴り付けて来る、ババア。あんたの息子、腹ペコで死にそうになってたじゃないか……ここまで息子にメシを食わせて置かないで、何を言っているんだ、こいつは。
「いえ、あの……私は良かれと思って……意外と美味しいんですよ、これ……?」
「はぁ? 美味しい? 知ってんのよっ! こんなの、捨てるだけのゴミじゃない!」
馬鹿か、こいつ! ホルモンは完全栄養食品だぞ。高たんぱくで低脂肪、鉄分、ミネラル、ビタミンAやB1、B2も豊富に……
「子供達がお腹を空かせてたので、少しでも栄養のある物をと思って……」
雪……今、俺の思考流れてただろ……。
「あんたなんかの施しは受けないわ! あんたには……あんたにだけは! 迷惑だから、この集落に関わらないで頂戴!」
「わ、私はただ……」
「教会に目を付けられたらあんたのせいよ! 全く、汚らわしいっ!」
「…………」
雪は、黙り込んでしまった。ちょっと視界が潤んでいる。涙が溜まっている様だ。
「ふん! 下賤な存在が偉そうに……私達に施しなんて。対等にでもなったつもり?」
さっきまで怒り狂っていたのが嘘のように、スッとババアの顔から表情が消える。そして、あの冷徹な目になった。蔑む様な、人を見下した様な……あの目だ。一体、何なんだ……どいつもこいつも。
よほどショックだったのか、雪が呆然としていると、ババア……いや、クソババアは、捨て台詞を吐きながら、少年を引っ張って立ち去って行った。少年は、終始、申し訳なさそうな悲しい目でこちらを見つめていた。
(雪……大丈夫か?)
『……』
視界が涙でぼやけ、揺れている。目から溢れそうな涙を必死で堪えているのだろう。雪は俯いたまま、暫くそのまま立ち尽くしていた。少しでも動けば、涙が零れ落ちてしまいそうだった。
──雪がようやく動ける様になった時は、いつの間にか辺りに人影は無くなり、寒々とした景色を夕暮れの空気が静かに包み込んでいた。
この頃の俺達は既に、お互い、無くてはならない様な存在にまでなっていた。
不思議な気分だった……。
俺は、あれだけ前世では誰も信じる事が出来なかったのに、雪の事はすんなりと受け入れている。相変わらず、雪を通して出会う他の人間には、何の感情もわかないのだが……やはり、俺は魂が繋がっている特殊な状況にいるからこそ、こうして雪を信頼出来るのかも知れない。
雪さえいればそれでいい。
そう思えた自分に驚いていた。未だに、他の人間の事はどうでもいいのだが。
いずれ、雪は本当に死んでしまうのだろうか……
俺は、自分が転生する為とはいえ、雪ともう会えなくなる事の方が怖いとさえ感じる始めていた。しかし、いくら考えても答えが出せなかった俺は、自然に、その事を考えない様にしていた。
──そして今、俺達は町の外郭の川沿いにある、落人の集落にいる。
雪は、自分と同じ様にこの町の人間から虐げられている、その集落の中でも特に身分の低い子供達へホルモンを振る舞っていた。
子供達は最初の頃、見たことも無い食べ物に戸惑いを見せた。しかし、雪が目の前でひとつ食べて見せると、空腹には耐えられなかったのか、皆、恐る恐る手を伸ばし始めたのだ。
今では、子供達が雪を見かけると、自然に集まって来る様にまでなっている。数日に一度、こうして雪が子供達に、ホルモンを振る舞い続けて来た結果だろう。
この日も雪が集落を訪れると、待ちきれなかった様に子供達が集まって来た。雪を囲む子供達の瞳の奥には、僅かにだが光が宿り始めている。
(嬉しそうだな、雪)
『はい。ここでこうして子供達に、食べ物を振る舞ってあげられるのが凄く嬉しいんです。これも、真人さんのおかげです』
確かにここ最近、雪は凄く楽しそうだ。ここでこうして、子供達と触れ合うのが嬉しいのだろう。
今まで、ずっと一人だったんだもんな……
──その時、俺はふと気付いた。
ここには集落があり、子供達もこんなにいるのに、どうして雪は離れて一人で暮らしているんだ?
ここの住人は貧しいながらも、助け合って生きている。雪にとっても、一人で暮らすよりはマシな筈だ。なのに、どうして雪はその輪に入らないんだろう?
そういえば……
大人も数人は混じっている物の、集まって来るのは大体が子供だ。ここの大人たちと上手くいっていないのか? 過去に何か、問題でもあったのだろうか。
一度気になり始めると、今まで意識もしていなかった物に気が付く様になる。さっきから雪を遠巻きに見ている人間……ここの大人達だ。
能面の様な、無表情。氷の様に冷たくて、蔑む様な目で此方の様子を伺っている。何故あんな目で雪を見るのだろう?
そんな事を考えていると、視界の端に子供達の輪の外でおどおどと、様子を伺っている茶髪の少年が見えた。今まで、見た事が無い子だ。おそらく、人の輪に入って行くのが苦手なんだろう。俺も苦手だったから気持ちは分かる。
「こっちにおいで。一緒に食べましょう」
雪が、手招きをしながらその少年に、優しく語り掛けている。少年はキョロキョロと何かに脅える様に、周りの様子を伺いながら、遠慮がちに近ずいて来た。雪の顔を見上げているその少年は酷く脅え、とても悲しそうな暗い瞳をしていた。
「どうしたの? いっぱいあるから、遠慮しなくてもいいんだよ?」
雪は膝を折り少年に目線を合わせると、優しく頭を撫でながら語りかけた。
「お姉ちゃん……ありがとう」
よほど空腹だったのか、少年は美味しそうにホルモンを頬張っている。
「お姉ちゃん、おかわり!」
「お姉ちゃん、次はいつ来るの?」
「ありがとう。お姉ちゃん!」
子供達が周りを取り囲み、雪の争奪戦を始め出した。雪の両腕にしがみつき、自分に構ってくれと、おねだりする様に引っ張り合う子供達。雪は困った様に子供達を宥めているが、その表情は明らかに嬉しそうだった……。
『──私が子供の頃は、こうして満足に食べる事も、皆で笑って食事する事も出来なかったので……この子達には、そんな思いをして欲しくないんです』
雪は少し落ち着いたのか、川の辺に腰かけると、子供達を優しい目で眺めながら俺に語り出した。
『この集落の人達は……戦で負傷してしまった人達や、罪人の親族の方達なんです。だから、ここの人達には……ましてや、子供達には何の罪も無いんです……』
(ここの子供達を、自分の子供時代と重ねているのか?)
だけど、だったら何で、雪は昔から一人なんだろう。
ここの住人が罪の無い人達なんだとすれば、雪もここで暮らせば良かったんじゃ……ここの環境も恵まれてるとは言えないけど、今みたいに、一人で生活するよりは遥かにマシな筈だ。それとも、この集落では暮らせない理由でもあるのだろうか?
『そうなのかも知れません。ただ……子供達の瞳は純粋なんです』
──瞳……。
そうか!
だから、雪は子供達と居る時、こんなに嬉しそうな表情をするんだ。確かに、ここの大人達や町の人間の、雪に対する視線や態度は異常だ。だから雪は、自分を純粋な瞳で見てくれる子供達が好きなんだ。
今も此方を伺っている、大人達の冷たい視線……理由はわからないが、おそらく雪は子供の頃から、ずっとこんな目で見られて来たのだろう。雪が集落にも入らず一人で暮らすのは、もしかしたら、この目に何か原因があるのかも知れない。
(この町には、子供達だけでも受け入れてくれる様な、そんな孤児院とか教会みたいな所は無かったのか?)
そういう施設があるのなら、雪は今までこんな生活をしなくても済んだはずだ。
『私は……そういう施設には入れないんです。ここの子供達も。罪人の親族は、孤児院では受け入れて貰えないんです』
という事は、雪は罪人の親族って事なのか? いや、それじゃあこの集落に入らない理由にはならない。
町でも暮らせない、孤児院にも受け入れて貰えない、集落にも入らない。それに、あの目……
──何か、軽々しく聞いてはいけない様な気がする。どうやら、雪はとても重い物を背負っている様だ。
だけど、俺には事情なんてどうでもいい。どんな理由があっても、雪にこんな生活をさせたくないし、雪を理不尽に虐げている奴らにも腹が立つ。元々俺は、雪以外の人間は信用していないし、興味もない。
その時、ふいに意識の外から何かが聞こえて来た。
何だ?
雪が、声のする方に視線をやると、先程の茶髪の少年と母親らしき三十代位の女が、俺の視界にも飛び込んできた。
「──こんなものっ! さっさと捨てなさいっ! 汚らわしいっ!」
女は、少年からホルモンを取り上げて投げ捨てている。
「ああっ! せっかくお姉ちゃんが持って来てくれたのに……」
少年は食べ物を取り上げられた悔しさと、雪に対する申し訳なさで、顔を真っ赤にして涙ぐんでいる。母親らしきその女は、少年の腕を掴み、強引に引きずって行こうとしていた。
「あ……あの……」
雪がおずおずと少年、そしておそらく母親であろう女との間に割って入った。
「何よっ!!」
うわぁ……
近くで見ると、強烈なババアだ。下品な顔付きで、神経質そうな目と細い眉が吊り上がっている。この母親の目を盗んで来たから、あんなにおどおどしてたのか。
「な……何か問題ありましたでしょうか?」
「問題も何も、人の息子に変な物、勝手に食べさせるんじゃないわよっ!」
ヒステリックに怒鳴り付けて来る、ババア。あんたの息子、腹ペコで死にそうになってたじゃないか……ここまで息子にメシを食わせて置かないで、何を言っているんだ、こいつは。
「いえ、あの……私は良かれと思って……意外と美味しいんですよ、これ……?」
「はぁ? 美味しい? 知ってんのよっ! こんなの、捨てるだけのゴミじゃない!」
馬鹿か、こいつ! ホルモンは完全栄養食品だぞ。高たんぱくで低脂肪、鉄分、ミネラル、ビタミンAやB1、B2も豊富に……
「子供達がお腹を空かせてたので、少しでも栄養のある物をと思って……」
雪……今、俺の思考流れてただろ……。
「あんたなんかの施しは受けないわ! あんたには……あんたにだけは! 迷惑だから、この集落に関わらないで頂戴!」
「わ、私はただ……」
「教会に目を付けられたらあんたのせいよ! 全く、汚らわしいっ!」
「…………」
雪は、黙り込んでしまった。ちょっと視界が潤んでいる。涙が溜まっている様だ。
「ふん! 下賤な存在が偉そうに……私達に施しなんて。対等にでもなったつもり?」
さっきまで怒り狂っていたのが嘘のように、スッとババアの顔から表情が消える。そして、あの冷徹な目になった。蔑む様な、人を見下した様な……あの目だ。一体、何なんだ……どいつもこいつも。
よほどショックだったのか、雪が呆然としていると、ババア……いや、クソババアは、捨て台詞を吐きながら、少年を引っ張って立ち去って行った。少年は、終始、申し訳なさそうな悲しい目でこちらを見つめていた。
(雪……大丈夫か?)
『……』
視界が涙でぼやけ、揺れている。目から溢れそうな涙を必死で堪えているのだろう。雪は俯いたまま、暫くそのまま立ち尽くしていた。少しでも動けば、涙が零れ落ちてしまいそうだった。
──雪がようやく動ける様になった時は、いつの間にか辺りに人影は無くなり、寒々とした景色を夕暮れの空気が静かに包み込んでいた。
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