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第二章 樹海の森編
第25話 A級の魔物
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「本当に近くまで行くだけですよ?」
念押しする様に、ウォルフが俺に語りかけてきた。
俺は今、狼型になったウォルフの背に跨り、魔神が住むという東の川の上流を目指している。ウォルフはその案内の為、俺達に同行してくれていた。実際は俺に魔神の事を話してしまったと言う、罪悪感がそうさせたみたいだけど。
狼型になったウォルフは、ラルよりも一回り大きな真っ白い姿だった。ウォルフとラルは兄妹らしい。そしてウォルフは、狼型になっても普通に言葉が話せた。これは族長だけの能力だそうだ。俺は目的地を目指す道中でウォルフから樹海の森や魔神の事を色々と教えて貰った。
──樹海の森。江戸の町の西側に拡がっている、めちゃくちゃ広大な樹海だ。前世で言うと富士の樹海が東京、神奈川の一部まで拡がって来ている感じでめちゃくちゃ広い。勿論、こっちの樹海には魔物とかが棲息していて危険度は比でもないけど。
ウォルフの話では、この樹海には中央と東と西に水源の違う大きな川が其々あって、上流に行く程、力の強い種族や魔物達が支配しているらしい。狼人族は東の森と呼ばれる中央の川より東側の森で、東の川の中流近くに住んでいたそうだ。他にも樹海には多数の種族が存在していて、広い樹海ではお互いに出来るだけ干渉しない様にして暮しているらしい。
その中で東の川の上流地帯だけは、昔からどの種族の物でも無いそうだ。いろんな種族が自分達の縄張りにしようとしては、事如く全滅を繰返して来たらしい。そんな中で何人かの生き残りが魔神の姿を見たと話したらしく、自然と森に住む者達は上流地帯には近寄らなくなったそうだ。それ以来「彼の地には近づくな」と言うのが各種族の間では暗黙の了解になったらしいのだが……
それにしても、魔神とはどんな奴なんだろう。近寄る者は許さない的な好戦的なタイプなんだろうか。今の俺なら簡単には殺されないとは思うけど……倒したら伝説の武器とかが手に入ったりするのかな。
俺がそんな馬鹿な事を考えていると、目の前に川が見えて来た。思っていたよりもずっと大きな、自然のままの綺麗な川だ。
「あれが東の川です。この辺りはまだ中流付近ですが、もう少し行くと上流地帯と呼ばれる地域に差し掛かります」
ウォルフが俺を乗せたまま狼の姿で説明した。
「そうか。ありがとう、この辺でいいよ」
俺はそう言って跨っていたウォルフから降りると、同行している筈の楓の姿を探した。ラルに跨っていた楓は俺がウォルフから降りたのを確認すると、合わせる様にラルから降りて俺の側へ歩いて来た。
「真人様、本当に上流へ向かわれるのですか?」
楓が心配そうな顔で問いかけて来た。視線はチラチラと上流の方を伺っている。
『真人さんが言って聞く訳無いじゃないですか』
すかさず雪が割り込んできた。
(その通りだ)
さすが、雪はわかっている。俺はもう行くと決めていたので今更考える余地はない。
「真人殿。申し訳無いが私達がお送り出来るのはここまでです。私は種を率いる者として、この先には独断では入れません。理解して下さい」
いつのまにか人型になったウォルフが、申し訳なさそうに申し出てきた。
「ああ、わかってるよ。ここ迄で充分だ、ありがとう。楓もそんなに心配するな……何ならお前は家康の所へ戻っても構わないぞ?」
『その通りです。真人さんには私が居れば充分です』
ウォルフは族長だからな。危険な場所とわかっていて勝手な行動をとる訳にもいかないだろう。楓にしても無理して俺に付き合う必要はない。別に他領と接触しようとしている訳では無いんだし……俺の居場所さえ掴んでいれば、家康への報告としては充分だろう。雪は何だか目的が違うみたいだけど。
「そう言う訳にはいきません。私もお供致します」
『チッ』
楓は少し不安そうな顔をしながらも、決意の籠った目で俺に言い切った。
他にも何か聞こえた様な気がしたけど気にしない。
「申し訳ない。貴殿の無事を願っています」
「……そうか、わかった。ウォルフも気にするな、ありがとう」
すると突然、川の方から轟音が響いた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオォンッ!!
「「「な、何だ?!」」」
俺達は一斉に視線を川の方に向けた。
「なっ!? キングアリゲーターだとっ!?」
「こんな所に何故……A級の魔物が……」
でかいっ! 顔だけでも象くらいある。殆ど恐竜みたいなワニだ。
ウォルフは驚いて目を剝いている。楓曰く、こいつはA級の魔物らしい。たしかS級が一番強くて、その下にA級からC級まであるんだったっけ……と言う事は、こいつは上から二番目か。一体、どれくらいの強さなんだろう……
「強いのか?」
俺は思ったままに尋ねた。
「こいつ等は上流の魔物のはず……どうしてこんな所に」
「A級とは一体で町一つ滅ぼし兼ねない力を持った魔物です。まさかこんな所で……」
二人とも少し混乱しているみたいだ。
どうやらA級ってのはこの世界では相当恐れられてるみたいだな。確かにでかいし強そうだけど……
だけど、こっちはこれから魔神を相手にするかもしれないんだ。こんなのに手こずる様ではそれどころの話では無い。
『やりますか?』
(そうだな。A級ってのが、どの程度か知っておくのも悪くない)
さすがに俺の能力を知っている雪は落ち着いてる。
「ラルっ! 楓殿を頼むっ!」
〈ガルウッッ〉
「真人様っ! 急ぎ撤退をっ!」
ウォルフと楓が慌ただしく動き出した。逃げるという選択をした様だ。
だけど俺は、不思議と視線の先にいる魔物にあまり驚異を感じてはいなかった。何となくだけど余裕で勝てそうな気がする。
「お前らはここで大人しくしてろ」
俺は撤退の準備を始めていた楓達に告げると戦う決意を固めた。
(いくぞ)
『はい!』
ゆっくりと刀を抜きながらキングアリゲーターに近づいた。
〈ガアアァァァァァァァッッッ!!〉
キングアリゲーターは顎が裂けそうなくらい大きく口を拡げて、俺に襲い掛かって来た。鋭い上下の歯が何重にも生えているのがはっきり見える。
「遅いな」
『右側ががら空きです』
俺は軽く右に跳んでキングアリゲーターの噛み付きを躱すと、首に目掛けて真空の刃を放った。
「【死神の刃】」
ズバアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
キングアリゲーターの首が綺麗にスパッと切れて、頭がドスンと転げ落ちた。胴体は頭が無くなった事に気がつかない様にバシャバシャと川辺で暴れ、暫くするとその動きを止めた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
地響きの様な轟音を立てて崩れ落ちたキングアリゲーターの巨体が川辺に横たわった。
「「「………………」」」
楓とウォルフ、ラルが唖然と目を剥いて立ち尽くしている。
(A級も思ったより呆気ないな)
『真人さんが強過ぎるんです』
何気ない会話を交わした雪は、特段驚いた様子も無く平然とした声で答えた。
むしろどこか呆れている様な感じにも聞こえる。
「おーい。終わったぞ」
「真人殿……貴殿は一体……」
「家康様に報告せねば……」
反応が無い。ウォルフとラルは相変わらず呆然と立ち尽くしているし、楓はブツブツと何かを呟いている。まあ、仕方無いか。俺も最初は自分のチートっ振りに少し引いたし。
俺が溜息をついているとまたしても突然、今度は何者かの笑い声が聞こえて来た。
「クハハハハハハハハハッッ!」
今度は何だ!?
男の笑い声!?
俺達が声の方を見ると、見知らぬ男がそこに浮いていた。
よく見ると蝙蝠みたいな黒い羽根が生えている。森に似つかわしく無い執事の様な格好をしたそいつは、此方を見ながら愉快そうに笑っていた。
「誰だ、お前?」
俺は平静な態度で男に話声をかけた。
男は胸に手を当てて、挨拶する様な素振りで仰々しく話し始めた。
「おっと……これは失礼。久しぶりに愉快な気持ちにさせて頂いた物で、つい挨拶が遅れました。私には名前等ありませんが……この辺では魔神とか呼ばれているみたいですね──」
念押しする様に、ウォルフが俺に語りかけてきた。
俺は今、狼型になったウォルフの背に跨り、魔神が住むという東の川の上流を目指している。ウォルフはその案内の為、俺達に同行してくれていた。実際は俺に魔神の事を話してしまったと言う、罪悪感がそうさせたみたいだけど。
狼型になったウォルフは、ラルよりも一回り大きな真っ白い姿だった。ウォルフとラルは兄妹らしい。そしてウォルフは、狼型になっても普通に言葉が話せた。これは族長だけの能力だそうだ。俺は目的地を目指す道中でウォルフから樹海の森や魔神の事を色々と教えて貰った。
──樹海の森。江戸の町の西側に拡がっている、めちゃくちゃ広大な樹海だ。前世で言うと富士の樹海が東京、神奈川の一部まで拡がって来ている感じでめちゃくちゃ広い。勿論、こっちの樹海には魔物とかが棲息していて危険度は比でもないけど。
ウォルフの話では、この樹海には中央と東と西に水源の違う大きな川が其々あって、上流に行く程、力の強い種族や魔物達が支配しているらしい。狼人族は東の森と呼ばれる中央の川より東側の森で、東の川の中流近くに住んでいたそうだ。他にも樹海には多数の種族が存在していて、広い樹海ではお互いに出来るだけ干渉しない様にして暮しているらしい。
その中で東の川の上流地帯だけは、昔からどの種族の物でも無いそうだ。いろんな種族が自分達の縄張りにしようとしては、事如く全滅を繰返して来たらしい。そんな中で何人かの生き残りが魔神の姿を見たと話したらしく、自然と森に住む者達は上流地帯には近寄らなくなったそうだ。それ以来「彼の地には近づくな」と言うのが各種族の間では暗黙の了解になったらしいのだが……
それにしても、魔神とはどんな奴なんだろう。近寄る者は許さない的な好戦的なタイプなんだろうか。今の俺なら簡単には殺されないとは思うけど……倒したら伝説の武器とかが手に入ったりするのかな。
俺がそんな馬鹿な事を考えていると、目の前に川が見えて来た。思っていたよりもずっと大きな、自然のままの綺麗な川だ。
「あれが東の川です。この辺りはまだ中流付近ですが、もう少し行くと上流地帯と呼ばれる地域に差し掛かります」
ウォルフが俺を乗せたまま狼の姿で説明した。
「そうか。ありがとう、この辺でいいよ」
俺はそう言って跨っていたウォルフから降りると、同行している筈の楓の姿を探した。ラルに跨っていた楓は俺がウォルフから降りたのを確認すると、合わせる様にラルから降りて俺の側へ歩いて来た。
「真人様、本当に上流へ向かわれるのですか?」
楓が心配そうな顔で問いかけて来た。視線はチラチラと上流の方を伺っている。
『真人さんが言って聞く訳無いじゃないですか』
すかさず雪が割り込んできた。
(その通りだ)
さすが、雪はわかっている。俺はもう行くと決めていたので今更考える余地はない。
「真人殿。申し訳無いが私達がお送り出来るのはここまでです。私は種を率いる者として、この先には独断では入れません。理解して下さい」
いつのまにか人型になったウォルフが、申し訳なさそうに申し出てきた。
「ああ、わかってるよ。ここ迄で充分だ、ありがとう。楓もそんなに心配するな……何ならお前は家康の所へ戻っても構わないぞ?」
『その通りです。真人さんには私が居れば充分です』
ウォルフは族長だからな。危険な場所とわかっていて勝手な行動をとる訳にもいかないだろう。楓にしても無理して俺に付き合う必要はない。別に他領と接触しようとしている訳では無いんだし……俺の居場所さえ掴んでいれば、家康への報告としては充分だろう。雪は何だか目的が違うみたいだけど。
「そう言う訳にはいきません。私もお供致します」
『チッ』
楓は少し不安そうな顔をしながらも、決意の籠った目で俺に言い切った。
他にも何か聞こえた様な気がしたけど気にしない。
「申し訳ない。貴殿の無事を願っています」
「……そうか、わかった。ウォルフも気にするな、ありがとう」
すると突然、川の方から轟音が響いた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオォンッ!!
「「「な、何だ?!」」」
俺達は一斉に視線を川の方に向けた。
「なっ!? キングアリゲーターだとっ!?」
「こんな所に何故……A級の魔物が……」
でかいっ! 顔だけでも象くらいある。殆ど恐竜みたいなワニだ。
ウォルフは驚いて目を剝いている。楓曰く、こいつはA級の魔物らしい。たしかS級が一番強くて、その下にA級からC級まであるんだったっけ……と言う事は、こいつは上から二番目か。一体、どれくらいの強さなんだろう……
「強いのか?」
俺は思ったままに尋ねた。
「こいつ等は上流の魔物のはず……どうしてこんな所に」
「A級とは一体で町一つ滅ぼし兼ねない力を持った魔物です。まさかこんな所で……」
二人とも少し混乱しているみたいだ。
どうやらA級ってのはこの世界では相当恐れられてるみたいだな。確かにでかいし強そうだけど……
だけど、こっちはこれから魔神を相手にするかもしれないんだ。こんなのに手こずる様ではそれどころの話では無い。
『やりますか?』
(そうだな。A級ってのが、どの程度か知っておくのも悪くない)
さすがに俺の能力を知っている雪は落ち着いてる。
「ラルっ! 楓殿を頼むっ!」
〈ガルウッッ〉
「真人様っ! 急ぎ撤退をっ!」
ウォルフと楓が慌ただしく動き出した。逃げるという選択をした様だ。
だけど俺は、不思議と視線の先にいる魔物にあまり驚異を感じてはいなかった。何となくだけど余裕で勝てそうな気がする。
「お前らはここで大人しくしてろ」
俺は撤退の準備を始めていた楓達に告げると戦う決意を固めた。
(いくぞ)
『はい!』
ゆっくりと刀を抜きながらキングアリゲーターに近づいた。
〈ガアアァァァァァァァッッッ!!〉
キングアリゲーターは顎が裂けそうなくらい大きく口を拡げて、俺に襲い掛かって来た。鋭い上下の歯が何重にも生えているのがはっきり見える。
「遅いな」
『右側ががら空きです』
俺は軽く右に跳んでキングアリゲーターの噛み付きを躱すと、首に目掛けて真空の刃を放った。
「【死神の刃】」
ズバアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
キングアリゲーターの首が綺麗にスパッと切れて、頭がドスンと転げ落ちた。胴体は頭が無くなった事に気がつかない様にバシャバシャと川辺で暴れ、暫くするとその動きを止めた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
地響きの様な轟音を立てて崩れ落ちたキングアリゲーターの巨体が川辺に横たわった。
「「「………………」」」
楓とウォルフ、ラルが唖然と目を剥いて立ち尽くしている。
(A級も思ったより呆気ないな)
『真人さんが強過ぎるんです』
何気ない会話を交わした雪は、特段驚いた様子も無く平然とした声で答えた。
むしろどこか呆れている様な感じにも聞こえる。
「おーい。終わったぞ」
「真人殿……貴殿は一体……」
「家康様に報告せねば……」
反応が無い。ウォルフとラルは相変わらず呆然と立ち尽くしているし、楓はブツブツと何かを呟いている。まあ、仕方無いか。俺も最初は自分のチートっ振りに少し引いたし。
俺が溜息をついているとまたしても突然、今度は何者かの笑い声が聞こえて来た。
「クハハハハハハハハハッッ!」
今度は何だ!?
男の笑い声!?
俺達が声の方を見ると、見知らぬ男がそこに浮いていた。
よく見ると蝙蝠みたいな黒い羽根が生えている。森に似つかわしく無い執事の様な格好をしたそいつは、此方を見ながら愉快そうに笑っていた。
「誰だ、お前?」
俺は平静な態度で男に話声をかけた。
男は胸に手を当てて、挨拶する様な素振りで仰々しく話し始めた。
「おっと……これは失礼。久しぶりに愉快な気持ちにさせて頂いた物で、つい挨拶が遅れました。私には名前等ありませんが……この辺では魔神とか呼ばれているみたいですね──」
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