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第二章 樹海の森編
第33話 狼と虎と猪
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「この丘を越えれば中央の川の上流地帯……鬼人族の支配地域です」
ウォルフが目の前の丘を指さして説明した。
今ここにいるメンバーは俺とウォルフ以外にジン、ボアル、ベンガルの5人だ。
猪人族と虎人族達はこの戦いに参加したがっていたが、町の守衛もあるので族長以外は残って貰った。かなり悔しそうだったけど、こればかりは仕方がない。
そもそも俺は、俺とジンさえいれば鬼人族くらい何とでもなると思っていた。それに人数は少ない方が何かと動きやすいし。
ウォルフ達を連れて来たのは、彼等が少なからず鬼人族に対して遺恨を残していたからというだけだ。戦いの行く末はどうしても気になるだろうし……だったら連れて来た方が早い。
まあ、どっちにしろボアルとベンガルはついて来ると言って聞かなかっただろうけど……
「真人様に頂いたこの能力……こんどこそ鬼共に目に物を見せてくれるわ」
「全くだ……ベンガル殿。真人様への忠誠の証たるこの能力、存分に発揮して見せましょうぞ」
ボアルとベンガルはお互い興奮を抑えきれていない。ようやく鬼人族にやり返すチャンスが巡って来たんだから無理もない。二人とも新しい能力を試したくて仕方ないみたいだ。
ボアルはその真面目な性格らしく、一族全員の防御力が各段に向上したそうだ。特に族長のボアルはかなりの防御力を手に入れたらしい。
ベンガルはやはり虎という種族故の攻撃性なんだろうか……こちらもボアル達同様、腕力や脚力といった攻撃に特化した力が大幅に向上したそうだ。族長のベンガルに至っては、ウォルフでも油断すればやられかねないらしい。
まあチートの権化みたいな俺やジンには遠く及ばないんだけど。
「貴方達、真人様は鬼人族の話も聞いてみたいと仰っておられるのです。勝手な行動は許しませんよ?」
ジンが二人にニッコリと微笑みかけて釘を刺した。
ジンのこういう時の笑顔はマジで怖い。二人とも気を引き締める様に真面目な顔になって黙って頷いている。
俺は余り面倒くさい話になるなら鬼人族もろ共、鬼人種全てを殺ってしまおうと思っていたが、その前に一度話を聞いてみたかった。以前ウォルフに話を聞いた時にも思ったが、種族間のいざこざには其々言い分があるはずだ。
余り首を突っ込みたくは無かったが、ここまで巻き込まれた以上、話くらいは聞いてもいい。その上で余りたいした理由でもなかったら、その時は遠慮なくこちらの我儘を通させて貰う。つまり皆殺しだ。俺の平穏な暮らしを邪魔する以上、容赦はしない。
そうこうしている内に俺達は、小高い丘の上に立ち眼下に鬼人族の里が見下ろせる場所に辿り着いた。
『立派な集落ですね』
雪が言う様に鬼人族の里は思っていたよりもずっと立派だった。
集落というよりも町と言った方がいい。そこらの人間の集落よりもずっと立派な日本家屋が規則的に立ち並び、道もしっかり舗装されている。遠目に見た限りでは、鬼人族は相当文化レベルが高そうだ。
(ちょっと壊すには惜しい町だな。それにこれだけの技術を持つ鬼人族……出来れば配下に引き入れたい)
俺の町もそれなりに良い感じなんだけど……これを見るとやっぱり目劣りしてしまう。何というか、この町は細かい部分が良くも悪くも人間的だ。道の舗装といい、整備された水路といい……そういう細かい心配りが感じられる。
『真人様、奥方様。鬼人族達は出来るだけ生かして捕らえた方がよろしいでしょうか』
ジンが雪との会話を聞いて進言してきた。
特に意識していないので俺達の会話は魂が繋がっている者達にも聞こえている。この場にいる者には全員聞こえているはずだ。
(まずは鬼人族の話を聞いてからだ。無理やり攫って働かせるとかそういうのは趣味じゃない)
奴隷みたいなのはあんまり好きじゃないしな。勿体ないけど、どうしても逆らうならその時はやっぱり皆殺しだ。今のままでも町としては結構気に入ってるし。
『かしこまりました』
『『『ははっ!』』』
『──皆さん、待ち伏せされていたみたいですよ。其処ら中に殺気だらけの気配を感じます』
ジン達が答えると同時に雪が警戒を呼び掛けた。
俺も言われて気配を探ってみると……確かにいる。この場所をとり囲むように、木々のいたる所に潜んでいたみたいだ。
「ウォルフ、ベンガル。殺ってこい」
「「はっ!」」
言うと同時に二人はその場から離れ、背後の森へと向かって消えた。
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
突然現れたベンガルの爪に襲われ、次々と木々の枝から刺客たちが落ちてくる。
どうやら敵兵の正体は小鬼族みたいだ。俗に言う、ゴブリン……俺のイメージよりは若干、人間っぽいけど肌は緑色だ。耳も鼻も確かに尖っているけど、そんなに邪悪な感じはしない。一応この世界では亜人の一種だし魔物って訳では無さそうだ。
バチバチバチバチッッ!!
「ぎゃあああああああっっ!」
あっちでは黒焦げの小鬼族がボトボトと落ちて転がっている。ウォルフの魔法だな……プスプスと焦げている中に若干、放電した跡が見える。
『あちらから矢が来ますっ!』
雪が言うと同時に今度はボアルが俺達の前に立ちはだかった。
『奥方様、かたじけありませんっ……むうぅぅんっ!』
ボアルが俺をかばう様に両手を広げ力み始めた。
「【鉄猪の壁】!」
ボアルの体を中心に薄緑色の光の壁が現れ、次々に放たれた矢を叩き落して行く。
「全く……私の出番がありませんねえ」
ジンが少し嬉しそうに目を細めながら呟いた。
全くだ。こいつら知らない間に随分強くなったもんだ……能力を得たきっかけ、雪にこいつらの頭が上がらないのも頷ける。
気が付けば俺達を囲んでいた小鬼族の刺客達は殆ど全滅していた。
ウォルフとベンガルが悠々と歩いて戻って来ている。ウォルフの方は一人、生かしたまま捕らえたみたいだ。この刺客達のリーダーだろうか。肌は赤いし体格もがっしりしている。小鬼族ではないみたいだ。
「真人様、鬼人族の者が一人紛れておりましたので生かして捕らえて参りました。おそらくこの部隊の指揮官かと……何か敵の内情を探れるかもしれません」
両手を挙げて戦意が無い事をアピールする鬼人族の背後でウォルフが跪きながら報告してきた。
「お前がこいつらの指揮官か?」
捕らえられた鬼人族に尋ねた。
「……そうだ。俺は鬼人族のキビト。この作戦の現場指揮官だ」
このキビトという鬼人……思ったより落ち着いている。この状況にも余りビビッてないみたいだ。初めから死ぬ事も覚悟していたのかも知れない。
「貴殿がこの獣人達の主か?」
キビトは虚勢を張るでもなく、淡々と俺に問いかけて来た。
「そうだ」
「このキビト、この期に及んで命乞いしようとは思わん。正直、お主たちの力を侮っていた……まさかこれ程とは。随分聞いていた話と違う。これでは小鬼達はおろか、我等鬼人族でも到底太刀打ちできまい……それに、貴殿やそこの御人は更にとんでもない力をお持ちの様だ──」
キビトはチラリとジンを見て更に続けた。
「ただ……幾つかわからない事がある。どうか死出の土産に教えて頂きたい」
覚悟の決まった奴の目だ……本気で生き残る事は考えていないらしい。こういう奴は嫌いじゃない。わからない事ってなんだろう……
「答えてやる。何だ?」
「かたじけない。ひとつは貴殿達がここに来る迄の間に……下流の獣人達が貴殿達を背後から襲う手筈だったのだが。もしかして我等は裏切られたのか? もし、これ程迄に強いともう少し早くわかっていれば……小鬼達を無駄に犠牲にせず済んだかもしれん」
そう言ってキビトは無数に転がっている小鬼達を悲しそうに見つめた。
やっぱりこいつ、そんなに悪い奴じゃ無いのかも知れない……何だか鬼人族のイメージも変わって来た。
「下流の……ああ、ラビリア達の事か。安心しろ、お前達は裏切られた訳じゃない。ただ、俺達の戦力を見誤っただけだ。下流にはコンが……九尾の狐が抑えに向かってる」
「なっ! 九尾がっ……あの女狐まで貴殿の配下に加わっていたのかっ! なるほど……九尾が動いたのなら下流の獣人共では太刀打ち出来ない訳だ……」
キビトは九尾と聞いて驚きと同時に納得がいった様な顔になった。
それにしても、コンの奴……意外と樹海では恐れられていたんだな。ウォルフ達も最初はめちゃくちゃビビッていたし。ただの変態なのに……
「そう言う訳だ。今頃、下流の連中は慌てふためいているんじゃないか? 俺達を襲う余裕なんて無いはずだ……他に聞きたい事は?」
「ここまで先を読まれて手を打たれていたとは……どうやら戦略的にも貴殿の方が一枚も二枚も上手の様だ。感服した。初めから我等は敵にしてはいけない者を敵に回していた様だ──」
諦めに近い境地なのか。キビトは苦笑いを浮かべながら小さく首を左右に動かすと、意を決した様に真剣な顔つきに変わり俺の前に跪いた。
「このキビト、恥を忍んでお頼み申すっ! 貴殿の力があれば、我等鬼人族を滅ぼす事等たやすい事でございましょう。この命、助けてくれとは申しません。ただ……ただ、どうかっ! この首と引換えに我らの主、族長のオウガ様と酒呑様のお話を聞いては頂けませんでしょうかっ! 里を滅ぼす前にどうか……どうか我が主のお話をっ!」
キビトは額を地面に押し当てて懇願して来た。
鬼人族の族長……オウガと言うのか。それに酒呑童子……鬼人族と小鬼族を束ねる鬼達の首領。もともと話は聞くつもりだったし、キビトが取り次いでくれるのならその方が話が早い。
それにこれ程の男がここまで言う理由も気になるし……東の森への侵略も、意外と真っ当な理由があったのかも知れない。断る理由は無さそうだ。
『思ったより話が早く済みそうですね』
(そうだな……)
「──キビト。そのオウガと酒呑童子の所に案内しろ」
こうして俺達はキビトの案内で、鬼人族の里へこれ以上戦う事なく入る事が出来た。
鬼達はいったい何を考えて東の森に進出しようとしたのか。
どうやら何か深い訳がありそうだ……
ウォルフが目の前の丘を指さして説明した。
今ここにいるメンバーは俺とウォルフ以外にジン、ボアル、ベンガルの5人だ。
猪人族と虎人族達はこの戦いに参加したがっていたが、町の守衛もあるので族長以外は残って貰った。かなり悔しそうだったけど、こればかりは仕方がない。
そもそも俺は、俺とジンさえいれば鬼人族くらい何とでもなると思っていた。それに人数は少ない方が何かと動きやすいし。
ウォルフ達を連れて来たのは、彼等が少なからず鬼人族に対して遺恨を残していたからというだけだ。戦いの行く末はどうしても気になるだろうし……だったら連れて来た方が早い。
まあ、どっちにしろボアルとベンガルはついて来ると言って聞かなかっただろうけど……
「真人様に頂いたこの能力……こんどこそ鬼共に目に物を見せてくれるわ」
「全くだ……ベンガル殿。真人様への忠誠の証たるこの能力、存分に発揮して見せましょうぞ」
ボアルとベンガルはお互い興奮を抑えきれていない。ようやく鬼人族にやり返すチャンスが巡って来たんだから無理もない。二人とも新しい能力を試したくて仕方ないみたいだ。
ボアルはその真面目な性格らしく、一族全員の防御力が各段に向上したそうだ。特に族長のボアルはかなりの防御力を手に入れたらしい。
ベンガルはやはり虎という種族故の攻撃性なんだろうか……こちらもボアル達同様、腕力や脚力といった攻撃に特化した力が大幅に向上したそうだ。族長のベンガルに至っては、ウォルフでも油断すればやられかねないらしい。
まあチートの権化みたいな俺やジンには遠く及ばないんだけど。
「貴方達、真人様は鬼人族の話も聞いてみたいと仰っておられるのです。勝手な行動は許しませんよ?」
ジンが二人にニッコリと微笑みかけて釘を刺した。
ジンのこういう時の笑顔はマジで怖い。二人とも気を引き締める様に真面目な顔になって黙って頷いている。
俺は余り面倒くさい話になるなら鬼人族もろ共、鬼人種全てを殺ってしまおうと思っていたが、その前に一度話を聞いてみたかった。以前ウォルフに話を聞いた時にも思ったが、種族間のいざこざには其々言い分があるはずだ。
余り首を突っ込みたくは無かったが、ここまで巻き込まれた以上、話くらいは聞いてもいい。その上で余りたいした理由でもなかったら、その時は遠慮なくこちらの我儘を通させて貰う。つまり皆殺しだ。俺の平穏な暮らしを邪魔する以上、容赦はしない。
そうこうしている内に俺達は、小高い丘の上に立ち眼下に鬼人族の里が見下ろせる場所に辿り着いた。
『立派な集落ですね』
雪が言う様に鬼人族の里は思っていたよりもずっと立派だった。
集落というよりも町と言った方がいい。そこらの人間の集落よりもずっと立派な日本家屋が規則的に立ち並び、道もしっかり舗装されている。遠目に見た限りでは、鬼人族は相当文化レベルが高そうだ。
(ちょっと壊すには惜しい町だな。それにこれだけの技術を持つ鬼人族……出来れば配下に引き入れたい)
俺の町もそれなりに良い感じなんだけど……これを見るとやっぱり目劣りしてしまう。何というか、この町は細かい部分が良くも悪くも人間的だ。道の舗装といい、整備された水路といい……そういう細かい心配りが感じられる。
『真人様、奥方様。鬼人族達は出来るだけ生かして捕らえた方がよろしいでしょうか』
ジンが雪との会話を聞いて進言してきた。
特に意識していないので俺達の会話は魂が繋がっている者達にも聞こえている。この場にいる者には全員聞こえているはずだ。
(まずは鬼人族の話を聞いてからだ。無理やり攫って働かせるとかそういうのは趣味じゃない)
奴隷みたいなのはあんまり好きじゃないしな。勿体ないけど、どうしても逆らうならその時はやっぱり皆殺しだ。今のままでも町としては結構気に入ってるし。
『かしこまりました』
『『『ははっ!』』』
『──皆さん、待ち伏せされていたみたいですよ。其処ら中に殺気だらけの気配を感じます』
ジン達が答えると同時に雪が警戒を呼び掛けた。
俺も言われて気配を探ってみると……確かにいる。この場所をとり囲むように、木々のいたる所に潜んでいたみたいだ。
「ウォルフ、ベンガル。殺ってこい」
「「はっ!」」
言うと同時に二人はその場から離れ、背後の森へと向かって消えた。
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
突然現れたベンガルの爪に襲われ、次々と木々の枝から刺客たちが落ちてくる。
どうやら敵兵の正体は小鬼族みたいだ。俗に言う、ゴブリン……俺のイメージよりは若干、人間っぽいけど肌は緑色だ。耳も鼻も確かに尖っているけど、そんなに邪悪な感じはしない。一応この世界では亜人の一種だし魔物って訳では無さそうだ。
バチバチバチバチッッ!!
「ぎゃあああああああっっ!」
あっちでは黒焦げの小鬼族がボトボトと落ちて転がっている。ウォルフの魔法だな……プスプスと焦げている中に若干、放電した跡が見える。
『あちらから矢が来ますっ!』
雪が言うと同時に今度はボアルが俺達の前に立ちはだかった。
『奥方様、かたじけありませんっ……むうぅぅんっ!』
ボアルが俺をかばう様に両手を広げ力み始めた。
「【鉄猪の壁】!」
ボアルの体を中心に薄緑色の光の壁が現れ、次々に放たれた矢を叩き落して行く。
「全く……私の出番がありませんねえ」
ジンが少し嬉しそうに目を細めながら呟いた。
全くだ。こいつら知らない間に随分強くなったもんだ……能力を得たきっかけ、雪にこいつらの頭が上がらないのも頷ける。
気が付けば俺達を囲んでいた小鬼族の刺客達は殆ど全滅していた。
ウォルフとベンガルが悠々と歩いて戻って来ている。ウォルフの方は一人、生かしたまま捕らえたみたいだ。この刺客達のリーダーだろうか。肌は赤いし体格もがっしりしている。小鬼族ではないみたいだ。
「真人様、鬼人族の者が一人紛れておりましたので生かして捕らえて参りました。おそらくこの部隊の指揮官かと……何か敵の内情を探れるかもしれません」
両手を挙げて戦意が無い事をアピールする鬼人族の背後でウォルフが跪きながら報告してきた。
「お前がこいつらの指揮官か?」
捕らえられた鬼人族に尋ねた。
「……そうだ。俺は鬼人族のキビト。この作戦の現場指揮官だ」
このキビトという鬼人……思ったより落ち着いている。この状況にも余りビビッてないみたいだ。初めから死ぬ事も覚悟していたのかも知れない。
「貴殿がこの獣人達の主か?」
キビトは虚勢を張るでもなく、淡々と俺に問いかけて来た。
「そうだ」
「このキビト、この期に及んで命乞いしようとは思わん。正直、お主たちの力を侮っていた……まさかこれ程とは。随分聞いていた話と違う。これでは小鬼達はおろか、我等鬼人族でも到底太刀打ちできまい……それに、貴殿やそこの御人は更にとんでもない力をお持ちの様だ──」
キビトはチラリとジンを見て更に続けた。
「ただ……幾つかわからない事がある。どうか死出の土産に教えて頂きたい」
覚悟の決まった奴の目だ……本気で生き残る事は考えていないらしい。こういう奴は嫌いじゃない。わからない事ってなんだろう……
「答えてやる。何だ?」
「かたじけない。ひとつは貴殿達がここに来る迄の間に……下流の獣人達が貴殿達を背後から襲う手筈だったのだが。もしかして我等は裏切られたのか? もし、これ程迄に強いともう少し早くわかっていれば……小鬼達を無駄に犠牲にせず済んだかもしれん」
そう言ってキビトは無数に転がっている小鬼達を悲しそうに見つめた。
やっぱりこいつ、そんなに悪い奴じゃ無いのかも知れない……何だか鬼人族のイメージも変わって来た。
「下流の……ああ、ラビリア達の事か。安心しろ、お前達は裏切られた訳じゃない。ただ、俺達の戦力を見誤っただけだ。下流にはコンが……九尾の狐が抑えに向かってる」
「なっ! 九尾がっ……あの女狐まで貴殿の配下に加わっていたのかっ! なるほど……九尾が動いたのなら下流の獣人共では太刀打ち出来ない訳だ……」
キビトは九尾と聞いて驚きと同時に納得がいった様な顔になった。
それにしても、コンの奴……意外と樹海では恐れられていたんだな。ウォルフ達も最初はめちゃくちゃビビッていたし。ただの変態なのに……
「そう言う訳だ。今頃、下流の連中は慌てふためいているんじゃないか? 俺達を襲う余裕なんて無いはずだ……他に聞きたい事は?」
「ここまで先を読まれて手を打たれていたとは……どうやら戦略的にも貴殿の方が一枚も二枚も上手の様だ。感服した。初めから我等は敵にしてはいけない者を敵に回していた様だ──」
諦めに近い境地なのか。キビトは苦笑いを浮かべながら小さく首を左右に動かすと、意を決した様に真剣な顔つきに変わり俺の前に跪いた。
「このキビト、恥を忍んでお頼み申すっ! 貴殿の力があれば、我等鬼人族を滅ぼす事等たやすい事でございましょう。この命、助けてくれとは申しません。ただ……ただ、どうかっ! この首と引換えに我らの主、族長のオウガ様と酒呑様のお話を聞いては頂けませんでしょうかっ! 里を滅ぼす前にどうか……どうか我が主のお話をっ!」
キビトは額を地面に押し当てて懇願して来た。
鬼人族の族長……オウガと言うのか。それに酒呑童子……鬼人族と小鬼族を束ねる鬼達の首領。もともと話は聞くつもりだったし、キビトが取り次いでくれるのならその方が話が早い。
それにこれ程の男がここまで言う理由も気になるし……東の森への侵略も、意外と真っ当な理由があったのかも知れない。断る理由は無さそうだ。
『思ったより話が早く済みそうですね』
(そうだな……)
「──キビト。そのオウガと酒呑童子の所に案内しろ」
こうして俺達はキビトの案内で、鬼人族の里へこれ以上戦う事なく入る事が出来た。
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