憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

真木悔人

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第二章 樹海の森編

第37話 想定外

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 俺は目の前に広がる予想以上の惨状に言葉を失った。

 ラル達が一生懸命建てた家屋はことごとく焼き尽くされ、そこら中に獣人達の無残な姿死体が転がっている。
 女も子供も関係ない。等しく、蹂躙され尽くした跡だけが生々しく残り、町からは生気と言う物が一切感じられなくなっていた。残酷な静けさだけが町を支配している。

「これは……」

 ウォルフも言葉を失って呆然としている。

「酷いもんぢゃの……童子達まで皆殺しぢゃ……」

 わかり易く顔をしかめて天鬼が呟いた。
 全くだ……俺もまさか、ここまで酷い事になっているとは思いもしなかった。
 もう少し早く戻って来ていれば……もしもの事を言いだせばキリが無いが、悔やまれて仕方がない。

「くそがあああああっっ! 人間どもめがあっっ!」

「落ち着け、ベンガル殿っ!」

 其処等中の木を殴りつけて分かり易く憤るベンガルを、ボアルが必死にたしなめている。しかし、そのボアル自身も、怒りと悔しさに表情かおを歪ませていた。薄っすらと目に涙が溜まっているのが分かる。

 無理もない……
 三人共、同胞を皆殺しにされたんだ。確かボアルは嫁さんも子供もいた筈だ。そう考えれば、ボアルはよくこらえている方だろう。ウォルフ達兄妹に親や親戚はいない筈だけど、ベンガルには確か恋人がいたんだっけか……

『酷いですね……ここ迄、徹底して来るなんて……』

 雪もこれには驚いているみたいだな……俺ですら、ここ迄はやらない。まるで町を滅ぼすと言うより、獣人を滅ぼすのが目的みたいなり方だ。

 ふと目線を向けると、ラルが此方に駆け寄って来るのが見えた。

 どうやら無事だったみたいだな……ちゃんと指示通り、町から離れた場所に身を隠していた様だ。
 ラルに聞けば少しは、何があったのか詳しく分かるかも知れない。

「真人様……兄様……」

 ラルは今にも泣き出しそうだ。目に溢れそうな程、涙を溜めている。

「ラル……無事であったか」

「はい……私達は何とか。しかし、町の皆が……」

 泣くのを堪えながら絞り出す様にラルが答えた。
 ウォルフもとりあえずは一安心と言ったところか……ボアル達の手前、顔には出さない様にしているみたいだけど。

 って……私達? 
 そう言えば確かに今、そう聞こえた。他にも生き残りがいるって言うのか?

「ラル、お前以外にも逃げ延びた奴がいるのか?」

 思わず確認した。

「真人様……はい、僅かながら。私にはこれだけしか救い出す事が出来ませんでした……」

 そう言ってラルは悔しそうな顔で振り返り、視線を後方の木々の方へ向けた。
 確かにいる……僅かだが獣人達の気配を感じる。

偶々たまたまこのあたりに出ていた様なので、暫く隠れておく様に指示しておきました……偶然、襲われる前に森へ山菜を取りに来ていた様です」

 言いながらラルは手を上げ、森の方へ向かって合図を送った。こちらの様子を伺っていた様で、合図を受け取った数人の獣人達がぞろぞろと森から現れた。

「お、お前達っ!」

「あなたっ!」

 姿を確認するや否や、ボアルが一目散に駆け出した。どうやら嫁さんと子供の姿を見つけたみたいだ。
 助かったらしい獣人は、ボアルの家族達を合わせて僅か十数人。ボアルの家族と虎人族の数組の家族達、それに狼人族も数人いるみたいだ。残念ながらベンガルの恋人はいない様だった。

「ボアル殿、家族が無事で良かったな」

「ベンガル殿……」

 恐らく自分に気を使うだろうと考えたベンガルが、ボアルに優しく語りかけた。
 さっきまで恋人と同胞を失い、あれだけ憤っていた癖に……こういう気遣いが出来るのは、さすがにベンガルも族長を任されるだけの事はあると言う事か。

『とりあえず種族が絶える、という心配は無くなったみたいですね』

(ああ……そうみたいだな)

 三種族共、最低一組はつがいがいる。細々とだとしても、子孫を残せないと言う事だけは避けられたみたいだ。

「で、これからどうするつもりぢゃ?」

「ああ、そうだな……」

 天鬼に言われ、俺は考えた。
 これから、か……とりあえずこんな真似をした奴等は許せない。どこのどいつかハッキリさせる必要があるな。それに……

「ウォルフ、他に生き残った奴が居ないか、何人か連れて町の中を探して来い。それから天鬼──」

「何ぢゃ?」

「頼みがある。暫くの間、うちの獣人達をお前の里で預かっていてくれないか」

 話を聞いたウォルフやボアル達が一斉に俺の顔を伺って来た。何故、天鬼とそんな話をしているのか……俺の考えを聞かせろと目が訴えかけている。

「お主には色々と借りがあるでの。そんな事くらいは容易い御用なのぢゃが……お主はこれからどうするつもりなのぢゃ?」

 天鬼だけで無く、皆の視線が俺に集まる。
 これから何が語られるのか……不安そうな顔で俺が口を開くのを、全員が固唾を飲んで見守っていた。

「俺は一度、人間の町……江戸の町に戻る」

 ざわざわと動揺した空気が流れる。
 ボアルもベンガルも、そしてウォルフさえも俺の真意がどこにあるのかが理解出来ないみたいだ。

「そ、それなら我等も共に──」

「駄目だ」

 俺は食い気味にボアルの発言を却下した。
 しかし、もう少しちゃんと説明しておいてやった方が良さそうだな……皆、不安そうな表情かおをしている。

「安心しろ。別にお前達を見捨てようって訳じゃない。江戸にはジンとウォルフを連れて行く。他の者を連れて行かないのは、人間の町じゃ獣人の姿は目立つから、と言う理由だけだ」

 ジンとウォルフは完全な人の姿になれるからな。
 ラルや他の狼人は、どこかしら獣耳や尻尾なんかが残っている……これでは人間じゃない事がバレるのは時間の問題だ。猪人と虎人はモロに獣人だから論外だし。

「しかし何故、江戸へ……」

 不思議そうな顔でウォルフが聞いて来た。

 何故、か……確かにそこも説明しといた方が良さそうだ。
 俺も確信があって言っている訳では無いしな……

「俺は今回、町を襲いやがった人間は、天鬼達に声をかけて来たと言う人間……竹中半兵衛と何かしら関係があるんじゃないかと睨んでいる。余りにもタイミングが良すぎるからな──」

 俺が町を離れた途端に襲って来た人間達。
 その原因となった鬼人族の侵攻と、そうせざるを得なかった天鬼達の事情。
 不可解な動きをしていた鼠人族のマウロ。
 それに……

「正直、わからない事だらけで確信がある訳じゃない……殆ど勘みたいな物だからな。だが、何となくそんな気がするんだ。このタイミングで町を襲う……俺が今日、町を空ける事を知る事が出来た可能性がある人間。今の所、他に思い当たる人間がいないだけなのかも知れないけどな」

 確信がある訳じゃない。だけど、鬼人族の事情を知ってて、尚かつ森への進出を考えていそうな人間とくれば、半兵衛はかなり怪しい様な気がする。

 どうして今日、俺が天鬼と会う事を知っていたのか、とか何の目的で、とか……わからない事はまだまだ山積みなんだけど。

「江戸には家康がいる。あいつとはちょっとした縁があってな……半兵衛がそれなりの地位にいる人間なら、家康なら何か知っているかも知れない。それに報告に戻ったまま帰って来ない、楓も少しだけ気になるしな……」

 楓が江戸に戻ったのは、町の建設が始まった頃だから……もう、かなり時間は経っている。もしかしら何かあったのかも知れない。

 個人的に楓が心配な訳じゃないけど、彼女に何かあったと言う事は家康にも何かが起こったと言う可能性は高い。人間社会の動向は知っておいても損ではない筈だ。

「なるほど……承知致しました。お供させて頂きます」

 俺の説明を聞いたウォルフが跪いて答えた。
 他の者達も一応は納得しているみたいだ。

 生き残りがまだ居ないか確認したら、すぐにでも江戸に向かうとするか……それまでに確認しておきたい事を聞いておかないとな。

「ラル、報告で言っていたについて聞かせてくれ」

 そして俺は、ここで更に驚かされる事になった。


 全く……この世界は本当にめちゃくちゃだ。


 まさかここで、俺の想像の遥か斜め上を行く人物の名を聞く事になるとは、夢にも思わなかった──

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