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第二章 樹海の森編
第36話 竹中半兵衛
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「──あやつの名は……竹中半兵衛ぢゃ」
──竹中半兵衛。
確か、黒田官兵衛と並ぶ豊臣秀吉に仕えた二大軍師の一人だ。「両兵衛」とか「ニ兵衛」とか言うんだっけか。秀吉に三顧の礼で迎え入れられた男だ。
ここで出て来るのか……
けど、この世界ではどんな人物なのか、会ってみないとわからないからな……家康の例もあるし。
実際この世界では、秀吉の家臣なのかどうかすら怪しい。そもそも、この世界に秀吉がいるのかどうかすらわからない上に、俺の前世では確か、最初は信長の家臣でもあった筈の人物だ。
この世界は出鱈目だから、全くの別人として考えた方が良いのかも知れない。
「お主、あの男を知っておるのか?」
考え込んでいた俺を見て、天鬼が不思議そうに俺の顔を覗き込んで来た。
危ない、危ない……変に仲間だと誤解でもされたら、面倒くさい事になるかも知れない。
「いや、どんな人物なのか考えていただけだ。会った事もない」
これは本当の事だしな。半兵衛がこの世界にいる事すら、今初めて知ったんだから。
「そうか……しかし、まさかお主達とあの鼠人が仲違いしておったとはの……誤解とはいえ悪かった。東の森の開墾も承諾して貰えるみたいぢゃし、お主達と争う理由も無くなった。集落を襲った事、改めて謝罪しよう。ボアルとやら……それに狼人と虎人の族長殿よ、申し訳無かった」
天鬼がボアル達に頭を下げた。
オウガ達もバツは悪そうだが、揃って頭を下げている。
見た目は可愛らしい女の子だが、こういう所はさすがに鬼人種の首領だな。どちらに否があるのかを冷静に判断して、必要ならば頭を下げる。どこかのバカ館主達にも見習って貰いたい物だ。
「鬼人種の謝罪、確かにお受け致しました。聞けばそちらにもそれなりの事情がおありの様ですし、我等獣人種にも全く否がないとは言えますまい。ボアル殿、ベンガル殿、ここ等で手打ちにするのが良いと思うのですが……如何ですかな?」
代表してウォルフが口を開いた。その表情は既に穏やかな物に変わっている。
「集落を滅ぼされた、狼人族のウォルフ殿が許すと言うのだ。我には何も言えますまい」
「うむ。儂もベンガル殿の意見に賛成だ。それに酒呑殿自らに頭を下げられてはなあ……許さざるを得んであろう」
ハハハッと笑い、ボアルとベンガルもウォルフに同調した。オウガ達もホッとした表情だ。
どうやら、何とか丸く納まったみたいだな……
「かたじけない」
オウガが改めて、謝罪を受け入れたウォルフ達に礼を述べた。
その様子を見てホッとしていたのも束の間、突然俺達の頭に念話の声が届いた。
『ハアッハアッ……やっと……ハアッ……繋がった……真人様っ! 兄様っ! 大変ですっ!』
ラルだ。
随分、息を切らしているみたいだけど……念話の届く範囲まで走って来たのか。かなり慌てているみたいだ。
『何事だ?』
ウォルフが念話で聞き返した。
『ハアッ……ハアッ……町にっ、我等の町に人間達の軍勢がっ』
『何いっ!』
「「なっ!」」
獣人達三人が一斉に立ち上がった。
ボアルとベンガルは驚きの余り、声に出して驚いている。
「何ぢゃ? どうしたのぢゃ?」
念話が聞こえない天鬼達は、何が起こっているのかがわかっていない。オウガ達も動揺するウォルフ達を見て、何事かと困惑している。
俺はラルを落ち着かせようと、至って平静に語りかけた。
『ラル。落ち着け……一体、何があった?』
俺が話し始めた事で、ジンと獣人達は大人しく事の成り行きを見守り始めた。皆、心配そうな表情で俺の方を見つめている。
天鬼達も何かが起こっていると察したのか、黙って俺達の様子を伺っていた。
『人間がっ……ハアッ……突然、人間の軍勢が現れてっ……町をっ、私達の町をっ……』
かなり取り乱しているな……話が要領を掴めてない。
『いいから落ち着け、ラルっ! 落ち着いて、何があったのか話してみろ』
『ハアッハアッ……申し訳ありません。真人様、それにジン様と族長の皆様……町が……町が人間達に襲撃を受けました……』
『人間だと……』
ラルは少し落ち着いて来たみたいだな……むしろウォルフの方が動揺しているみたいだ。
『それで、被害の方は……町は今、どういう状況なんだ?』
まずはそれを聞きたい。
『町は猪人族と虎人族の戦える者……それにカミルさん達、調査隊のメンバーも含め、総力を上げて防衛戦を展開しています。恐らく今も……』
なるほど……それだけの戦力があれば、そう簡単にはやられやしないだろう。俺達が戻る迄、持ち堪えてくれれば何とかなりそうだ。
『わかった。どれくらい持ち堪えられそうなんだ? それとも、もう殺っちまったか?』
しかしラルの返答は、俺の思っていた物と違う内容だった。どうやら俺の考えは甘かったみたいだ。
『それが……人間は地の利を上手く活かしている上に数の方も予想より多く……しかもその中に一人、化物の様な強さの人間が……恐らくこのままでは、そう長くは持ちません」
能力を得た筈の獣人達が堪えられないだと……あいつ等は俺に忠誠を誓って、そこ等の獣人よりも強くなっている筈だ。
それが人間相手に……一体、どうなってる?
人間はそこまで数が多いのか?
それともその、化物みたいな人間が原因なんだろうか……?
「真人様っ! 一刻も早く戻りましょうっ!」
「くそっ! 人間どもがっ……!」
「真人様、ご指示をっ!」
「クックックッ……」
獣人達は一刻も早く戻りたそうだ。焦りと怒りで冷静になれてない。まあ、同胞が襲われているんだから、当たり前と言えば当たり前か……
ジンだけは相変わらずの平常運転だな。明らかに、戦いになるかも知れないこの状況を喜んでいる。
『状況はわかった。ラル、お前は先に戻って現状を確認しろ。様子を探るだけでいい……どこかに身を隠しながら確認して、何か動きがあれば逐一、俺に報告するんだ』
『はいっ、かしこまりましたっ!』
さて……厄介な事になって来たな。
それにしても、まさか俺の町が襲われるとは。
一体、何か目的で……
「天鬼、悪いが急用が出来た。俺達は急いで戻らなきゃならん。森を使用する件については、さっきも話した通りだ……お前達の好きにやってくれ。何かあれば、誰かうちの者に伝えてくれればいい──」
ちょうど話もついてた所だ。放っておいても、とりあえず今は問題ないだろう。
半兵衛の件は少し気になるけど……その辺りはまた、後で考えよう。
とりあえず今は早く戻らないと……
「何があったのぢゃ?」
急ぎ、立ち去ろうとする俺達をみて、天鬼が心配そうに問いかけて来た。
「ああ、ちょっとな……どうやら、うちの町が人間達に襲われたらしい」
「人間ぢゃとっ? それで、お主等の町は無事なのか?」
相手が人間、というのが意外だったみたいだな……
それに心底、心配そうな顔だ。
どうやら、本気で心配してくれているらしい。やっぱりこの天鬼とか言う鬼は、見た目通り本当は優しい奴みたいだ。
「どうだろうな……今の所、持ち堪えてはいるみたいだけど。どっちにしろ、早く戻らないとヤバそうなのは間違いない。悪いけど、話があるならまた今度にしてくれ──」
「待つのぢゃ」
早々と部屋を出ようとしたら、食い気味に呼び止められた。
「人間の戦力もまだ、はっきりしておらぬのぢゃろう? ならば此方の戦力も多いに越した事はないぢゃろう。わしも一緒に行ってやる……お主には遠く及ばんが少しは役に立つぞ?」
「しゅっ、酒呑様っ! な、ならば我も共に──」
「ならん。族長のお主が里を空けてどうする。わし一人で十分ぢゃ。まあ、わしの助力なぞ真人殿には必要ないかも知れんがの」
本当はお前一人で十分なんだろと、天鬼は意味深な笑みを浮かべて視線を向けて来た。
まあ、言ってしまえばその通りなんだが……何なら多分、ジンだけでも大丈夫な気がする。
化物みたいな人間、というのが少し気にはなるけど……
「酒呑殿、かたじけない」
今度はボアルが頭を下げた。
「構わぬ。お主達にも迷惑をかけたでの……その詫びぢゃ。それにこれからは、お主等に世話をかける事になるやも知れんでの。同じ東の森に棲む者としてな」
「心遣い、感謝します」
「酒呑殿が一緒とは心強いな」
ウォルフとベンガルも続けて頭を下げた。
やはり天鬼は、樹海でも相当な実力者として認識されているみたいだな……
「お前等、グズグズするな。さっさと行くぞ!」
「「「はっ!」」」
「参りますか……」
しかし俺の町を襲うとは、随分舐めた真似をしてくれる……何者かは知らんが、さっさと行って皆殺しにしてやる。
それにしても、このタイミングで襲って来た人間……
一体、何が目的なのか。
この目で何者か見極めてやる──
──竹中半兵衛。
確か、黒田官兵衛と並ぶ豊臣秀吉に仕えた二大軍師の一人だ。「両兵衛」とか「ニ兵衛」とか言うんだっけか。秀吉に三顧の礼で迎え入れられた男だ。
ここで出て来るのか……
けど、この世界ではどんな人物なのか、会ってみないとわからないからな……家康の例もあるし。
実際この世界では、秀吉の家臣なのかどうかすら怪しい。そもそも、この世界に秀吉がいるのかどうかすらわからない上に、俺の前世では確か、最初は信長の家臣でもあった筈の人物だ。
この世界は出鱈目だから、全くの別人として考えた方が良いのかも知れない。
「お主、あの男を知っておるのか?」
考え込んでいた俺を見て、天鬼が不思議そうに俺の顔を覗き込んで来た。
危ない、危ない……変に仲間だと誤解でもされたら、面倒くさい事になるかも知れない。
「いや、どんな人物なのか考えていただけだ。会った事もない」
これは本当の事だしな。半兵衛がこの世界にいる事すら、今初めて知ったんだから。
「そうか……しかし、まさかお主達とあの鼠人が仲違いしておったとはの……誤解とはいえ悪かった。東の森の開墾も承諾して貰えるみたいぢゃし、お主達と争う理由も無くなった。集落を襲った事、改めて謝罪しよう。ボアルとやら……それに狼人と虎人の族長殿よ、申し訳無かった」
天鬼がボアル達に頭を下げた。
オウガ達もバツは悪そうだが、揃って頭を下げている。
見た目は可愛らしい女の子だが、こういう所はさすがに鬼人種の首領だな。どちらに否があるのかを冷静に判断して、必要ならば頭を下げる。どこかのバカ館主達にも見習って貰いたい物だ。
「鬼人種の謝罪、確かにお受け致しました。聞けばそちらにもそれなりの事情がおありの様ですし、我等獣人種にも全く否がないとは言えますまい。ボアル殿、ベンガル殿、ここ等で手打ちにするのが良いと思うのですが……如何ですかな?」
代表してウォルフが口を開いた。その表情は既に穏やかな物に変わっている。
「集落を滅ぼされた、狼人族のウォルフ殿が許すと言うのだ。我には何も言えますまい」
「うむ。儂もベンガル殿の意見に賛成だ。それに酒呑殿自らに頭を下げられてはなあ……許さざるを得んであろう」
ハハハッと笑い、ボアルとベンガルもウォルフに同調した。オウガ達もホッとした表情だ。
どうやら、何とか丸く納まったみたいだな……
「かたじけない」
オウガが改めて、謝罪を受け入れたウォルフ達に礼を述べた。
その様子を見てホッとしていたのも束の間、突然俺達の頭に念話の声が届いた。
『ハアッハアッ……やっと……ハアッ……繋がった……真人様っ! 兄様っ! 大変ですっ!』
ラルだ。
随分、息を切らしているみたいだけど……念話の届く範囲まで走って来たのか。かなり慌てているみたいだ。
『何事だ?』
ウォルフが念話で聞き返した。
『ハアッ……ハアッ……町にっ、我等の町に人間達の軍勢がっ』
『何いっ!』
「「なっ!」」
獣人達三人が一斉に立ち上がった。
ボアルとベンガルは驚きの余り、声に出して驚いている。
「何ぢゃ? どうしたのぢゃ?」
念話が聞こえない天鬼達は、何が起こっているのかがわかっていない。オウガ達も動揺するウォルフ達を見て、何事かと困惑している。
俺はラルを落ち着かせようと、至って平静に語りかけた。
『ラル。落ち着け……一体、何があった?』
俺が話し始めた事で、ジンと獣人達は大人しく事の成り行きを見守り始めた。皆、心配そうな表情で俺の方を見つめている。
天鬼達も何かが起こっていると察したのか、黙って俺達の様子を伺っていた。
『人間がっ……ハアッ……突然、人間の軍勢が現れてっ……町をっ、私達の町をっ……』
かなり取り乱しているな……話が要領を掴めてない。
『いいから落ち着け、ラルっ! 落ち着いて、何があったのか話してみろ』
『ハアッハアッ……申し訳ありません。真人様、それにジン様と族長の皆様……町が……町が人間達に襲撃を受けました……』
『人間だと……』
ラルは少し落ち着いて来たみたいだな……むしろウォルフの方が動揺しているみたいだ。
『それで、被害の方は……町は今、どういう状況なんだ?』
まずはそれを聞きたい。
『町は猪人族と虎人族の戦える者……それにカミルさん達、調査隊のメンバーも含め、総力を上げて防衛戦を展開しています。恐らく今も……』
なるほど……それだけの戦力があれば、そう簡単にはやられやしないだろう。俺達が戻る迄、持ち堪えてくれれば何とかなりそうだ。
『わかった。どれくらい持ち堪えられそうなんだ? それとも、もう殺っちまったか?』
しかしラルの返答は、俺の思っていた物と違う内容だった。どうやら俺の考えは甘かったみたいだ。
『それが……人間は地の利を上手く活かしている上に数の方も予想より多く……しかもその中に一人、化物の様な強さの人間が……恐らくこのままでは、そう長くは持ちません」
能力を得た筈の獣人達が堪えられないだと……あいつ等は俺に忠誠を誓って、そこ等の獣人よりも強くなっている筈だ。
それが人間相手に……一体、どうなってる?
人間はそこまで数が多いのか?
それともその、化物みたいな人間が原因なんだろうか……?
「真人様っ! 一刻も早く戻りましょうっ!」
「くそっ! 人間どもがっ……!」
「真人様、ご指示をっ!」
「クックックッ……」
獣人達は一刻も早く戻りたそうだ。焦りと怒りで冷静になれてない。まあ、同胞が襲われているんだから、当たり前と言えば当たり前か……
ジンだけは相変わらずの平常運転だな。明らかに、戦いになるかも知れないこの状況を喜んでいる。
『状況はわかった。ラル、お前は先に戻って現状を確認しろ。様子を探るだけでいい……どこかに身を隠しながら確認して、何か動きがあれば逐一、俺に報告するんだ』
『はいっ、かしこまりましたっ!』
さて……厄介な事になって来たな。
それにしても、まさか俺の町が襲われるとは。
一体、何か目的で……
「天鬼、悪いが急用が出来た。俺達は急いで戻らなきゃならん。森を使用する件については、さっきも話した通りだ……お前達の好きにやってくれ。何かあれば、誰かうちの者に伝えてくれればいい──」
ちょうど話もついてた所だ。放っておいても、とりあえず今は問題ないだろう。
半兵衛の件は少し気になるけど……その辺りはまた、後で考えよう。
とりあえず今は早く戻らないと……
「何があったのぢゃ?」
急ぎ、立ち去ろうとする俺達をみて、天鬼が心配そうに問いかけて来た。
「ああ、ちょっとな……どうやら、うちの町が人間達に襲われたらしい」
「人間ぢゃとっ? それで、お主等の町は無事なのか?」
相手が人間、というのが意外だったみたいだな……
それに心底、心配そうな顔だ。
どうやら、本気で心配してくれているらしい。やっぱりこの天鬼とか言う鬼は、見た目通り本当は優しい奴みたいだ。
「どうだろうな……今の所、持ち堪えてはいるみたいだけど。どっちにしろ、早く戻らないとヤバそうなのは間違いない。悪いけど、話があるならまた今度にしてくれ──」
「待つのぢゃ」
早々と部屋を出ようとしたら、食い気味に呼び止められた。
「人間の戦力もまだ、はっきりしておらぬのぢゃろう? ならば此方の戦力も多いに越した事はないぢゃろう。わしも一緒に行ってやる……お主には遠く及ばんが少しは役に立つぞ?」
「しゅっ、酒呑様っ! な、ならば我も共に──」
「ならん。族長のお主が里を空けてどうする。わし一人で十分ぢゃ。まあ、わしの助力なぞ真人殿には必要ないかも知れんがの」
本当はお前一人で十分なんだろと、天鬼は意味深な笑みを浮かべて視線を向けて来た。
まあ、言ってしまえばその通りなんだが……何なら多分、ジンだけでも大丈夫な気がする。
化物みたいな人間、というのが少し気にはなるけど……
「酒呑殿、かたじけない」
今度はボアルが頭を下げた。
「構わぬ。お主達にも迷惑をかけたでの……その詫びぢゃ。それにこれからは、お主等に世話をかける事になるやも知れんでの。同じ東の森に棲む者としてな」
「心遣い、感謝します」
「酒呑殿が一緒とは心強いな」
ウォルフとベンガルも続けて頭を下げた。
やはり天鬼は、樹海でも相当な実力者として認識されているみたいだな……
「お前等、グズグズするな。さっさと行くぞ!」
「「「はっ!」」」
「参りますか……」
しかし俺の町を襲うとは、随分舐めた真似をしてくれる……何者かは知らんが、さっさと行って皆殺しにしてやる。
それにしても、このタイミングで襲って来た人間……
一体、何が目的なのか。
この目で何者か見極めてやる──
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