45 / 61
第三章 江戸騒乱編
第44話 家康との再会
しおりを挟む
江戸城本丸。
俺達は城内に入ってすぐ、その場にいた兵を捕まえて家康の居場所を詰問した。勿論、力強くでだ。
家康はどうやらこの城の天辺、天守閣に作られた部屋に居るらしい。
俺達は土足のまま木張りの廊下をズカズカ歩き、その部屋を目指した。
(やけに大人しいな……)
俺達が城内に侵入してる事は、分かっている筈なんだけど……全く兵達が止めに入って来る気配が無い。
『そうですね……遠巻きに此方の様子を伺っている様な感じです』
雪も気配は感じているみたいだ。
だけど何もして来ない……どう言うつもりだ?
不審に思いながら狭い廊下を進んで行くと、少し先に引き戸の前に立つ見張りの兵が見えた。
あそこだけ何だか様子がおかしい……おそらく家康がいるのはあの部屋だ。
「何だ、貴様等っ!」
二人いる見張りの内、手前の兵が此方に気付いた。
「がっ!」
「ぐあっ!」
ほぼ同時にジンが二人を背後から襲い、気絶させた。漫画みたいに首筋に手刀を叩き付け意識を刈り取っている。
どうやらちゃんと、無闇に殺すなと言った命令を守っているみたいだな……ジンは俺より容赦が無いからこれ位で丁度いい。
「多分、ここだな……」
俺は引き戸の前に立って呟いた。
『真人さん』
(どうした?)
雪が俺を引き止めた。
『何だか変な感じがします……この部屋』
言われてみると、確かに何だか嫌な感じがする。
部屋自体が変な空気に包まれている様な……白い靄がかかっている様な感じだ。
(結界……ですねぇ……)
ジンは何か知っているみたいだ。
(結界?)
ウォルフがジンに尋ねた。
(ええ……この部屋全体に結界が張られています。おそらく大魔法……人間で言う上級魔法ですか。それが張られてるみたいですねぇ)
(また大魔法か……するとこれも、町を襲ったのと同じ奴の仕業か……?)
晴明か……なるほど。ウォルフの言う通り、その可能性は高いかも知れない。上級魔法を使える人間は限られているらしいし……
(それはどうでしょうねぇ……ただ、その可能性は高いかも知れませんね。中々、見事な結界です)
感心した様に淡々とジンは説明した。
(確かに何だか気持ち悪いねえ……これ、何の結界なんだい?)
コンも身震いする様な仕草をしながら尋ねている。
(おそらくですが……魔力を封じ込める結界みたいですね。貴女達で言う所の妖気みたいな物もです。力の強い者程、その影響を受け易いのかも知れませんね)
魔力を封じ込める……つまり、この中では魔法は使えないと言う事か。それに妖気まで……
まあ、それは当然の事かも知れない。コンの様に一部の亜人は強力な妖気を宿してるけど、もとを正せばこれも魔力だ。
妖気、気力、神力……そして魔力。いろいろな呼び方をされてるけど、根本はどれも同じ様な物だ。一応、体内に宿す力を『魔力』と統一して呼んでるけど、これを色んな力に変換させた物が妖力や神力と呼ばれるらしい……
「考えてても仕方ない。行くぞ」
俺は何やら風景が描かれた立派な襖を、両側へ一気に空け開いた。
──眩しい。
室内は思ったより採光されていて明るかった。三方全ての障子が開け放たれ、部屋中に陽の光が差し込んでいる。
細めていた目を凝らして見ると、江戸中を見渡せる様な見事な展望が目の前に開けていた。
いかにも領主らしい立派な部屋だ。
ふと部屋の中心に、赤い着物の人物が座っているのが見えた。
家康だ。
「おお……真人か。よう来たな」
家康は相変わらず艶のある声で、平然と語りかけて来た。
まるで動じて無い。
やはり俺達が侵入して来た事を知っていたからか?
「いつでも来いと言って置きながら、随分な歓迎をしてくれるじゃないか」
少し探りを入れてみた。
「何の事じゃ?」
本当に何の事かわからないと言った素振りで、キョトンとしている。まあこいつの場合、鵜呑みには出来無いんだけど……
「異人……と言うより俺が来たら殺せと命じられてたみたいだぞ? 門番達は。いきなり襲い掛かって来やがった」
「ほう……」
家康の雰囲気が少し険しい物に変わった。
目を細めて何かを考えている。思い当たる節でもあるかの様だ。
「まあ、そんなとこに突っ立っておらんで、こっちに来て座らんか。立ち話も何じゃろう」
パッと元の飄々とした雰囲気に戻って、家康は俺達に座る様に促した。
俺が家康の対面に座り、後ろにジン達が控えて座る。家康は特に何も言わず、俺の連れを一通り見回して話し出した。
「随分、連れが増えたのお……それも癖の強そうな者ばかりじゃ」
コンがピクッと反応した。
何やら今の発言が気に食わなかったらしい。
「ふふふっ……そう気を荒立てるでない。妾は褒めておるのじゃよ。よくぞここ迄、頼もしそうな仲間を集めて来た物じゃとな……この男はほれ。そう言うのは苦手そうに見えたのでな」
一瞬、苛立ちを見せたコンを宥める様に、家康は話した。
確かに前に来た時は一人だったし、仲間を作るのは得意では無いが……そこまで見透かされてたのか。
ジン達の能力にも薄々感付いているみたいだし……やっぱりこいつは油断出来んな。
「仲間じゃないよっ! あたしはご主人様の奴隷さっ!」
当然、コンが訳の分からない反論をした。
「なっ! 馬鹿、何言ってんだ!」
誤解を招く様な事言うんじゃ無いっ!
家康が呆気に取られてるじゃないか……!
「ぷっ! あはははっ! そうか、奴隷か! それは失礼した……許せ!」
さっき迄の艷やかな雰囲気が一転して、家康はケラケラと大笑いし始めた。目尻には涙まで浮かべている。
当のコン自身は家康の謝罪? を受けてご満悦だ。
大体、奴隷と言われて何でそんなに得意気なんだ……こいつは。フフンッと自慢気に踏ん反り返って、まるで自分の方が上だと言わんばかりに家康を見下している。
全く……こいつのペースに嵌まると碌な事にならん。
話を戻そう……。
「おい、家康。そんな事はどうでもいい。それより俺達を襲った理由をサッサと説明しろ」
コンを奴隷と勘違いされたままなのは癪だけど、正直、誤解を解くのも面倒くさい。
それよりも早く要件を済ませたい。
「あ、ああ……そうじゃったな……」
目尻の涙を拭いながら、家康はひとつ咳払いをして話を仕切り直した。
「コホン……お主等を襲ったと言う兵共の話じゃったな……おそらくそれは猪熊達の命によるものじゃ」
家康の顔から笑みが消えて真剣な口調に変わった。
「ああ……それは知っている。門番の兵が自慢気に話してたからな」
「そうか……ならば話は早い。要するに今、この江戸城は、妾よりあ奴らの命の方が優先される事態に陥っておる、という事じゃ」
やっぱり家康が襲わせた訳では無かったみたいだ。
しかし、城主である家康より命令が優先される事態って何だ? 陥っているとか言ってたけど、まさか……
「……謀反か? 猪熊達の」
「流石に察しがいいの……話が早くて助かる。その通りじゃ。猪熊が中心になって家臣達を唆しての……お陰で妾はこの様じゃ」
自虐的な笑みを浮かべながら、家康は今いる部屋を見渡す様な素振りを見せた。ここに幽閉されている、と言いたいんだろう。
「この結界もお前を逃さない為の物なのか?」
「それもあるかも知れんが、おそらく違うのお……妾の妖術に対して、ここ迄する必要は無いからの」
やはり家康も何らかの『魔法』が使えるみたいだ。
だけど、本人曰くここ迄警戒する程の必要は無い能力らしい……だったらこれは何の為の結界なんだ?
「これって多分……安倍晴明って奴が張ったんだろ? 態々呼び寄せたのか? 猪熊達が」
この国では滅多に使える者がいない上級魔法……その為に態々、晴明を呼んだんだろうか。それとも別の誰かなのか。そこまでしなきゃならない理由って一体……
「お主、あ奴を知っておるのか!? 京の大陰陽師、安倍晴明を……!」
家康が初めて動揺を見せた。
確かに俺と晴明には接点なんか無いからな……もしかしたら、俺が京と内通してる可能性を疑ったのかも知れない。まさか俺の口から晴明の名前が出て来るなんて、夢にも思わなかったんだろう。驚くのも無理は無い。
「知っているって言っても名前だけだ。実は俺の町も何者かに襲われてな……俺はそれも晴明の仕業だと睨んでいる。だからピンと来たんだ」
「お主の町も……」
家康は未だ動揺を隠せていない。
色んな事が頭の中を駆け巡りつつも、俺が町を襲われた事に同情はしてるみたいだ。
「ああ……だから俺は晴明と……それに他にも心当たりがある人物について聞きたくて、お前を尋ねて来たんだ。そしたらこの有様だった、と言う訳だ」
「そうか……それはすまん事をしたな。で、妾に聞きたい事と言うのは何じゃ? 晴明の事か?」
幾らか冷静さを取り戻した家康が尋ねて来た。
聞きたい事は山程ある。
勿論、晴明の情報。
それに、半兵衛の情報だ。
しかし、何より今のこの状況……
猪熊達が謀反を起こしたと言うのは分かったが……正直俺は、そんな事はどうでもいい。
それより、猪熊達と晴明が繫がっているのかどうかの方が気になる。もし俺の町が襲われた事に、猪熊達が何らかの関わりを持っていたら、放って置く訳にはいかない。
それに、さっきから姿が見えない楓だ。
楓も何かに巻き込まれてるのか?
まさか猪熊達についたとは考えにくいが……
そして、今いるこの部屋の結界。
態々、上級魔法まで施した理由が分からない。
家康はここ迄する必要は無いと考えているみたいだし……
ひとつひとつ、確認して行くしか無さそうだ。
「聞きたい事は山程ある。ここに来て更に増えてしまったくらいだ……とりあえず、気になっている事を片っ端から聞いていくから教えてくれ」
「妾に答えられる事ならな。何でも聞くが良い」
家康は俺の目を見て答えた。
真剣に答えてくれるつもりではありそうだ。
「とりあえず……楓はどこだ?」
一つ目の問いが意外だったのか、拍子抜けした様な顔で家康は微笑んだ。
「ほう……まさかお主が楓を気にかけてくれるとはな。些か意外ではあるが……妾としては喜ばしい事じゃ。あれは妾にとっても特別な忍じゃからな……」
何かを思い出す様な少し嬉しそうな顔で、家康は語った。
「楓の事ならこの者に聞くが良い」
感傷を振り払う様にキッと顔を強張らせ、家康はパンパンと二回、手を鳴らした。
すると、スッと音も無く家康の背後に黒づくめの男が姿を現した。よく見ると白髪を後ろで束ね、鋭い目つきをした老人である事が分かる。
男は黙ったまま家康の言葉を待って控えていた。
家康は、此方を向いたままで男が現れたのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「こ奴が楓の師匠……服部半蔵じゃ──」
俺達は城内に入ってすぐ、その場にいた兵を捕まえて家康の居場所を詰問した。勿論、力強くでだ。
家康はどうやらこの城の天辺、天守閣に作られた部屋に居るらしい。
俺達は土足のまま木張りの廊下をズカズカ歩き、その部屋を目指した。
(やけに大人しいな……)
俺達が城内に侵入してる事は、分かっている筈なんだけど……全く兵達が止めに入って来る気配が無い。
『そうですね……遠巻きに此方の様子を伺っている様な感じです』
雪も気配は感じているみたいだ。
だけど何もして来ない……どう言うつもりだ?
不審に思いながら狭い廊下を進んで行くと、少し先に引き戸の前に立つ見張りの兵が見えた。
あそこだけ何だか様子がおかしい……おそらく家康がいるのはあの部屋だ。
「何だ、貴様等っ!」
二人いる見張りの内、手前の兵が此方に気付いた。
「がっ!」
「ぐあっ!」
ほぼ同時にジンが二人を背後から襲い、気絶させた。漫画みたいに首筋に手刀を叩き付け意識を刈り取っている。
どうやらちゃんと、無闇に殺すなと言った命令を守っているみたいだな……ジンは俺より容赦が無いからこれ位で丁度いい。
「多分、ここだな……」
俺は引き戸の前に立って呟いた。
『真人さん』
(どうした?)
雪が俺を引き止めた。
『何だか変な感じがします……この部屋』
言われてみると、確かに何だか嫌な感じがする。
部屋自体が変な空気に包まれている様な……白い靄がかかっている様な感じだ。
(結界……ですねぇ……)
ジンは何か知っているみたいだ。
(結界?)
ウォルフがジンに尋ねた。
(ええ……この部屋全体に結界が張られています。おそらく大魔法……人間で言う上級魔法ですか。それが張られてるみたいですねぇ)
(また大魔法か……するとこれも、町を襲ったのと同じ奴の仕業か……?)
晴明か……なるほど。ウォルフの言う通り、その可能性は高いかも知れない。上級魔法を使える人間は限られているらしいし……
(それはどうでしょうねぇ……ただ、その可能性は高いかも知れませんね。中々、見事な結界です)
感心した様に淡々とジンは説明した。
(確かに何だか気持ち悪いねえ……これ、何の結界なんだい?)
コンも身震いする様な仕草をしながら尋ねている。
(おそらくですが……魔力を封じ込める結界みたいですね。貴女達で言う所の妖気みたいな物もです。力の強い者程、その影響を受け易いのかも知れませんね)
魔力を封じ込める……つまり、この中では魔法は使えないと言う事か。それに妖気まで……
まあ、それは当然の事かも知れない。コンの様に一部の亜人は強力な妖気を宿してるけど、もとを正せばこれも魔力だ。
妖気、気力、神力……そして魔力。いろいろな呼び方をされてるけど、根本はどれも同じ様な物だ。一応、体内に宿す力を『魔力』と統一して呼んでるけど、これを色んな力に変換させた物が妖力や神力と呼ばれるらしい……
「考えてても仕方ない。行くぞ」
俺は何やら風景が描かれた立派な襖を、両側へ一気に空け開いた。
──眩しい。
室内は思ったより採光されていて明るかった。三方全ての障子が開け放たれ、部屋中に陽の光が差し込んでいる。
細めていた目を凝らして見ると、江戸中を見渡せる様な見事な展望が目の前に開けていた。
いかにも領主らしい立派な部屋だ。
ふと部屋の中心に、赤い着物の人物が座っているのが見えた。
家康だ。
「おお……真人か。よう来たな」
家康は相変わらず艶のある声で、平然と語りかけて来た。
まるで動じて無い。
やはり俺達が侵入して来た事を知っていたからか?
「いつでも来いと言って置きながら、随分な歓迎をしてくれるじゃないか」
少し探りを入れてみた。
「何の事じゃ?」
本当に何の事かわからないと言った素振りで、キョトンとしている。まあこいつの場合、鵜呑みには出来無いんだけど……
「異人……と言うより俺が来たら殺せと命じられてたみたいだぞ? 門番達は。いきなり襲い掛かって来やがった」
「ほう……」
家康の雰囲気が少し険しい物に変わった。
目を細めて何かを考えている。思い当たる節でもあるかの様だ。
「まあ、そんなとこに突っ立っておらんで、こっちに来て座らんか。立ち話も何じゃろう」
パッと元の飄々とした雰囲気に戻って、家康は俺達に座る様に促した。
俺が家康の対面に座り、後ろにジン達が控えて座る。家康は特に何も言わず、俺の連れを一通り見回して話し出した。
「随分、連れが増えたのお……それも癖の強そうな者ばかりじゃ」
コンがピクッと反応した。
何やら今の発言が気に食わなかったらしい。
「ふふふっ……そう気を荒立てるでない。妾は褒めておるのじゃよ。よくぞここ迄、頼もしそうな仲間を集めて来た物じゃとな……この男はほれ。そう言うのは苦手そうに見えたのでな」
一瞬、苛立ちを見せたコンを宥める様に、家康は話した。
確かに前に来た時は一人だったし、仲間を作るのは得意では無いが……そこまで見透かされてたのか。
ジン達の能力にも薄々感付いているみたいだし……やっぱりこいつは油断出来んな。
「仲間じゃないよっ! あたしはご主人様の奴隷さっ!」
当然、コンが訳の分からない反論をした。
「なっ! 馬鹿、何言ってんだ!」
誤解を招く様な事言うんじゃ無いっ!
家康が呆気に取られてるじゃないか……!
「ぷっ! あはははっ! そうか、奴隷か! それは失礼した……許せ!」
さっき迄の艷やかな雰囲気が一転して、家康はケラケラと大笑いし始めた。目尻には涙まで浮かべている。
当のコン自身は家康の謝罪? を受けてご満悦だ。
大体、奴隷と言われて何でそんなに得意気なんだ……こいつは。フフンッと自慢気に踏ん反り返って、まるで自分の方が上だと言わんばかりに家康を見下している。
全く……こいつのペースに嵌まると碌な事にならん。
話を戻そう……。
「おい、家康。そんな事はどうでもいい。それより俺達を襲った理由をサッサと説明しろ」
コンを奴隷と勘違いされたままなのは癪だけど、正直、誤解を解くのも面倒くさい。
それよりも早く要件を済ませたい。
「あ、ああ……そうじゃったな……」
目尻の涙を拭いながら、家康はひとつ咳払いをして話を仕切り直した。
「コホン……お主等を襲ったと言う兵共の話じゃったな……おそらくそれは猪熊達の命によるものじゃ」
家康の顔から笑みが消えて真剣な口調に変わった。
「ああ……それは知っている。門番の兵が自慢気に話してたからな」
「そうか……ならば話は早い。要するに今、この江戸城は、妾よりあ奴らの命の方が優先される事態に陥っておる、という事じゃ」
やっぱり家康が襲わせた訳では無かったみたいだ。
しかし、城主である家康より命令が優先される事態って何だ? 陥っているとか言ってたけど、まさか……
「……謀反か? 猪熊達の」
「流石に察しがいいの……話が早くて助かる。その通りじゃ。猪熊が中心になって家臣達を唆しての……お陰で妾はこの様じゃ」
自虐的な笑みを浮かべながら、家康は今いる部屋を見渡す様な素振りを見せた。ここに幽閉されている、と言いたいんだろう。
「この結界もお前を逃さない為の物なのか?」
「それもあるかも知れんが、おそらく違うのお……妾の妖術に対して、ここ迄する必要は無いからの」
やはり家康も何らかの『魔法』が使えるみたいだ。
だけど、本人曰くここ迄警戒する程の必要は無い能力らしい……だったらこれは何の為の結界なんだ?
「これって多分……安倍晴明って奴が張ったんだろ? 態々呼び寄せたのか? 猪熊達が」
この国では滅多に使える者がいない上級魔法……その為に態々、晴明を呼んだんだろうか。それとも別の誰かなのか。そこまでしなきゃならない理由って一体……
「お主、あ奴を知っておるのか!? 京の大陰陽師、安倍晴明を……!」
家康が初めて動揺を見せた。
確かに俺と晴明には接点なんか無いからな……もしかしたら、俺が京と内通してる可能性を疑ったのかも知れない。まさか俺の口から晴明の名前が出て来るなんて、夢にも思わなかったんだろう。驚くのも無理は無い。
「知っているって言っても名前だけだ。実は俺の町も何者かに襲われてな……俺はそれも晴明の仕業だと睨んでいる。だからピンと来たんだ」
「お主の町も……」
家康は未だ動揺を隠せていない。
色んな事が頭の中を駆け巡りつつも、俺が町を襲われた事に同情はしてるみたいだ。
「ああ……だから俺は晴明と……それに他にも心当たりがある人物について聞きたくて、お前を尋ねて来たんだ。そしたらこの有様だった、と言う訳だ」
「そうか……それはすまん事をしたな。で、妾に聞きたい事と言うのは何じゃ? 晴明の事か?」
幾らか冷静さを取り戻した家康が尋ねて来た。
聞きたい事は山程ある。
勿論、晴明の情報。
それに、半兵衛の情報だ。
しかし、何より今のこの状況……
猪熊達が謀反を起こしたと言うのは分かったが……正直俺は、そんな事はどうでもいい。
それより、猪熊達と晴明が繫がっているのかどうかの方が気になる。もし俺の町が襲われた事に、猪熊達が何らかの関わりを持っていたら、放って置く訳にはいかない。
それに、さっきから姿が見えない楓だ。
楓も何かに巻き込まれてるのか?
まさか猪熊達についたとは考えにくいが……
そして、今いるこの部屋の結界。
態々、上級魔法まで施した理由が分からない。
家康はここ迄する必要は無いと考えているみたいだし……
ひとつひとつ、確認して行くしか無さそうだ。
「聞きたい事は山程ある。ここに来て更に増えてしまったくらいだ……とりあえず、気になっている事を片っ端から聞いていくから教えてくれ」
「妾に答えられる事ならな。何でも聞くが良い」
家康は俺の目を見て答えた。
真剣に答えてくれるつもりではありそうだ。
「とりあえず……楓はどこだ?」
一つ目の問いが意外だったのか、拍子抜けした様な顔で家康は微笑んだ。
「ほう……まさかお主が楓を気にかけてくれるとはな。些か意外ではあるが……妾としては喜ばしい事じゃ。あれは妾にとっても特別な忍じゃからな……」
何かを思い出す様な少し嬉しそうな顔で、家康は語った。
「楓の事ならこの者に聞くが良い」
感傷を振り払う様にキッと顔を強張らせ、家康はパンパンと二回、手を鳴らした。
すると、スッと音も無く家康の背後に黒づくめの男が姿を現した。よく見ると白髪を後ろで束ね、鋭い目つきをした老人である事が分かる。
男は黙ったまま家康の言葉を待って控えていた。
家康は、此方を向いたままで男が現れたのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「こ奴が楓の師匠……服部半蔵じゃ──」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる