憑依転生〜脳内美少女と死神と呼ばれた転生者

真木悔人

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第三章 江戸騒乱編

第43話 異変

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「ご主人はい、あーん……」

「やめろ」

 コンが串に刺さった団子を、まるで新婚夫婦の様に口元に差し出して来る。
 俺は冷徹な目でそれを拒んだ。

 俺達が今いるのは江戸の甘味処、その店先に設置された赤い布を敷かれたベンチだ。
 ようやく江戸に着いた途端、コンが団子を食べたいと駄々を捏ね出したから、仕方無くここで休憩を取っている所だった。

『真人さん、魂の繋がり切っちゃってもいいですか?』

(馬鹿やめろ、雪。こんなのでも一応、忠誠を誓ってくれてる部下なんだ)

 コンに対してだけは流石の雪も頭を悩ませている。何せ言っても聞かないからな……こいつだけは。平気な顔して、あたしは奴隷だから奥方様の邪魔は致しませんよ、とか言って開き直る。
 魂の繋がりが無くなって制御出来なくなった時の方がよっぽど厄介そうだ。このまま忠誠を誓わせて置かないと、何しでかすか分からない奴だからな。

「ご主人様もそんなに照れなくてもいいのにぃー」

「照れてるんじゃ無い。切れてるんだ」

 ──雪がな。

『コンさん貴女、少しはしたないですよ』

 ──いつに無く雪が黒い。

(あら、奥方様。これ位、奴隷としては当然の義務ですよ?)

 ──コンは鼻にもかけてない。

『貴女、いい加減にして置か無いと──』

ですかっ!?)

『~~っ!』

 ──そして何時も、このパターンだ。

 放置しても痛めつけても、コンはご褒美だと捉えて喜んでしまう。雪とも散々試してみたけど、手の施しようが無い……完全にお手上げ。ある意味、最強だ。

(良さないか、コンっ! 奥方様に失礼だぞっ!)

 この中で唯一の良心、ウォルフが割って入って来た。
 助かった……全く。どうせならもっと早く入って来てくれ。こう言う時、戦闘狂のジンは当てにならないんだから……

「何だい、ウォルフ。冗談の通じ無い男だねえ……」

 嗜められたコンは恨めしそうに、持っていた団子を口に運んでいる。

「全く、お前と言う奴は……幾ら奥方様がお優しいからと言って、調子に乗り過ぎだぞ」

「はいはい、分かってますよーだ」

 ベッと舌を出して、拗ねた様にウォルフに答えるコン。全く……とんだトラブルメーカーを引き入れてしまった。

「いい加減にして置け、お前等。それよりジン。お前、さっきから殺気が駄々漏れだ」

「はっ! 申し訳ございません。余りにもこ奴ら人間共が無礼な故……」

 まあ、俺もだいぶ慣れて来たとは言え、最初はブチ切れそうだったからな……こいつ等の差別には。

 久しぶりに人間の町に戻って来て、改めて確信した。やっぱり俺はこいつ等人間が嫌いだ。皆が皆って訳では無いが……こここの町では上手くやって行けそうに無い。

「ここではこれ異人は差別の対象なんだ。苛つくのも分かるが抑えておけ。余計な騒ぎは起こしたく無い」

 俺はそう言って自分の髪を指差した。
 別に抑えなくても何とかなるんだろうけど、家康に会う迄に余計なトラブルは避けたかった。それに何より面倒くさい。

「はっ! 畏まりました」

 ジンが仰々しく頭を下げている。
 別に悪気があった訳では無いんだろうし、特に頭にも来ていない。それよりさっさと要件を済まそう……

「そろそろ行くか……」

 俺は徐に立ち上がってウォルフ達を促した。

「「はっ!」」

「もぐ……ふぁい!」

 ジンとウォルフを引き連れ店を後にしようすると、慌ててコンも団子を頬張りながら追いかけて来た。

 江戸城はもう、目と鼻の先だ。
 俺達は何の緊張感も無く、のんびりと江戸城を目指して歩き始めた……






 ──────────

「何度言えば分かるっ! 貴様の様な輩、通す訳にはいかんと言っておるだろうっ!」

「だから、家康に取り継いでくれれば分かるって言ってんだろ!」

 塀で囲まれた江戸城本丸への入口、この世界でも大手門と呼ばれているその門前で、俺は門番の男と言い争っていた。

「まだ呼び捨てにするか、無礼者がっ! そもそも貴様等の様な怪しい奴、家康様にお伺いを立てるまでも無いわっ! とっとと立ち去れいっ!」

 片手に槍を立て掛けて持つその男は、俺達を見下す様な目で蔑みながら吐き捨てて来た。

 うん……まあ、そうなるのも無理はないか。
 今の俺達は客観的に見たら、全身黒づくめの目つきの悪い異人と、これまた鋭い目つきの怪しい執事……それに、見窄らしい格好の銀髪イケメンにやたらと色っぽい喪服みたいな女だ。

 怪しい奴等……確かに間違って無い気がする。
 大体、人間なのは俺だけだし。
 まあ、そんなのはコイツ等の都合で俺には関係ないけどな……

「お前、後で家康に怒鳴られても知らんぞ? 一応俺は、家康からいつでも来ていいと許可は貰ってるんだ」

 なるべく穏便に済まそうと思ったんだが……

「フンッ、戯言をっ! そんな馬鹿げた話、信じる訳無かろうが! それに貴様の様な異人は通すなと言うのは上からの御達しだ!」

「は? 上? 上って誰だ?」

 家康より上なんて居るのか?
 大体、俺は家康以外の知り合いなんか居ないぞ?
 それともまさか、異人自体が出入り禁止にでもなったんだろうか。

「フッ、どうせ貴様何ぞに言ってもわかるまい。剣術指南役の猪熊様だ!」

 どうせお前達はこんな偉い人の事なんて知らないだろう? と、馬鹿にした様な得意気な表情かおだ……少しムカつく。

 しかし、またあのジジイか……

 苛つきながらそんな事を考えていたら、城の方から二十人程の侍が此方に向かって走って来るのが見えた。

 先頭にいるのはさっき、俺の顔を見るや否や、慌てて城の方へ走って行った奴だ。なるほど、応援を呼びに行っていたのか……どうやら、俺が来るかも知れない事は予測済みだったみたいだ。
 あっと言う間に俺達を取り囲むと、先頭を走っていた男が口を開いた。

「猪熊様の命によりお前達にはここで死んで貰う!」

 言葉と同時に周りにいた侍達が刀を抜いた。

 はあ……結局こうなるのか。

「ウォルフ、片付けとけ」

「はっ!」

 俺は侍達を無視し、門を潜ろうと歩き出した。
 それを見て一斉に侍達が斬り掛かって来る。

「【雷光ライトニングの牙・ファング】」

 バチイイイイイイイイイイイインッ!! 

 ウォルフの放った稲妻が侍達の頭上に落雷し、斬り掛かって来た侍は一瞬で黒焦げになった。

 一気に半数以上がやられ唖然とする侍達。
 俺の前にいた侍達がビクッとたじろいで後退し、自然に道が開ける。俺達はその間を悠然と進み、本丸へと向かってゆっくりと歩き出した。


 しかし……どうにも腑に落ちない。
 幾ら猪熊が指南役とは言え、家康の客人を勝手にどうこう出来る程の権力があるとは思えない。

 家康が黙認しているのか? あるいは……

 俺を見るなり殺そうとして来た侍達。
 猪熊の命令がまかり通る現状。
 そして、未だに連絡ひとつ寄こさない楓……

 何かおかしい。
 おそらく何かが起こっている。


 そんな確信に近い予感を抱えながら、俺達は江戸城の本丸へと辿り着いた。

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