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しおりを挟む鷹崎の表情からは、先程以上に感情が削ぎ落とされていた。彼は機械めいた顔のまま、眼下の鈴彦に問う。
「……言いたいことは、それだけか……?」
鷹崎の唇の端が、一瞬だけ痙攣した。美月には、それが笑っているふうにも見えた。
「俺とお前が似た者同士だと……? 寝言も大概にしろや」
言って、彼は手に魔力をためる。
桜子が声にならない悲鳴を零した。
「そんなに死にたきゃ、殺してやるよ。異界に来たこと後悔するくらい、俺と関わったのを後悔するくらい、俺にふざけたことぬかしやがったことを後悔して後悔して後悔し尽くすくらい、原形もとどめねぇくらいに――」
刹那、出し抜けに上空から光線が落下して、地面が弾けた。
空を仰いで舌打ちを漏らした鷹崎が、地を蹴って後退する。と、彼がいた場所を赤い光の弾丸が穿った。
美月も夜空を見上げる。
それと同時に、上空から藍葉に紅希、葵が次々と降りてきた。三人のさらに上方には、白龍の姿がある。
美月の面持ちは、歓喜に自然と笑みを作った。
「みんな!」
「美月、桜子、無事か?」
藍葉の問いに美月は「うん!」とちからいっぱい頷く。
桜子は不思議そうに三人を見回した。
「どうして、ここが……」
「白龍さんに手伝ってもらったんだよ」
答えた葵が、空を指さす。その隣で、紅希は笑った。
「悪くねぇ乗り心地だったぜ」
藍葉は美月と桜子の前に立ち、鷹崎と向かい合う。彼女は凛々しい眼差しを相手に注いだ。
「……さぁ、ここまでのことをしでかしておいて、よもや許してもらえるとは思っとらんじゃろうな」
ふん、と鷹崎は冷たく鼻を鳴らし、温度のない視線を藍葉に返す。
「おめでたい連中だわ。……自分が許す立場だと信じてやがる」
直後、彼の周囲にこぶしほどの大きさの黒い魔力の塊が大量に浮かび上がった。
藍葉が叫ぶ。
「かまえろ!」
その声と同時に、魔力の弾丸が一同に襲い掛かった。
思わず肩をすくめた美月と桜子だったが、大きく展開した藍葉の魔法陣の盾がふたりを弾幕から守る。
同様に水の盾を成形し、鈴彦を葵が守った。
攻撃を避けつつ、魔力の弾丸の隙間を縫うように移動して鷹崎に迫ったのは紅希である。彼は腕に炎をまとって相手に腕を振るったが、惜しくもそれは回避されてしまった。
次の瞬間、姿を消した鷹崎が、今度は美月の背後に現れる。そうして美月の腕を強引に掴んで、立たせようとした。
美月の胸中にふくらんだ感情は、彼に対する強い反発心だ。反射的に美月は叫んだ。
「いやっ!」
そのとき、電気が弾けるふうな音と共に、鷹崎の手が離れる。
美月と距離をとった鷹崎は弾かれた自身の手に目をやり、次いで口角を上げた。
「はっ……はははっ! なるほどな。妖怪に与えられた魔力がお前の感情に反応して、俺を拒んだわけかよ」
美月には、彼の言葉の意味がよく理解できなかった。
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