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【61】
しおりを挟む美月の手を中心に強い光と強風が巻き起こり、周囲の木々を大きく揺さぶった。
足を踏ん張って、美月はエネルギーの射出による反動に耐える。
まばゆい光の帯が、まっすぐに鷹崎へと疾駆した。
呆然としたまま、鷹崎は動けないでいる。未だに驚愕の衝撃から抜けられないのかもしれない。黒龍を容易に倒した己が、ただの人間の少女である美月に追いつめられているという、信じがたい驚愕から。
放たれた魔力は、鷹崎に直撃した。次いで爆発が起こり、轟音と共に煙が視界を遮る。
腕をかかげたまま、美月は体勢を崩さない。
髪を揺らす微風が、少しずつ場に充満する煙を吹き千切っていった。
風に流された砂埃の先にいたのは――攻撃の直撃を受けて黒焦げになった鷹崎である。
彼の体は前後に軽く揺れたかと思うと、そのまま前方に倒れ伏してしまった。
しばし警戒の眼差しで相手を凝視したものの、鷹崎が動く気配はない。
美月は、鷹崎との戦いに勝利した事実をさとった。
そこでようやく安堵感が押し寄せてきて、美月は深く息を吐き、荒い呼吸でその場に座り込む。疲労という疲労が、美月の肢体をすみずみまで包み込んでいた。
「美月!」
呼ばれて振り返れば、駆けてくる桜子の姿があった。
「美月、大丈夫?」
彼女は美月の前に腰をおろす。
「桜子ちゃん……。うん、大丈夫だよ。桜子ちゃんは――」
幼馴染みの安否を問う台詞を最後までくちにするより早く、桜子の両腕が強く美月を抱きしめた。
彼女は震える声で言う。
「……よかった……。まったく……無茶しすぎよ……」
声のみならず、美月を抱く腕までもが振るえていた。そんな相手の態度から、多大な心配をかけてしまったらしいことを察する。
けれど、その心配が、美月には嬉しかった。こんなことを考えては、桜子に申し訳ない気持ちもいくらかあるけれど。
美月は微笑む。
「うん……ごめんね、桜子ちゃん……」
述べて、美月は彼女を抱きしめ返した。
歩み寄ってくる藍葉が、どこか不思議そうな面持ちで尋ねてくる。
「お前……人間の娘ではなかったのか? なんだ、今のとんでもない魔力は」
「いえ、あの……人間のはず、なんですけど……。それより、さっき光ってた地面はいったい……」
藍葉に返答しながら、美月は地面に目線を落とした。
これには、葵が答えてくれる。
「異界には、たまに魔力を秘めている土地があるんだよ。人間界にもない? パワースポット……って、言うんだっけ?」
「ああ、あります……。ってことは、ここは異界のパワースポットってことですか?」
片手を腰にやり、もう片方の手をひらひらと振りながら、紅希が補足した。
「ただ魔力を秘めてる土地に立てばいいってもんじゃねぇ。土地と、立つ本人。双方の相性がよくねぇと、土地のブーストは掛からねぇ。ま、今回は運がよかったってことだな」
藍葉が腕を組み、怪訝そうに眉根を寄せる。彼女は片眉を持ち上げて、美月を見やった。
「じゃが、それを考慮しても、やはり人間が放つにはあの魔力量は多すぎる。お前、親戚に妖怪でもおるんじゃなかろうな?」
とんでもないことを問われた美月は、驚いて目を丸くする。脳裏に、家族や親戚の面々がよぎっていった。
「ええ……っ! み、みんな人間……だと思うんですけど――」
そのとき、視野の端でなにかが動いた。
黒いものが瞬時に美月のもとへ迫ったのを、美月は横目で確認する。
故に、そちらに顔を向けた頃には、その黒いなにか――今しがた美月の攻撃の直撃を受けた鷹崎は、くちをあけて鋭い牙を剥き出し、美月に肉薄していた。
刹那、鷹崎の執念に濁った瞳と、視線が絡む。理性が欠片も垣間見えないその目は、飢えた獣のようであった。
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