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しおりを挟む龍がすぐ傍に移動してきたのを認めると、なんだか美月の体からはチカラが抜けてしまった。
がくりとこうべを垂らした美月は、脱力して返す。
「……そういう大事なことは、もっと早く言ってよ……」
「だから、すまんと言うとろうが。落ち着きのない娘じゃの、お前」
反論する気も失せて、美月は曖昧に返事をした。
そんなわけで、美月達一同は白龍の背に乗って、鳥居のもとへと急ぐことになったのである。
「定員オーバーだよ……」という白龍のぼやきは、皆聞かないふりをした。
◇
鳥居のもとに到着した頃には朝日は昇りきり、すっかり朝になってしまっていた。
降下しながら、白龍は言う。
「急いだほうがいいのではないかな。門が閉じかけているよ」
藍葉が美月の肩を押した。
「ほれ、お前ら急げ急げ」
「ちょっと、押さないで! 落ちるから!」
藍葉に落とされることを避けながら、美月と桜子はいち早く地に降り、鳥居のもとまで急ぐ。
見ると、鳥居の中央部は異界に来たときと同様に黒っぽく歪んでいるものの、その歪みはたしかに弱まっているふうに感じられた。
美月のあとを追っていた桜子が、藍葉達に振り返る。
「……藍葉、鈴彦さん、それに白龍……本当にありがとう。皆がいなかったら、私……」
鈴彦は穏やかに微笑しながら、首を横に振った。
「気にしないで。お礼を言いたいのは、むしろ僕のほうなんだから」
「強いて言うのなら、あちらの世界で元気に過ごすことが、我々への礼かな」
白龍も継ぐ。藍葉が僅かに胸を張った。
「悪いが、セーラー服は返さんぞ。これでもけっこう気に入っとるんでな」
彼女の台詞に、白龍がため息を漏らす。
「まったく、君は本当に素直じゃない……」
「なんじゃい。言いたいことがあるんなら、はっきり言わんかい」
ふたりのやり取りを、桜子が優しい表情で見つめた。幼馴染みがそんな顔をしてくれるようになった事実を、美月はひそかに嬉しく思う。
すると、藍葉が鈴彦に双眸を移した。
「……で。お前は帰らんのか?」
まさか自分にその話題が振られるとは予想していなかったのだろう。鈴彦は何度か瞬きをすると、決意を噛みしめるふうな面持ちでしっかりと頷いた。
彼は答える。
「……僕は、ここに残るよ。人間界に帰りたくないからという理由じゃない。異界で暮らしていくという自分の意志で、僕はこれからここで暮らしていく」
「……鈴彦さん……」
桜子に、鈴彦は笑いかけた。
「決心がついたのは、君のおかげだよ。ありがとう。君に出会えて……本当に、よかった」
大切な宝物をそっと差し出すような声調で、彼は桜子へ感謝の言葉をくちにする。
と、桜子がなにかをこらえる面持ちを作ったあと、顔を伏せて駆け出し、鈴彦に抱きついた。
「私も……私も鈴彦さんのおかげで、大事なことに気付けた……。鈴彦さんのおかげで、前を向く勇気が持てたの……」
彼女の声は、涙に潤んでいる。
鈴彦は桜子を抱きしめ返してから、優しく頭を撫でた。
「……これからも、きっとつらいことや苦しいことがあるだろう。でも、桜子ちゃんなら大丈夫だ。君は強い。それさえ忘れなければ、君は輝きを失わずにいられる」
鈴彦の胸から桜子が顔をあげ、ふたりは見つめ合う。そうして、涙を零しながらも笑みを作った桜子が、深く首肯した。
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