それでも夢を選んだ日々。減りゆく人生の選択肢の中で

ユノ・サカリス

文字の大きさ
3 / 9

第3話 夢を語った町で

「東京で役者になる」

高校三年の春、祐介は教室でそう言った。
進路指導の先生が、一瞬だけ眉をひそめたのを、今でも覚えている。

「……そういうの、地に足つけてからでも遅くないんじゃないか?」

穏やかな口調だった。だがその言葉には、祐介の願いを“現実的ではないもの”として処理する響きがあった。

クラスメイトの数人が、それを聞いて笑った。

「お前が芸能人とかウケる」
「東京って、あの東京?原宿に行くの?」
「せいぜい頑張ってモブ役だな」

自分でも、自分の言葉が浮いていることはわかっていた。
田舎の町で、演劇部もなく、映像の現場なんてテレビの中の話だった。
でも、それでも――祐介には確かに「なりたい」があった。
スクリーンに映る誰かの演技に心を奪われ、
文化祭での台詞の一言に拍手が起きたあの瞬間に、
「これで生きていきたい」と思った、確かな記憶があった。

家族も心配していた。

「せめて専門学校くらい行けば?」

そう言われたが、祐介は即答で断った。
一刻も早く、現場に近づきたかった。
ただ、それがどれほど遠いものか、自分が何も知らなかっただけだった。

高校を出てすぐ、上京した。
初めて降りた新宿駅の雑踏で、立ち止まった。
どこまで行っても人の波が続いていて、自分が一粒の埃のように思えた。
不動産屋の紹介で借りたワンルームは、駅から徒歩20分。風呂トイレはついていたが、壁が薄く、隣人の生活音が筒抜けだった。

バイトの面接は3件落ちた。
ようやく決まったキッチンの仕事は、皿洗いとゴミ出しばかりだった。
住民票を移した翌日、地元の友人がグループLINEで「退会しました」と通知を出した。
その夜、布団の中で、天井を見つめたまま眠れなかった。

オーディション会場や、安いワークショップの稽古場で出会う人は、みな「表現のために生きてきた」顔をしていた。
幼い頃からバレエやダンスをやっていた者。
演劇塾や舞台に立ち続けてきた者。
祐介には、何もなかった。
人前で話すことすら慣れていなかった祐介は、
その輪の中で、ひときわ“場違い”だった。

あのとき地元で笑った連中の声が、何度も頭にこだました。
「無理だって言ったじゃん」
そんな言葉すら、勝手に想像して、自分で自分を傷つけていた。

けれど、今になって思う。
あの時の自分は、たしかに怖かったけど、必死だった。
笑われても、無視されても、それでも語らずにはいられなかった。
夢を語ることは、恥じゃなかった。
本当に恥ずかしいのは、夢を持つことを諦めたふりをして、何も語らずにやり過ごそうとする大人になることだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。