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第1話 よくある理不尽と転移
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世の中は理不尽で、自分の思い通りにいかないことなんて腐るほどある。
野球に全てをかけて生きていた少年が怪我で全てを奪われたなんてよく聞く話だし、昨日まで裕福な生活が数日で一変して貧乏になるなんてのもありふれた話だ。
果てには事件・事故で命をいともたやすく奪われたなんてことも、世の中にはいくらでも転がっている。それは例え本人がどんなに望まなくても向こうから歩み寄ってきて、抵抗する間もなく全てを奪い去ってしまう。
理不尽に。何もかもをあっという間にだ。
だから俺が今、どこなのかも知らない牢の中で体を駆け巡る痛みにのたうちながら途方に暮れているのもよくある理不尽の中の一つなのだろう。この後に待ち受けるものが明確な死だったとしても、世界から見ればよくある話のひとつでしかないのだ。
理不尽とはそういうものだ。
例えここが、俺がこの17年間を過ごしてきた日本、いや、地球という場所ではなかったとしても。剣と魔法が大手を振って存在するファンタジー世界だったとしても。理不尽という言葉で全てが片付いてしまう。
そんな世界が、俺は憎らしいほどに嫌いだった。
第1話 よくある理不尽と転移
斎藤 恭介。
どこにでもいるような容姿の、どこにでもいるような男子高校生。それが俺だ。
幼い頃に両親に捨てられ、施設で育ち、そんな背景的要因から小・中・高と学校生活ではいじめられてきた。
ただ理不尽に。
特に悪いことはしていない。目立つようなことも何もなかったはずだ。成績は中の上程度。運動も平均よりも少し上くらいしかできなかった。一般常識も人並みにはあったはずなので、誰かを怒らせるようなことはあったかもしれないが、いじめられるようなことまでしたつもりはない。
それでも理不尽という物は、そんな常識を全て覆してやってくる。
小学校3年生のクラスの中に、とある財閥の次男がいた。どうしてそんな富裕層が、孤児である俺が通うような公立学校にいたかと言えば、親が息子に一般的な水準の生活というものを経験させたかったからだそうだ。
次男は暴君だった。
自分の気に入らないことに対してすぐに癇癪を起こし、親の権力を背景に教師にでさえも我儘を通す。厄介なことに体格も大きく腕力に優れていたこともあり、同年代の生徒は誰一人として次男に逆らうことなどできなかったのだ。
そんなある日、俺は次男に目をつけられてしまった。何が目に留まってしまったのか、何が気に入らなかったのかは今になってもわからないが、とにかく俺のなにかが次男の琴線に触れてしまったらしい。
その日から俺の生活は一変してしまった。
少ないながらもいた友達は一日で全員いなくなった。
俺の持ち物がよくなくなるようになった。
肉体的な暴力も日に日に増えていった。
最終的には学校にも、そして施設にも俺の居場所はなくなってしまった。
毎日怯えるように過ごし、少しでも人目につかないように隠れて過ごすことを強いられた。まだ小学生の狭い生活圏では、次男の影響する範囲から逃げることなど不可能。俺にできることは、隠れ、逃げ、ただただ平穏を祈ることしかできなかったのだ。
そんな生活は中学、高校になってからも変わることはなかった。
どういうわけか次男がずっと同じ学校だったからだ。
施設にいる俺は、公立校で、尚且つ施設から近いところに行く以外の選択肢はなかったのだが、そんな必要はないはずなのに次男もそのまま公立校にい続けたのだ。
次男の親の財閥は時がたつにつれ大きくなっており、どう考えてもその息子が通う学校として公立校が適しているはずはないのだが、それでも次男は俺と同じ中学、高校に進学したのだ。しかも、同じクラスというおまけ付きでだ。
当然、いじめは激化した。持ち物の破損や暴力なんてのはいいほうで、年齢が上がってくると金銭の要求までされるようになった。
施設の世話になっている俺が満足な金を持っているわけもなく、それがわかっていながら金を要求し、ないとわければ暴力を振るう。やっていることがヤクザそのまんまの行いだった。
助けは一人としていない。最初の頃は、助けられないながらも一緒になっていじめてくるものは少なかったのだが、時間の経過とともに増えていき、最終的、高校に入るころにはクラスのほぼ全員からいじめられるようになっていた。
恐らくだが、あまりに長い時間、俺が次男にいじめられるのを見て、脳が麻痺し忌避感が消えてしまったのだろう。彼らの中で、俺という存在はきっと、路傍の石ころとなんら変わりのないものだったに違いない。
そんな地獄のような日々だった。何をすることも出来ない俺は、ただ自分の世界に引きこもった。読書と勉強という、知識をつけることと、いつか見返してやりたい思って始めた、空手の練習をすることに明け暮れていた。
誰もいない、薄暗い森の中で、かき集めた段ボールで秘密基地のようなものを作り、自由時間の大半をそこで過ごしていた。
この世は理不尽だ。
何も悪いことなどしていないのに、親はいなくなり、幼少期は暗黒に包まれた。どうあがいても覆ることなどなく、抵抗はさらなる理不尽で押しつぶされた。
やられた側は不幸の道を突き進み、やっている側は裕福に幸せに暮らしている。
この世は理不尽だ。
俺をいじめる次男も、一緒になっていじめをする奴も、見て見ぬふりをする奴も、何もかもみんな消えてしまえばいい。
こんな理不尽な世界なんてなくなってしまえばいい。
それは俺が真に望んだ願い。怨嗟の悲鳴にも似た心から差の叫び。
憎い。全てが憎い。
僕力にさらされ、侮蔑の視線にさらされる教室。いつもと変わらない、変わることのない高校生活。
だが、それはこの日をもって激的な変化を迎えることになった。それは高校2年生の、とあるよく晴れた春の日のことだった。
◇
石畳に直接敷かれた赤い絨毯。細かい細工の施された何本もの石柱。光を取り込むガラスは、煌びやかなステンドグラス。
俺がそれらを見て最初に思ったのは、中世ヨーロッパの歴史的建築物によく見られる、ゴシック建築によく似た建物であるということだった。
周囲を見渡せばどうやらクラスの人間全員がいるらしく。誰もが茫然と辺りを見渡している。
「なんだよこれ!?どうなってんだよ!!」
「こ、ここは!?私たちさっきまで教室にいたはずじゃ……!?」
「木山君!これ、どうなってるんですか!!」
次第にあまりにも現実からかけ離れた光景に騒ぎ出す生徒たち。当然だろう。俺が覚えている限り、つい数分前まで俺達は教室で数学の授業を受けていたのだ。にもかかわらず、気が付いたら時代錯誤の建物の中、しかもクラスの人間全員が入ってもまだまだ余裕のある大空間の中央にいるのだから。
今まで自分たちが使っていた机も椅子も、ましてや教室そのものが消失しているのだ。その代わりにあるのは部屋の周囲を取り囲むように配置された甲冑と壁画とステンドグラス。その光景に混乱をきたさない方がどうかしている。
「落ち着け!騒ぐんじゃねぇ!!」
そんな中怒鳴り声をあげる一人の男子生徒。パニック状態だった生徒達だったが、彼の一言でピタリと動きを止めた。
「がたがたわめくな!騒いだ奴は殴り飛ばすからな!!」
言っていることは最低だが、それでもこの場の混乱した空気は彼の一言で収まったことだけは事実だろう。それによって少なくとも、パニックにより収集がつかなくなるということは避けられたのだから。
「全員一塊になれ!出入口はあの扉一つだけだ!そこから外の様子を探るぞ!!」
油断なく辺りを見渡す彼の眼は、今いるこの広い部屋の奥、唯一の出入り口と思われる大きな金属の2枚扉に注がれている。指示に従い一塊になった生徒たちも、彼に倣うように皆、その扉を注視している。
「斎藤!先に行って扉を確認してこい!!」
「え……?」
「聞こえねぇのか!!命令だ!とっとと行け!!」
彼は俺にそう命令をくだした。指示やお願いではない命令だ。そこに拒否権はないというかの如く向けられた眼光。それはどうやら他のクラスメイトも同じようだった。
このクラスに置いて、彼の指示に逆らう物は誰もいない。それが例え女子であったとしても、教師であったとしても例外ではない。
木山 修平。
そう、彼こそ俺の絶望に彩られた学校生活の全ての原因。木山財閥の次男。筋骨隆々の肉体に獰猛な顔つき。ひと睨みするだけで人を威嚇できるくせに、そのくせ頭の回転が異常に早く、カリスマ性を併せ持ち人を先導することにたけている。にもかかわらず性格が暴君という、まさに与えてはいけない者に能力が与えられてしまった典型例だろう。
「早く行きなさいよ斎藤!修平の声が聞こえなかったの!!」
「僕からも早く行くことをお勧めするよ。殴られたくはないだろう?」
木山の隣にいた二人からも俺を急かす声が響く。
篠原 愛理。そして三好 蓮の二人だ。
こいつらはどうやら木山の幼馴染らしく、いつも木山の傍にくっついている。対外的には親友だなどと宣っているが、俺から見れば二人とも腰ぎんちゃくとそう大差ない。
「早く行け!!」
「わかった……」
他のクラスメイトからも見に行くように催促され、俺はやむを得ず扉に近づいていく。
この状況に混乱をしているのは俺も同じなのだが、木山をはじめとした他の奴らにとって、俺の感情など些末なものなのだろう。
行きたくはなくても俺はあの扉を、その外を確認しに行かなければならない。
木山の意見で俺が見に行くことが決定事項とされている以上、それを覆すことなど俺には出来ないのだから。
じりじりと扉に近づいていく。一歩進むごとに背中に嫌な汗が伝うのがわかる。
後ろで見ているクラスメイトも、俺が扉に近づくにつれて、息を呑んだり、緊張感を高めていっているのが背中越しに伝わってきていた。
後、5メートル。3メートル。1メートル。
扉までの距離はもうない。鬼が出るか蛇がでるか。言いしれない不安の中で、扉に手をかけようとしたその時だった。
――バンッ
突如開いた大きな扉。そしてそこからなだれ込んでくる人、人、人。
気が付けばあっという間に俺を含めたクラスメイト全員は包囲されていて、逃げ場なんてどこにもない状態となっていた。
「おい、お前らなんのつもり……」
木山がその様子に食って掛かろうとした時だった。開いた扉から歩いてくる一人の女性。
「落ち着いてください。私たちはあなた達の敵ではありません」
静かだが、それでいてよく通る声が部屋に響く。
金髪、蒼眼。青を基調としたドレスを纏ったその女性は、俺達を見て頭を下げた。
「私たちを、いえ、この国をお救いください!勇者様!!」
女性の言葉を皮切りに、周囲を包囲していた人たちが次々に頭を下げてくる。推定でも50人以上の大人が高校生である俺達に頭を下げる。ひどく常識外の光景がそこに広がっていた。
突如として変化した世界。中世ヨーロッパ風の建築様式。勇者という敬称。
なるほどな。どうやら俺達は、いわゆるファンタジー世界に召喚されてしまったらしい。
野球に全てをかけて生きていた少年が怪我で全てを奪われたなんてよく聞く話だし、昨日まで裕福な生活が数日で一変して貧乏になるなんてのもありふれた話だ。
果てには事件・事故で命をいともたやすく奪われたなんてことも、世の中にはいくらでも転がっている。それは例え本人がどんなに望まなくても向こうから歩み寄ってきて、抵抗する間もなく全てを奪い去ってしまう。
理不尽に。何もかもをあっという間にだ。
だから俺が今、どこなのかも知らない牢の中で体を駆け巡る痛みにのたうちながら途方に暮れているのもよくある理不尽の中の一つなのだろう。この後に待ち受けるものが明確な死だったとしても、世界から見ればよくある話のひとつでしかないのだ。
理不尽とはそういうものだ。
例えここが、俺がこの17年間を過ごしてきた日本、いや、地球という場所ではなかったとしても。剣と魔法が大手を振って存在するファンタジー世界だったとしても。理不尽という言葉で全てが片付いてしまう。
そんな世界が、俺は憎らしいほどに嫌いだった。
第1話 よくある理不尽と転移
斎藤 恭介。
どこにでもいるような容姿の、どこにでもいるような男子高校生。それが俺だ。
幼い頃に両親に捨てられ、施設で育ち、そんな背景的要因から小・中・高と学校生活ではいじめられてきた。
ただ理不尽に。
特に悪いことはしていない。目立つようなことも何もなかったはずだ。成績は中の上程度。運動も平均よりも少し上くらいしかできなかった。一般常識も人並みにはあったはずなので、誰かを怒らせるようなことはあったかもしれないが、いじめられるようなことまでしたつもりはない。
それでも理不尽という物は、そんな常識を全て覆してやってくる。
小学校3年生のクラスの中に、とある財閥の次男がいた。どうしてそんな富裕層が、孤児である俺が通うような公立学校にいたかと言えば、親が息子に一般的な水準の生活というものを経験させたかったからだそうだ。
次男は暴君だった。
自分の気に入らないことに対してすぐに癇癪を起こし、親の権力を背景に教師にでさえも我儘を通す。厄介なことに体格も大きく腕力に優れていたこともあり、同年代の生徒は誰一人として次男に逆らうことなどできなかったのだ。
そんなある日、俺は次男に目をつけられてしまった。何が目に留まってしまったのか、何が気に入らなかったのかは今になってもわからないが、とにかく俺のなにかが次男の琴線に触れてしまったらしい。
その日から俺の生活は一変してしまった。
少ないながらもいた友達は一日で全員いなくなった。
俺の持ち物がよくなくなるようになった。
肉体的な暴力も日に日に増えていった。
最終的には学校にも、そして施設にも俺の居場所はなくなってしまった。
毎日怯えるように過ごし、少しでも人目につかないように隠れて過ごすことを強いられた。まだ小学生の狭い生活圏では、次男の影響する範囲から逃げることなど不可能。俺にできることは、隠れ、逃げ、ただただ平穏を祈ることしかできなかったのだ。
そんな生活は中学、高校になってからも変わることはなかった。
どういうわけか次男がずっと同じ学校だったからだ。
施設にいる俺は、公立校で、尚且つ施設から近いところに行く以外の選択肢はなかったのだが、そんな必要はないはずなのに次男もそのまま公立校にい続けたのだ。
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当然、いじめは激化した。持ち物の破損や暴力なんてのはいいほうで、年齢が上がってくると金銭の要求までされるようになった。
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恐らくだが、あまりに長い時間、俺が次男にいじめられるのを見て、脳が麻痺し忌避感が消えてしまったのだろう。彼らの中で、俺という存在はきっと、路傍の石ころとなんら変わりのないものだったに違いない。
そんな地獄のような日々だった。何をすることも出来ない俺は、ただ自分の世界に引きこもった。読書と勉強という、知識をつけることと、いつか見返してやりたい思って始めた、空手の練習をすることに明け暮れていた。
誰もいない、薄暗い森の中で、かき集めた段ボールで秘密基地のようなものを作り、自由時間の大半をそこで過ごしていた。
この世は理不尽だ。
何も悪いことなどしていないのに、親はいなくなり、幼少期は暗黒に包まれた。どうあがいても覆ることなどなく、抵抗はさらなる理不尽で押しつぶされた。
やられた側は不幸の道を突き進み、やっている側は裕福に幸せに暮らしている。
この世は理不尽だ。
俺をいじめる次男も、一緒になっていじめをする奴も、見て見ぬふりをする奴も、何もかもみんな消えてしまえばいい。
こんな理不尽な世界なんてなくなってしまえばいい。
それは俺が真に望んだ願い。怨嗟の悲鳴にも似た心から差の叫び。
憎い。全てが憎い。
僕力にさらされ、侮蔑の視線にさらされる教室。いつもと変わらない、変わることのない高校生活。
だが、それはこの日をもって激的な変化を迎えることになった。それは高校2年生の、とあるよく晴れた春の日のことだった。
◇
石畳に直接敷かれた赤い絨毯。細かい細工の施された何本もの石柱。光を取り込むガラスは、煌びやかなステンドグラス。
俺がそれらを見て最初に思ったのは、中世ヨーロッパの歴史的建築物によく見られる、ゴシック建築によく似た建物であるということだった。
周囲を見渡せばどうやらクラスの人間全員がいるらしく。誰もが茫然と辺りを見渡している。
「なんだよこれ!?どうなってんだよ!!」
「こ、ここは!?私たちさっきまで教室にいたはずじゃ……!?」
「木山君!これ、どうなってるんですか!!」
次第にあまりにも現実からかけ離れた光景に騒ぎ出す生徒たち。当然だろう。俺が覚えている限り、つい数分前まで俺達は教室で数学の授業を受けていたのだ。にもかかわらず、気が付いたら時代錯誤の建物の中、しかもクラスの人間全員が入ってもまだまだ余裕のある大空間の中央にいるのだから。
今まで自分たちが使っていた机も椅子も、ましてや教室そのものが消失しているのだ。その代わりにあるのは部屋の周囲を取り囲むように配置された甲冑と壁画とステンドグラス。その光景に混乱をきたさない方がどうかしている。
「落ち着け!騒ぐんじゃねぇ!!」
そんな中怒鳴り声をあげる一人の男子生徒。パニック状態だった生徒達だったが、彼の一言でピタリと動きを止めた。
「がたがたわめくな!騒いだ奴は殴り飛ばすからな!!」
言っていることは最低だが、それでもこの場の混乱した空気は彼の一言で収まったことだけは事実だろう。それによって少なくとも、パニックにより収集がつかなくなるということは避けられたのだから。
「全員一塊になれ!出入口はあの扉一つだけだ!そこから外の様子を探るぞ!!」
油断なく辺りを見渡す彼の眼は、今いるこの広い部屋の奥、唯一の出入り口と思われる大きな金属の2枚扉に注がれている。指示に従い一塊になった生徒たちも、彼に倣うように皆、その扉を注視している。
「斎藤!先に行って扉を確認してこい!!」
「え……?」
「聞こえねぇのか!!命令だ!とっとと行け!!」
彼は俺にそう命令をくだした。指示やお願いではない命令だ。そこに拒否権はないというかの如く向けられた眼光。それはどうやら他のクラスメイトも同じようだった。
このクラスに置いて、彼の指示に逆らう物は誰もいない。それが例え女子であったとしても、教師であったとしても例外ではない。
木山 修平。
そう、彼こそ俺の絶望に彩られた学校生活の全ての原因。木山財閥の次男。筋骨隆々の肉体に獰猛な顔つき。ひと睨みするだけで人を威嚇できるくせに、そのくせ頭の回転が異常に早く、カリスマ性を併せ持ち人を先導することにたけている。にもかかわらず性格が暴君という、まさに与えてはいけない者に能力が与えられてしまった典型例だろう。
「早く行きなさいよ斎藤!修平の声が聞こえなかったの!!」
「僕からも早く行くことをお勧めするよ。殴られたくはないだろう?」
木山の隣にいた二人からも俺を急かす声が響く。
篠原 愛理。そして三好 蓮の二人だ。
こいつらはどうやら木山の幼馴染らしく、いつも木山の傍にくっついている。対外的には親友だなどと宣っているが、俺から見れば二人とも腰ぎんちゃくとそう大差ない。
「早く行け!!」
「わかった……」
他のクラスメイトからも見に行くように催促され、俺はやむを得ず扉に近づいていく。
この状況に混乱をしているのは俺も同じなのだが、木山をはじめとした他の奴らにとって、俺の感情など些末なものなのだろう。
行きたくはなくても俺はあの扉を、その外を確認しに行かなければならない。
木山の意見で俺が見に行くことが決定事項とされている以上、それを覆すことなど俺には出来ないのだから。
じりじりと扉に近づいていく。一歩進むごとに背中に嫌な汗が伝うのがわかる。
後ろで見ているクラスメイトも、俺が扉に近づくにつれて、息を呑んだり、緊張感を高めていっているのが背中越しに伝わってきていた。
後、5メートル。3メートル。1メートル。
扉までの距離はもうない。鬼が出るか蛇がでるか。言いしれない不安の中で、扉に手をかけようとしたその時だった。
――バンッ
突如開いた大きな扉。そしてそこからなだれ込んでくる人、人、人。
気が付けばあっという間に俺を含めたクラスメイト全員は包囲されていて、逃げ場なんてどこにもない状態となっていた。
「おい、お前らなんのつもり……」
木山がその様子に食って掛かろうとした時だった。開いた扉から歩いてくる一人の女性。
「落ち着いてください。私たちはあなた達の敵ではありません」
静かだが、それでいてよく通る声が部屋に響く。
金髪、蒼眼。青を基調としたドレスを纏ったその女性は、俺達を見て頭を下げた。
「私たちを、いえ、この国をお救いください!勇者様!!」
女性の言葉を皮切りに、周囲を包囲していた人たちが次々に頭を下げてくる。推定でも50人以上の大人が高校生である俺達に頭を下げる。ひどく常識外の光景がそこに広がっていた。
突如として変化した世界。中世ヨーロッパ風の建築様式。勇者という敬称。
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