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第9話:嵐の夜、帰れないふたり
バサッ。
掛け布団が持ち上げられ、冷たい空気が流れ込んでくる。
見つかる。
そう思って強く目を閉じた瞬間だった。
「……触んな」
私の頭上から、地を這うような低い声が響いた。
「うおっ!?」
陸くんの驚いた声と共に、持ち上がりかけた布団が、強引にバサリと元に戻される。
暗闇の中で目を開けると、完全に意識を手放していたはずの瀬野くんが、片腕で布団の端を力強く握りしめていた。
その腕は、私を隠すようにしっかりと背中に回されている。
「な、なんだよ瀬野。起きてたのかよ」
「……帰れ」
掠れた、けれど絶対的な拒絶を孕んだ声。
「いや、せっかくゼリー買ってきてやったのに……ってかお前、息めっちゃ荒いぞ。大丈夫か?」
「……いいから、そこに置いて帰れ。うつるぞ」
普段の瀬野くんとは違う、明らかな苛立ちを含んだ声色に、陸くんもたじろいだようだった。
「わ、わかったよ。机に置いとくからな。後でちゃんと食えよ」
逃げるような足音が部屋から遠ざかり、やがて玄関のドアがバタンと閉まる音が聞こえた。
家の中に、再び静寂と雨音だけが戻ってくる。
「……瀬野くん、もう大丈夫だよ」
私が小さく声をかけると、私を庇っていた瀬野くんの腕から、ふっと力が抜けた。
「……あいつに、お前のこんな姿……見せるわけないだろ」
荒い息を吐きながら、彼が私の耳元でぼそりと呟く。
ギリギリの限界の中で、彼は本能だけで私を隠してくれたんだ。
そのまま彼は完全に意識を手放し、私の肩に深く顔を埋めて動かなくなってしまった。
「本当に、むちゃくちゃなんだから……」
私はなんとか彼の下から這い出すと、乱れた制服のシワを伸ばし、大きく息を吐き出した。
心臓が、まだバクバクと警鐘を鳴らしている。
机に置かれたゼリーを冷蔵庫に入れようと立ち上がった時、制服のポケットの中でスマホが震えた。
画面を見ると、母親からのメッセージだった。
『結衣、今どこ? 大雨で電車止まってるみたいだけど、帰ってこれる?』
えっ。
慌ててニュースアプリを開くと、画面には赤字で『大雨洪水警報』の文字が躍っていた。
私が使う路線は、安全確認のため終日運転見合わせになっている。
嘘でしょ。
外の雨音は、いつの間にか激しい嵐のように窓ガラスを打ち据えていた。
ここから家までは、歩いて帰れる距離じゃない。タクシーだって、この天気じゃいつ捕まるかわからない。
私はゆっくりと振り返り、ベッドで苦しそうに眠る瀬野くんを見た。
高熱でうなされる彼を、一人で置いて帰るわけにはいかない。
でも、このままじゃ……。
「……嘘」
瀬野くんと二人きりの家で、私は一晩を過ごさなきゃいけないの?
ベッドの上の彼は、そんな私のパニックなんて知る由もなく、ただ静かに、けれど熱っぽく息を繰り返していた。
掛け布団が持ち上げられ、冷たい空気が流れ込んでくる。
見つかる。
そう思って強く目を閉じた瞬間だった。
「……触んな」
私の頭上から、地を這うような低い声が響いた。
「うおっ!?」
陸くんの驚いた声と共に、持ち上がりかけた布団が、強引にバサリと元に戻される。
暗闇の中で目を開けると、完全に意識を手放していたはずの瀬野くんが、片腕で布団の端を力強く握りしめていた。
その腕は、私を隠すようにしっかりと背中に回されている。
「な、なんだよ瀬野。起きてたのかよ」
「……帰れ」
掠れた、けれど絶対的な拒絶を孕んだ声。
「いや、せっかくゼリー買ってきてやったのに……ってかお前、息めっちゃ荒いぞ。大丈夫か?」
「……いいから、そこに置いて帰れ。うつるぞ」
普段の瀬野くんとは違う、明らかな苛立ちを含んだ声色に、陸くんもたじろいだようだった。
「わ、わかったよ。机に置いとくからな。後でちゃんと食えよ」
逃げるような足音が部屋から遠ざかり、やがて玄関のドアがバタンと閉まる音が聞こえた。
家の中に、再び静寂と雨音だけが戻ってくる。
「……瀬野くん、もう大丈夫だよ」
私が小さく声をかけると、私を庇っていた瀬野くんの腕から、ふっと力が抜けた。
「……あいつに、お前のこんな姿……見せるわけないだろ」
荒い息を吐きながら、彼が私の耳元でぼそりと呟く。
ギリギリの限界の中で、彼は本能だけで私を隠してくれたんだ。
そのまま彼は完全に意識を手放し、私の肩に深く顔を埋めて動かなくなってしまった。
「本当に、むちゃくちゃなんだから……」
私はなんとか彼の下から這い出すと、乱れた制服のシワを伸ばし、大きく息を吐き出した。
心臓が、まだバクバクと警鐘を鳴らしている。
机に置かれたゼリーを冷蔵庫に入れようと立ち上がった時、制服のポケットの中でスマホが震えた。
画面を見ると、母親からのメッセージだった。
『結衣、今どこ? 大雨で電車止まってるみたいだけど、帰ってこれる?』
えっ。
慌ててニュースアプリを開くと、画面には赤字で『大雨洪水警報』の文字が躍っていた。
私が使う路線は、安全確認のため終日運転見合わせになっている。
嘘でしょ。
外の雨音は、いつの間にか激しい嵐のように窓ガラスを打ち据えていた。
ここから家までは、歩いて帰れる距離じゃない。タクシーだって、この天気じゃいつ捕まるかわからない。
私はゆっくりと振り返り、ベッドで苦しそうに眠る瀬野くんを見た。
高熱でうなされる彼を、一人で置いて帰るわけにはいかない。
でも、このままじゃ……。
「……嘘」
瀬野くんと二人きりの家で、私は一晩を過ごさなきゃいけないの?
ベッドの上の彼は、そんな私のパニックなんて知る由もなく、ただ静かに、けれど熱っぽく息を繰り返していた。
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