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「チャートを見てるだけで給料泥棒」とクビになったが、俺が監視していたのは『大暴落の予兆(サイン)』だ。
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「おい、ユウジ。お前、また画面見てるだけか」
六本木のタワーオフィスに入居する投資ファンド『ゴールデン・アーク』。
社長の金城(きんじょう)が、私のデスクのモニターを叩きながら怒鳴った。
「……見てるだけ? 市場の監視はトレーダーの基本ですが」
「屁理屈はいらねぇんだよ! 他の奴らを見ろ! 電話して情報を集めたり、飛び込み営業で出資者を集めたりしてるだろ? お前は一日中、無言でクリックしてるだけ。暗いんだよ!」
金城は私の成績表――リスク管理によって「損失をゼロに抑えている」実績――を見もせずに、床に捨てた。
「あのな、投資ってのは『気合い』なんだよ。上がると思ったら全力で買う! 下がると思ったら気合いで耐える! お前みたいなチマチマした『リスクヘッジ』とか『損切り』とか、女々しくて見てられねぇんだわ」
周りのイケイケな若手トレーダーたちも、嘲笑うようにこちらを見ている。
「ユウジさん、ビビりすぎっすよ。仮想通貨なんてガチホすれば勝てるのに」
「レバレッジ100倍で人生変えましょうよw」
私は眼鏡の位置を直した。
彼らは知らない。この相場が今、10年に一度の『バブル崩壊前夜』の波形を描いていることを。私が緻密な計算で、ファンドの資産を暴落から守るポジションを維持していたことを。
「社長。今の相場は異常な過熱感があります。私が組んでいる『空売り(ショート)』のヘッジポジションを外せば、もし暴落が来た時にファンドは即死しますよ」
「はっ! 暴落? 来るわけねぇだろ! 今は『スーパー上昇トレンド』なんだよ! お前のその空売りポジション、全部解消して『買い(ロング)』に入れ替えろ! それができないなら今すぐクビだ!」
「……本気ですか? 全資産をロングに?」
「当たり前だ! 俺の勘が『行け』と叫んでる! さっさと荷物まとめて出て行け! お前の退職金代わりの資金も、全部俺が運用して増やしてやるよ!」
「分かりました。……では、私の警告を無視したこと、後悔しないでくださいね」
私は自分のIDでログインしていた管理画面からログアウトし、私物のUSBメモリを抜いた。
これで、自動で暴落を感知して損切りする『セーフティ・ボット』も停止した。
私はオフィスを出て、エレベーターホールに向かった。
スマホを取り出し、自分の個人口座で、彼らが買った銘柄に全力で『ショート(売り)』を入れる。
エレベーターが1階に到着した、その時だった。
『ギャアアアアアアアッ!!』
オフィスの窓ガラスが割れるんじゃないかと思うほどの絶叫が、上層階から響いてきた。
「お、おい! なんだ今の声!?」
ロビーにいた警備員が慌てふためく。
私はスマホのチャートを見た。
長い長い陽線の後に、断崖絶壁のような『大陰線(ナイアガラ)』が出現していた。
一瞬で価格が30%暴落。レバレッジをかけていれば、一撃で強制ロスカットだ。
『社長! 証拠金が! マイナスです! 追証(おいしょう)が払えません!』
『止まらない! 下げが止まらないぃぃ! 借金が億を超えましたぁぁ!!』
窓から、パソコンや椅子が降ってきそうなほどのパニック気配を感じる。
「気合い」で耐えるには、少しばかり数字が大きすぎたようだ。
私は暴落で膨れ上がった自分の口座残高を眺めながら、高級焼肉の予約を入れた。
六本木のタワーオフィスに入居する投資ファンド『ゴールデン・アーク』。
社長の金城(きんじょう)が、私のデスクのモニターを叩きながら怒鳴った。
「……見てるだけ? 市場の監視はトレーダーの基本ですが」
「屁理屈はいらねぇんだよ! 他の奴らを見ろ! 電話して情報を集めたり、飛び込み営業で出資者を集めたりしてるだろ? お前は一日中、無言でクリックしてるだけ。暗いんだよ!」
金城は私の成績表――リスク管理によって「損失をゼロに抑えている」実績――を見もせずに、床に捨てた。
「あのな、投資ってのは『気合い』なんだよ。上がると思ったら全力で買う! 下がると思ったら気合いで耐える! お前みたいなチマチマした『リスクヘッジ』とか『損切り』とか、女々しくて見てられねぇんだわ」
周りのイケイケな若手トレーダーたちも、嘲笑うようにこちらを見ている。
「ユウジさん、ビビりすぎっすよ。仮想通貨なんてガチホすれば勝てるのに」
「レバレッジ100倍で人生変えましょうよw」
私は眼鏡の位置を直した。
彼らは知らない。この相場が今、10年に一度の『バブル崩壊前夜』の波形を描いていることを。私が緻密な計算で、ファンドの資産を暴落から守るポジションを維持していたことを。
「社長。今の相場は異常な過熱感があります。私が組んでいる『空売り(ショート)』のヘッジポジションを外せば、もし暴落が来た時にファンドは即死しますよ」
「はっ! 暴落? 来るわけねぇだろ! 今は『スーパー上昇トレンド』なんだよ! お前のその空売りポジション、全部解消して『買い(ロング)』に入れ替えろ! それができないなら今すぐクビだ!」
「……本気ですか? 全資産をロングに?」
「当たり前だ! 俺の勘が『行け』と叫んでる! さっさと荷物まとめて出て行け! お前の退職金代わりの資金も、全部俺が運用して増やしてやるよ!」
「分かりました。……では、私の警告を無視したこと、後悔しないでくださいね」
私は自分のIDでログインしていた管理画面からログアウトし、私物のUSBメモリを抜いた。
これで、自動で暴落を感知して損切りする『セーフティ・ボット』も停止した。
私はオフィスを出て、エレベーターホールに向かった。
スマホを取り出し、自分の個人口座で、彼らが買った銘柄に全力で『ショート(売り)』を入れる。
エレベーターが1階に到着した、その時だった。
『ギャアアアアアアアッ!!』
オフィスの窓ガラスが割れるんじゃないかと思うほどの絶叫が、上層階から響いてきた。
「お、おい! なんだ今の声!?」
ロビーにいた警備員が慌てふためく。
私はスマホのチャートを見た。
長い長い陽線の後に、断崖絶壁のような『大陰線(ナイアガラ)』が出現していた。
一瞬で価格が30%暴落。レバレッジをかけていれば、一撃で強制ロスカットだ。
『社長! 証拠金が! マイナスです! 追証(おいしょう)が払えません!』
『止まらない! 下げが止まらないぃぃ! 借金が億を超えましたぁぁ!!』
窓から、パソコンや椅子が降ってきそうなほどのパニック気配を感じる。
「気合い」で耐えるには、少しばかり数字が大きすぎたようだ。
私は暴落で膨れ上がった自分の口座残高を眺めながら、高級焼肉の予約を入れた。
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