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「ただの運転手」とクビにされたが、俺の助手席は『国家元首』だ。契約を解除したら明日から会社が全路線の通行許可を失うが、徒歩で配送するか?
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「田中、お前は今日でクビだ。運送屋なんて、運転さえできれば誰でも務まるんだよ」
物流会社の二代目、若社長の成瀬(なるせ)が、高級デスクを叩きながら笑った。
「……クビ、ですか? 私が担当している『特別ルート』はどうするつもりです?」
「特別ルート? あぁ、あの山奥の古い料亭や、厳重警備の屋敷に届けるだけの暇な仕事か? あんなの新人でもできるわ。お前、いつも定時で上がって、接待と称して飲み歩いてるだろ。経費の無駄なんだよ!」
成瀬は私の運行日誌をゴミ箱に捨てた。
周りの若手社員たちも「田中さん、楽して稼いでましたもんね」と冷笑している。
「成瀬社長。あのルートの通行証は、私が個人的な『信頼』で預かっているものです。私がハンドルを握らないなら、車両一台たりともゲートは開きませんよ」
「はっ! 今の時代、通行証なんてのは会社の名義で決まってんだよ! お前みたいな一介の運転手が、偉そうに政治家や財界人と知り合いみたいなフリすんな。痛々しいんだよ!」
成瀬は聞く耳を持たず、私を部屋から追い出した。
私はため息をつき、スーツの胸ポケットから、古びた、しかし重厚な紋章の入ったIDカードを取り出した。
「分かりました。……では、私の『身分保証』を解除します。明日から、通行不可になったトラックの山を見て、後悔しないでくださいね」
「おう、負け惜しみ乙! さっさと消えろ!」
私は一礼し、会社を去った。
スマホを取り出し、数人の「友人」に電話をかける。
相手は、この国の物流インフラを影で操る重鎮や、私に命を救われた経験を持つ元閣僚たちだ。
「田中です。……ええ、今日でドライバーを引退します。あとのことは、お任せします」
* * *
翌日の早朝。
私のスマホに、成瀬からの狂ったような着信が入った。
『た、田中! おい! お前何した!?』
「おや、社長。何かトラブルでも?」
『何かもクソもねぇよ! ウチのトラック100台が、湾岸の検問所で止められてんだ! 「責任者の顔が見えない車両は通せない」って言われて、1ミリも動かせないんだよ!』
「当然ですよ。あのルートは国家レベルの機密物資が通る道です。私の顔パスがなければ、テロ警戒対象として没収される設定になっていますから」
『は……? テロ……? そんなの聞いてねぇぞ! それに、あの山奥の料亭からもクレームが来てる! 「運転手が違うから受け取らない」って、門前払いされたって……!』
「あそこは現職の大臣が密談に使う場所です。素性の分からない新人を近づけるはずがないでしょう。私が、彼らの『命』を守るための盾だったんですよ」
『嘘だろ……! 頼む、今すぐ検問所に来てくれ! このままだと違約金で会社が飛ぶ! 土下座でも何でもするから!』
「無理ですね。今、私は『友人』のクルーザーでバカンスを楽しんでいるところなんです。あ、ちょうど隣に、あなたが頭を下げても会えなかった交通大臣がいますよ。代わりますか?」
『え……あ、あ、ああ……』
電話の向こうで、ガシャーンと何かが崩れる音がした。
すべての道路が「通行止め」になった会社の社長に、残された道は破産しかない。
私は大臣と冷えたシャンパンを交わし、美しい海の景色を眺めた。
物流会社の二代目、若社長の成瀬(なるせ)が、高級デスクを叩きながら笑った。
「……クビ、ですか? 私が担当している『特別ルート』はどうするつもりです?」
「特別ルート? あぁ、あの山奥の古い料亭や、厳重警備の屋敷に届けるだけの暇な仕事か? あんなの新人でもできるわ。お前、いつも定時で上がって、接待と称して飲み歩いてるだろ。経費の無駄なんだよ!」
成瀬は私の運行日誌をゴミ箱に捨てた。
周りの若手社員たちも「田中さん、楽して稼いでましたもんね」と冷笑している。
「成瀬社長。あのルートの通行証は、私が個人的な『信頼』で預かっているものです。私がハンドルを握らないなら、車両一台たりともゲートは開きませんよ」
「はっ! 今の時代、通行証なんてのは会社の名義で決まってんだよ! お前みたいな一介の運転手が、偉そうに政治家や財界人と知り合いみたいなフリすんな。痛々しいんだよ!」
成瀬は聞く耳を持たず、私を部屋から追い出した。
私はため息をつき、スーツの胸ポケットから、古びた、しかし重厚な紋章の入ったIDカードを取り出した。
「分かりました。……では、私の『身分保証』を解除します。明日から、通行不可になったトラックの山を見て、後悔しないでくださいね」
「おう、負け惜しみ乙! さっさと消えろ!」
私は一礼し、会社を去った。
スマホを取り出し、数人の「友人」に電話をかける。
相手は、この国の物流インフラを影で操る重鎮や、私に命を救われた経験を持つ元閣僚たちだ。
「田中です。……ええ、今日でドライバーを引退します。あとのことは、お任せします」
* * *
翌日の早朝。
私のスマホに、成瀬からの狂ったような着信が入った。
『た、田中! おい! お前何した!?』
「おや、社長。何かトラブルでも?」
『何かもクソもねぇよ! ウチのトラック100台が、湾岸の検問所で止められてんだ! 「責任者の顔が見えない車両は通せない」って言われて、1ミリも動かせないんだよ!』
「当然ですよ。あのルートは国家レベルの機密物資が通る道です。私の顔パスがなければ、テロ警戒対象として没収される設定になっていますから」
『は……? テロ……? そんなの聞いてねぇぞ! それに、あの山奥の料亭からもクレームが来てる! 「運転手が違うから受け取らない」って、門前払いされたって……!』
「あそこは現職の大臣が密談に使う場所です。素性の分からない新人を近づけるはずがないでしょう。私が、彼らの『命』を守るための盾だったんですよ」
『嘘だろ……! 頼む、今すぐ検問所に来てくれ! このままだと違約金で会社が飛ぶ! 土下座でも何でもするから!』
「無理ですね。今、私は『友人』のクルーザーでバカンスを楽しんでいるところなんです。あ、ちょうど隣に、あなたが頭を下げても会えなかった交通大臣がいますよ。代わりますか?」
『え……あ、あ、ああ……』
電話の向こうで、ガシャーンと何かが崩れる音がした。
すべての道路が「通行止め」になった会社の社長に、残された道は破産しかない。
私は大臣と冷えたシャンパンを交わし、美しい海の景色を眺めた。
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