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第10話 首筋の刻印、生きた証
「……ん、っ……あ……」
広い寝室。天蓋付きのベッドの上で、私は甘い声を漏らしていた。
視界が揺れる。
上に覆い被さるディルク様の銀髪が、カーテンのように私の視界を遮り、彼の赤い瞳だけがギラギラと輝いている。
「……いい声だ。もっと聞かせろ」
彼は私の耳朶を甘噛みし、そのまま首筋へと唇を滑らせた。
熱い。
食事の時とは比べ物にならない熱量が、彼の唇から注ぎ込まれていく。
彼の大きな手が、私のパジャマの中に滑り込み、背中を這い回る。
「ディルク様、そ、そこは……っ」
「動くな。……確かめたいんだ」
彼は私の鎖骨のあたりに顔を埋め、低い声で呟いた。
「俺が触れても、本当に壊れないのか。……俺の痕跡を、お前に残せるのか」
「痕跡……?」
「俺は今まで、何かに『印』をつけようとすれば、それは破壊と同義だった。印鑑を押せば紙が腐り、木に名前を刻めば枯れ果てた」
彼は切なげに眉を寄せ、私の鎖骨を指でなぞった。
「俺は、何も残せない。俺が触れたものは全て消え去る運命だ。……だが」
彼は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
そこには、飢餓感にも似た、強い独占欲が燃えていた。
「お前になら、残せるかもしれない。……俺だけの所有印を」
彼はそう言うと、私の首筋――最も脈打つ場所に、吸い付くように唇を押し付けた。
「ひゃっ……!」
ちゅ、と音を立てて吸われる。
ただのキスじゃない。強く、肌を吸い上げられている。
痛みと、くすぐったさと、痺れるような快感が同時に駆け抜ける。
彼は何度も角度を変え、執拗に同じ場所に唇を押し付け、時折、犬歯を立てるように甘噛みをした。
(あ、あとが残っちゃう……!)
普通の恋人同士なら、恥ずかしいけれど嬉しい行為かもしれない。
でも、相手は「死神皇帝」だ。
もし、彼の呪いが発動して、首の肉が腐り落ちてしまったら?
一抹の恐怖が頭をよぎる。
「……っ、ふぅ」
長い時間の後、ようやく彼が唇を離した。
彼は私の首筋を覗き込み、息を飲んだ。
「……赤い」
彼は震える指先で、彼自身がつけたマークに触れた。
「黒くない……腐っていない。……鮮やかな、紅(あか)だ」
そこには、毒々しい黒い痣ではなく、薔薇の花びらのような、鮮烈な赤いキスマークが咲いていた。
それは、私が生きていて、血が通っていて、彼の呪いを受け入れてなお、そこに存在しているという証明だった。
「綺麗だ……」
ディルク様は、宝石を見るような目でその赤い痕を見つめ、再び愛おしそうに口づけを落とした。
「これが、生きた証か。……俺がつけた印が、消えずに残っている」
彼は感極まったように私を強く抱きしめた。
「嬉しい。……お前を俺の色で染められたことが、こんなにも嬉しいなんて」
彼の目尻に、うっすらと涙が浮かんでいるのを見て、私の胸も熱くなった。
ただのキスマーク一つで、こんなにも感動してくれるなんて。
彼は本当に、自分の生きた証をどこにも残せず、孤独だったのだ。
「……消さないでくれよ、リリアナ」
「えっ、でもこれ、目立ちますよ?」
「構わん。城中の人間に見せつけてやれ。お前は俺のものだと」
彼は子供のように駄々をこね、私の胸に顔を埋めた。
「もっとつけたい。……全身を、俺の印で埋め尽くしたい」
「ぜ、全身!? さすがにそれは……っ!」
「嫌か?」
上目遣いで見つめられ、私は言葉に詰まった。
嫌ではない。むしろ、彼がそれで安心するなら、受け入れたいと思ってしまう自分がいる。
「……お手柔らかに、お願いします」
「フッ、善処する」
彼は嬉しそうに笑うと、今度は反対側の首筋に顔を寄せた。
夜はまだ長い。
この不器用で愛おしい魔王様が、心ゆくまで私に「マーキング」を終える頃には、私はきっと、隙間もないほど彼の色に染められていることだろう。
窓の外では吹雪が吹き荒れていたが、皇帝の寝室だけは、溶けるほど甘い熱気に包まれていた。
広い寝室。天蓋付きのベッドの上で、私は甘い声を漏らしていた。
視界が揺れる。
上に覆い被さるディルク様の銀髪が、カーテンのように私の視界を遮り、彼の赤い瞳だけがギラギラと輝いている。
「……いい声だ。もっと聞かせろ」
彼は私の耳朶を甘噛みし、そのまま首筋へと唇を滑らせた。
熱い。
食事の時とは比べ物にならない熱量が、彼の唇から注ぎ込まれていく。
彼の大きな手が、私のパジャマの中に滑り込み、背中を這い回る。
「ディルク様、そ、そこは……っ」
「動くな。……確かめたいんだ」
彼は私の鎖骨のあたりに顔を埋め、低い声で呟いた。
「俺が触れても、本当に壊れないのか。……俺の痕跡を、お前に残せるのか」
「痕跡……?」
「俺は今まで、何かに『印』をつけようとすれば、それは破壊と同義だった。印鑑を押せば紙が腐り、木に名前を刻めば枯れ果てた」
彼は切なげに眉を寄せ、私の鎖骨を指でなぞった。
「俺は、何も残せない。俺が触れたものは全て消え去る運命だ。……だが」
彼は私の瞳を真っ直ぐに見つめた。
そこには、飢餓感にも似た、強い独占欲が燃えていた。
「お前になら、残せるかもしれない。……俺だけの所有印を」
彼はそう言うと、私の首筋――最も脈打つ場所に、吸い付くように唇を押し付けた。
「ひゃっ……!」
ちゅ、と音を立てて吸われる。
ただのキスじゃない。強く、肌を吸い上げられている。
痛みと、くすぐったさと、痺れるような快感が同時に駆け抜ける。
彼は何度も角度を変え、執拗に同じ場所に唇を押し付け、時折、犬歯を立てるように甘噛みをした。
(あ、あとが残っちゃう……!)
普通の恋人同士なら、恥ずかしいけれど嬉しい行為かもしれない。
でも、相手は「死神皇帝」だ。
もし、彼の呪いが発動して、首の肉が腐り落ちてしまったら?
一抹の恐怖が頭をよぎる。
「……っ、ふぅ」
長い時間の後、ようやく彼が唇を離した。
彼は私の首筋を覗き込み、息を飲んだ。
「……赤い」
彼は震える指先で、彼自身がつけたマークに触れた。
「黒くない……腐っていない。……鮮やかな、紅(あか)だ」
そこには、毒々しい黒い痣ではなく、薔薇の花びらのような、鮮烈な赤いキスマークが咲いていた。
それは、私が生きていて、血が通っていて、彼の呪いを受け入れてなお、そこに存在しているという証明だった。
「綺麗だ……」
ディルク様は、宝石を見るような目でその赤い痕を見つめ、再び愛おしそうに口づけを落とした。
「これが、生きた証か。……俺がつけた印が、消えずに残っている」
彼は感極まったように私を強く抱きしめた。
「嬉しい。……お前を俺の色で染められたことが、こんなにも嬉しいなんて」
彼の目尻に、うっすらと涙が浮かんでいるのを見て、私の胸も熱くなった。
ただのキスマーク一つで、こんなにも感動してくれるなんて。
彼は本当に、自分の生きた証をどこにも残せず、孤独だったのだ。
「……消さないでくれよ、リリアナ」
「えっ、でもこれ、目立ちますよ?」
「構わん。城中の人間に見せつけてやれ。お前は俺のものだと」
彼は子供のように駄々をこね、私の胸に顔を埋めた。
「もっとつけたい。……全身を、俺の印で埋め尽くしたい」
「ぜ、全身!? さすがにそれは……っ!」
「嫌か?」
上目遣いで見つめられ、私は言葉に詰まった。
嫌ではない。むしろ、彼がそれで安心するなら、受け入れたいと思ってしまう自分がいる。
「……お手柔らかに、お願いします」
「フッ、善処する」
彼は嬉しそうに笑うと、今度は反対側の首筋に顔を寄せた。
夜はまだ長い。
この不器用で愛おしい魔王様が、心ゆくまで私に「マーキング」を終える頃には、私はきっと、隙間もないほど彼の色に染められていることだろう。
窓の外では吹雪が吹き荒れていたが、皇帝の寝室だけは、溶けるほど甘い熱気に包まれていた。
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