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第8話:黒の論理(ブラック・ロジック)
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未開の森を突き進む枢(くるる)の歩調が、ある一点で凍りついた。
「……枢くん。あそこ、空気が『死んでいる』わ」
繭(まゆ)が、本能的な嫌悪感を露わにする。
森の最奥、数千の白骨が円を描いて横たわる中心に、それは浮遊していた。
一辺十センチの漆黒の立方体――超古代演算端末『ラプラスの心臓』。
それは、解析を試みた数多の天才たちの意識を吸い込み、廃人に変えてきた「知性の墓標」だった。
枢が指先を触れた瞬間。
視界から森が消え、数億の幾何学模様が網膜に直接焼き付く「情報の暴力」が始まった。
(演算開始。……っ、毎秒四ペタバイトの精神汚染(ノイズ)か。
このパズル自体が、解こうとする者の思考パターンを逆探知して、脳を焼き切る『論理の罠』を仕掛けている)
枢の鼻から、一筋の血が流れる。
だが、眼鏡の奥の瞳は、かつてないほどに澄み渡っていた。
(……面白い。僕の思考を先読みするなら、その先読みすら『変数』に組み込む。
三次元の解法を捨てろ。虚数空間における多重位相の同時展開。
一秒間に一兆回の自問自答……。――正解(アンサー)は、ここだ!!)
カチャ、カチャカチャ、カチャンッ!!
枢がパズルを物理的にではなく、脳内の「論理」でねじ伏せた。
絶叫のような振動が森を震わせ、漆黒の立方体はついに枢を「正統なる管理者」として承認し、その全権限を明け渡した。
「……全システム、ジャック。定義変更(リライト)。
これからは僕が、この世界の『正解』を記述する」
枢の手の中で、パズルが液体のように崩れ、幾何学的な「漆黒の指揮棒」へと変形した。
「ギガァァァァァッ!」
主を奪われたことに激昂した森の守護者、岩石巨兵(ゴーレム)が、家ほどもある鉄拳を振り下ろす。
「……遅いよ。出力定義。――『高密度重力波の局所展開』」
枢が指揮棒を一振りした瞬間、ゴーレムの頭上だけが「数千倍の圧力」に塗り替えられた。
ドォォォォォォン!!
抵抗すら許されず、巨兵は自身の重みに耐えきれず、一瞬で塵へと圧壊した。
殴るまでもない。枢が「消えろ」と演算した結果が、そのまま物理現象として出力されたのだ。
「……このパズルは、僕の思考を物理現象として出力する。
ただし、事象が複雑なほど、僕に要求される演算難易度は跳ね上がる。
……少しは、暇つぶしになりそうだ」
枢は、荒い呼吸を整えながら漆黒の立方体をポケットに収めた。
「……枢くん、あなたの顔。今、誰よりも恐ろしかったわ。
神の知性を飲み込んで、自分の色に染めてしまうなんて」
繭が枢の首筋に顔を埋め、歓喜の震えを漏らす。
彼女にとって、枢が手に入れた力は、世界を自分たちの理想通りに作り替えるための「筆」に過ぎなかった。
枢は眼鏡を押し上げ、機能を停止した森の静寂を、繭と共に悠然と歩き出した。
「……枢くん。あそこ、空気が『死んでいる』わ」
繭(まゆ)が、本能的な嫌悪感を露わにする。
森の最奥、数千の白骨が円を描いて横たわる中心に、それは浮遊していた。
一辺十センチの漆黒の立方体――超古代演算端末『ラプラスの心臓』。
それは、解析を試みた数多の天才たちの意識を吸い込み、廃人に変えてきた「知性の墓標」だった。
枢が指先を触れた瞬間。
視界から森が消え、数億の幾何学模様が網膜に直接焼き付く「情報の暴力」が始まった。
(演算開始。……っ、毎秒四ペタバイトの精神汚染(ノイズ)か。
このパズル自体が、解こうとする者の思考パターンを逆探知して、脳を焼き切る『論理の罠』を仕掛けている)
枢の鼻から、一筋の血が流れる。
だが、眼鏡の奥の瞳は、かつてないほどに澄み渡っていた。
(……面白い。僕の思考を先読みするなら、その先読みすら『変数』に組み込む。
三次元の解法を捨てろ。虚数空間における多重位相の同時展開。
一秒間に一兆回の自問自答……。――正解(アンサー)は、ここだ!!)
カチャ、カチャカチャ、カチャンッ!!
枢がパズルを物理的にではなく、脳内の「論理」でねじ伏せた。
絶叫のような振動が森を震わせ、漆黒の立方体はついに枢を「正統なる管理者」として承認し、その全権限を明け渡した。
「……全システム、ジャック。定義変更(リライト)。
これからは僕が、この世界の『正解』を記述する」
枢の手の中で、パズルが液体のように崩れ、幾何学的な「漆黒の指揮棒」へと変形した。
「ギガァァァァァッ!」
主を奪われたことに激昂した森の守護者、岩石巨兵(ゴーレム)が、家ほどもある鉄拳を振り下ろす。
「……遅いよ。出力定義。――『高密度重力波の局所展開』」
枢が指揮棒を一振りした瞬間、ゴーレムの頭上だけが「数千倍の圧力」に塗り替えられた。
ドォォォォォォン!!
抵抗すら許されず、巨兵は自身の重みに耐えきれず、一瞬で塵へと圧壊した。
殴るまでもない。枢が「消えろ」と演算した結果が、そのまま物理現象として出力されたのだ。
「……このパズルは、僕の思考を物理現象として出力する。
ただし、事象が複雑なほど、僕に要求される演算難易度は跳ね上がる。
……少しは、暇つぶしになりそうだ」
枢は、荒い呼吸を整えながら漆黒の立方体をポケットに収めた。
「……枢くん、あなたの顔。今、誰よりも恐ろしかったわ。
神の知性を飲み込んで、自分の色に染めてしまうなんて」
繭が枢の首筋に顔を埋め、歓喜の震えを漏らす。
彼女にとって、枢が手に入れた力は、世界を自分たちの理想通りに作り替えるための「筆」に過ぎなかった。
枢は眼鏡を押し上げ、機能を停止した森の静寂を、繭と共に悠然と歩き出した。
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