嘘つきは英雄の始まり

葉山 乃愛

文字の大きさ
15 / 25

第15話 神様をこき使ったら、世界が「オート」で平和になりました

しおりを挟む
「……ミアナ、こっちの関税計算が合わない。やり直しだ」

「ひ、はいぃぃっ! ただいま修正します、監査官様!」

王城の執務室。
俺、黒瀬カイトの目の前では、かつて俺を『ゴミ』と呼んだ女神ミアナが、
涙目になりながら凄まじい速度でペンを走らせていた。

神の処理能力は伊達じゃない。
今まで俺と文官たちが数人がかりで一週間かかっていた大陸全土の予算編成を、
彼女はたったの一時間で片付けていく。

(……神を事務員にする。我ながら、とんでもない解決策を思いついたもんだ)

俺は、ルビィが淹れてくれた「火傷しそうなほど熱い」お茶をすすりながら、
ようやく訪れた束の間の一服を楽しんでいた。

だが、この平和(?)も長くは続かない。

「マスター! 大変ですわ! 西の砂漠で巨大なサソリが大量発生して、村を襲おうとしています!」

ルビィが窓から飛び込んできて叫んだ。

「なに、サソリ? よし、俺が行って――」

「あ、カイト様は動かないでください。不浄な虫は、私がこの『聖なる火炎放射(自作魔道具)』で消毒してきますから」

エリスが物騒な武器を担いで横切る。

「……待て。二人とも待て」

俺は立ち上がり、秘書のデスクを指差した。

「ミアナ。……仕事だ」

「はっ! 砂漠のサソリですね! 『天罰(気象操作)』により、局地的な豪雨と氷結を確認。
 ついでに生態系のバランスを調整し、サソリを肥料に変換しました!」

ミアナが指先で空中に円を描くと、遠くの空で雷鳴が轟いた。
数秒後、水晶球に映し出された砂漠は、一面の緑に変わっていた。

「……終わりました。住民には『神の奇跡(カイト様経由)』として伝えてあります」

「よし、お疲れ」

凄まじい。
俺がハッタリをかますまでもなく、神が「忖度」して物理現象を書き換えてしまう。
今や俺の仕事は、ミアナに「いい感じにしておけ」と指示を出すだけの、
完全な『オート・ヒーロー』と化していた。

だが、物事が上手くいきすぎると、別の問題が発生する。

「……ねえ、お兄さん」

俺の膝の上で、魔王アリスが不満げに頬を膨らませた。

「最近、お兄さん全然『ハッタリ』を使ってくれませんね。私、退屈です」

「……ハッタリなんて、使わなくて済むならその方がいいだろ」

「ダメですよ。お兄さんは嘘をついて、世界を騙して、冷や汗を流している時が一番輝いています」

アリスが俺の喉元に、冷たい指先を添えた。

「今のままだと、お兄さんはただの『本物の神』になっちゃいます。
 それはつまらない。……だから、新しい『刺激』を用意してあげました」

「……は?」

嫌な予感。
ルビィ、エリス、ミアナ、そして勇者レオンまでが、一斉に俺を見た。

「実は……カイト様のあまりの有能ぶりに、隣の大陸の連中が『嫉妬』したようでしてな」

騎士団長ゼクスが、苦笑いしながら部屋に入ってきた。

「彼らはこう言っています。『あんなに平和なのはおかしい。カイトは禁忌の魔法で、国民全員の脳を洗脳しているに違いない』と」

「……ほう」

「そして、その洗脳を解くために、『正義の連合軍』を結成したそうです。
 その数……およそ、百万人」

「……ひゃく、まん」

俺の喉が鳴った。
10万の次は100万。
この世界の軍事インフレは、どうやら限界を知らないらしい。

「しかも、彼らは『カイトは魔力1の詐欺師だ』という事実を、
 全人類に一斉放送する魔道具を準備しているとか」

「……詰んだな」

俺は椅子に深くもたれかかった。
今までのハッタリがすべて暴かれる。
そうなれば、スキル【虚言現】は無力化され、俺はただのゴミに戻る。

だが、俺の周りの災害たちは、なぜか嬉しそうに笑っていた。

「楽しみですわ、マスター! 100万人の前で、どんな大嘘をかましてくださるのか!」

「カイト様の新たな聖典、100万部発行のチャンスですね」

「監査官様! 私も全力で『演出(神罰)』をサポートしますから!」

「……ククッ。さあ、カイトお兄さん。世界を相手にした、史上最大の詐欺の始まりです」

アリスが俺の耳元で囁く。

俺、黒瀬カイト。
魔力1。スキル『嘘』。

相手は、俺を殺そうとする100万の正義の味方と、
俺の正体を暴こうとする全世界の視聴者。

……いいだろう。
これほど大きな舞台、詐欺師として燃えないわけがない。

俺は震える手で、最高級のワイン(に中身を入れ替えたぶどうジュース)を煽った。

「……ああ、面倒くさい。――まとめて騙してやるよ」

史上最大の『公開処刑』は、
俺の手によって、史上最大の『宗教行事(フェス)』へと書き換えられる。

俺の異世界生活。
どうやらここからが、伝説の「第一章完結」に向けての、最大の見せ場らしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

砂の揺籠

哀川アルマ
ファンタジー
 ハーブロート公爵家の愛人の子、レイラ・ハーブロート公爵令嬢は、典型的な我儘令嬢でどうしようもないと噂される。  義母も相当な放蕩な女で、苦労している姉のシローヌ・ハーブロート公爵令嬢に同情の声が寄せられ、ハーブロート公爵の名声は地に落ちつつあった。  王太子妃の開いたお茶会でも暴れるレイラだが…? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  初の投稿です。  楽しんでいただければ幸いです。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

処理中です...