私がいなくなってから「実は愛していた」なんて、滑稽にもほどがあります。どうぞそのまま、空っぽの部屋で後悔なさってください。

葉山 乃愛

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第15話:崩れ去る虚飾と、王都の女神

「な、何をした……!? 私の魔石が、なぜ……!」


呆然と立ち尽くし、自分の手から零れ落ちる砂を見つめるゲルダ―局長。


私は彼との距離を詰め、その耳元で冷徹な事実を囁いた。


「貴方の使った魔石は、先ほど私が浄化した『水』に触れていましたわ。私の浄化魔法は、不純物を消し去るだけではない。魔力の結合そのものを『初期化』するんです」


広場の噴水から溢れ出した水は、すでに霧となって周囲を満たしていた。


局長が魔石を掲げた瞬間、私の術式がその魔力を「ただの石」へと還元してしまったのだ。


「この広場は今、私の支配下にあります。私の許可なく、この場所で魔法を編むことなど、誰にもできはしません」


私がそう宣言すると、広場を埋め尽くしていた市民たちから、感嘆の声が漏れた。


彼らにとって、噴水の暴走という恐怖を瞬時に鎮め、悪辣な局長を無力化した私は、もはや「余所者の魔導師」ではなかった。


「エリス様……! 救世主だ!」


「魔導省の女神様だ!」


一斉に沸き起こる称賛の嵐。


その中心で、私は静かにシリアン様と視線を交わした。


シリアン様は満足げに頷くと、騎士たちに命じて、腰が抜けて動けなくなったゲルダ―局長を引きずり出させた。


「さて、局長。市民を危険に晒し、国家の重職にある者を陥れようとした罪……獄中でゆっくりと噛み締めてください」


騒動は収束した。


しかし、広場を後にしようとした私の元へ、一人の伝令が血相を変えて駆け寄ってきた。


「エリス副長官! 隣国の旧レオンハルト領から、緊急の連絡が入っております!」


シリアン様が鋭い視線で伝令を遮ろうとしたが、その言葉は私の耳に届いてしまった。


「没落したレオンハルト元公爵が、屋敷の隠し地下室を無理やり開けようとし……そこに仕掛けられていた『古の封印』に飲み込まれたとのことです!」


私の背筋に、冷たい汗が伝った。


あの屋敷の地下。


私が三年間、一度も近づくことを許されず、ただ「絶対に開けてはならない」とだけ聞かされていた、公爵家の負の遺産。


「……エリス、行く必要はありません」


シリアン様が私の手を強く握った。その力は、どこか焦燥を含んでいるように感じられた。


「あの男がどうなろうと、今のあなたには関係のないことです。私がすべてを揉み消しましょう」


だが、私は知っている。


あの封印は、公爵家の血筋であるレオンハルトが「絶望」した時にのみ発動する、最悪の呪いであることを。


もしあれが解き放たれれば、隣国どころか、この国にまで『魔力の枯渇』という厄災が波及しかねない。


「シリアン様……これは、私にしか終わらせることができない問題です」


私は彼の胸に手を置き、静かに、だが拒絶できない決意を込めて告げた。


「かつての『空っぽの部屋』に残してきた、私自身の過去を……本当の意味で精算しに行かなければなりません」


シリアン様の瞳に、暗い独占欲と、深い懸念が交錯する。


捨てたはずの過去が、今度は「呪い」となって、再び私をあの忌まわしい地へと呼び戻そうとしていた。
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