博多に移住して人生をやり直す

耶麻寿

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第二章 1年生 1学期

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「香山さん、男同士で帰りに一杯やりませんか?」

実習漬けの1週間が終わり、開放感いっぱいの金曜日に魅力的なお誘いを受ける。
声を掛けてきたのは、電器メーカーを早期退職して学校に来ている高橋健司さんだった。
カフェ専科では最年長で、社会人出身者のリーダー格と見られている。

「いいですね、学校に入って誰とも一緒に飲んでいません。
週末だし、お供させてください」
俺が即答して、一緒に飲むことが決まった。

「ええ、私も行きたい」
武内女史は不満そうだ、大人メンバーで飲みたいらしい。
「私たちも連れてってください」
絵美里たち3人娘も不満顔だ。

「まあ、今日は私たちだけで行きましょう。
女性には内緒の話もありますし」
上手く高橋さんがかわして、二人で学校を出た。
人生の先輩に今日は任せろと言われては、付いて行くしかない。
エイジア製菓学校がある天神北の東側から、高橋さんが馴染みの店まで歩いていく。
ざっと10分ほどで到着、思っていた以上に中洲は近い。
店はサラリーマン相手の居酒屋で、壁のメニューはどれも破格の値がついている。

「勝手に注文しても、いいですか?」

「ええ、高橋さんにお任せします」

すぐに生ビールとお通しが運ばれてきて、まずは乾杯から始まった。

「ずっと、香山さんが気になってました」

「俺ですか? 何故です」

「それなりの地位で働いてきた人が、何故ここにいるのか、不思議でした」

「そんなことはないですよ」

「古参のサラリーマンを舐めちゃいけません。
30年も営業で回っていれば、年齢は関係なく相手の実力は分かります。
貴方は役員以上の地位だったでしょう?」

「バレてましたか」

「合格者ミーティングで違和感を感じて、入学式のスーツ姿で確信しました」

「会社を売って、無職から再スタートです」

「じゃあ、再スタートは私と一緒ですね」

意気投合した後、俺たちは色々な話で盛り上がった。
大手企業に30年もいただけあって、見識が広くて人間の器が大きい。
会社が希望退職を募ると、優秀な人から先に辞めると言うが本当だ。

「香山さん、もっとみんなに心を開いても大丈夫です。
今のままでは、警戒し過ぎて仲間に入れません」

「分かっているんですが……」

「少しずつでも意識を変えることです。
Cafe経営は数字に強いことも大事ですが、オーナーの人間性も問われますよ」

最後のアドバイスが心に突き刺さった。
女性に手を出さないことと、周りを警戒することを混同しているのかもしれない。

誘ったからと、高橋さんが俺の分まで支払いをしてくれた。
次回は俺が払いますという約束をして、奢ってもらう。

「今日は、ごちそうになります。
色々話が出来て、気持ちが楽になりました」

「私も学校に仕事仲間が出来て良かった。
若い娘の中で、緊張感がありました」

「高橋さんも緊張するんですか。
それを聞いて、俺も安心出来ますよ」

大人の先輩は大事だ。
この出会いを大切にしようと、自分に言い聞かせた。

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