博多に移住して人生をやり直す

耶麻寿

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第七章 春休み

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シドニー行きのANAは、深夜便だ。
時差が1時間なので、寝ていれば通常通りに視察はスタート出来る。
朝のうちに羽田に着いたので、私用を終わらせるために武内女史とは別行動になった。

「午後7時に合流でいいな。軽く食事をしよう」

「分かりました、では夜に会いましょう」

俺は出発前に、日本橋にある資産運用会社のオフィスに金融manager/佐藤氏を訪ねた。
まず最初にオーストラリア旅行で注意事項についてレクチャーを受ける。

「優秀な通訳が付くので心配はしませんが、ダウンタウンの一部には近づかないように。
お酒はホテルの部屋で飲む方が安全です。
あとは日本じゃないことを意識しておけば大丈夫でしょう」

「分かりました、2週間ですから仕事と割り切ります」

「一つだけアドバイスするとすれば、武内さんを労ってください。
気力も体力も香山さんとは違います」

「そうですね、注意しておきます」
その後は、武内凛花と江口花蓮の報告書を見せてもらう。
武内凛花は、話を聞いていた通りの秀才だ。
東京本社の大企業でも就職出来たんだろうが、親が許さなかったようだ。
地場の大手に就職して派閥争いで心を病んだのは、皮肉な結果だ。
その挙げ句、製菓学校で俺と知り合うとは人生は分からない。

「江口花蓮さんは婚外子です。
母親が若い時に産んだ子供で、相手は研修医だったそうですが認知はされていません。
母親の再婚で、今は両親と弟二人の5人家族です」
俺に花蓮の報告書を見せながら、佐藤氏が説明する。

「家族の仲は良いって聞いてますが?」

「ええ、父親が好人物で彼女を実の子と同様に可愛がっています。
母親の方が厳しいですね」

「彼女が高校進学の時に調理師免許が取れる学校に進んだのも、母親の勧めだったと聞いてます」

「母親が大病院の正看護師ですから、手に職を持つという考えでしょう。
父親も放射線技師ですから、資格にこだわりがあるようです」

「高校生と中学生の弟がいれば、焼いたパンを持って帰るのも解りますね」

「二人とも運動部のようで、体格もいいです。
近所の人は本当の姉弟と思ってるくらい、仲は良いですね」
俺は、花蓮が不幸な生活をしていないと分かっただけで安心出来た。

「調査をして頂いて、ありがとうございます。ちょっと安心しました」

「あとは香山さん次第です、ご自身の人生ですから悔いのない選択をしてください」

報告書を視察には持っていけないので、帰国に合わせて自宅に郵送してもらうように頼んだ。
オフィスを出て、母親の住む都営住宅に向かう。
あらかじめ電話を入れていたので、今日はスーパーの勤務を休んでいた。

「今夜の便でオーストラリアまで視察に行ってくる。行く前に母さんの顔を見に来た」
博多土産を渡してから、椅子に腰掛けた。

「身体には気をつけてね、危ないところに行っちゃダメよ」
母親にとって俺はいつまでも子供のままだ。

「通訳も一緒だから、大丈夫。向こうのお土産を買ってくるね」

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