王冠の宝石

汐兎

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王冠の宝石

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ここに1冊の飛び出す絵本があります。
絵本の中には、小さな王国が見えますね。そこはとても貧しい王国です。その国を治める王様は、どうしたら民の暮らしをよく出来るかといつも考えていました。王様の頭上には小さな王冠が見えます。絵本の最初のページです。王冠の真ん中には小さな緑色の宝石がキラキラ輝いています。
絵本を開いた瞬間に、ビューンと強い風が吹きました。強い風は、ちょうど飛び出た王冠の絵の上を通り過ぎました。するとどうでしょう。王冠の宝石がポロリと落ちて、コロコロ転がりました。絵本の外までコロコロコロコロ。

あらあら大変、どうしましょう。すぐさま、絵本から飛び出た兵隊さんが、緑色の宝石を探して追いかけます。兵隊さんは、遠くまで追いかけましたけれど、宝石を見つけて絵本の中の小さな国に持ち帰ることが出来ませんでした。王国に戻った兵隊さんは王様に、強い風で王冠の宝石が取れてしまったこと、すぐに絵本を出て追いかけたけれど見つからなかったことを正直に話しました。
優しい王様はこう言いました。
「心配しないで良いですよ。明日になったら私が宝石を探しに行きましょう。」
「王様、申し訳ありません。私もお供します。」

翌朝になってから、王様と兵隊さんは、絵本の国から出てきました。外の世界は、王様の国とは大違いです。全てがとても大きく、そして遠いのです。まず初めに公園にいきました。緑いっぱいの公園に緑色の宝石があると思ったのです。宝石は見つかりませんでしたが、野いちごを見つけました。
「王様、あそこに。」と兵隊さんは、走って行って野いちごを摘んで王様に見せました。
王様はこう言いました。「おお、これはとても綺麗な赤ですね。これを持ち帰って王冠につけてもいいですね。」
今度はレストランにいきました。窓から見るとシェフが何やら料理をしています。緑色の大きなカボチャの種は黄色です。緑色ではないけれど、これも宝石の代わりになるかもしれないと、兵隊さんは、シェフに事情を話してカボチャの種をもらってきました。
王様はこう言いました。「おお、これは綺麗な黄色ですね。これを王冠につけたら素敵ですね。」
王様と兵隊さんは、緑色の宝石を探し続けましたが、どうしても見つけることが出来ませんでした。絵本のあるお部屋に戻ると、兵隊さんはあるものを見つけました。ぬいぐるみが来ているシャツの青いボタンです。兵隊さんはぬいぐるみに事情を説明して、兵隊さんの胸に輝く勲章と交換してもらえないか、と尋ねました。

「はい、どうぞ。差し上げましょう。」ぬいぐるみはこう答えました。
王様は「おお、これは大変貴重なものですね。テディーベアさん、ありがとうございます。我が国は小さな国ですが、宜しければいつでもお越しください。大歓迎しますよ。」と言いました。
「はい、王様、ありがとうございます。必ずいつか伺います!」ぬいぐるみはこう答えました。

王様と兵隊さんはこうして、王冠の宝石の代わりになるものを持って帰ることが出来ました。

王国に植えられた野いちごは、どんどん大きくなりました。けれど王冠につけるとすぐにペシャンコに潰れてしまうので、野いちごを王冠につけるのは諦めました。
王国に植えられたカボチャもどんどん大きくなりました。けれど黄色いカボチャの種は平べったくて、王冠につけるのは諦めました、その代わりに沢山の種が土に蒔かれて、それは沢山の緑のカボチャになりました。青いボタンは、種ではないので大きくなりませんでした。だからそれは、王国でただ一つの貴重な宝石になりました。王冠の真ん中に青いボタンがつけられました。

随分と時が過ぎました。どれくらい経ったかって?絵本の世界には時間の観念がないから分かりません。ある日のこと、ぬいぐるみのテディーベアさんが絵本の中の王国へやってきました。
「王様、お久しゅうございます。僕はこれを届けに参りました。王様が探してらした緑色の宝石です。僕のジャケットのポッケの中で見つけました。はい、どうぞ、お返し致します。」
けれど王様はこう言いました。
「テディーベアさん、これはあなたが持っていてください。我が王国は、野いちごやカボチャの蔓がどんどん伸びて、民が食糧に困ることがなくなりました。絵本の中の他の国へも分けてあげることが出来るようになりました。美しい宝石の代わりに私達の暮らしは豊かになりました。なんて素敵なことでしょう。そして、あなたがくれた青いボタンのお陰で私の王冠も世界でたった一つしかない素敵な王冠になりました。 民の溢れる笑顔が私の宝石となりましょう。」
王様の言葉を聞いたテディーベアさんは、ちょっとの間考えました。そして、緑色の宝石を帽子にちょこんとつけました。「王様、これで王様の宝石はいつも私がお守りしています。もしも王冠の青いボタンがどこかへ転がり落ちて無くなったら、いつでも仰ってください。それまで私が王様の宝石をお守りしましょう。」
それからテディーベアさんは、お気に入りのサンドイッチを沢山バックに入れて絵本の中の王国へ時々お出かけするようになったそうですよ。

おしまい


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