ある犬のリアルティー

汐兎

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言葉についての考察 その1

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相棒は時々、「よく言ってることが分かるねえ!」と僕を褒める。
犬を何だと思っているのだ。極めて失敬である。

ドイツの犬はドイツ語が分かる。
日本にいれば日本語。
ネイティブのイングリッシュスピーカーの家族なら、犬は当然英語を理解する。
夫婦喧嘩を犬が仲裁する、なんて話はよく聞くだろう。
あれは、僕たちが全て言葉を理解しているという証拠だ。

相棒の場合は、不思議だ。日本在住にも関わらず、sit、stay、come、とコマンドは全部英語だ。
幾つかの英語のコマンドの他は、日本語で僕に話しかけてくる。
コマンドを日本語で言えるように勉強すればいいのに。
そこだけ英語なのは、一貫性に欠けると思うが、こちらは両方理解できるので問題なしだ。
だから敢えて指摘はしない。
基本、僕はバイリンガルドッグだ。
英語を聞くと気持ちがポジティブになる。鼻歌歌いながら散歩に出かける、今の季節にはうってつけだ。
静かに落ち着きたい気分の時は日本語がいいな、と思う。

僕たちが言葉を無視する時、
それは自分たちの意図と反することを言われた時だ。
聞く必要がない。聞く耳を持たない、というわけだ。
そうやって対抗しているのだ。

そんな時、相棒はこうする。声を一段と高くして、そして強く「ノー!」
「ノー!」叫びたいのはこっちだ、というこちらの意図を理解できない人間どもは、トホホである。

「何で言ってる事が分からないんだろうね。」君たちは。
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