ある犬のリアルティー

汐兎

文字の大きさ
上 下
5 / 9

コットンキャンディー(綿菓子)のセオリー

しおりを挟む
誰にだって嫉妬という感情はある。犬にだって、恐らく人間にだって。
これは厄介な生き物だ。特に一つの愛情の取りっこにおいては。
僕の中で、嫉妬はコットンキャンディーのように大きくなる。

僕が初めて嫉妬という感情を認識したのは、我が相棒が猫姉貴を優しく撫でる時だった。
猫姉貴が、グルグル言って、とっても温かそうだったから、僕も撫でてもらうことにした。
相棒の膝の上にいる猫姉貴にボンって体当たりして追い出した。
その特等席は僕のものになった。
それなのに、僕を撫でてくれるはずの相棒の手が突然消えた。
きっと、猫姉貴が、僕を撫でてくれるはずのその手も持っていっちゃたんだ。
だから、その手を取り返えしてやろうと猫姉貴を追いかけた。

僕は勢いよく猫姉貴に飛びかかり、力一杯、上から押さえつけた。
すると、突然、頭のずっと上の方から、二つの手が伸びてきた。
その手が僕を猫姉貴から引き離し、僕の両脇をしっかり抱えて、相棒の前に座らされた。
どうやら相棒の手はどこにも消えていなかったらしい。
「今は、猫ちゃんが、お膝で甘える時間でしょう?邪魔はしないのね。優しくここで待っていてね。」
と言って、片方の手を相棒の膝の上に座り直した猫姉貴の背中に置いた。
そして、もう片方の手を僕の背中に置いて撫で撫でが始まった。

そうか、撫で撫での手は二つあるんだ。猫姉貴を、ボンって押して特等席を奪わなくてもいい、ということを僕は学んだ。
愛情は分けられる。分けられた愛情は一見、半減したようにも見える。
だけど、今、猫姉貴と僕は一緒に撫で撫でされていて、とってもあったかい気持ちだ。

だからきっと見える愛情が半分になっても、見えない愛情がもう半分あるんだ。
コットンキャンディーを食べちゃうと、目の前の白いふわふわはなくなるけれど、心は幸せな気分で満たされる。
嫉妬=コットンキャンディーだ。
あむっとその感情がを食べて消したら、見えない愛情が現れて、あったかく幸せで気持ちで満たしてくれるのだ。
ご静聴感謝する。
しおりを挟む

処理中です...